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額装で得られるものと、その裏側

アート作品や記念品などの額装には色々な方法、考え方があると思います。わたしは水彩画を始めて約半年ですが、そもそも購入したポストカードや他者の作品(描いてもらった似顔絵など)もそのまま壁に貼っていたり、きちんと額装していませんでした。額に入れると良いことが分かってからも、自分の絵を額縁・画材専門店に持ち込み、額装してもらうまでは随分かかりました。それは「初心者は百円ショップの額で十分」という思い込みから脱することが出来なかったせいですが、そのハードルを超えてプロに依頼した額装が想像を絶する素晴らしさで、感動したのです。それから額装の面白さにどんどんハマっていったのですが・・・つい先日、しまいこまれた紙類の中から偶然みつけたテキストを読み「額装で失うものがあった」ことに改めて衝撃を受けました。以下、その考察を記録します。

2年前の展覧会でもらったテキスト

その紙を手にとり何げなく読んだ時、はっとした。記名はなく、どこでもらったのか記憶が曖昧。過去の日記を探してみると上野千紗さんというアーティストの文章だった。このテキストは展覧会場でしか配布されておらず、公開するのはおそらくNG(ご本人に確認は取れていない)。なので、引用ではなく概要だけ紹介。

まず、上野さんは「額にドローイングを入れることにかなりの抵抗があった」とのこと。その理由の一つが、ドローイングは生(なま)のもので、それを額というフレームに閉じ込めることで「生」の存在意義が損なわれるのでは、と。額という存在が、作品が描かれた紙との間に隔たりを作るレイヤー、つまり境界となる。そのことで作品が放つもの(*エネルギーと解釈)が直接届かず、見る側との隔たりを作るのではないか。そう危惧する彼女はまた、紙それ自体が持つエネルギーにも触れている。紙の厚さや特性が、作品の性質(繊細さ)に対してどう影響しているか。それも非常に興味深いテーマだけれど、今回は額に焦点をしぼる。

分かりやすく例えると、ガラス窓を挟んで室内から見る風景と、屋外で見る風景との違いと考えてもいいのではないだろうか。窓越しであっても(綺麗に磨かれていれば、笑)絵画のように美しく見える場合がある。窓がフレームとして景色を際立たせるからだ。しかし、その風景に含まれる匂いや風は、窓越しでは感じることができない。

窓から見る景色の代表作が、足立美術館の庭園。

庭園ガイド https://garden-guide.jp/spot.php?i=adachi

アクリルやガラスを使わない額装

昨年から大ファンになった彫刻家・はしもとみおさん。生き物(特定の個体)をモデルに制作するスタイルで、スケッチも大量に描かれている。わたしが見た個展では、動物スケッチは(既製品ではない)素敵な木製フレームに入れただけのものも多かった。自分で撮った写真が見つからないので、確認できないけれど多分そう。つまり表面の保護がない。マットもなし。キャンバスのように木枠へ紙を貼った作品もあった。その時は全作品が撮影OKで、アクリルやガラス板のせいで反射しないのが良かったし、何より肉眼で遮るものなく見ることで、描かれた生き物たちのエネルギーが直接感じられると思った。はしもとみおさんは、それを狙っているのかなと感じた。ただし会場によって展示方法は変えられるので、毎回そうとは限らない。

彫刻は、ガラスケースの中の子たちもいたけれど、多くは見る側と同じ空間で座ったり寝転んだりしていて、触ってもOKとされる子もいた。「できれば自由に触ってほしい」と話されているのを聞いたことがある。きっと、その生き物のエネルギーをそのまま感じて欲しいという思いがあるんだと思う。それこそが、作品にギュッと込められているものだから。彼女が全身全霊で、あの小さな体からは想像もできないパワーでチェーンソーを操りながら彫る姿を見ると、そんなふうに感じる。

はつかいち美術ギャラリーにて。知ってる子がいる!!(ミュージシャンのお家の子たち)

上野千紗さんのテキストから、はしもとみおさんに同じことを感じたのを思い出した。つまり、どんな絵でも額装すればいいわけではない。額装する場合も、絵の持つエネルギーや会場によって適切な材料や方法があるということ。もちろん、はしもとみおさんも窓抜きマットあり、アクリル or ガラスありの(正統な?)額装をされた作品がある。

ちなみに、はしもとみおさんの彫刻と動物スケッチに感動したことが契機となり、インコの命日にホンキを出して絵を描いた2022年5月21日が、わたしの記念すべき日。この絵はペンとインクで描いたのだけど、もっと繊細な色が欲しいと思い、思い切って透明水彩画の道具一式を買った。それ以来、ほぼ毎日なにか描いている。

額装は素晴らしい、だけどしなくてもいい

わたしが好きで訪れる、アーティストが経営しているカフェでもアート作品が飾られているけれど、全てがカチカチの額装ではなかった。下に紙を一枚敷くという形の、窓抜きではないマット装もある。その絵には、それが合っていて素敵だ。

和紙そのままの額装なしで壁に貼られていたものに、多くの展示作品の中で最も惹かれたこともある。これは矢野ミチルさんの作品。個展「すべての色はうつくしい」@松江グリーンズベイビー(2022年11月)にて

ハンモックにゆられながら絵をじっくり堪能できる。しあわせ。
(部分)「鬼火」
和紙、顔彩 2022年製作 矢野ミチル

この作品を見た時は、素直に「すぐ目の前で絵を感じられて嬉しい」と思った。もちろん他のアクリル画やライブペインティング作品など、額装ではない大型作品にも迫力を感じた。けれど水彩(顔彩)の作品を額装なしで直接見ることができる機会は、少ないのではないかと思う。保護しないと退色してしまうとか、湿気に弱いとか、ペラ紙1枚だとシワが寄るとか、いろんな性質があるせいだけれど、水彩ならではの繊細さを感じたい時、ガラス越しに見るものは本来の姿とは違う。特に紙の質感はガラスを通すことで失われるものが多い。

夢意識のオラクルカード原画より「39 時間」矢野ミチル

こんなふうにマットに入れただけのシンプルな飾り方は、わたしも自宅でやっている。会場であるカフェの雰囲気にも合っていて、ナチュラルで素敵だった。凝った額ではないので、作品のエネルギーがダイレクトに伝わる。

https://www.instagram.com/michiruyano/

https://yanomichiru.thebase.in

枠に囚われるな!

「最初から一流のものに触れるべし」と、何かで読んだことがある。額装されたもの・されていないもの・マットを使うもの・使わないもの。とにかく色々な作品に触れて、リアルの原画をたくさん見て、素晴らしいものを目と心と潜在意識に焼き付けて審美眼を鍛えながら自分のスタイルを決めればいいのかなと思う。オーダーメイドの額縁や、憧れのブランド額縁に見合う作品を創りたい!というモチベーションがあってもいい(わたしはあまりそういうタイプじゃないけど)。何より「こうあるべき」という概念に囚われないことが大事。作品保護の観点は持ちつつ、額装するメリット・デメリットや展示場所などを考慮して、方法を考えればいいのでは。というのが個人的な結論。

いざ額装となった時、最初の1歩はプロの額縁屋さんに依頼することをお勧めしたい。慣れてきたら(とにかく額装はお金がかかるので)可能な範囲で自作してもいい。マットも、いろんな素材で作ることができると思う。額のフレームやマットに拡張して描く人もいる。トップ画像は、わたしが庭で拾った葉っぱを内側の窓枠飾りにして遊んだもの。額装の楽しみはファッションと似ている。どんなスタイルだって自分らしければいい。

そうだ、楽しもう!枠に囚われず自由でなければ、岡本太郎に笑われる。
「でたらめをやってごらん」by TAROMAN


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