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渋谷「げんかつ」のリニューアルと水星の魔女の5話までを振り返って~とんかつコンテンツ論 第1回補論~

はじめに

渋谷には良いとんかつ屋が足りない

 渋谷の再開発もだいぶ進んで来た。ヒカリエが出来てもう10年。さらには渋谷ストリーム、渋谷スクランブルスクエアの開業。ついには東急プラザや渋谷PARCOもリニューアルし、それぞれのテナントに様々な飲食店が名前を連ね、いつも行列を作っている。それは良い。

 だが、今の渋谷には良いとんかつ屋が圧倒的に足りてない。

 もちろん、広い渋谷のことだ。和幸もまい泉もある。道玄坂を登った先に富士㐂もあるし、なんなら牛かつの勝牛もある。
 だが「渋谷のとんかつ屋といえばココ!」と呼べるようなとんかつ屋が駅周辺、手頃な距離に無いというのはなんとも歯がゆい思いだ。

 そんな気持ちを長らく(といってもここ5年の話だよ)抱えていたが……ようやく、渋谷にも主力と呼べるとんかつ屋が現れた。
 筆者も以前から渋谷に足を運ぶたび、この店のとんかつをいただいていたのだが、最近になってメニューのリニューアルがなされた。そしてこの店のリニューアル内容が奇しくも筆者の考えるとんかつ論をより強く裏付ける内容であったのである。

 と来れば、紹介しない理由がない。この記事では筆者がオススメする渋谷のとんかつ屋を紹介する。そして、そのとんかつ屋にまつわるエピソードを通して、とんかつコンテンツ論 第1回の補論とさせていただきたい。

 ちなみにとんかつコンテンツ論というのは以下。未読の方は、この記事を気に入っていただけたなら是非こちらも読んでいただきたい。

渋谷「げんかつ」

好立地の白き衣を纏うとんかつ

 今回ご紹介する「げんかつ」はのれんにもある通り、令和3年創業。まさにアゲたての新店舗だ。渋谷マークシティのすぐ側、渋谷109を結ぶ路地にある好立地で、店舗自体は地下だが店の看板も目立つため、分かりやすい。

とんかつとしての特徴は以下の通り。

  • ロースかつ定食は130g 1900円から

  • 林SPF豚を使用

  • こだわりのソースの他、わさび醤油で食べるのがオススメ

  • 付け合わせに豚汁あり。ごはん・キャベツはおかわり1回だけ無料。

 筆者の持論である、高いとんかつは美味いを地を行く店で、ロースかつの値段設定の通り、質の良い豚肉を低温でじっくりアゲてお出ししてくれる。

上ロースかつ定食

 美味いとんかつは白身も美味いのだが、低温でじっくり揚げられた豚肉はとても柔らかく、ジューシーさが舌に伝わってきてとてつもなく美味い。
 そんなとんかつを、塩、わさび醤油、ソースと様々に組み合わせていただくことで、飽きることなく無心で頬張り、気が付けば完食してしまう。

 付け合わせの金平に漬物、それに豚汁も間の箸休めにピッタリ。千切りのキャベツ用には胡麻ドレッシングが用意されており、これがソースとは違う甘さを持つのだが、とんかつ本体は岩塩やわさび醤油など、塩気の強い調味料と組み合わせていただく為、キャベツにはこのドレッシングが良く合う。

 また、わさび醤油を付けることに珍しさを感じる方も多いことだろう。
 げんかつを構成する要素の数々は、筆者が訪れたとんかつ屋の良いところを組み合わせたという印象が個人の感触としてはあるのだが、わさび醤油が他のとんかつ屋とは一味違うところをアピールしてくれる。
 この味を一度気に入ってしまえば、渋谷にチェーンのとんかつ屋がひしめこうとも、げんかつの味を忘れる事はないだろう。そんなお店である。

 アクセスも良く、他では味わえない体験を提供してくれるげんかつ。
 今後、渋谷を訪れる機会があれば是非とも足を運んでいただきたい。

どんなリニューアルだったのか?

 さて、冒頭でも触れた通り、実はこちらのお店、2022年10月にメニューをリニューアルした。通常のメニューを撤廃し、それまで限定メニューであった林SPFと呼ばれる銘柄豚をメインのメニューに据えたのだ。

 筆者としては、これは良いリニューアルであると感じている。何故なら、それまでこちらのお店で銘柄豚のメニューを頼もうにも、時間帯によっては売り切れていたりして、中々思うとんかつにありつけない場面が多かった。

 もちろん、通常銘柄のロースかつは、値段帯が下がる為、お求めやすくはあったが……それならチェーン店のとんかつで十分で、スケールメリットでチェーン店の方がより安く……と、なっていたきらいがある。
 美味いとんかつをより楽しくより美味いと思える形でいただける今の形が筆者としてはとてもありがたい。より足を運びたいと思える。

リニューアル前の通常特上ロースかつ

 写真は当時の通常の特上ロースかつ。写真を見比べてもらえば、まったく違うということが良く分かると思う。これで現在の林SPFのロースかつ定食(130g)と同じくらいの値段帯だった。
 そして、正直な感想を言うと……今の林SPFのロースかつの方が、美味い。
白身の差がね……。げんかつで食べることの価値をより強く感じられる。

 なお、リニューアル後の特上ロースかつを先日食べて来た。すごかった。

リニューアル後の林SPF特上ロースかつ

話変わるけど、水星の魔女、見てる?

素材の質と、それを扱う人間の質の話

 というわけで、今回は渋谷「げんかつ」を紹介させていただいた。
 先述の特徴でも少し触れたが、げんかつの魅力はいくつかの切り口があるのだが、今回は質を高める方に寄せたほうが良い、という路線で語った。
 これはまさに高いとんかつの方がより美味い、という最たる事例でもありその方がコンテンツ的にも価値が高まるという話でもあるのだが、もう一点主張したいのは、質の良いコンテンツに仕上げられる力を持つプロには、質の良い素材を取り扱ってもらいたい、という話である。
 要するに素材とそれを扱う人間、両方より良い方が良いよねという話だ。

 ところで、水星の魔女はご覧になっただろうか。

 そう「機動戦士ガンダム 水星の魔女」のことだ。日本のロボットアニメの金字塔「機動戦士ガンダム」シリーズの最新作であり、地上波シリーズでは初の女性主人公のガンダム、前評判では学園モノというところから、かつてそれまでの宇宙世紀シリーズの流れを変えた機動武闘伝 Gガンダムにも負けず劣らず賛否両論を生み出す問題作になるとは思われていた。
 だが、蓋を開ければそのGガンダムにも負けず劣らずのローカルルールに基づくガンダムファイトが学園の基本原則になっており、第1話の最後には女性同士の婚約という少女革命ウテナを彷彿とさせる場面がお出しされた。
 現在は逆ハーレムモノって感じのラブコメ展開のガワをメインコンテンツにしつつもガンダム特有の地球人と宇宙移民の確執を不穏要素として添え、今後を期待させるシーンの数々が毎週提供され、それでもやっぱり本質的には学園モノ特有の風紀の悪さと異常に権力の強い生徒たちが起こす騒乱に、主人公であるスレッタが巻き込まれ続ける様は、まさに前評判にある通りの学園モノというメインコンテンツの軸は外さない、コンテンツの鑑だ。

女性同士の婚約に驚く主人公に対して、ヒロインのこの切り返し。伝説に残る1話だ

 ああいや、ブラウザを閉じないでいただきたい。いや、これからとんかつを食べに行くというのなら引き留めはしないので、いってらっしゃいませ。

 で、突然何を語り始めたかというと、要は高いとんかつを店で食うことの素晴らしさを、最新のガンダムのエピソードを通して補強しつつ水星の魔女の面白さも布教したいという目論見なのだが、とにかく水星の魔女の話だ。

決闘の口上と5話までの結果が示すモノ

 水星の魔女の舞台となる、アスティカシア学園には「決闘委員会」というものが存在し、学園内での生徒間の私闘はこの決闘委員会を通してとりしきられている。もちろんガンダム作品なので、決闘の際は生徒がモビルスーツ(ロボット)に乗り込んで行われるのだが、決闘の冒頭には、以下のような
口上を生徒同士が読み上げる。

勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず。
操縦者の技のみで決まらず。
ただ、結果のみが真実。

機動戦士ガンダム 水星の魔女 第1話より

 そして、この記事公開時に放映された第5話までに行われた決闘は、この言葉通りの結果になり続けている。注目すべきは、おもしれー男として視聴者の注目を一手に引き受け、ツイッタートレンドも連日上位を独占し続けるグエル・ジェタークの戦果。彼は学園最強として名を馳せていたが……。

こういうバズりを意識したセリフの数々もコンテンツとして勝ちに来てる証左である

 第1話では対戦相手のミオリネが慣れない機体を全く使いこなせず醜態をさらしている間は優位に立つも、本来の機体の持主のスレッタが対戦相手に変わると、一方的な攻撃を受けて四肢をもがれて敗北。

本当に1話から見どころたくさんなんですよ

 第3話では最新鋭機ダリルバルデに搭乗するも、親や周囲が用意した自動操縦システムにより実力を発揮出来ず、なんとかコントロールを取り戻すと本来の技量の高さを感じさせる動きと反応を見せつけるも、それまでの損耗で後れを取った分を取り戻せず、やはり四肢をもがれて敗北。

3話ではやくも2連敗。しかし、彼の株は急上昇。

 第5話では親より決闘禁止を言い渡されていた為、仕方なく弟の量産機を借りて決闘に挑むも、対戦相手は第1話・第3話で対戦した機体と同系統の技術が使用された最新鋭機。グエルは持ち前の操縦技術の高さを発揮するもやはり機体性能の差は覆せず、またしても四肢をもがれて敗北。

5話にして3連敗するライバルキャラってガンダムではだいぶ珍しい

 こうして、事あるごとにダルマにされて負けるグエルだが、要はこうだ。

  • 第1話:序盤は腕前で有利に立つが、腕前が並ぶと機体性能差で敗北

  • 第3話:機体性能は同等だが、大人の妨害により遅れを取って敗北

  • 第5話:圧倒的な機体性能差の前に敗北

 つまるところ、機体性能差で負けるか、腕前を発揮出来ずに負けるという結果が続いており、前述の決闘委員会の口上の「結果こそが全て」であるというのなら、「機体性能と腕前を両立した者が勝つ」状態であり、まさしく
性能にせよ操縦者の技にせよ、片方だけでは勝てないことを雄弁に物語っている。素材とそれを扱う人間、両方より良い方が良いよね、というわけだ。

 とはいえ、グエルはいまだベストコンディションで戦えていないのもまた事実。このあたりの格を落とさない話作りはコンテンツとして見事だと言う他ない。今回は主旨として、グエルの敗北シーンを並べ立てるようなことをしてしまったが、このあたり、ただ「毎回負けるカッコ悪いキャラ」という印象にはならないように、見事なキャラの魅せ方を我々に提供してくれる、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」ぜひとも観ていただきたい。

機動戦士ガンダム 水星の魔女 毎週日曜日17時から放映中!

性能が全てではない。MSも肉も

 補足として、水星の魔女の作中でも性能が良いだけでもダメ、というのも作中では散々語られている。3話のダリルバルデは途中までAIによる自動操縦だったが、そのせいでスレッタに大きく後れを取った。また、1話ではミオリネがスレッタの機体を奪っていた時は機体の性能を全く発揮出来ず、グエルに一方的にボコられていた。やはり性能と腕前の両立が鍵なのだ。

 筆者も最近、似たような経験をした。焼肉屋で。
 
店名は伏せるが、A5牛も食べ放題と喧伝する店で食べ放題に興じていたのだが、焼肉は基本的にセルフサービス。言うまでもなく筆者は焼肉のプロではない。正しい焼き方も分からない状態で、ベストな焼き方も出来るはずもない。また、焼肉屋は店舗によっては、店員が手厚くサポートしてくれるところもあるのだが、どうやらその店舗は食べ放題をウリにする代わりに、人件費をかなり削っている様子だったのが、設備の端々から感じられた。 

 結局、食べ放題というところでペース配分なども失敗してしまい、A5牛を満足いく形で堪能出来たとは言えない結果に終わってしまった。以前から高ければ良いとは限らない、とんかつだからこそ高い金を払う価値がある、などと語ってきたわけだが、奇しくもそれを再確認することとなった。
 そのうちリベンジしたいところである。店員が焼いてくれる焼肉屋で。

おわりに

こんな路線でいかがだろうか

 美味いとんかつを食べて欲しい、と熱弁したからには、実際に筆者からも美味いとんかつ屋も紹介するのが筋というものだろう。
 というわけで今回は渋谷「げんかつ」を紹介させていただいた。元となる
とんかつコンテンツ論 第1回で語ったことにより説得力を感じられたというのならこの記事を書いた甲斐があるというものである。

 本音としては、読者の方にも独自に自分の足でとんかつ屋を開拓し、自分だけの最強のとんかつ屋を見出して欲しいという願いもある。だがしかし、それ以上に一人でも多くの方にとんかつの良さにより気付いていただくためにも、今回は筆者オススメのとんかつ屋を一軒紹介しつつ前回の記事の補足をさせていただいた次第である。

 だが、ただ普通にとんかつ屋のレビューをするだけではただの食レポだ。このnoteではエンタメに従事する筆者が、とんかつの魅力を語る事で、とんかつの美味さを布教すると同時に、より魅力あるエンタメコンテンツの在り方を考察することを目的としている。実はそうなのである。

 その為、今後もこんな形で、とんかつ屋の紹介ついでに最近のエンタメで良かったコンテンツを隙あらば紹介させていただく形式を取れればと思う。
 とんかつ屋の定食が素晴らしいのは言うまでもないが、時にカツカレーも素晴らしいものであるし、定食に一品エビフライをつけたいと思った場面は読者の方々にも一度はあるはず。つまりそういうことである。

今回の出典

 「機動戦士ガンダム 水星の魔女」は各動画配信サイトでも見放題プランに参加することで最新話まで視聴することが可能である。
 この記事を最後まで読んでくれた貴方には是非とも観ていただきたい。

 筆者はトマトが苦手だが、とんかつの付け合わせなら食べられる。

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