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8/2雇用統計を受けてのサームルール発動について:ルール提唱者本人のクラウディア・サームさんが語る

 サームルールの考案者であり、提唱者でもあるクラウディア・サームさんの8月2日、株式マーケットを大きく押し下げた7月の雇用統計の発表後に行われたインタビューです。
 サームルールを提唱する本人から、現在の経済状況の理解、過去の不況と異なる背景、不況に陥る可能性や時期、またFRBが手元に持つ武器やその可能性について、彼女の見解を色々と教えてくれています。Yet、彼女の見解と投資家の中期的なモメンタムとの間の時間軸が微妙にずれているようにも思え、ご留意ください。

<主なトピックス>

  • 過去不況におけるサームルール発動と今回の差異について

  • サームルールが着目しているのは、景況感の変化のスピード

  • 経済は堅調だが、失業率の上昇や労働市場の軟化に注意が必要

  • 今後3~6か月で不況となる可能性。但し、ベース予測ではない

  • FOMC以外のタイミングで金利を動かすことは考えにくい

  • 市場のパニックを避けるためFRBは慎重に動く




(1)インタビュー

[マディソン・ミルズ](Yahoo finance)
 
失業率が4.3%に跳ね上がり、これは過去3年間で最高の水準です。この状況はPSMルール(サーム・ルール)の引き金をひきました。このルールでは、失業率の3か月移動平均が前年から0.5ポイント上昇すると、不況の始まりを示すとされています。
 ここに、そのルールの考案者であり、ニュー・センチュリー・アドバイザーズのチーフ・エコノミストであるクラウディア・サームさんにお越しいただきました。

 クラウディアさん、お越しいただきありがとうございます。先ほどの説明のように、このルールは不況の指標です。1が不況から最も遠く、10が完全な不況状態だとしたら、現時点ではどのあたりにいるとお考えですか?

[クラウディア・サーム](New Century Advisors)
 このルールだけを見れば、歴史的に非常に信頼性が高いパターンですので、通常の解釈では、私たちはすでに不況に突入してから約3か月経過していると言えます。しかし、現在の世界が通常通りかというとそうではありません。
 サームルールや他の指標、例えばGDPの2四半期連続の減少も2022年に経験しましたが、結局不況には至りませんでした。現時点で特定の文脈を考慮する必要があります。
 現在、不況にあるかと言えば、そうではないと思います。ただ、失業率の上昇や労働市場の軟化は心配であり、3~6か月後に不況に陥る可能性は十分にあります。そのため、サームルールは、パンデミックによる労働力ショックの影響を受けているため、今は少し過剰に反応しているのかもしれません。それでも非常に心配すべき状況であることは確かです。
 スケールで言えば、高い位置にありますが、10ではないです。

[シーナ・スミス](Yahoo finance)
 その最後の部分についてもう少し詳しく教えてください。今回はなぜ違うのでしょうか?
 パンデミック中に労働市場に大きなショックがあり、パンデミック後もその影響が続いています。最近の失業率の上昇には移民の影響も大きいようです。この違いについて教えてください。

[クラウディア・サーム]
 不況の指標は失業率の変化に注目しています。これは、過去に失業率が非常に低いときと非常に高いときとを繰り返しながら不況に突入してきたからです。したがって、変化の勢いに着目し、十分な変化があると認められると不況になるという考え方です。
 パンデミックの際に人々が労働市場から離れたため、労働力不足が起こり、それが失業率を大きく押し下げました。だから現在、私たちは非常に低い失業率と比較していることになります。
 また近年は移民が急増し、労働市場の周りからの人の流入が大きく増えています。労働市場の周辺から入った場合、仕事を見つけるのに時間がかかり、失業率を一時的に押し上げることになります。しかし、労働力人口が大きく急速に変化しているため、その勢いを把握しようとするこのような指標は、このルールが作成された過去のどの記録よりも難しいものとなっています。

[シーナ・スミス](Yahoo finance)
 それを踏まえて、今後3〜6か月で不況が訪れる可能性はどれくらいあるのでしょうか?確率はどれくらいでしょうか?
 また、不況の可能性が高まる要因についても教えてください。失業率の上昇が大きな要因であることは明らかですが、他に注目している経済上の懸念はありますか?

[クラウディア・サーム]
 今後3〜6か月で不況が訪れる可能性は高いですが、それが私の基本予測ではありません。私が良い方向への道筋を見ている理由は、FRBが金利を徐々に引き下げるという重要な政策手段をまだ持っているからです。
 我々の経済は非常に健全であり、ただ方向性が良くないだけです。プレッシャーを少し緩めるだけで、再び安定した軌道に戻ることができます。
問題は現在の米国の労働市場の状態ではありません。約4%の失業率は良好で、労働力も大幅に増加しています。この状態を維持する必要があります。月ごとの弱まりが問題であり、政策立案者はそれを緩和するためのツールを持っており、そして、彼らはその方向に向かっています。

[マディソン・ミルズ](Yahoo finance)
 今朝方、市場ではすでに、FRBが9月のFOMCの開催前に動くのではないか、というコメントがあがっています。また、市場は9月に50ベーシスポイントの利下げが行われる可能性について高く見積もっています。あなたのベースとなる予測はどのようなものでしょうか?

[クラウディア・サーム]
 ベーシックな予測としては、FRBが9月に動き出すというものです。それが必要であることは明らかです。FRBは、通常の会議以外のタイミングで、金利を変更するのは危機が訪れている時ですし、今は危機ではありませんし、また誰も危機を望んでいません。
 この労働報告書は非常に不安を感じさせるものですが、危機とはいえません。FRBの関係者がガイダンスやコミュニケーションを通じて、さらなる弱まりを防ぐために必要なことは何でもする意欲を示すかもしれませんし、それが一定の支えになるでしょう。
 彼らは慎重に対応し、パニックを避けたいと考えていますし、それが適切な行動だと思います。
 たった2日前、パウエル議長が見込んでいた労働報告は、今回のこの内容ではありませんでした。FRBはさらに弱くなった数字を望んでいないことを非常にはっきりと示していましたが、出てきたものは、さらに弱まっていることを示すものでした。

[マディソン・ミルズ](Yahoo finance)
 締め括りに、11月に向けたホワイトハウスの動向についてお話ししたいと思います。あなたのルールが政治的な議論に利用されることもあると聞いていますが、このルールについてのコメントを聞いている人々に知っておいてほしいことは何でしょうか?
 11月に向けて、どのように政治的な議論に影響を与える可能性があるのか、両陣営の見解について教えてください。

[クラウディア・サーム]
 このルールの目的は、不況時に財政政策を自動化し、政治的な議論を避けることでした。今となってはそれが単純な考えであったことは理解していますが、それでも重要です。
 パニックになってはいけません。今回は特別な事態になったのには理由があります。このルールの目的は、経済が悪化した場合に対策を講じて、状況を悪化させないようにすること、不況と戦うことです。現時点は、まだ危険な状態にはありませんが、このルールが議論を促し、労働市場に注目を集めるきっかけになることを望んでいます。
 労働市場をコントロールすることは、経済の健全性と成長にとって非常に重要で中心的な課題だからです。

[シーナ・スミス](Yahoo finance)
 最後に、他のデータについてもお伺いします。特に消費者に関するデータについてです。消費者が受けている圧力や、それが実際に弱まっているかどうかについての疑問がありますが、どのように見ていますか?

[クラウディア・サーム]
 もちろん、全てのデータを見ています。サームルールは、経済の全体像を要約するために設計されましたが、正直なところ、今の経済を要約する統計は存在しません。非常に複雑です。
 私が「不況ではない」と言うのは、ただそう思いたいからではありません。消費者支出や所得を見てください。成長の面では以前ほど強くはありませんが、依然として堅調です。インフレは下がってきており、回復の可能性があります。全体を見れば、まだ良好な状態にありますが、その進行方向が問題です。
 確定的な状況ではありません。全てのデータを見れば、状況はかなり良好に見えるかもしれませんが、特定のデータポイントを選び出して悲観的になるのは簡単です。今日のデータからそのようなメッセージを受け取るべきではないと思います。

[マディソン・ミルズ](Yahoo finance)
 最近のSubstackの記事で指摘されていた離職者の減少は、ほとんどの不況期よりも顕著になっています。次の雇用報告や次回のFRB会合前の消費者物価指数(CPI)において引き続き弱いデータが見られた場合、FRBが次のFOMC以外で対応する可能性は何パーセントだと思いますか?

[クラウディア・サーム]
 FOMC以外での対応は非常に稀であり、通常は金融市場における大きな混乱や危機によって引き起こされます。今回、そのような事態は想定していません。確かに可能性はありますが、マクロ経済の動向によって引き起こされることは考えにくいです。FRBには他にも動きを示す手段があります。
 今日お話ししたメッセージは、我々が危機に瀕しているということではなく、いくつかの問題といえるものが存在する、ということです。それを市場に伝える必要があるようです。

[シーナ・スミス](Yahoo finance)
 クラウディアさん、今日はお時間をいただき、ありがとうございます。



(2)オリジナル・コンテンツ

Yahoo financeより
(Original Published date : 2024/08/02)

[出演]
  New Century Advisors
    クラウディア・サーム(Claudia Sahm)
    Chief Economist

  Yahoo finance
    シーナ・スミス(Seana Smith)
    マディソン・ミルズ(Mady Mills)



以上です。


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だうじょん


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