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SIer出身エンジニアは現段階で事業会社のDX部署に行くべきなのか?

こんばんは。久々の記事で、挑戦的なタイトルおよび私見非常に含んだ内容の発表です。

職業柄、企業から話を聞くこともあれば、転職希望者から話を聞くケースも多いです。特に後者は事業会社のDX部門に行きたい方も、逆にDX部門から去りたいという方もお話を耳にします。

そこで個人的に考えた見解を記載していきます。

前提

ここでいう事業会社は、非IT系(?)の事業会社を指します(所謂昔から存在している事業会社)。SIerやコンサルだけでなく、SaaS等のWebサービスを展開するIT企業も除きます。例えばアパレル企業や銀行、不動産系、といった企業を指します。

また、DX部署というのは、DXを推進するために存在している名目の部署であり、DX子会社も含めます。逆に事業会社のIT部門であっても、従来の社内SE(インフラ管理、ちょっとした業務システム開発等)は含めません。

※子会社例:エムシーデジタル(三菱商事の100%子会社)

なので特段注釈なければ、本記事で「事業会社」というのは、「非IT企業のDX推進している部署」と置き換えてください。

SIer/コンサル⇒事業会社の転職理由

現在SIerにいる人が事業会社を希望する理由としては、大きく以下三つがあげられます(特に個人的に多い順番だと思う並びです)。

①企画フェーズに携わりたい
②大手企業で安定したキャリア形成をしたい
③世の中に大きなインパクトを残したい

①企画フェーズに携わりたい

これはかなり多い理由です。企画は事業会社側が行い、それ以下(要件定義以降)をSIerが行うケースが多いためです。

コンサルであれば企画に携われる、という方もいますが、それでもあくまで最終決定権者は事業会社側になります。「色々提案はしているが、諸々の事情で提案が通らない」という話は聞くケースがあります。

そうした案件経験をもとに、「自分が事業会社で企画フェーズに入れれば、もっとスムーズにいく!」といった思いをもって、事業会社側に転職を希望されるケースは非常に多いです。

②大手企業で安定したキャリア形成をしたい

これも一定あるケースですが、現職SIerの人が特にこの理由が多く、現職コンサルの方はあまりこのケースは多くない印象です。コンサル出身の方は、コンサルに入社されるだけあり、「大企業=安定」というイメージをあまり持っていないからかもしれません。

SIerの中でもこの理由を思う方の背景としては、以下のような場合が多いです

(一例)
・現職だと案件がコロコロ変わってしまうので、一社で落ち着いてやりたい
・現職だと年収が頭打ちなので、大企業で年収を上げたい
・現職がレガシー環境で市場価値が高まっておらず、将来が不安/やっていることがマンネリ化したため刺激がほしい

上記の理由のため、別にDXといった大それたことをやらなくても、所謂従来の社内SE(業務システム開発や社内インフラ整備)に少しプラスアルファの領域がやれればいい、という思いの方もいらっしゃいます。

③世の中に大きなインパクトを残したい

①に似ていますが、語弊を恐れずに言うと、①よりさらに強い志、社会貢献意識をもつケースです。

この意識をもたれたバックグラウンドは多種多様ですが、「培ったIT/デジタル知見を活かして、社会にインパクトを与えたい!」といった思いは共通しています。

そのため、「事業会社のDXに貢献すれば、会社/世の中がより大きく変貌するはず」という思いで、事業会社を志望されます。

なお、このパターンの方の中には、サービス開発も自分で進めたい、といった方も少なくありません。所謂企画だけやって、あとはベンダーに任せる、というより、内製化で自分もシステム開発/インフラ基盤構築に携わりたい、といった考えです。

事業会社のDX実態

DXに関連する記事は以前少しまとめたので、以下も参考にしてください。

2021年のDX白書に記載通り、現状国内のDX進捗はアメリカに比べて遅れています。また、DXを進めている、という企業も、アジャイルができていない・紙媒体の電子化のみ、といった状態もあり、そもそも企業のDXに対する認識が、デジタルトランスフォーメーションではなく、デジタライゼーションで止まっている状況も考えられます。

DX白書より

個別事例として、2022年のDX銘柄に選ばれた企業をみてみると、デジタライゼーションがかなり進んでおり、一定デジタルトランスフォーメーション領域に進もうとしている企業もあります。

例えばSGホールディングスは、レガシー基幹システムのクラウド化、AIを用いた伝票自動入力や配送ルート最適化、倉庫作業の自動化を行い(デジタライゼーション)、なおかつ既存の宅配事業サービス以外の事業拡大のための物流プラットフォームシステムの構築を開始しようとしています。

https://www.sg-hldgs.co.jp/csr/mission/new-value/digital/

こうした現状下で、個人的にDX事業が抱える問題点としては、以下二点が大きくあげられます。

DXの問題点①:中途半端なDX企業が多い(DX事業の中断/理想像との相違含む)

所謂デジタリゼーション/デジタライゼーションをDXととらえてしまっているケースです。また、DX推進していたが結局事業が一旦中断された、DX推進のために事業部を立ち上げたが、結局理想とは程遠い状況となっている、というケースも含まれます。

事業会社からの転職希望の方とお話をすると、以下のようなカオス感あふれる状況はよくあります。

(事業会社出身者の声)
・自社の経営陣はDXをやりたいといっても、結局は単なるツール導入やRPA、AIを用いてなにかやりたい、といった話に終話してしまう
・DXをやると聞いたから入社したが、実態は何をやるかも定まっていない。とりあえず採用だけしていて、業務アサインされない
・大企業なのでビッグデータを用いたAI活用ができると思ったが、そもそもデータ基盤が整っておらず、データがカオス状態だった。しかしデータエンジニアがいない状況

この理由はいくつかありますが、やはり経営陣のITリテラシーの低さ、DXヘのコミットの弱さは大きな要因の一つです。結局DXやそれに付随するキーワード(AIやクラウド、ビッグデータ)に踊らされ、とりあえず採用、とりあえずツール導入、といった事態になっています。

DXの問題点②:結局コンサル/SIer依存

これもあるあるの問題点です。DX推進のために着実に進んでいる企業でも、実はコンサルやSIerに大きく依存している企業もあります。

DXでは本来開発の内製化が基本です。Vucaの時代では顧客/業界の変化を素早くとらえ、スピーディーな開発が必要で、その際内製化をしていないと、そのスピードについていけないからです。内製化しないシステムは、一過性のものや、素早い変化が不要なもの、等限られた分野のみです。

もし内製化できない場合も、基本はITの手の内化が必要で、企画から実行フェーズまで、すべてを事業会社自らコントロールできる状態におくべきです。

しかし実際は、企画フェーズからコンサルやSIerに依存し、さらに開発はベンダーに完全にゆだねる、内部にシステム開発ができる人はほとんどいない、といった状況は非常に多いです。

事業会社出身の方からも、開発をやることはほぼなく、ベンダーコントロールメインだった、というような声をきくことは多いです。

問題点①にも絡みますが、以下セブンアンドアイHDの記事はまさにこのDXの問題点の典型例です。

セブンアンドアイHDでは、以下のように様々な問題点が噴出しています。

・DX子会社設立の白紙化
・大量のコンサル/SIer活用
・ベンダー優位の状況(期間延長や工数増に対して、セブン側があまり気にしない)

上記のような事例は、DX銘柄の企業も例外ではありません。
例えばITコンサル企業のフューチャーアーキテクトは、銘柄企業の中の日本瓦斯やSGHDのDX事例にパートナーとしてかかわっています。

また、アクセンチュアは味の素と合弁会社設立し、DX推進の中核をになっており、スタートアップ業界でも、AIベンチャーのPrefferd networksがENEOSのDXに絡んでいます。

勿論内部の力関係が明確にでているわけではないので、事業会社側が主導権を握り、内製化しつつ、コンサルやSIerをうまく活用できているケースもあり得ます。ただ、日本の構造上、IT開発を中心で行ってきたのはコンサル/SIer側のため、どうしてもITリテラシーで分が悪く、気づけばベンダー側が主導権を握りやすくなることもありえます。

エンジニアは事業会社に行くべきなのか?

結論からいうと、ケースバイケースだと思います。以下最初にあげた転職理由に分類して、記載します。

①企画フェーズに携わりたい方の場合

事業会社に入っても、必ずしも企画ができるわけではありません。企画業務以外にも、実行フェーズの管理といった業務があるためです。特に実行フェーズが得意な人(自身で開発した人、PMやPMOをやってきた方)は、親和性の高いベンダーコントロール等を任せられるケースが多いです。

また、上記の問題点に記載した通り、事業会社側は企画フェーズを自分たちだけで推進できるほど、自立したIT推進はできません。したがって企画フェーズにもITコンサルやSIerが入り込むケースがあります。

そうした中企画フェーズに直接携わるには、二つ方法があると考えられます。

1.コンサルに入りCXOと直接やり取りする

まずコンサルとして実績を積んで、CXOクラスとの折衝経験を積めるレベルになります。そして各企業のCXOと企画フェーズの経験を積んで、企画スキルを向上していく場合です。各企業との企画経験を積めるため、企画手法を幅広く高めることができます。

コンサル企業でもすぐに企画を任せられず、最初はPMOから、となるケースもありますが、顧客からの企画需要も非常に強いため、PMOで活躍し、次の案件で企画推進をしていく、というキャリアステップがあります。

2.事業会社のCXOになる

このパターンはすでに企画フェーズを経験している方でないと難しいです(特に大企業の場合)。したがって、1.にあげたようなコンサル企業で実績を積んだ方であればおすすめできる道、そうでなければおすすめしにくい道です。

②大手企業で安定したキャリア形成をしたい

この理由の方は、ある種一番おすすめできるかもしれません。DXにこだわっていないので、SIerやコンサルで培ったPM力等を活かして、実行フェーズの管理をすすめていく、というイメージです。

ただ、注意しなければいけないのは、入社できたとして悠々自適に働けるわけではないという点です。もしその企業がDXをあまり進めようとしていない場合、企業自体が大企業を保ち続けることは難しい可能性があります。

富士通や東芝、JTの事例にあるように、大企業であっても大量の人員削減に動くなど、大手でも競争力を維持できなければ安定できない時代になっています。

逆にDX推進を本格的にやろうとしている企業の場合、上記問題点に記載した通り、カオス環境になりがちです。採用されてもやる業務がまだなかったり、DX部署(子会社)が急に白紙になる、といった可能性があります。

また、本格的なDX推進のためには、一定最新技術のキャッチアップが求められます。例えば今までレガシー環境の実行フェーズPMしかしていなかった方だと、そこについていくことはかなり大変な可能性もあります(とはいえSIerにいたとしても、そこをキャッチアップしないと居場所がなくなる可能性はありますが)。

そうしたカオス環境や最新技術へのキャッチアップについて、安定したキャリア形成をするために一定耐えられるかどうかは考えたほうがよさそうです。

③世の中に大きなインパクトを残したい

このパターンは、そもそも世の中へのインパクトを与えるのが、本当に事業会社なのか、を考える必要があります。

事業会社がいまだベンダー依存から抜け出せないのであれば、むしろベンダー側に身を置くこともありです。新卒市場でも社会貢献の文脈でSIer/コンサル人気の復権が謡われています。

旧来のSIer(ただいわれたものを作る)ではなく、それこそDX支援(企画フェーズからの参画や内製化支援等)など、DXレポートで言われているようなベンダー(DXパートナー、サービス提供者、最新技術の提供)の立ち位置をとっている企業であれば、社会インパクトを与えることが可能です。

(例:BeeXの共創型SIer)

その他の選択肢としても、SaaS系企業のようなWeb系企業に入ることも、社会への大きなインパクト提供になります。メルカリやカカクコム、ヤフーといったBtoC系サービスもあれば、楽々シリーズのラクスやfreee等のBtoB系もあります。

大手を記載しましたが、さらにスタートアップフェーズになれば、大量の企業もあり、こうした企業でも社会的インパクトを与えることは可能です。

とはいえ、「すでに大量の顧客基盤/事業規模をもつ企業のDXにダイレクトに貢献できれば、より大きなインパクトを与える」という思考もありますし、それは一定正しいと考えられます。

そうした企業のDXをするには、自分自身に現状DX推進できる力があるか、を重視してください。

DXでは、以下のようなキーワードでのスキルが必要です。

(例)
・カオス環境/スピーディーな環境での経験
・モダンな技術手法
・企画力

こうした経験は、旧来のSIerで要件定義以降、硬い開発を積んでこられた方はなかなか積めていません。逆にWeb系ベンチャーや上記のような共創型SIer、コンサルにいた方は、一定キャッチアップしやすい状況です。

実際東急のDX部隊には、硬いSIer出身というより、以下のようなWeb系のキャリアを積んでこられている方が所属しています。

また、一点注意していただきたいのは、自分でも開発をやりたい、ということであれば、今はあまり事業会社にいくフェーズではないです。というのも、実態はまだSIerに開発をゆだねているケースが多いためです。

なので、おすすめできるケースとしては、
・現状すでにカオス環境/スピーディーな環境での経験をつみ、モダン技術や企画力も一定兼ね備えている
・開発を自分でやらなくても問題ない
といった場合です。

まとめ

現状SIer/コンサル側にいる人で、本当に事業会社に行くべき方は、そこまで多くない状況です。むしろ今DXが謳われる中で、SIer/コンサルがかなり重要な役割を担っているのが日本の現状です。

とはいえ、SIer/コンサルの中にも、旧来のSIerのままでいようとしているところ、コンサルといってもPMOばかりで企画はあまりできない企業もあります。

さらに選択肢としてはWeb系のベンチャー企業といった選択肢もあり、地味に本質的に大きなインパクトを成し遂げたい方は、Web系ベンチャーを挟んで事業会社側にいくことも選択肢としては十分ありです。

そして注意すべきなのは、事業会社もDXのフェーズ/DXへの意識が企業によって千差万別な状況です。

こうしたDXの現状、背景を踏まえつつ、各自が自分の転職理由/将来なりたいキャリア像をイメージし、正しいと思う道へ進められるようになることが、一番大事だと考えられます。

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