理論物理学教程ファン

ランダウの理論物理学教程を愛でます。

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ランダウの理論ミニマム

ランダウの弟子になるためには理論ミニマムという試験を突破しなければいけませんでした。この理論ミニマムの問題と解答を紹介します。 はじめの2科目は数学で、「不定積分(実数関数で表された)をしたり、普通の標準タイプの微分方程式を解く能力、ベクトル解析とテンソル解析の基礎などが要求された。第二回目の数学の試験には、複素変数関数論(留数の理論、ラプラス法)の基礎が入っていた。」 その後の物理の試験は、「力学、場の理論、量子力学、統計物理学、連続媒質の力学、マクロの電気力学、物理的運

    • (場の理論で)離散対称性の演算子を具体的に書く

      連続対称性の生成子はネーターの定理によって具体的に(場の)演算子を使って書くことができることはよく知られています。一般に、離散対称性に対して演算子を具体的に(場の)演算子を使って書くことができるでしょうか?大森さんの「一般化対称性」に関する講義録でちょっと関係する議論があったので、まず、それを紹介したいと思います。 この講義録では (2.5)~(2.7) に、スカラー場に対する(離散)対称性変換を作る(トポロジカル)演算子の経路積分表示での表式が与えられています。話を具体的

      • ハロウィンとスタンリーと黒い穴

        ハロウィンの季節になると、スタンンリー・デザーさんのことを思い出します。デザーさんは一般相対論と場の量子論の第一人者で、ADM形式として知られる、一般相対性理論のハミルトン形式(1+3分解理論)を完成させた人です。超重力理論や共形アノマリーにも深い洞察があり、カルテックに居た頃、私に親しく接していただきました。お互いにファーストネームで呼び合い、私が論文を投稿すると内容に関してありがたいコメントをよく頂いたものでした。(ファインマンが「重力の講義」で「金星人の方法」と呼んだや

        • CPTゆらぎの定理

          今回も動画紹介から参ります。田崎さんの非平衡統計力学のオンライン講義から、ゆらぎの定理の紹介の箇所です。私は非平衡統計力学の講義を受けたことがない(はず)なので、こういった高レベルの講義がオンラインでいつでも受講できるということは素晴らしいことです。 さて、この講義でもそうなっているのですが、ゆらぎの定理の導出で気になるのは、時間反転対称性を使うところです。実際、時間反転対称性は素粒子理論の対称性ではないため、自然界の基礎法則を議論する際に、時間反転対称性を仮定するのは良く

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        ランダウの理論ミニマム

          ゆらぎの定理について

          詳細ゆらぎの定理と言う非平衡統計力学で重要だとされている定理があります。最近、ヨビノリさんの動画 を見たので、前々から思っていたことをなにか書こうかと思いました。(詳細)ゆらぎの定理はざっくり言えば「順過程が起こる確率と逆過程が起こる確率の比はエントロピー生成の指数 $${e^{-\sigma} }$$で与えられる。」というものです。動画を見ていただければどういうことを議論しているのかわかると思います。 私は非平衡統計力学の専門家ではないのですが、この定理を(他の物理の命

          ゆらぎの定理について

          くりこみ群をくりこみ半群と呼ばない心

          人は正義に強い快感を覚えるので、自分が安全な箇所にいて無知(だと思っている)他人を貶めるのはよくある話です。今日は、「くりこみ群は本当は半群だ」(なので、昔の人はなんと愚かであったのか?)という主張を考えてみたいと思います。なぜ、私たちは、くりこみ群を半群ではなくて「群」と言うのか、その心を解説します。 まず、くりこみ群が半群であるという主張はまったくその通りです。くりこみ変換は物理的自由度をスケール変換に伴って粗視化していくことなので、それに伴って情報は失われる「はず」で

          くりこみ群をくりこみ半群と呼ばない心

          量子力学で剛体球の散乱断面積が古典論の4倍なのは球の断面積と表面積が4倍違うからか?

          量子力学の散乱問題の計算で定番の問題に、半径 $${a}$$ の剛体球からの散乱断面積を低エネルギー極限で求めよ、というものがあります。もちろん、ランダウ・リフシッツの教科書でも扱われていますが、答えは、全断面積が $${\sigma = 4\pi a^2}$$ となり、古典的な予想 $${\sigma = \pi a^2}$$ に比べて4倍大きくなっています。散乱断面積というのは粒子を横から見た大きさのようなものなので、素朴な直観では、 $${\pi a^2}$$ になりそ

          量子力学で剛体球の散乱断面積が古典論の4倍なのは球の断面積と表面積が4倍違うからか?

          米田の補題と量子力学の時間発展

          量子力学の時間発展を記述する流儀に観測量(演算子)が時間発展するハイゼンベルグ描像と状態(ベクトル)が時間発展するシュレーディンガー描像があります。これらの2つの流儀はディラックの変換理論で等価と言われます。本稿では、このディラックの変換理論は圏論で言う「米田の補題」の例になっていることを議論したいと思います。 ここでは、米田の補題の系として通称「米田埋め込み」として知られる場合を出発点にします。圏論に詳しくない方はこの段落で何を言っているのかさっぱりわからないと思いますが

          米田の補題と量子力学の時間発展

          波動関数の収縮はサイコロの確率が収縮するのとどこが違うのか?

          ランダウはボーアの弟子であって、(現代的?)コペンハーゲン解釈に基づく量子力学を信じていたと思ってよいでしょう。量子力学の教科書の第1章に「量子力学は他の物理理論に比べてとても変わった立ち位置を占めている。なぜなら、古典力学を極限の場合に含んでいるが、それと同時にその極限の場合が自身の成立に必要なのである。」とあります。 つまり、ランダウの教科書では、量子力学のルールにボルンの法則として、波動関数から測定結果の確率を読み取るルールを含ませるわけですが、「測定結果の確率」に意

          波動関数の収縮はサイコロの確率が収縮するのとどこが違うのか?

          ランダウが19歳で導入した密度行列の解釈を巡って

          量子統計力学における密度行列(統計行列)という概念はランダウが若干19歳の1927年に初めて発表しています。この密度行列については、ランダウ・リフシッツの統計物理学の教科書の§5でも説明があるのですが、この説明の一部箇所がとても高度でSNSなどでもさっぱりわからないと言う意見を聞いたので少しだけ解説してみようと思いました。 そのさっぱりわからないという該当箇所を和訳してみると 「とりわけ、密度行列の方法による系の記述を、部分系がいろいろな波動関数で指定される状態にいろいろな

          ランダウが19歳で導入した密度行列の解釈を巡って

          2準位系量子力学から3準位系量子力学が「自然に」導けるか?の反例メモ

          最近読んだ量子力学に関する面白い記事に「~2準位系から多準位系への演繹による拡張は難しい~」がありました。 そこでは 1.[任意の]2準位系では量子状態を密度行列や状態ベクトルで表現することが可能。 2. その空間[=2準位系の空間]に作用する任意のユニタリー行列には、対応する物理操作がある。 3. このような[=空間回転という操作に対応するような]可逆な物理操作が多準位系でも存在する。 4. [ある特定の完全識別可能な純粋状態1,2,3に対して]状態1と状態2の間の2準

          2準位系量子力学から3準位系量子力学が「自然に」導けるか?の反例メモ

          ランダウの「力学」は物理的直感を数学的な厳密性の上に置いた失敗作である

          ランダウの「力学」は理論物理学教程の第一巻であり、古今東西、力学の教科書の名著として知られています。しかし、この教科書(のロシア語第1版)に痛烈な批評を書いた物理学者がいます。フォック空間の名前で現在にも知られている、Vladmir Fock です。本稿の最後に全文を添付しますが、ソ連の Uspekhi という雑誌に掲載されたものを少し引用してみましょう。 「かくのごとく傑出した物理学者であるランダウ教授がこれほど多くの間違いを含んだ本を書くとは不思議である。新しく未開の分

          ランダウの「力学」は物理的直感を数学的な厳密性の上に置いた失敗作である

          2x/2x = x^2 か 1 かランダウ・リフシッツが答える

          $$ 2x/2x = x^2 $$ というネット上で何度も興隆を極めた話をしたいと思います。 これを 1 とするのはド素人であるという話です。気になった人は試しに google に計算させて見てください。 とは言ってもこれについて語るのは炎上するだけなのでこのノートの趣旨ではありません。しかし、ランダウ・リフシッツの理論物理学教程との関わりだけは一言述べたいというのが今回の趣旨になります。 このネットミームとランダウ・リフシッツの理論物理学教程が一体なんの関係があるの

          2x/2x = x^2 か 1 かランダウ・リフシッツが答える

          ファインマン流の実数ベキのフェルマーの方程式の解!について

          前回、ファインマンによる統計物理学に基づいたフェルマーの最終定理に解がある「確率」の計算を紹介したのですが、最近、九大学理学部ニュースで「素人的発想!フェルマーの方程式に解がある?」という面白い記事を読みました。 今回は、この実数ベキのフェルマー方程式の解が存在する確率をファインマン流の計算で求めて、リンク先の松坂さんと斎藤さんの結果と比較してみようというのが趣旨になります。あらかじめ断っておきますが、リンク先の論文はちゃんとした数学の原著論文なのに対して、以下で述べること

          ファインマン流の実数ベキのフェルマーの方程式の解!について

          ファインマンによるフェルマーの最終定理の「証明」とその拡張

          ランダウのライバル(?)ではないけど、アメリカを代表する大物理学者にファインマンがいます。伝説によるとファインマンはフェルマーの最終定理にこんな「証明」を与えたそうです。 統計力学の状態密度の考え方を応用します。いま、大きな自然数 $${N}$$ を考えると、それが、ある自然数の $${n}$$ 乗である「確率」は次の自然数の $${n}$$ 乗数までの距離を計算し、その逆数が状態密度になると考えて $${p \sim \frac{1}{(N^{1/n}+1)^n -N}

          ファインマンによるフェルマーの最終定理の「証明」とその拡張

          ランダウ・リフシッツの量子力学とブラケット表示

          4月1日はランダウの命日です。「わたしは幸せだった。全ては順調だった。」が最後の言葉だそうです。 ランダウ・リフシッツの量子力学の教科書をテキストに量子力学の講義をしていると、よく聞かれるのが「内容が古くありませんか?」というのですが、「どこらへん?」と具体的に聞いてみると、「ブラケット表示を使わないのは遅れてませんか?」という回答が来ます。実際、多くの(理論)物理学者はブラケットの信望者が多いですし、私の講義でも他の本が読めないと困るので、補足として教えます。しかし、ディ

          ランダウ・リフシッツの量子力学とブラケット表示