ウォール街は過去の過ちと同様、データセンターの需要を40%過小評価している
現在、AI技術の急成長に伴い、膨大なコンピューティングパワーとそれを支えるデータセンターの需要が爆発的に増加しています。特に、米国のデータセンター市場は急拡大しており、世界のデータセンター容量の約30%を占めるとともに、そのデータセンターへの投資額は他国を大きく上回り、昨年だけで約700億ドルが投じられました。それには、Amazon、Google、Microsoftなどのビッグテック企業からの投資が含まれるのはもちろんのこと、巨額の資金需要に目を付けたBlackrockやKKRのようなファンド企業を巻き込みながら、数百億ドル規模の戦略的な投資がデータセンターやエネルギープロジェクトに注ぎ込まれています。
また、産業構造の視点からは、ビッグテック企業とデータセンター事業者の間には互いの補完関係が存在しており、ビッグテック企業はデータセンターの利用において長期契約を結ぶことで安定したインフラを確保し、一方でデータセンター事業者はこれら長期契約によって安定した収益を得て、更なる事業拡大に向けた投資を継続しています。これにより、さらなる資金需要が生まれ、需要サイドと供給サイドが成長を相互に支え合いながら産業全体の拡大する図式が描かれています。
この投稿では、データセンター事業を経営する立場やウォール街の視点から、これらデータセンター産業を支える需要と産業構造についての話、そしてデータセンターにとって重要課題である再生可能エネルギーや原子力発電、そしてカーボンニュートラルを目指す取り組みがどのように進められているかについて、Bloombergの番組「Wall St Week」(2024年10月5日)の内容を抜粋して紹介するものです。ご参考下さい。
[以下は、内容に含まれるサブテーマです]
AIデータセンター需要の現状と将来
電力供給の重要性と課題
非公開化による資本調達とウォール街
ハイパースケーラーとデータセンター事業者の間の契約モデル
過剰投資と過少投資:成長に追いつけないリスク
(1)プログラム・コンテンツ
デイビッド・ウェストン(Bloomberg)
まず需要に関する話題から始めます。具体的には、AIへの需要についてお伝えします。AIは今後大きく成長すると予測され、そのためには大量のコンピューティングパワーが必要になります。つまり、データセンターが多く必要になるのです。
まず紹介するのは、サイラスワン社(CyrusOne社)のCEO、エリック・シュワルツ氏のお話です。サイラスワンは世界最大級のデータセンター運営会社の一つで、シュワルツ氏は電力をコンピューティングパワーに変換するための資源を求めて大手テック企業がしのぎを削る、現代の「ゴールドラッシュ」の最前線に立っています。私たちは、このAIブームの基盤となるものがどのようなものかを直接確かめるため、米国内でデータセンターの数が多いテキサス州へと向かいました。ダラス北部の郊外にある、シュワルツ氏の会社の新しい施設で彼にお会いしました。この施設は約100万平方フィートの広さを誇ります。
施設を見学すると、高い天井の大きな建物に、黒いキャビネットが整然と並び、内部にあるコンピュータラックが外部からの視線を遮るように設置されていました。
これらのラックは地面から約1メートルの高さに配置されており、冷気をコンピュータラックに送り込むための複雑な空調システムが下に敷設されています。高い天井は、温まった空気が上昇して冷却システムに戻される設計になっています。
シュワルツ氏によると、テキサスでこのようなデータセンターを建設する競争はまだ始まったばかりで、サイラスワンは現行施設の隣に新しい建物や設備を追加するプロジェクトを進めているとのことです。
この要件に応えることは決して簡単ではありませんが、米国は幸いなことに、強力なスタートダッシュを切っています。世界には7,000以上のデータセンターがあり、そのうち約2,000が米国内にあります。米国のデータセンター容量は昨年だけで約4分の1増加し、現在建設中のセンターが稼働すれば、さらに70%の容量増加が見込まれています。
ヴァルデマール・シュレザック氏は、KKRのグローバル・デジタル・インフラ部門の責任者です。同社はデータセンターへの大規模な投資を行っており、2022年にグローバル・インフラ・パートナーズと提携しています。エリック・シュワルツ氏のサイラスワンを50億ドルで買収したのもその一環でした。シュレザック氏も、シュワルツ氏同様に、ヨーロッパやアジアに大きなチャンスがあると見ています。
データセンターの需要が急増している中、その要求に応えるのは簡単ではありません。バーンズ・アンド・マクドネル社のデータセンター部門責任者であるクリスティン・ウッド氏のような専門家は、存在する数々の課題を克服する方法を模索しています。
これら多くの課題の中でも、最も大きな課題は、データセンターが必要とする電力を確保することです。ゴールドマン・サックスの推計によると、すでに世界中で供給されている電力の1〜2%をデータセンターが消費しており、その数値は今後10年で倍増する可能性があるとされています。
データセンターやそのクライアントにとって、十分な電力を確保することが必須条件になりますが、それだけでは十分ではありません。電力は途切れることなく、確実に供給されなければならないのです。
サイラスワンの新しいテキサスの施設では、何層にも重ねた冗長性がバックアップを支えています。この施設は通常、電力網から直接電力を供給されていますが、もし停電が発生した場合は、データセンターの背後に設置されたバッテリーが自動的に稼働します。そのバッテリーは一連の発電機によって常に充電されており、さらにそれらが全て機能しなくなった場合には、同じくらい大きなディーゼルエンジン設備が稼働します。停電がバッテリーの持続時間を超えて続く場合でも、これらエンジンが稼働することで、複雑な冷却システムを含め、どんなトラブルがあってもセンターの運営が止まることはありません。
エリック・シュワルツ氏は、このような信頼性の高い電力が必要とされる背景には、単に電力を確保し、途切れないようにするだけでなく、米国や他の国々全体で、電力の生成や供給方法を見直す必要があると指摘しています。
データセンターを稼働させるためのエネルギー源は、世界が化石燃料からの脱却を目指す中で、ますます重要な課題となっています。但し、この増大する需要に応えることが、地球温暖化を悪化させるのではないかという懸念も浮上しており、新たなデータセンターを建設する側も、その点を非常に意識しています。
データセンター運営者は、顧客の需要に応えるために、単にデータセンターを提供するだけでなく、気候危機を悪化させないデータセンターを目指しています。サイラスワンのような企業は、電力消費の増加にもかかわらず、カーボンニュートラルを達成するという野心的な目標を掲げています。
エリック・シュワルツ(CyrusOne)
「サイラスワンでは、持続可能性を長年にわたり重視しており、2030年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を設定しています。これは当初の計画よりも前倒しにしたものです。これには、電力網や電力供給業者と協力して、CO2排出量を相殺し、軽減する取り組みだけでなく、再生可能エネルギーの開発者と密接に連携し、私たちの需要に対応する電力供給を確保することも含まれます。長期的には、必要な電力容量を確保するための投資は相当な規模になるでしょう。」
デイビッド・ウェストン(Bloomberg)
「それは、データセンターが自給自足の電力を確保し、電力網に依存せずに自ら発電する方向に進むということでしょうか?」
エリック・シュワルツ(CyrusOne)
「現時点で私たちがこれらの施設を運営する最適な方法は、電力網に接続することです。しかし、将来的には、データセンターが電力網を支援し、必要なときには供給者としての役割を果たす可能性もあります。私たちの戦略は、引き続き電力網に接続してリソースにアクセスすることを前提としていますが、私たちの膨大なニーズを考慮すると、長期的な最も効果的な解決策は、電力会社、データセンター運営者、そして電力網の運営者との間で、リソースをより効率的に活用できるように緊密に協力することにあります。」
サイラスワンの顧客は、持続可能な電力源からの供給をさらに増やすよう求めていますが、同社の親会社であるKKRも、サイラスワンに限らず、自社のインフラ投資全体で同様の取り組みを進めています。
デイビッド・ウェストン(Bloomberg)
「電力需要の急増が意味するものとは何でしょうか?特に、私たちが気候を守るために化石燃料からの脱却を目指している中で、この二つをどのように両立させるのでしょうか?」
ヴァルデマール・シュレザック(KKRグローバル)
「私たちはエネルギー転換に大きく投資しており、その必要性を強く信じています。エネルギー転換とその他の取り組みは必ずしも相反するものではなく、包括的な解決策の一部です。先ほども述べたように、石炭火力発電所の廃止や天然ガス発電所への投資は、エネルギーの経済性だけでなく、安全性の向上にも貢献します。私たちは、再生可能エネルギーに大規模な投資をしており、世界中で10の再生可能エネルギープラットフォームを運営し、2010年以降で340億ドル以上を持続可能性に投資しています。これが解決策の重要な一部だと考えています。」
デイビッド・ウェストン(Bloomberg)
「これまでに述べたデータセンターや土地、そして膨大な量の持続可能な電力に対する需要が、新たな需要を生んでいます。それが「資本」の需要で、しかも、その資本の需要は莫大です。ここで次のテーマに移ります。巨額の投資が必要とされる中で、ウォール街はどのようにそれを提供しようとしているかです。
データセンター需要の物語は、まず物理的な施設そのものから始まります。設置場所を見つけ、必要な安定した電力を供給し、高度な機器を収容するための複雑な施設を建設する必要があります。しかし、この物語は、それらの施設を支えるための膨大な資本需要の話でもあります。この需要に対応するため、ブラックロックとマイクロソフトは、データセンターとそれを支えるエネルギープロジェクトの建設に向けた300億ドル規模のAIファンドを立ち上げました。
ブラックロックの会長兼CEO、ラリー・フィンク氏は、グローバル・インフラストラクチャー・パートナーズ(GIP)買収を発表した後、私との対談でこの件に言及しています。GIPは、KKRと共にサイラスワンを買収した企業です。」
エリック・シュワルツ氏は、このインフラの変革に必要な莫大な資本が、KKRとGIPがCyrusOneを買収し、非公開化した主な理由の一つだと話しています。
エリック・シュワルツ(CyrusOne)
「公開市場の投資家の方々は、必要とされる巨額の資本に対して懸念を抱いており、それが公開株式の希薄化につながるのではないかという心配につながっています。しかし、非公開企業となり、強力な支援と豊富な資本にアクセスできることで、急成長する業界に追いつくための拡張や投資を進めるための体制が整いました。」
デイビッド・ウェストン(Bloomberg)
「リスクの分配についてはどうでしょうか?このテキサス州アレンにあるようなデータセンターセットには、文字通り、多額の資金が必要です。また同時に、いくつかの顧客と長期供給契約を結んで、長期的な収入の流れを少なくとも確保しているのでしょうか?」
エリック・シュワルツ(CyrusOne)
「顧客との関係は、それぞれの要件や事業構造によって異なりますが、一般的に、現在行われている投資を支え、資本市場にアクセスできるようにするために、データセンターのリース期間が大幅に長くなっています。通常は10年、場合によっては15年、さらにはそれ以上になることもあります。これにより、顧客はインフラへの確実なアクセスが保証され、当社の行う投資の上に顧客自身も安心して投資を行うことができます。そして、私たちにとっては、安定した収益源を背景にして金融市場にアプローチし、必要な資本を調達することが可能になるのです。」
KKRのヴァルデマール・シュレザック氏は、AIやクラウドコンピューティングの成長見通しに対する信頼が、同社のサイラスワンやデータセンター、さらにはインフラ全般への投資戦略の根幹にあると述べています。
ヴァルデマール・シュレザック(KKRグローバル)
「デジタルインフラは広義には3つの柱で構成されています。その1つがデータセンターで、他にはモバイルインフラと固定回線のインフラです。現在、私たちは世界中で4つのデータセンタープラットフォームを運営しており、100以上の施設を持ち、それらのプラットフォームの企業価値は400億ドルに達します。また、データセンターについては、新規開発の1,100億ドル規模の案件を評価しているところです。」
デイビッド・ウェストン(Bloomberg)
「データセンター投資家としてのKKRの成長曲線は現在どのような状況ですか?どこから始まり、どれくらい急速に成長し、今後はどこに向かう予定ですか?」
ヴァルデマール・シュレザック(KKRグローバル)
「そうですね、直近数年のデータセンター投資を一言で表すとすれば、『より多く、より速く』というのが最も適切だと思います。業界全体の流れを振り返ると、この進展がよく見えてきます。1990年代に遡ると、インターネットの進化は2ギガワット規模のビジネス機会でした。データセンターでは電力が基本単位であり、すべてがギガワットで表されます。その後、2006年から現在に至るまでのクラウドやインターネット2.0の進化は、約8ギガワットでした。そして今、インターネット3.0、クラウド2.0、そしてAIの進化が、さらに25〜30ギガワットの需要を生み出すと予想されていますが、その進展はこれまでよりもはるかに短期間で起こると見込まれています。」
デイビッド・ウェストン(Bloomberg)
「ビジネスモデルについて教えてください。データセンターの建設資金を投入した後、どのようにして収益を回収するのですか?」
ヴァルデマール・シュレザック(KKRグローバル)
「データセンターの大半の容量は、顧客との契約によって構成されており、通常はテイク・オア・ペイ契約(訳注:買い手が契約量の一部を引き取らない場合でも、契約量の全量相当の代金を支払うことを義務付ける条項を定めた契約)が基盤となっています。私たちは施設を建設しますが、一定の開発リスクはあります。しかし、これは産業施設の一種であるため、そのリスクは比較的限定的です。その後、その施設をハイパースケールのお客様に対して、10年から15年の長期テイク・オア・ペイ契約でリースしています。」
デイビッド・ウェストン(Bloomberg)
「収益はほぼ初日から入ってくるのでしょうか?」
ヴァルデマール・シュレザック(KKRグローバル)
「はい、そうです。初期の資本投資は莫大ですが、収益の創出は契約期間中に始まります。そしてもちろん、資産価値の上昇も見込んでいます。これがインフラ戦略の中心的な柱の一つです。経済にとって重要な資産であり、非常に明確で予測可能なキャッシュフローが見込めるもの、インフレに強く、経済の景気変動に左右されにくいものを探しています。これはリスクとリターンのプロファイルの一部であり、KKRの戦略に組み込まれています。」
この戦略の中心にあるのが「ハイパースケーラー」と呼ばれる企業群です。これらの企業は世界のクラウドコンピューティングの大部分を占める企業で、よく知られた名前が並びます。Amazon、Google、Meta、Microsoft、Oracleの5社です。2022年だけで、これらの企業はデータセンターに180億ドルを投資しており、その額は今後も増加すると見込まれています。KKRのような投資家は、この波に乗るための準備を進めています。
デイビッド・ウェストン(Bloomberg)
「ハイパースケーラーについてお聞かせください。彼らが自社でデータセンターを建設するか、KKRのような企業に建設を任せて10〜15年の契約を結ぶかを決定するプロセスはどのようなものでしょうか?」
ヴァルデマール・シュレザック(KKRグローバル)
「そうですね、端的には両方やっているというのが答えです。ただ、成長に追いつこうとしている部分も大きいです。クラウドビジネスは10年前、500億ドル規模でしたが、現在では5,000億ドル規模にまで成長しています。そして今後7年で、さらに5倍に拡大すると予測されています。彼らはこの需要に応えるために努力しています。さらに、彼らの主な強みはソフトウェアの開発と販売であり、資本については、ハードインフラに縛るよりも、より有効に使う方法を持っています。そこで、私たちのような第三者を活用して、インフラの展開を補完し、運用レバレッジや効率性を高めているのです。」
データセンターへの投資の世界は急速に進化しており、AIの行方が完全には見えない中でも、多額の投資が進められています。しかし、KKRのような大規模な投資家にとっての本当のリスクは、成長に追いつけないことにあります。
デイビッド・ウェストン(Bloomberg)
「この方向性に対してどの程度の自信がありますか?AIはまだ一部のアプリケーションでしか大規模に展開されていませんが、現在多額の投資が行われています。途中で進路が変わる可能性はどこにあるのでしょうか?」
ヴァルデマール・シュレザック(KKRグローバル)
「とても良い質問ですし、この点については、過剰投資か過少投資かという議論が両翼にあると思います。しかし、ハイパースケール企業のCEOたちのコメントを聞くと、過少投資のリスクが過剰投資のリスクを上回るという意見が多いです。面白い例えを使うと、過去の技術進化のサイクル、たとえばPC、モバイル、クラウドにおいて、過去ウォール街はその普及率を約30〜40%過小評価してきました。同じアナロジーをここに当てはめると、AIインフラに対する最終的な需要も過小評価している可能性が高いと思われます。
もう一つ興味深い点は、この顧客たちが非常に潤沢な資金を持ち、強力なバランスシートを持っていることです。彼らはこれを自社のビジネスにとって不可欠な戦略と見ており、このトレンドは今後も続くと私たちは考えています。KKRのパートナーの一人が言った言葉で、『進化が嫌いだとしても、陳腐化はもっと嫌だろう』というものがあります。」
デイビッド・ウェストン(Bloomberg)
「確実でない未来に投資するか、陳腐化のリスクに直面するかは、簡単な決断ではありません。しかし、変革の真っただ中にいる人々にとって重要な指針となるのは、コンピューティングパワーの需要が急増している現実と、それを実現するために必要となる資本の投資です。」
(2)オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg Televisionより
(Original Published date : 2024/10/5 EST)
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