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好きな子に夢中になってたら高卒になった話。

6年前。高1の冬、事件は起こった。

ダンス部による校内発表会。僕は観客で、前から二列目の席で部活仲間と観ていた。
学校のマドンナも踊るってんで、僕らは夢中になって前の席を陣取ろうとしていたのだ。

照明が消え、舞台が始まった。
マドンナは5組目のグループだ。

僕らは今か今かと目を輝かせながら待ち構えていた。
ついに5組目の出番だ。
6人組のグループだった。
そして確かにマドンナもそこにいた。

しかし、違和感に気づくまでそう時間はかからなかった。


僕の視界にマドンナがいなかったのだ。

おかしいと思い、一緒に観ている部活仲間を見渡す。
みんなマドンナのダンスに夢中になっている。見事なまでに魅了されている。

それでも、あんなに楽しみにしていたのに、マドンナが僕の視界に映っていなかった。


頭に雷が落ちた瞬間だった。そう。僕の目は同じグループにいるAちゃんに釘付けになっていた。

Aちゃんの事は廊下で見た事あるかなー?くらい。正直名前も知らない。
それなのに、不思議と僕の視界にはAちゃんしかいなかった。

特段ダンスが上手なわけでもない。マドンナと言われるほど、注目されているわけでもない。
ただ、独特なオーラが彼女の身を包み、それに僕は引き寄せられていた。
彼女の心の奥底に秘めていた何かが踊り出していた。
僕だけがそれに気づいているようだった。

あっという間の3分間だった。

もう別のグループが踊っている。でも僕の目にはまだAちゃんが残って踊っていた。




雪が溶け、桜が咲き、僕は高校2年生になった。
クラス替えの時期だ。

部活の親友と一緒のクラスになれて喜んだ。

新しい席に座ると、先ほどの学校のマドンナも同じクラスだった事を知った。同じクラスの男子共とバカ騒ぎしたもんだ。他のクラス奴らに自慢しまくってた。
バカだなと思われるかもしれないが、これが男子高校生の実態だ。
担任の先生もいい人そうだし、これで僕の高校生活は安泰だと安堵した。

ところがこのクラス替えが僕の人生を狂わすことになるとはこの時は知る由もない。

新クラスで自己紹介が始まった時、より大きな衝撃が走った。
後ろ姿で気がつかなかったが、僕の前に座っていた子がAちゃんだったのだ。
Aちゃんは淡々と自己紹介を済ませ、席に戻った。

目が一瞬だけ合った。

僕は頭が真っ白になり、自己紹介用に準備しておいたギャグも不発してしまった。


2年生では文理の選択がある。僕はまだ悩んでいたが、Aちゃんが理系だってんで、僕も理系を選択した。

席も近く、授業も同じで、運良く遠足も同じ班だった。会話量も徐々に増え、それに比例して僕の気持ちも高まるばかりだった。


そして

放課後、彼女を呼びたし、告白した。



結果はもちろん惨敗。それでも諦めきれず、彼女の仲の良い友人に相談した。

するとこんな事を言っていた
「頭がいい人が好きらしいよ」

このワードに僕は勝機を見出したのも束の間だった

というのも、彼女は学年でもトップクラスの成績を誇り、早稲田大学を目指していた。

一方で、僕の当時の成績は学年で下から5番目。

ただ運の良いことに僕は学力以外でもバカだった。
「頭いい人って印象がつけばいいんだ。」
「早稲田目指している人からする頭いい人って京大目指してる人だよなあ」

まだ彼女と知り合って間もない。
僕が成績が悪いといことは知らないはず。
そこで僕は周りの人にこう宣言した。

「俺は京大を目指す!!」

毎日言った。
もちろんその宣言は彼女にも知れ渡った。

これで僕に「頭がいい人」というイメージがついただろうと思った頃にもう一度告白した。

僕は彼女をナメていた。


秒で振られた。


そして決心してしまった。
言葉だけでなく、本気で京大を目指すと。あらゆるものを犠牲にしてでも、勉強して京大を目指すと。

一時期は熱を入れてた部活も辞めようかと思うほどであった。

そこから1年間半死ぬ気で勉強した。遅れを取り戻すために、休日は15時間、平日は6時間。受験期は毎日12時間は勉強した。
お陰様で成績はどんどん上がっていった。

調子に乗ってもう一度告白してしまう。これも振られたので、しっかり京大に合格してから告白しようと再度決意した。


そして合格発表当日。胸が高まった。もはや心臓から喉が飛び出そうだった。そのくらい訳のわからない状態だった。


番号は無かった。

彼女に合わせる顔が無かった。別に彼女は僕の事を何にも思ってないのだろうが、僕の今までの勝手な頑張りは、彼女に認めてもらう事だけだった。
もちろん滑り止めの大学は受けていない。京大に行かないと彼女とは付き合えないと思っていた。


浪人が決まった。


もちろん周りの人には彼女に認めてもらいたくて浪人するなんて言えない。
京大に行きたい熱を勝手につくって納得させた。

「来年もう一度挑戦して、京大に受かったら彼女に告白する」

勝手に1人で誓いをたてた。ここまできたら最後までやるしかない。

やっぱり僕はバカだ。



彼女に一目惚れをしてから3度目の春がやって来た。
事件は起こる。


お互いの近況報告も兼ねて鎌倉に行った。
僕からしたらデートみたいなもんだった。

帰り際、夕日を見に湘南の海に寄ることにした。
夕日に照らされる彼女の横顔は、当時一目惚れのきっかけとなったオーラが纏っていた。

優しく、でもなんだか引き込まれるような。

そんな空間に僕はやられ、思わずまた気持ちを伝えてしまった。実質4度目の告白になってしまった。

「いいよ。」

だよなあ。帰ったら勉強頑張るか。


ん?
いいよ?

それはどういうことだ?

京大の過去問より彼女の「いいよ」の意味の読解は困難だった。


「何度もありがとうね。付き合おう」


爆走した。

湘南の砂浜を爆走した。波が高く、車の騒音もうるさかったが、そんなものかき消すくらいの喜びの叫びと共に。


本当はここでハッピーエンドで終わらせたかった。残念ながらここまでが前置きだ。


数秒後、とてつもない不安に襲われてしまう。

「あれ、俺ってなんのために京大目指してたんだっけ」


そう。僕が京大を目指していたのは彼女と付き合うため。
それはもう達成されてしまった。
僕が京大を目指す意味はなくなってしまったのだ。

喜びと今までの努力の行方が無くなる不安が入り混じった。高校時代のあらゆる青春を犠牲にして勉強してきたのだ。それが報われないなんて事あっていいのだろうか。

鬼を退治するために、毎日鍛えたり、キジやサルや犬を仲間にしようと準備してたのに、
鬼が鬼ヶ島から遠くへ引っ越してしまったのだ。
もはや鬼退治など必要なくなってしまった。

ペンが持てない。なんのために勉強してるんだ。

SNSを漁った。勉強しない理由を探した。
俺は本当に京大に行きたいのか?
この苦痛に1年間耐えられるのか?
この時代に大学に行く意味などあるのだろうか?

そして決めた。逃げることを決意した。


「高卒でやっていく」


もちろん周りからは猛反対だ。
このまま勉強すればいい大学に行けるはずなのに。

周囲からの目は冷たかった。冷たくて当然だ。
有言実行出来なかったんだ。ダサさ以外何者でもない。


なんせ高校2年の時から京大を目指すと宣言していたのだから。
それから何人もの人に応援されてきた。特に家族からの応援は熱かった。心の底から応援されていた。

逃げるということは、彼らを裏切ることになる。
母親に報告した時、泣かれた。

泣かした。

僕は親不孝ものだ。

罪悪感に押し潰されそうになった。でも僕の決意は固かった。

この選択が正しいのかどうかはわからない。いや、正しいくしないと行けなかった。
この決断を正当化するような、
この決断が未来の僕にとって意味ある過去になるようにしなければならなかった。

ただの、どこにでもいるような高校生の恋愛が、大きく人生を変える一歩を踏み出させた。



PS.
今僕は20歳で、大学でいうと3年生の代だ。
実はあの後半年で彼女とは円満に別れている


しかしお陰で勉強は好きになったし、レールから外れることで見える景色も変わり次の目標も決まった。

彼女とは今でもたまに飲みにいくような友人関係で、当時の思い出話をつまみにしている。
ちなみに彼女はしっかり早稲田に合格している。

あの決断から3年がたった今、明らかにあの決断は正解だったと思えている。大学行ってた人生を想像する方が恐ろしいほどだ。

「選択に価値はなく、選択した後の行動に価値がある」
これが座右の銘になっている。

僕は例え周囲からは無理と思われていることでもやりたいことはやってしまう性格だ。(そのせいで3回も振られたのだが)

そんな性格は大学にはきっと不向きであったが、それに気付けたのは彼女のお陰だ。
無人島でサバイバル生活したり、シェアハウスを運営したり、ロケットをつくったり、、、etc
今でも自分の心だけを信じて、今の人生を満喫している。

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