自由な競争市場を目指す反トラスト法の執行人:リナ・カーンの実践哲学
米連邦取引委員会(FTC)の委員長であるリナ・カーン氏は32歳という若さで現在の委員長という職に就任。主にハイテク業界やヘルスケア業界を対象にここ数十年で最も積極的で実践的な反トラスト法(日本の独占禁止法に概ね該当)の執行に取り組んでいます。彼女は、テクノロジー企業や優位な立場を持つ大企業が市場の競争を抑制しないように市場を監視し、マグニフィセントセブンを始めとする大企業が持つ市場支配力に対して、長期的な影響を考慮した規制を主張しています。また、AIや新興技術市場に対しても、今後の競争環境を保護するためにM&Aに対しても慎重な審査の必要性を説いています。
この投稿は、そのようなリナ・カーン氏を迎えて行われ、2024年10月03日に公開されたインタビュー&協議の内容を紹介するものです。
主に以下のテーマについて、特に独占的大企業とスタートアップの対立構図を軸として、自由競争市場の実現に向けてのリナ・カーン氏の見解や考え方が述べられています。ご参考下さい。
[主なサブテーマ]
リナ・カーンの実践哲学
競争市場における課題認識
反トラスト法へのアプローチ
生成AIや新興技術の規制のあり方
競業避止条項の廃止と効果について
若いリーダーとしての挑戦と政府機関の運営
1. インタビュー&ディスカッション
[サラ・グオ](スタートアップ・インベスター)
今日は、米連邦取引委員会(FTC:Federal Trade Commission)の委員長、リナ・カーン氏をお招きしています。彼女は32歳でFTCの最年少委員長に就任し、政府機関のリーダーとしても非常に若い年齢で歴史に名を刻んでいます。リナ氏はこれまでの任期中、特にテクノロジー業界における大きな反トラスト法関連の案件で大きな影響を及ぼしています。NVIDIA、Meta、Microsoftに対して訴訟を起こしたほか、医療や製薬業界においても積極的な措置を取ってきました。
本日は、リナ氏がAIについてどう考えているか、消費者にとって最適な市場の構造、競業禁止条項、M&Aの成否予測、競争促進するためのアプローチなどについて幅広くお話を伺います。
[エラッド・ギル](スタートアップ・インベスター)
本日はご参加いただき、本当にありがとうございます。
[リナ・カーン](FTC:米連邦取引委員会 委員長)
お招きいただき、ありがとうございます。
[エラッド・ギル]
32歳でFTCの最年少委員長に就任されましたが、まず、これまでのキャリアと、FTCや政府機関に携わるまでの経緯についてお話しいただけますか?
[リナ・カーン]
はい、喜んでお話しします。私のキャリアの始まりはビジネス記者やジャーナリストとしての仕事でした。米国経済の様々な市場がどのように進化してきたのかを記録する役割を担っていました。航空業界や書籍出版、養鶏、アルミニウム市場など、あらゆる分野を深掘りし、ここ40年で市場がいかに統合されてきたか、そしてその多くが合併や買収によるものであることを理解するようになりました。これは、一部には、反トラスト法の適用が緩和され、合併の監視が甘くなったことが背景にあります。
この調査を通じて、市場の統合や集中が日常の人々にどのような影響を与えているのかを具体的に目にする機会を得ることができました。例えば、消費者が最寄りの病院まで遠くまで運転しなければならない状況や養鶏業者が唯一の取引先企業に依存することで搾取されてしまうケース、そして、一部の少数企業が市場へのアクセスを支配することで、起業家や中小企業が不利な条件を強いられる状況などです。この経験を通じて、市場の構造がいかに政策の問題であるかに興味を持つようになりました。すべての市場で独占を許すのか、より多くの競争を促進するのかという課題です。
歴史的に米国は競争を促進する道を選んできました。そして、その選択が、米国の驚異的な経済成長や数多くの素晴らしい企業の誕生に貢献してきたと信じています。
[サラ・グオ]
イェール大学にいた頃に非常に影響力のあるエッセイ、「Amazonの反トラストの逆説:Amazon's Antitrust Paradox」を発表されましたが、その理論について説明いただけますか?また、従来の反トラスト法とはどう異なっているのか、そしてその考え方は今でもお持ちなのでしょうか?
[リナ・カーン]
最初に注意点としてお伝えしたいのは、この論文を書いたのはまだ法学生だったときで、法律の執行者としての立場とは大きく異なるということです。しかし、この論文は、それまで行ってきた市場調査に基づいたものとなっています。ロースクールに入る前、私は6か月ほどの間、Amazonを通じて商品を販売している多くの企業と会話を行い、さらに、長期的な視点からAmazonをどのように評価しているのかを知るため、様々な投資家や市場アナリストにもインタビューを行いました。
当時、Amazonの利益はまだ比較的低く、最終的にどのような展開になるのかという疑問がありました。ですが、市場参加者と話す中で、すでにこの企業が構造的な支配力を持ち始めていることを感じ取っている人が多くいました。これは、必ずしもすぐに消費者価格の上昇につながってはいなかったものの、確実に起こりつつある現象でした。
このエッセイでは、Amazonを事例に、米国の反トラスト法の歴史や、企業がどのようにして独占権を行使できるのかを、より広い視点から捉えることの必要性を訴えました。長い年月をかけて、私たちは独占や支配の問題を、短期的な価格変動や供給量の変化といった狭い基準で判断するようになってしまいましたが、この論文は、そうした狭い視点からの転換を提案したものとなっています。
[エラッド・ギル]
FTCを数年間運営されてきた中で、現在の競争市場を判断するための正しい枠組みについて、どのようにお考えですか?また、政府が介入すべきタイミングについてはどのように考えていらっしゃいますか?
たとえば、FTCはMetaによる小規模な30人のフィットネスVRアプリケーション企業の買収に関して訴訟を起こしましたが、その市場はまだ初期の段階で、技術進歩や市場成長もほとんど見られていませんでした。こうしたケースを踏まえ、また長年実務を積んだ今、広い視点で見て、いつが介入の適切なタイミングだとお考えでしょうか?
[リナ・カーン]
これら問題に対する適切な枠組みは、市場の現実と企業が競争しているさまざまな側面を正確に理解することです。合併や買収を審査する際には、それが既存の市場や将来の市場で競争相手を排除するために使われていないかをしっかり確認する必要があります。合併の執行は本質的に予測的な作業です。議会は、反トラスト機関に対し、合併が「競争を大幅に減少させる可能性がある」かどうかを審査するよう求めています。つまり、私たちに求められているのは、市場がどのような状況にあり、企業がどのような条件や要素で競争しているのか、価格を引き下げるための競争なのか、品質やイノベーションといった他の要素での競争なのかを把握することです。
競争を守ることは極めて重要であり、新興市場やこれから成長する市場について考えることも大切です。市場が数年で消えてしまうのか、次の大きな成長を遂げるのかは必ずしも明確ではありません。ここでは予測的な要素が重要になってきます。過去数十年にわたり、執行機関はデジタル市場に対して不干渉の姿勢を取ってきました。これは、デジタル市場は動きが速くダイナミックであるため、独占的な力が働いても、新規参入者によってすぐに是正されるだろうという考えがあったからです。デジタル市場ではスタートアップコストが低いため、ガレージで始めた数人のチームが次の大企業を生むだろうと考えられていたのです。
しかし実際には、デジタル市場はそれとは異なっています。市場が「ティッピングする」(訳注:ある企業が圧倒的な支配力を持つようになる転換点に至る)傾向があり、ある企業が支配的になると新たな競争者が参入するのが非常に難しくなるのです。これにはネットワーク効果やデータの優位性、その他の自己強化的なメカニズムが影響しています。このような状況で完全に放任してしまうと、イノベーションが抑制される危険があります。ですから、支配的な企業が次の大きなイノベーションを排除しようとしていないかを監視することが不可欠です。現在では、FacebookやGoogleによる買収が競争を抑制するためのものであり、違法だったとする大規模な訴訟が、司法省やFTCによって提起されています。
この作業は特に技術の転換点において非常に重要です。技術活用におけるパラダイムシフトが起こる最大のチャンスがあるのがこうした転換点であり、同時に既存の企業が最も脅威を感じる瞬間でもあります。例えば、MicrosoftがNetscapeを排除しようとしたのは、NetscapeがMicrosoftのオペレーティングシステムに取って代わる脅威を感じたからではなく、NetscapeがMicrosoftのオペレーティングシステムを無意味にしてしまう可能性があったからです。最終的にMicrosoftに対する強制措置があったことで、GoogleやAmazon、Facebookといった企業が誕生し、成長する機会を得て彼らの繁栄につながったのです。反トラスト法の執行は、特にテクノロジー市場では重要な役割を果たします。
[エラッド・ギル]
関連する質問として、AI市場におけるM&Aの二次的影響についてもお伺いしたいです。現在、AI技術の急速な発展により、業界ランドスケープや市場参加者が大きく変わっている転換点に直面しています。AI企業の中には、成功しない企業や買収される企業もあり、そうした企業から人材や資本が次の波に乗った企業に循環するというサイクルが発生しています。しかし、規制が強化された環境では、そのようなM&Aは行われず、再投資が進まなくなるという懸念もあります。これらの二次的影響について、またそれがどのように現在の規制枠組みやアプローチに当てはまるのかについて、どのようにお考えでしょうか?
[リナ・カーン]
とても興味深い課題だと思います。シリコンバレーを訪れた際、創業者たちと話す中でよくこの話題が出てきます。一歩引いて考えると、まず重要なのは、優秀な人材を雇うために必ずしも合併や買収が必要ではないという点です。人々が最も適した場所に辿り着くようにすることは、M&A以外の環境でも十分に可能です。
さらに、スタートアップの最終目標が買収によるエグジットだとしても、私たちの役割は、その買収が独占的な優位性を強めるものにならないようにすることにあります。実際、毎年数千件の買収が行われていますが、FTCや司法省に報告される案件のうち調査されるのは3%未満で、さらにその中で訴訟に発展するものは極めて少ない状況です。つまり、非常に多くの取引が行われていて、その多くは法的に問題がないと判断されているのです。
具体例として、昨年、FTCは大手製薬会社のサノフィ(Sanofi)がProvention Bioという企業を買収することを阻止するために訴訟を起こしました。Provention Bioは、ポンペ病に対する新しい治療薬を開発していた会社です。この分野ではサノフィが独占的な地位を持っていましたが、Provention Bioの薬は患者にとって大きな利益をもたらす可能性がありました。現在、サノフィの薬を使用する患者は数週間ごとに点滴を受ける必要がありますが、Provention Bioの薬は経口服用できるもので、患者の利便性や生活の質を大幅に改善する可能性がありました。
私たちが調査したところ、この買収が市場に悪影響を与える可能性があるとの結論に達しました。というのも、サノフィのインセンティブは、この新しい薬を速やかに市場に投入することと必ずしも一致していなかったからです。それは既存の製品の売上が新薬によって食われるリスクがあったためです。そこで私たちはその取引を阻止するために訴訟を起こし、その結果サノフィは買収を断念しました。Provention Bioはその後、同じ市場で独占的な地位を持っていない別の企業と提携しました。その取引は法的に問題なく進み、Provention Bioにとっては同等かそれ以上の条件で行われ、今では、その薬がさらに早く市場に出ることが期待されています。
これは、既存の独占企業による買収が法的な問題を引き起こす一方で、異なるプレーヤーとの取引ならば問題にならない具体的な例です。
[サラ・グオ]
市場の経済構造が消費者にとってポジティブに変わることもあるかもしれませんが、M&Aの成果が一部減少するというトレードオフもあり、それでも価値はあるかもしれません。ただ、起業家や投資家の観点から見ると、いつ規制が実施されるのかについての不確実性があるように思います。このようなエコシステムにいる人々に対し、どのようなアドバイスをされますか?
[リナ・カーン]
1つ大きなアドバイスとしては、特定の市場で既に独占的な地位を持っている企業に売却する場合は、競争上の問題が発生しやすいという点です。一方で、その市場にほとんど関与していない企業に売却する場合は、そのリスクは低いということです。また機関は昨年末に新たな合併ガイドラインを発表し、取引が競争を阻害するかどうかを評価するための枠組みを示しました。また、短期的に良いことと長期的に良いことの間に、ある種の緊張関係があるかもしれないという点も注目に値すると思います。
今日の市場が、ほとんど5つの主要プレーヤーによって支配されるようになった理由の一つは、これらの企業が新興の競争相手を買収することを許されてきたからです。その結果、市場はより統合され、スタートアップにとって競争の少ない環境になってしまいました。つまり、潜在的な買い手の数はかなり限られてしまうということで、スタートアップにとって、8社、9社、10社といった複数の買い手が存在する市場は、1社か2社しかない市場よりも、交渉力や評価額、条件の交渉力の面で有利です。長期的には、競争が激しく、オープンな市場が望ましいのです。
少し引いて考えてみると、反トラストの目的は、優れたアイデアが勝てるようにすることです。つまり、優れたアイデアを持った創業者や起業家が資金を調達し、公正に競争できる機会を得られること。そして、自分の足場を固め、成長できるかどうかを試すための真の機会があって、脅威を感じた大手企業が他の事業分野の影響力を使ってスタートアップを締め出してしまうことがないようにすることです。これは、米国での多くのイノベーションの重要な原動力であり、反トラスト法は、商取引の大動脈や創業者のための機会を確保するためのものなのです。
[サラ・グオ]
それらを踏まて、AIや基盤モデルの企業についてはどうお考えですか?アイデアを市場で競争させることを促進する考えがある一方で、大規模な投資やGPUデータセンターと比較して、どれほどの影響を持つのかという大きな疑問があると思います。
[リナ・カーン]
そうですね、興味深い質問です。一般論でいえば、私はオープンウェイトモデル(※)を支持する立場から発言してきましたが、特にスタック層のどこかで企業が重要なリソースを得られないリスクがある場合、オープンウェイトモデルの採用は、まさにその推進力を生む触媒となる可能性があります。つまり、誰もが莫大な初期費用を負担することなく、よりたくさんの試行錯誤を可能にします。歴史的に見てもオープンであることがイノベーションの重要な推進力となることが分かっているのです。
現在、大きな疑問が浮上しているのは、特にクリエイティブな専門職や出版社、ジャーナリストたちの間で、このテクノロジーが長期的にどのような影響を与えるのかという点です。数ヶ月前、FTCは著作者やグラフィックデザイナー、ファッションモデルといったクリエイティブな専門家たちと対話する機会を持ちました。彼らは、ある日突然、自分達の成果がこれらのAIモデルに取り込まれ、誰にも許可を求められることも報酬も受け取ることもできなかったという話をしてくれました。そして今、これらのモデルが彼らの成果から直接流用したコンテンツを吐き出すのを目にしており、場合によっては、彼らと競合することさえあるのです。そしてこのことは、多くの人が直感的に不公平だと感じています。
彼らの多くは、「私たちはAIに反対しているわけではない。これらのテクノロジーが私たちクリエイターや一般の人々にとって本当に有益な役割を果たす可能性があることは理解している。」と言います。しかし、長期的に見ると、このような無断使用を許すことで、情報や質の高い、活力のあるジャーナリズムの制作に対する投資意欲が失われてしまうのではないか、という懸念があります。ですから、この問題をしっかり正しく理解することが非常に重要だと考えています。
[エラッド・ギル]
AI規制に関するその他の取り組みについては、どのようにお考えですか?たとえば、一部の人々からは、特定のパラメータサイズを超えるモデルの登録を求める声もあがっており、そうした規制は主に大手企業を優遇するのではないかという意見もあります。そのようなアプローチは理にかなっていると思いますか? それとも、規制措置には異なる組み合わせの工夫があるべきだと思いますか?
[リナ・カーン]
現在、連邦議会や州レベルで大きな政策の議論が進んでいます。私は法の執行者なので、既存の法律を執行するのが仕事であって、規制のあり方を決めるのは私の役割ではありません。ただ、創業者やスタートアップからは、大企業を守り、小規模な企業を締め出すような規制が作られてしまう可能性に対する懸念の声を耳にしています。私の立場からすると、すべてのルールや規制が平等に作られているわけではないことを忘れないことが大切だと思います。確かに、大企業を優遇するような規制が存在し、その影響によって、大量の弁護士を雇わなければならない、ルールが複雑すぎて遵守するのが難しい、といった状況が生まれることがあります。
FTCでは、規則を制定する際に、できる限りシンプルで明確なルールづくりを目指しています。簡単に理解でき、遵守しやすいルールにすることを心がけており、大企業だけが弁護士やロビイストの軍団を抱えることで有利になるような状況を避けたいと考えています。
具体的な例を挙げると、FTCは数カ月前に、雇用契約の大部分において競業避止条項(non-compete clauses)を禁止する規則を最終決定しました。ご存知の通り、カリフォルニア州は何世紀も前から競業避止条項を無効としています。研究によると、カリフォルニア州でこの条項が無効とされていることが、イノベーションの促進要因の一つになっており、アイデアが自然に拡散し、創造性や優れた成果に繋がっているという結果が出ています。このように、私たちが最終決定したルールは非常にシンプルで、大企業が特権を受けられるような規則にはなっておらず、明確でわかりやすいルールの一例です。
また、政策決定の過程をできる限りオープンにすることが重要だと思います。特に、創業者たちが大手企業のCEOたちがワシントンD.C.に来て特別待遇を受けている様子を目の当たりにすれば、閉鎖的に意思決定が行われているのではないかという不安を感じるのも無理はありません。
そのようなことがあると、大企業に有利な規制が作られて、小規模な企業が競争から締め出されるのではないかという懸念につながってしまいます。そのため、FTCでは、私が在籍している間は、より広範な市場参加者の声を聞くことに注力しています。ワシントンD.C.にいると、大手企業の意見に偏重しがちで、起業家や小規模企業、創業者の声が十分に反映されないことがあり、それを是正するためにも、より幅広い層から意見を聞くようにしています。だからこそ、私はシリコンバレーに何度か足を運んでおり、誰もが参加できる定期的な委員会会議を開催しています。
[エラッド・ギル]
それは本当に素晴らしいことです。特に競業避止条項は、起業家にとって魅力でしたので、人々は間違いなくそれを評価していたと思います。
それでは、話題を少し変えたいと思います。米国政府の歴史を振り返ると、若者が大きな影響を与えてきたことがわかります。建国の父たちは多くが20代や30代でしたし、最初のNIH(国立衛生研究所)長官は26歳で任命されました。JFK(ジョン・F・ケネディ)は29歳で下院議員になり、あなたも非常に若くしてFTCの議長になられました。
しかしながら、なぜ今日、政府で権力のある地位に就く若い人が少ないのでしょうか。また、それを変えるために何ができると思いますか?
[リナ・カーン]
とても良い、興味深い質問ですね。多くの人にチャンスが広がっているのを見るのは、いつでもワクワクするものです。私自身、このポジションでリーダーシップを取ることができるのは非常に光栄です。一般的に言えば、特にリーマンショックの時期に成人した人々やここ数十年の出来事を目の当たりにしてきたミレニアル世代の多くは、政府が何をするか、あるいはしないかによって、どれほど大きな影響を与えるかについて、より高い意識を持つようになっていると感じています。
リーマンショックは、卒業したばかりの多くの若者にとって非常に厳しいものでした。雇用機会は少なく、住宅購入が手の届かない価格だと感じる人々にとっては、その差を埋めるのは難しい状況です。まるで、昇るための梯子が引き上げられてしまったかのように感じている人もいるかもしれません。
ですから、ミレニアル世代にチャンスを与えるような市場や経済を生み出すために、法律や政策をどのように活用できるかを考えることは、私たちが市場について考えていることと似ています。私たちが政府についてどう考えているかという点でも、類似点があると思います。
ですから、ミレニアル世代にチャンスをもたらす市場や経済を生み出すために、法律や政策をどのように活用できるかを考えることは、人々に対して機会を閉ざすことのない市場について考えていることと似ています。政府の役割について考える際にも、同様のことが言えると思います。
[エラッド・ギル]
私たちが創業者やCEOにインタビューする際、彼らの会社運営やそのマネジメントスタイルについてよく質問しています。あなたは政府機関とは異なる分野から来られていますが、政府機関を運営する中で最も意外だったことは何でしょうか?また、あなたは自身のマネジメントスタイルをどのように特徴づけていますか?FTCを運営する中でそのスタイルはどのように進化してきましたか?
[リナ・カーン]
私にとって一番大きな変化の一つは、以前の仕事では、1つのことや数件の案件に非常に深く取り組むことができ、細部に至るまで完全に把握できたということです。しかし、今の仕事では、深く掘り下げるというよりは、幅広い分野に対応する能力が求められ、専門家の知識や経験に大きく頼ることが多くなります。
私たちには本当に素晴らしいチームをもっていますが、深さよりも広さに集中する能力を高めて、急にコンテクストを切り替えることが多くなりました。この変化は本当に大きなシフトでした。
また、組織の運営に関しては、どの調査を進めるか、どの案件を扱うか、どの理論を採用するかといった実質的な決定から、予算の管理やリソースの配分、働き方の柔軟性に関する事務的なことまで、幅広い内容に対応しなければなりません。この全体に適応することは、非常に大きな挑戦でした。
個人的には、この仕事における自分の比較優位がどこにあるのかを見極め、その優位性を活かせるように時間を守り、なるべくその分野に集中できるようにすることが重要でした。そして、他の分野をカバーしてくれるチームを作り上げることが不可欠です。チームを整えるのには時間がかかりますが、私は本当に素晴らしいチームに恵まれました。それが、全方位で力を発揮できる理由になっていると感じています。
[エラッド・ギル]
FTCのような政府機関をどのように評価すべきだとお考えですか?何が効果的であるかをどのように判断すればよいでしょうか?
[リナ・カーン]
インパクトを測る方法は様々にありますが、ここ数年、FTCがこれまで以上に積極的に活動できていると評価する声が多くあがっています。その活動量や市場における悪質な行為を抑制する効果を基準にして、影響力を測ることはできます。しかし、最終的に私がインパクトを測る基準は、「私たちが取り組んでいる問題が、人々が直面している重大な課題であり、私たちの権限内で解決できるものかどうか」です。そのため、医療市場は特に重点を置いてきた領域で、病院の統合問題、大手製薬会社や医療サプライチェーン事業体による最終的に薬や医療のコストを引き上げ、人々が医療を節約したり薬を控えたりする原因となり、その結果、病気や死亡につながる可能性のある課題について取り組んでいます。
もう一つ重要なのは、市場が開かれた状態を維持し、次の素晴らしいアイデアが生まれ、成長できる環境を作り出すことです。大手企業がその支配力を維持し、次世代の起業家や創業者のチャンスを奪うことなく、千の花(a thousand flowers)が咲くことのできるエコシステムをどうやって確保するか、これも私たちの重要な課題だと考えています。
[サラ・グオ]
素晴らしいお話をありがとうございました。投資、テクノロジー、そして起業家コミュニティとの対話に参加してくださり感謝します。
[リナ・カーン]
ありがとうございます。お会いできて嬉しいです。
2. 参考情報
(1)リナ・カーン氏のプロファイル
リナ・カーン(Lina Khan、1989年3月3日~)は、アメリカ合衆国の反トラスト法を専門とする法学者。コロンビア・ロー・スクール准教授。ジョー・バイデン政権で連邦取引委員会の委員長を務める。
[経歴]
1989年3月3日に、パキスタン人の両親のもとに、ロンドンで生まれ、11歳のときに両親とともにアメリカ合衆国に移住した。2010年、ウィリアムズ大学卒業。ウィリアムズ大学では政治哲学者ハンナ・アーレントについての論文を執筆していた。 2014年までニューアメリカ財団で市場統合の問題についての調査に従事。2017年にイェール・ロー・スクールで 法務博士号を取得した。
イェール・ロー・スクール在学中の2017年1月にイェール・ロー・ジャーナルに発表した論文「Amazon's Antitrust Paradox (アマゾンの反トラスト・パラドックス)」で注目を集める。カーンの議論は、消費者利益(価格)に焦点を絞った1970年代以降の反トラスト法解釈を問題視する。この解釈ではデジタルプラットフォーマーの低価格戦略による反競争的な市場支配の枠組みを認識することができないと主張した。
2021年6月15日、アメリカ合衆国連邦取引委員会委員長に就任。(現職)
(2)主なFTCの反トラスト訴訟案件
以下は、2021年から2024年までの連邦取引委員会(FTC)の主な反トラスト訴訟案件です。案件によっては、FTCが敗訴するケースや和解に至るケースもありますが、これら訴訟ケースによって生まれる反トラスト行為に対する抑止効果を通じて、自由市場の維持に一定の効果を発揮しているものと評価されています。
[2021年]
Facebook:InstagramとWhatsAppの買収に関する訴訟を再提起
NVIDIA:Arm買収阻止のための訴訟提起(2022年2月に買収断念)
[2022年]
Lockheedマーティン:Aerojet Rocketdyne買収の阻止(2022年2月に買収断念)
Meta:Within Unlimited買収阻止のための訴訟提起(2023年2月に和解)
Microsoft:Activision Blizzard買収に関する審査開始(2023年7月に承認)
[2023年]
Suleyman Enterprises:処方薬のリベート慣行に関する訴訟
Google:検索エンジンに対する反トラスト訴訟
Amazon:iRobot買収阻止のための訴訟提起
Amazon:Prime会員サービスに関する反トラスト訴訟
[2024年]
Apple:iPhone関連ビジネスに対する反トラスト訴訟
3. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご視聴になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg Televisionより
(Original Published date : 2024/10/03 EST)
<関連コンテンツ>
以上です。
御礼
最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。
だうじょん
免責事項
本執筆内容は、執筆者個人の備忘録を情報提供のみを目的として公開するものであり、いかなる金融商品や個別株への投資勧誘や投資手法を推奨するものではありません。また、本執筆によって提供される情報は、個々の読者の方々にとって適切であるとは限らず、またその真実性、完全性、正確性、いかなる特定の目的への適時性について保証されるものではありません。 投資を行う際は、株式への投資は大きなリスクを伴うものであることをご認識の上、読者の皆様ご自身の判断と責任で投資なされるようお願い申し上げます。