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「楔」と向き合った日


イベント用に用意した「楔」、その売れ残りを店舗へ持ち帰った。中にはどこで使うかも分からないゴツゴツした蝶番やコの字型の留め具まである。これほどの量を見たのは初めてで、”錆び”というものにめっぽう弱い僕には全てが宝石のように輝いて見えた。個々のサイズは違う上に、料理の塩加減のように一品一品の”錆び加減”に個体差があって唯一無二なところもまたいい。


「楔」
ーくさび
木や金属で一端が分厚く、他端に向かって細くなるもの。木材や石材を割る。重いものを持ち上げる。ものの継ぎ目に打つ。圧迫する。

「楔」には異なる意味合いが多く存在する。形に合わせた使い方でその役割も適材適所だ。例えるなら会社のような「組織」と似ているような気がしている。分厚くどんなものにも負けない強さを持ったやつ、留め具の機能を保ちつつ家具の一部にそっと馴染むやつ、棚の梁をいくつかの「楔」で支え形を固定するやつ。家具の装飾となりアクセントとして印象に残るやつ、側からは見えないところで常に動じない心をもったようなやつ。そのどれもが持てる力を発揮し役割を忠実にこなす。

そして、時が経てば「楔」も人と同じ、朽ちてゆく。支える楔も組織(家具)の状態が劣化し、悪くなれば「楔」との間にも余計な隙間ができてしまう。逆も然り、組織(家具)が窮屈になってしまうと「楔」が入る隙は制限されてしまい必要性を失うことだってあるかもしれない。大きくできてしまった隙間は誰かが補う、もしくは「楔」の数を増やし協力して支えることだってできるし、窮屈になってしまえば大きさに見合ったものが入ればいい。

そうやって「楔」にも、人と同じように”持ちつ持たれつ”のような世界線があるのかもしれない。っていう僕の妄想。

「楔」一つにそこまで考える必要なんて全くない、簡単に言ってしまえば、タダ、サビタテツなのだから。ただ、Chat GPTに問いかけたように古道具というものは全て幾人の物語が重なり構築され続けたものだ。新品には到底つくる事が出来ない”想い”を沢山蓄えている。だからこそ人と同じ世界が実はあってもおかしくない、気がする。


「人が道具を選ぶように、道具も人を選ぶ」。僕は”道具の中にも意思が存在していると信じている。







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