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サイバー警察に家宅捜索されたときの備え方 ネット時代の警察リスクと対策

「全く身に覚えのない家宅捜索に入られた」

ここ数年、そんな話をよく聞くようになりました。その多くがサイバー犯罪で疑われるケースです。

ネットで世界中が繋がった結果、遠く離れた赤の他人と、何らかの情報が紐付くことが起こり得るようになりました。

その中には当然犯罪者も含まれており、運悪く紐付いたために警察に疑われてしまう人がいるようです。

ネットの普及により、一般市民がとばっちりで警察に目を付けられるリスクは以前にも増して高まっています。

なぜ家宅捜索に入られたのか

サイバー警察に誤って家宅捜索された人たちの記事をいくつかご紹介します。

在宅エンジニアが疑われた

フリーランスのエンジニアが仕事で不正サイトを調査したところ、アクセス履歴から犯人と間違われた事件です。

真犯人がVPNで身元を隠していたためか、生IPでアクセスした彼が警察に疑われてしまったようです。おそらく警察は、真犯人がヘマして生IPでアクセスしたと認識したのでしょう。

その場で無実を証明できたから良かったものの、下手したら誤認逮捕されていたかもしれない恐ろしいケースです。(実際疑われた場合、無実を証明できることは稀でしょう)

家宅捜索の様子がよく分かる貴重な記事なので、一読をお勧めします。

自宅サーバでアプリ運営してたら疑われた

twitte連携サービスの運営者が、わいせつ画像投稿の疑いで家宅捜索された事件です。

よくある連携サービスの仕様で、運営側の定時botのログイン履歴が、サービス利用者のtwitterアカウントに記録されることが原因のようです。

違法な投稿のログではなく、ただのログイン履歴だけで犯人扱いされ、高圧的に捜索されたようです。しかも別居している親族の自宅まで家宅捜索されたとのこと。

事件に使われたIPアドレスを共有してた

IPアドレスを複数人(40世帯ほど)で共有している接続サービスで、不正アクセスに使われたものと同じIPを割り振られた人が、容疑者として家宅捜索されてしまった模様。

IPが同じでもポート番号で識別できるはずなんですが、警察がそれを理解してなかったのか、もしくはサーバ側が記録してなかったかのどちらかでしょう。

何にしろ、こんな薄い根拠で強制捜査ができてしまうのは驚きです。

犯人と同じアパートに住んでいた

犯人と同じアパートでIP共有していた住人が、とばっちりで家宅捜索を受けたという記事です。


家宅捜索のハードルはとても低い

家宅捜索は重大な人権侵害を伴うため、警察の意思で自由に行うことはできません。必ず裁判所の審査を経て、捜査令状(ガサ状)を取る必要があります。

これは令状主義と呼ばれる、警察権力の濫用から国民を守るための仕組みです。

とはいえ、実際には令状の発付条件はとても緩く、警察が請求すれば薄い根拠でもほぼ確実に発付されます。あまりにも簡単に出てしまうため、裁判所は令状の自動発券機だと批判する声もあります。

元警察官の方のブログでも、家宅捜索の軽さについて語られていました。

・家宅捜索は気軽に行っている
・空振りはしょっちゅう
・高圧的にするのはテク(それで自白する人もいる)
・税金の無駄とか言われたら捜査なんかできない

とのことです。

警察側の立場から書かれた記事なので仕方ないですが、私からするとちょっと不安を感じる内容でした。

警察が捜査したいと思えば、大した根拠がなくても国民の家に押し入り、部屋を荒らし、財産を押収することができてしまいます。

間違いだったとしても基本的には補償は受けられません。誰にでも起こり得ることなので、国民はリスクとして受け入れるしかないのです。

近年ではパソコンやスマホが普及したことで、捜索を受ける国民の負担も相当大きくなってきています。

パソコンの中はもはや第二の脳であり、頭の中を覗かれるレベルのプライバシー侵害や精神的苦痛を受けますし、押収されれば仕事や生活にも大きな支障が出ます。

もはや下手な刑罰より遥かにダメージは大きいでしょう。

アカウントが紐付いただけで疑われる?

サイバー犯罪者はtorVPNなどで身元を隠すことが多く、犯行IPだけで特定することが困難です。そのため警察の捜査では、その周辺の情報も徹底的に調べ上げることになります。

例えばGoogleやAmazonなどのログイン式サービスでは、匿名の掲示板などとは異なり、犯行IP以外にも様々な情報を収集できます。登録されているメアドや電話番号などの個人情報や、犯行ログ以外の様々なアクセスログも手掛かりになります。

しかし、その間接的な情報を元に捜査をした結果、無関係な人がとばっちりで疑われることもあります。

例えば、上で紹介したtwitterアプリ運営者の事例では、犯行ログではなく、アカウントへのログイン履歴を根拠に、無関係な人に強制捜査が行われたそうです。

そこからさらに捜査範囲を広げていけば、犯行に使われたアカウントだけでなく、そのアカウントと同じIPやCookieIDでアクセスした履歴のある、別アカウントの持ち主が疑われることも考えられます。

実際に、元警察官の方のブログでも、「同一IPでアクセスした他のアカウントを調べるのは基本的な捜査だ」といった旨が語られていました。

また、FBIもそういった捜査をしているようです。

サードパーティーcookieや、利用した別サービスまで開示されてるので、ログの紐付きだけでどこまでも追跡されそうです。

つまり、アカウントが何らかの情報で犯罪者と紐付いただけでも、警察の捜査線上に浮上してしまう可能性があるということです。

とはいえ、不正アクセス、WiFiや端末の共有、アカウント売買、その他何らかのイレギュラーなきっかけで、赤の他人と紐付いてしまうことは起こり得ます。

もちろん警察も、それだけで犯人扱いするほどデタラメな捜査はしないでしょうが、あなた以外に紐付いてる人がいなかったり、運悪く他の状況証拠や警察の推定する犯人像が重なったりすると、強く疑われることは十分考えられます。

ISP(経由プロバイダ)のログは数カ月で削除されると言われてますが、GoogleなどのWebサービス側では、アカウントのアクセスログや個人情報は永続的に保存される可能性もあるので、下手な足跡を残すと潜在的リスクを一生抱えて生きることにもなりかねません。

ネットを利用する際は、常時あらゆる足跡が記録・保存され続けます。わずかな痕跡が、警察に目を付けられるきっかけになりかねないため、過剰なほど用心しておいて損はないでしょう。

気軽にやったことで検挙されることも多い

とばっちりというわけではないですが、ネット上での些細な行動が原因で、一般市民がいきなり検挙されてしまう事例も多発しています。

過去のケースを知ることが自衛にもつながると思うので、いくつか紹介していきます。

アラートループ事件

ポップアップが繰り返し表示されるジョークサイトのURLを貼ったとして、中学生を含む、少なくとも5人が、兵庫県警に検挙された事件です。

特に悪質なページではないため、摘発基準の曖昧さから警察への批判が多く上がりました。(実際のページは以下の動画から確認できます)

この事件は海外でも話題になり、JavaScriptの生みの親であるブレンダン・アイク氏や、アメリカの電子フロンティア財団なども「これは犯罪ではない」と日本の警察の捜査に苦言を呈しました。

※余談ですがネット上の投稿は継続犯と判断され、投稿が消えるまで時効が進まないという考え方があります。たとえ10年前の投稿でも、その投稿が消えない限りは、犯行が継続していると判断される可能性があるのです。

ブログやSNSなどにジョークサイトのリンクを投稿した覚えがある人は、今すぐ消しておきましょう。(自分で消せない場合は運営に削除依頼しておきましょう)

librahack事件

図書館の蔵書システムからプログラムで情報収集した利用者が、アクセス障害を引き起こしたとして業務妨害で逮捕された事件です。アクセス頻度は1秒に1回程度と大人しいもので、もちろん利用者に攻撃の意図は全くありませんでした。

もともと図書館の蔵書システムに致命的なバグがあり、利用者がその地雷を踏んでしまっただけだったのですが、図書館が被害届を出したために逮捕され、新聞各社に「サイバー攻撃を行った疑い」として実名報道までされてしまいました。

利用者は20日間も勾留されたあげくに、検察には「影響を予想していたはずだ」と故意の犯行だと決めつけられ、起訴猶予処分(実質的な有罪認定)になりました。

完全な誤認逮捕に思えますが、図書館も警察も検察も、誰も間違いを認めることはありませんでした。


Wizard Bible事件

セキュリティやハッキングに関する情報サイトの運営者が、ウイルスのプログラムを公開したとして略式起訴され、サイトを閉鎖させられた事件です。

プログラム自体は入門書に載ってるような初歩的なもので、利用者の意図に反するような動作もなく、悪用を推奨するような文章もありませんでした。そのため、これで摘発されてしまうと、セキュリティ分野の情報共有がまともにできなくなるのではないかと論議を呼びました。


Coinhive事件

自身のウェブサイトにマイニングスクリプトを設置した人が、ウイルス罪として全国で21人も検挙された事件です。

検挙された方々も、まさかこれが「ユーザーが意図しない動作」としてウイルス扱いされるとは想像もできなかったことでしょう。

ネット上には意図しない動作のページは無数にありますし、何がアウトで何がセーフなのか分からないと、多くのWEB開発者の間で強い不安が広がりました。

検挙された多くの人は略式起訴を受け入れましたが、1人が正式裁判の手続きをして無罪が確定しました。とはいえ正式裁判は時間とお金がかかるので、ほとんどの人は警察に言いがかりを付けられたら泣き寝入りするしかないのが現実です。



このようにサイバー分野では、ごく普通に暮らしていた市民が、法解釈次第で警官に捕まってしまうケースが多発しています。

特にウイルス罪や電磁的記録不正作出罪などは、条文の曖昧さから、何が違法なのかを警察が独自に解釈してしまうことがあるため注意が必要です。

昔から日本の起業家やIT関係者の間では、警察のアバウトな検挙への危機意識が広がっていましたが、ネットで個人のできることが増えた現代では、一般市民も決して無関係ではいられません。

例えば万引きや暴行であれば、直感的にほとんどの人が犯罪だと理解できますし、心理的抵抗が働いて思い止まることができます。

しかしネット上の犯罪は直感的に理解し辛いケースも多く、誰にも迷惑かけてなくても犯罪扱いされることもあるので、知識や警戒心がなければ、ふとしたきっかけで地雷を踏んでしまうことがあります。

誰も犯罪なんかしたくないのですが、今後もテクロノロジーが進歩し、社会が複雑になるにつれ、一般市民に求められる「犯罪者にならない」ためのハードルは上がっていくでしょう。

自分は大丈夫だと油断せず、自衛のためにも危機感を持って警察の動向をチェックし、新しい取り締まり事例を把握していったほうが良いです。

新しいことや抜け道のようなことをする際も、事前に必ず警察リスクを想像するようにしましょう。

やってる人が多そうですが、VPNを使ってNetflixを海外料金で安く契約するとかもやめといた方がいいと思います。

SMS認証で検挙されたケース

2021年ごろから、他人の電話番号でSMS認証してWebサービスのアカウントを作った人が、電磁的記録不正作出及び供用に当てはめられて検挙されるケースが多発しています。

アカウントを悪用した人が検挙されてるのかと思いきや、警察の資料を見ると、「アカウントを作っただけ」で犯罪になるような説明がされていて少し驚きました。

・電磁的記録不正作出及び供用
人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

ここで言う「電磁的記録」はSMSの認証コードのことみたいですが、「人の事務処理を誤らせる目的」については、微妙な法解釈の問題になります。(「事務処理」とは、他人の財産・生活・身分などに影響を与えるような処理を指します)

例えば認証代行でアカウントを作る目的が、「登録時のポイントを重複取得するため」や「不正レビューを大量に投稿するため」、「規約違反を繰り返してアカウント凍結されて何度も復活するため」などであれば、人の事務処理を誤らせる目的と言えるかもしれません。

しかし認証代行それ自体が、人の事務処理を誤らせる目的になるというのは少し強引な解釈に思えます。

例えば悪用目的ではなく、単にプライバシー保護のために認証代行を利用した場合はどうでしょう? また、電話番号を持ってない人が家族の番号を借りて認証した場合はどうでしょう?(利用規約で禁止されていないとします)

上記のような特に悪質性がないケースでも違法になり得るとしたら、本来の立法趣旨とかけ離れてるのではないでしょうか?

また、海外だとtextPlusReceive SMStextverifiedなど、捨て電話番号でSMS認証ができる有名なサービスもあります。おそらく日本でも、捨てメール感覚で利用してる人は大勢いるでしょう。

海外では合法で提供されてるサービスですが、もしこれも「SMS認証代行」に当たると解釈されると、日本では使っただけで警察に捕まる可能性がありそうです。

今のところ裁判例などはないですし、利用だけで捕まった事例も聞いたことがないですが、念のため利用は避けておくべきでしょう。

※追記
セキュリティ研究者の高木浩光さんによると、認証代行自体が犯罪というわけではないとのことです。

しかし一部の県警は「認証代行は犯罪だ」と断言していますし、その認識で取り締まりが行われる可能性もあります。たとえ有罪にならなくても、検挙されるだけもダメージは大きいので、利用は控えた方が良いでしょう。


ちょっとした失敗が逮捕につながったケース

不注意なツイートが偽計業務妨害だと判断されて逮捕されてしまった事例もあります。

何気なく投稿した2つのツイートが、組み合わせると意図せず不謹慎な内容になってしまい、逮捕され実名報道までされ、仕事も退職することになってしまったそうです。

本来「故意(あえて法を破った)」でなければ刑事罰の対象にはならないのですが、裁判では「犯罪の認識はあったはずだ」と故意だと断定され、有罪判決が出てしまいました。

完全に過失だったんでしょうが、刑事裁判で無罪を勝ち取るのがいかに難しいかが分かります。

検察の自白強要やマスコミの悪意ある報道など、刑事司法のリアルが凝縮された貴重な体験談なので、一読をおススメします。


アカウントを乗っ取られて悪用されたケース

子供がPayPayアカウントを乗っ取られて詐欺に使われる
→ 「詐欺の片棒を担いだ可能性がある」として警察に厳重注意される

子供なので注意だけで済んだそうですが、大人だったら完全に共犯扱いされて取り調べられたでしょう。

昔から「騙されて犯罪に利用される人」はいましたが、昨今ではそのハードルも著しく下がってきており、もはや「凡ミス」「一時の気の緩み」で人生が終わってしまう時代です。

騙す側も次々と新しい手口を考えてくるでしょうし、十分な知識とリテラシーがあると自負してる大人でも、状況によっては判断を誤ることはあります。(このお子さんも情報教育を受けていたそうなので、パスワードを渡したらダメだという知識はあったはずです)

「自分はそんなミスはしない」と油断せず、気を引き締めていきましょう。

資金の流れで犯罪者扱いされたケース

・口座に何度も誤送金があり、その度に返金手続きしていた
・銀行に確認しても「不正利用の可能性はない」と適当な返事をされた
・ある日いきなり犯罪者扱いされて資産凍結された
・警察に密室で厳しく事情聴取された

twitterで直接取引していたそうなので、それで口座番号が漏れて何らかの犯罪に組み込まれたのでしょう。

何にしろ口座番号は重要な個人情報です。「口座を他人に知られたところで出金できるわけじゃないし問題ない」と思いがちですが、犯罪に巻き込まれるリスクがあるので、安易に公開しない方が身のためです。

また、誤送金がないか定期的に全口座をチェックし、誤送金が頻発した場合は、自衛のためにすぐに解約手続きを取るようにしたほうがいいでしょう。


暗号資産で他人の財産を紐付けられたケース

ビットコインなどの暗号資産の登場により、国家が国民の資産や所得を把握することが困難になってきています。銀行口座などと異なり、本人情報と紐付いてないアドレスで資産管理することができるからです。

これは匿名性を守れるメリットでもありますが、逆に言えば、匿名性ゆえの誤解を産むことにもなりかねません。(匿名あるところに冤罪ありです)

つまり、他人のアドレスや取引をあなたのものだと決めつけられ、身に覚えのない罪を押し付けられる可能性があるということです。

調べてみたところ、すでに「他人のアドレスを紐付けられる」というケースは発生してるようです。

これは税務署に軽くイチャモン付けられただけのようですが、何にしろ、他人の財産を押し付けられる余地があることは、非常に恐ろしい問題です。

もし相手の身元が分からなければ、その資金や取引が自分のものではないと証明できない場合もあります。秘密鍵を持っている証明は簡単ですが、持っていない証明、または他人に使われた証明は困難です。

アクセスログや資金の流れ、個人情報の不正利用、秘密鍵の流出、業者の記録エラー、オフライン取引の目撃情報の誤りなど、「ちょっとした記録が紐付いたことによるとばっちり」は、刑事でも税務でも起き得ることです。

もちろん立証責任は行政にあるのですが、刑事訴訟にしろ税務訴訟にしろ、行政側に100%確実な立証が求められるわけではなく、最終的には裁判官という人間の判断で決められることです。

行政が直接証拠(秘密鍵など)をつかむことは困難でしょうし、間接証拠で強引に事実認定され、犯罪に関わる資金や取引を紐付けられて有罪にされたり、誤った徴税で財産を奪われる人が出てくることは十分考えられます。

特に税金の恐ろしいところは、自己破産しても免除されないことと、給料や財産だけでなく年金受給権まで差押え可能だという点です。暗号資産を持っていると誤解されたら生活保護も貰えませんし、下手したら合法的に死に追いやられることになりかねません。

もともと日本は、OECD加盟のほとんどの国で設けられている「納税者の権利を保障した基本法」が存在せず、行政の権力が一方的に強いことから、人権を無視した強引な税務調査や、言い掛かり的な追徴課税が行われがちな国でもあります。

最近も札幌の税務署が、捏造や脅迫により複数の事業者に架空の税金を課税しようとしていたという記事が話題になっていました。中には破産に追い込まれかけた事業者もいるそうです。


また、持っていない土地の所有を認定され、45年間も架空の税金を課せられ続け、財産の差押まで行われていたケースもあります。

こういった不当な課税は刑事の冤罪ほど話題になりませんが、国民の命の次に大切な財産を理不尽に奪い取る深刻な人権侵害です。

特に暗号資産における事実認定は、刑事・税務の両方で、今後大きなトラブルのもとになると考えられます。相当厳密な立証を行政に求めなければ、数多の悲劇を生むことになるでしょう。


家宅捜索から身を守るために

不運にも家宅捜索に入られたときのために、事前に備えるべきポイントをいくつか挙げます。

重要なデータは日頃からバックアップしておく

家宅捜索が入ると、スマホやパソコンを警察署に持ち帰られ、データを消去される場合があるようです。

Coinhive事件で家宅捜索されたモロさんは、デスクトップPCの、OSを含む全データを削除されたそうです。(一応同意は取られたようです)

削除されないにしても、長期間データにアクセスできなくなると不便なので、重要なデータは普段からクラウドにバックアップしておきましょう。

暗号資産の管理に気を付ける

暗号資産のシードフレーズを紙などに記録してる場合、警察に写真を撮られたり押収されたりするリスクがあるので、無防備に保管するようなことは絶対に避けてください。

複数の捜査員の目に留まる可能性があるため大変危険です。必ず暗号化したりパスフレーズを設定するなどして、直接利用できない形で保管するようにしてください。

また、もしシードを押収された場合は、警察が帰った後にすぐ違うアドレスに資金を避難させるようにしましょう。

端末のパスワードは教えなくてもいい

パソコンやスマホのパスワードを警察に教える義務はありません。これは黙秘権として認められています。

たとえ無実でも、端末を解析されると自分に不利な状況証拠が見つかりかねない場合など、状況によっては黙っておくのも作戦の1つです。

もちろん警察の心証は悪化するので、余計に疑われて、捜査に熱が入る可能性もある諸刃の剣です。逮捕される可能性も上がるでしょう。

なので中身を見られても問題ないと確信できるのなら、素直に教えてしまったほうがいい場合もあります。そのあたりの判断は弁護士に相談してください。

なおスマホの生体認証は、捜索差押と身体検査令状のコンボで強制的に解除されるので注意しましょう。

ICレコーダーやデジカメを用意

違法な捜索に備えて、ICレコーダーやデジカメを用意しておきましょう。自分のスマホは押収されて使えなくなる可能性が高いので、家族がいない人は必須です。

さすがに動画撮影は強く拒まれるでしょうが、違法ではないのでできれば撮り続けてください。記録を残しておくことは、暴言や破壊行為、不当な差押えなど、警察の強引な捜査の多くを抑止することができます。

2020年には、車載カメラの映像から警察の証拠捏造が疑われた事件がありました。

このように記録を残しておくことは冤罪を防ぐうえでも非常に重要です。気が弱い人はせめてICレコーダーで録音だけでもしておいてください。

無実を示す証拠を集めておく

もし何か疑われかねない心当たりがある場合は、自分の正当性を示す客観証拠をできる範囲で集めておきましょう。

アカウントを乗っ取られたなら、運営に報告して、その際のメールや電話の内容を保存してください。怪しい掲示板で騙されて犯罪に利用されたかも...。そんなときは証拠保全のために魚拓サービスの利用も検討してください。

身分証を紛失したなら遺失物届を必ず提出してください。放置してると、成りすまされて犯罪利用された際に、あなたが疑われることになりかねません。

自転車やバイクなどを盗まれた際も、可能な限り早く盗難届を提出したほうがいいでしょう。面倒くさがりの人は放置しがちですが、ひき逃げに使われたり、犯行現場に乗り捨てられたりされると、現場の痕跡や防犯登録のデータなどから元の持ち主が疑われることがあります。

盗まれたと訴えても、「ならなぜ盗難届を出さなかったんだ?」と追及されますので、当局から身を守るために記録を残すという意識は本当に大切です。

たった1つの情報が命綱になることがあるので、疑われかねない心当たりがある場合は、自分に有利なアリバイはできる限り集めておきましょう。

余計なものは保有しない・使わない

事件の内容によっては、保有物によって疑いが強まってしまうこともあります。(例えば痴漢事件で家から痴漢もののアダルトビデオが見つかる、刺殺事件で家からナイフのコレクションが見つかるなど)

警察は疑うことが仕事であり、あらゆる情報を犯罪に関係したものだと連想します。リスクを避けたいなら客観的に見て印象の悪いものは保有すべきではないです。

何が証拠扱いされるか分からないので、日記やメモ書きも、あまり奇妙なことは書かない方がいいでしょう。(例えば今市事件では、どうにでも解釈できる内容の「母親への謝罪の手紙」が、裁判で有罪の証拠として採用されました)

また、検索履歴や閲覧履歴が有罪の証拠にされることもあります。膨大な履歴の中から、事件と関連付けられそうなものだけを抜き出され、「容疑者はこんなことを調べていた!」と有罪心証の形成に利用されがちです。

また最近だと殺人の容疑者が、「取調べ対策のメモ」を作っていたことが有罪の証拠のように報道されていました。

こういった警察から自衛行為は、無実の人でも冤罪を恐れてやることがあるため、それ自体は有罪の証拠とは言い切れません。しかし傍から見たら、やましい行動のように映りがちです。(疑われかねないデータや物品の隠滅などもそうです) 

またサイバー犯罪であれば、torやミキシングサービス、その他プライバシーツールの利用履歴などがあると、それだけで警察の心証悪化を招きかねません。運悪く真犯人と使用ツールが被ったりするとなおさらです。

プライバシーを守ることは人間の権利であり、あらゆる暴力から身を守る正当な手段なのですが、どうしても世間的には怪しいことのように見なされがちです。

ときに裁判官までもが一定の有罪心証に傾くという話もありました。

上手く使えば自分の身を守る道具にもなりますが、ときに諸刃の剣になりかねないことは意識しておきましょう。

パスワード等をメモしておく

パソコンやスマホを押収されると、数カ月ほど返してもらえない場合もあります。端末を買い直して、すぐに仕事に復帰できるように、重要なパスワードや連絡先などはメモしておきましょう。

とは言え、メモした紙なども押収される場合があるので、そのときは転記させてほしいと警察に必ず要求してください。

また、Googleの2段階認証アプリを使っている場合は、バックアップコードを必ず取得しておきましょう。


もし身に覚えのない容疑で逮捕されたら?

たとえ家宅捜索で証拠が出なくても、それで疑いが晴れるわけではありません。当然警察は証拠隠滅の可能性を疑います。

捜査継続する価値アリと判断されれば、任意出頭を求められることもありますし、ときには逮捕勾留されてしまうこともあります。

逮捕というと、確実な証拠をもとに行われるイメージがあるかもしれませんが、実際は多くの人が想像してるよりあっさり行われます。

法律上は「疑うに足る相当な理由」が必要なことになっていますが、実際のところこのハードルはとても低く、警察が求めれば、裁判所は薄い状況証拠だけでも逮捕状を発付しています。(却下率は0.1%以下です)

例を挙げると

強盗事件で、コンビニの自動ドアに指紋が付いていた市民を逮捕
窃盗事件で、カメラ映像と顔立ちが似ていた別人を逮捕

など、本当に些細な理由で逮捕しているので、「警察が逮捕したければ逮捕できる」ぐらいに思っておいた方がいいでしょう。

愛知県で弁護士をされている方の話だと、愛知県だけでも年間で推定500~700件ほどの誤認逮捕が起きているといいます。

単純に人口比で計算すると、全国で毎年8000~11000人ぐらいが誤認逮捕されてることになります。(1万は盛り気味かもしれませんが、数千人というオーダーに関しては、全然あってもおかしくない数だと思います)

ちなみに年間の殺人の死者数が300人程度です。
恐れてる人が多い「住宅への侵入強盗」は年間わずか100件程度です。

なのでほとんどの人にとっては、そういった凶悪事件に巻き込まれるより、誤認逮捕される方がよっぽど備えるべき身近なリスクだと考えられるでしょう。

国際的にも異常な刑事手続き

もちろん逮捕そのものは刑罰ではなく、法律上は、あくまで疑わしい人物の逃亡や証拠隠滅を防ぐ手続きに過ぎません。

しかし実際は、否認している被疑者を精神的に追い詰める手段として使われることが多く、下手な刑罰よりもはるかに辛い思いをすることもあります。

2016年のtwitterなりすまし事件では、女子学生が誤認逮捕され、19日間も勾留され、実名報道までされてしまいました。(家宅捜索で物証は何1つ見つからず、女性も無実を訴えたのにも関わらずです)

2023年のInstagramなりすまし事件では、何者かにアカウント名に名前を使われた男性が2回も誤認逮捕され、42日もの長期にわたって勾留され、長いときは1日12時間の取調べを受けたそうです。

日本では、逮捕された被疑者には「取調受忍義務」があるものとされており、取調べを拒むことは基本的にはできません。黙秘していようが連日何時間でも取調べを受け続けなければならないのです。

また日本の裁判では、「取調べでの自白」が決定的な証拠として扱われます。

そのような事情から、おのずと警察の捜査も被疑者を長期拘束して精神的苦痛を与えて自白させることに偏りがちであり、これは人質司法と言われる日本の刑事司法の大きな問題とされています。

また、欧米諸国や台湾、韓国など多くの国では、黙秘権と弁護人の立会権が徹底されており、取調べによる捜査は大きく制限されています。

一方日本では、弁護人の立会権は認められておらず、取調べには一人で臨まなければなりません。

特に否認事件の場合、罵声を浴びせられたり、机や壁を叩いて威嚇されたり、何時間にも及ぶ精神攻撃が連日に渡って行われることもあり、黙秘権の保障とはかけ離れた状態です。

以下は任意の取調べの音声が流出したものです。(怒鳴り声が入ってるのでご注意ください)

2つ目の音声は、まともな証拠がなく不起訴になった事件です。取調官も本当は確信などないはずです。それでもこの剣幕です。


逮捕された場合は、さすがに音声が流出することはありませんが、大阪府警に逮捕されたシングルマザーの記録だと、「死ね詐欺師」「自殺してくれ」などと暴言を浴びせられ、トイレにも自由に行かせてもらえなかったという話です。

さらに酷い例だと、命に関わる人権侵害も報告されています。(勾留中に死亡するケースは多々ありますが、昔から病死や自殺で片づけられることが多いです)

職場や学校などで経験がある方も多いでしょうが、身に覚えのないことで疑われる不安は相当なものです。

それに加えて過酷な取調べや勾留で追い詰められれば、耐えがたいストレスから逃れるために嘘の自白をしてしまっても不思議ではありません。

日本の自白重視の捜査のあり方は、国際社会からも多くの批判を受けていますが、今のところ解決に向かう兆しはありません。


パソコン遠隔操作事件

実際に2012年のパソコン遠隔操作事件では、犯罪予告を投稿したとして4人が立て続けに誤認逮捕され、そのうち2人がやってもいない罪を認めました。

最初に逮捕された東京都の大学生は、ただのCSRF攻撃を受けただけなのですが、警察にはそれを見抜くことができませんでした。(特定のリンクを踏むと自動で投稿が行われる仕組み)

とはいえ、少年のPC内に予告文の痕跡がなかったことや、投稿に2秒しかかかってないこと、CSRFが可能なサイトだったこと、リファラやPCの通信履歴に謎の海外サイトが記録されていたことなど、様々な不審な点があったことから、警察は彼が犯人じゃないことも推測できていたのではないでしょうか。

それにも関わらず、この大学生は厳しい取調べにより嘘の自白をさせられ、有罪になってしまいました。

また、警察が大学生に対して、「否認すると院に入ることになる」「実名報道される」などと伝えたり、「無罪を証明しろ」と詰め寄っていたことなども発覚し、自白至上主義の警察の捜査が批判されることになりました。

その後に誤認逮捕された三重県の男性が、遠隔操作の手法を警察に説明したことや、真犯人が自分からネタを暴露したことなどにより、4人全員の無実が判明しました。

しかしこうも簡単に誤認逮捕や冤罪が起きているのを見ると、他にも同類の冤罪が無数に起きていて、多くの人が泣き寝入りさせられているであろうことは想像に難くありません。(もし真犯人が自ら出て来なければ、今でも大学生は犯罪者扱いのままだったでしょう)

全てのネットユーザーが、いとも簡単に「冤罪被害者」になるリスクがあることが広く知れ渡った事件でした。

マスコミの報道による社会的抹殺

日本はとても治安が良く、犯罪件数もここ20年ずっと減少傾向にもかかわらず、世界的に見ても逮捕報道がとても多い国です。

毎日のようにたくさんの逮捕報道が流れ、特にローカルニュースでは小さな事件でも見せしめのように報道されがちです。

当たり前ですが、逮捕されることは罪でも何でもありません。

普通の民主国家においては推定無罪という考え方があり、逮捕されようが、少なくとも裁判で有罪になるまでその人は無罪であるというのが当然のルールです。

しかし日本ではこれが全く通用しません。

ほとんどの日本国民には公権力を疑う習慣がないため、誰かが逮捕されたニュースを見たら「けしからん」「許せない」と怒りや軽蔑の念を抱きます。

一旦報道されると、ご近所さんや職場の人に偏見の目で見られたり、SNSで吊るし上げられたりして、精神的・経済的に恐ろしいほど甚大な被害を受けることもあります。

会社員であれば職場にも迷惑がかかり、仕事を辞めざるを得なくなることもあります。大きく報道されれば再就職は一生困難になります。

もちろん捜査機関はそういった報道被害を認識したうえで、あえてメディアに報道をさせています。それには以下のような目的があると考えられます。

1.被疑者を見せしめにして犯罪を抑止する狙い
2.有罪の印象を世に広めて裁判を有利に進める狙い
3.捜査機関の活躍を世に示すことで予算を獲得する狙い

特に1つ目の「犯罪抑止」は代表的な目的でしょう。

実際に、公安委員会の会議サーズ男事件が取り上げられた際には、「報道が抑止力になる」「今後も一罰百戒で対応していきたい」といった、刑罰権によらない「罰」を肯定するような発言が記録されています。

ちなみにこの事件で逮捕された男性は、無実を訴えて不起訴になったにもかかわらず、一方的な報道により炎上したことで失職に追い込まれています。


とにかく犯罪報道は、あらゆる報道の中でも最も偏向報道が激しい分野の1つです。捜査機関は収集した膨大な情報の中から、被疑者に都合の悪い情報や、辱めるような情報のみを恣意的にメディアにリークします。

例えば、供述の一部だけを切り取って、世間が悪印象を持つような角度で報道することはよくあります。(そもそも供述内容が警察の作文であることも多いです)

また、小野マトペさん事件では、故意を否認していることは一切報道せず、「コロナ装う男」「軽い冗談で投稿」などと、まるで愉快犯かのように印象付ける見出しで報道されていました。

コインハイブ事件でも、当初は「遠隔操作される」「パソコンが壊れることがある」などと、恐ろしいウイルスだと誤認させるような報道が多くの主要メディアで大々的に流されていました。

ときには全くの憶測やデマが報道されることもあります。例えば今市事件では、逮捕時に「容疑者のPCから被害者と見られる画像が見つかった」と、決定的な証拠のように報じられましたが、実際にはそのような証拠は存在しなかったことが裁判で明らかになりました。

大川原化工機事件でも、逮捕時に「数年前から犯行を繰り返していたと見て~」などと、悪質な常習犯のように報道されていましたが、そのような事実は存在しませんでした。

また、事件に関連付けられそうであれば、過去のトラブル、ネット閲覧履歴、SNSやブログの投稿、趣味嗜好、日記の内容など、様々なセンシティブな情報を「やましい人間」であることの「証拠」として、警察に都合のいい文脈で世間に公開されるリスクがあります。あくまで「犯罪の証拠が見つかった」という体裁で報道されますが、実際には印象操作や辱めが目的であることも多いでしょう。

こういった吊るし上げ報道は、被疑者の尊厳を踏みにじり、その後の人生を大きく困難に変えてしまうこともあります。

このような深刻な加害行為が、行政の主導のもとに日常的に行われているのですが、当の国民はそれを問題視せず、見世物として楽しむ人も少なくない始末で、ストッパーがあまり機能していないのです。

報道被害を減らすためには、まずは私たち国民側に、メディアや警察の発表に疑問を持つ意識が求められるでしょう。少なくとも、「自分は断片的な事情しか知らない第三者だ」という意識は絶対に忘れてはいけないです。

むやみに社会的制裁を楽しんでいると、いつかそれが自分に返ってくるかもしれません。


誤認逮捕と認められるハードル

たとえ誤認逮捕だったとしても、それが報じられることはほとんどありません。

まれに誤認逮捕が報道されることがありますが、それは真犯人が見つかったり、後からアリバイが見つかったなどで完全な無実が証明された、極一部のレアケースです。

逮捕した時点で警察の犯人捜しは終わりますし、アリバイがない(完全な無実を証明できない)ことも確認済みであることがほとんどなので、誤認逮捕だったとしても、それが発覚することは基本的にありません。(警察は逮捕前に「有罪の証拠」以上に「アリバイがないこと」を徹底的に確認します)

無実を証明できない限り、たとえ嫌疑不十分で不起訴になったとしても、警察もマスコミも世間も知らん顔です。他人から見たら、誤認逮捕なのか、証拠がないだけで実は犯人なのか区別がつかないからです。

また、誤認逮捕には補償金制度があるのですが、これをもらえるのも、「正式な裁判で無罪になった」もしくは「誤認逮捕だと証明された」場合ぐらいで、どちらも非常に稀なケースです。

過酷な捜査のストレスで病気になろうが、仕事や社会的信用を失おうが、証拠が薄くて不起訴になっただけでは1円も補償されることはありません。

また被疑者の実名や顔などの報道は、公益のある情報として認められているので、よっぽど酷い報道じゃない限り、メディアに賠償してもらうことはできません。

完全にやられ損になります。


逮捕前に知っておきたいこと

多くの方が勘違いしているのですが、警察・検察・裁判所は、「真相解明」のための組織ではありません。(研究機関ではないですからね)

あくまで疑わしい人物を振るいにかけて、トータルで「秩序維持」することが目的であり、多少の冤罪はあらかじめ想定されたことです。

そのため、「自分はやってないから大丈夫だ」「しっかり調べてくれるはず」と考えて油断していると、気づいたら犯罪者にされていた、なんてことになりかねません。

警察に疑われた時点で、大変危険な状況だということを理解して、全力で身を守ることが求められます。

・逮捕後の流れ

出典:https://honsuki.jp/pickup/38135/

一度逮捕されると最大で23日間拘束されます。

ときには様々な余罪をこじつけて「再逮捕」を繰り返され、数カ月拘束されることもあります。

その後に、検察官が事件を起訴する(刑事裁判にする)かどうか決めるのですが、裁判で無罪を勝ち取ることは極めて難しく、また時間やお金の負担も大きくなるため、基本的には不起訴を目指して戦っていくことになります。(裁判所には一切期待できないので、起訴されたら終わりだと思ってください)

被疑者のうち、起訴される人は4割ほどです。残りの6割は不起訴になります。

とはいえその多くは、軽い犯罪や、被害者と示談が成立しているなどの「起訴猶予(犯人だけどお咎めなし)」での不起訴であり、実質的には有罪認定です。

無実の罪で疑われた場合は、「嫌疑不十分」での不起訴を狙っていくことになります。こちらは無罪放免とほとんど同じような扱いですが、割合としては10%程度の狭き門になります。

では「嫌疑不十分」を勝ち取るにはどうすればいいのか、逮捕された際の自衛方法をいくつか紹介します。

信頼できる弁護士と繋がる

家族がいない場合、逮捕後に弁護士を探すことは難しいので、事前にアテを用意しておかないと当番弁護士や国選弁護士としか連絡が取れません。(当たりハズレが大きいです)

逮捕勾留はメンタル勝負なところもあるので、心の支えになる弁護士がいるかどうかで結果が左右されることもあります。

いきなり逮捕された場合は難しいですが、家宅捜索や事情聴取などの兆候があった場合は、一刻も早く信頼できる弁護士を探しましょう。

もし連絡できる弁護士がいないまま逮捕された場合は、すぐ警察に「当番弁護士を呼んでほしい」と伝えてください。

当番弁護士は無料で1回だけ接見してくれます。その後も弁護活動を希望するなら私選弁護士として契約できないか聞いてみましょう。

契約できなかったり、別の弁護士に変えたい場合は、勾留後に国選弁護士を呼びましょう。


黙秘権を行使する

警察が求めているのは犯人ではなく、裁判で有罪にできる人と、そのための都合の良いネタです。

取調べでは、警察に信用してもらうことではなく、不利な調書を取られないことを目標にしてください。

無実の人が疑いを晴らそうと弁解しても、全て「言い訳」だと判断されますし、喋れば喋るほど、警察のストーリーに沿った都合の良い部分だけ切り取られ、不利な調書を作文されていきます。

そもそも自分の置かれた状況がハッキリ分からない以上、何が不利で、何が有利な情報なのか、明確に判断できないことも多いでしょう。たとえあなたが無実で、真実のみを話したとしても、それが有罪の心証を強めてしまうこともあり得るのです。

そのため無実の罪で疑われた場合は、基本的には黙秘し、何かを話す場合は事前に弁護士に相談して慎重に内容を決めてくようにしてください。


納得いかない調書にはサインしない

取調官が作った供述調書に署名押印すると、そこに書かれている内容を事実だと認めたことになります。

後から覆すのは極めて難しいので、一部でも不利な記載があった場合は、納得がいくまで何度でも訂正を要求するか、もしくは署名を拒否してください。(拒否する権利は認められています)

中には「後で訂正できる」「調書がないと裁判で不利になる」などと嘘をついたり、あの手この手で署名を要求してくる取調官もいるので、知識がない人や、迎合性の高い人は不利な調書を取られがちです。

また取調官は調書を作るうえで、被疑者の印象が悪くなるような表現を多用してきます。

たとえば、「ブラジルの蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を起こす可能性が絶対にないと言えるか」と質問された場合、エンジニアとして誠実な応答は「絶対にないとは言えない」だろう。理論的にはそれで良い。しかし取調べでこう答えた場合、あなたの調書にはこう書かれることになる。「私は、この羽ばたきが竜巻を引き起こす危険なものかもしれないとあらかじめ認識していました」。
引用:コインハイブ事件における弁護活動

取調官に「おまえの供述どおりに書いてるだろ」と言われると、サインしなきゃならないと思ってしまいがちですが、少しでも解釈やニュアンスに違和感があったらサインしないで下さい。

弁護士によっては、調書への署名は全て拒否すべきだと言う人もいます。
一般人が調書の意味をしっかり理解することは、環境や能力的に困難な場合もありますし、そもそも調書は捜査機関に都合よく作られるものであり、署名するメリットがないことの方が多いからです。

場合によって適切な戦略も変わってくるので、信頼できる弁護士の指示を仰ぐようにしてください。


ペット対策は必須

拘束されている間、警察はペットの世話はしてくれません。本人にはかけがえのない家族でも、法的にはモノ扱いだからです。弁護士もなかなか対応できません。

そのため、一人暮らしの飼い主が逮捕されることは、ペットにとっては死刑宣告にもなりかねません。

実際に、逮捕されて愛犬が死にかけたという女性の体験談もありました。

ペットが気がかりで、早く出るために自白調書にサインしてしまう人もいるでしょう。そういった弱みを警察に利用されないためにも、ペットを飼ってる一人暮らしの人は必ず事前に対策を練っておくべきです。

例えば、信頼できる家族に合鍵を渡しておいて、逮捕時は弁護士を通して連絡を取るようにしましょう。もし頼れるアテがないのであれば、ペットは飼うべきではないです。

自白調書を取られたらほぼ負けが確定

取調べや勾留は想像しているよりも遥かに辛いものです。

最初は強気な人でも、ずっと警察に否定され続けると徐々に心が弱っていき、耐えがたい苦痛から逃れるために、嘘の自白調書に署名して楽になりたいと思うようになります。

知識がない人は「裁判官はちゃんと判断してくれるだろう」と甘く考えてしまいがちですが、これは大きな間違いです。

まず、裁判官はあなたの味方ではありません。

そもそも長期勾留を認めてるのは裁判所です。捜査機関は、裁判所が容認する方法で、裁判所の有罪の基準に合わせて証拠を得ようとしているに過ぎません。

日本の裁判において、自白は決定的な証拠として扱われることになっています。真実がどうであれ、あなたが自白したという事実は、裁判官にとって安心して有罪にできる理由になるのです。

有罪になりたくないのであれば、「やってないことをやったと言ってはならない」という意識、覚悟だけは決して忘れないようにしてください。


起訴されたらゲームオーバー

逮捕されたあと、検察官が事件を起訴するかどうか決めます。

「不起訴」になれば、そのまま解放されて日常に戻ることができますが、「起訴」されてしまった場合、あなたは人生最大の危機に立たされます。

日本の刑事裁判の無罪率はなんと0.1%です。
否認事件だけに絞っても1~2%程度です。

また被告人が裁判で否認して有罪になった場合、「反省がない」と判断され、罪を認めた場合よりも刑が重くなることが一般的なため、弁護士によっては「認めたほうがいい」とアドバイスする人もいるほどです。(例えば氷見事件は被告人が裁判で罪を認め、後に冤罪が発覚したケースです)

日本の無罪率は、世界的に見ても異常なほど低い数字です。ちなみにアメリカでは全体の無罪率が0.4%で、否認事件だと15%程度、陪審裁判だと30%以上が無罪になります。

「日本の無罪率が低いのは、検察が明らかに有罪の人しか起訴しないからだ」とも言われています。確かに諸外国と比べると、起訴のハードルは高めです。

しかし裁判所は、起訴された事件のほぼ全てを有罪にしてしまいますし、過去のケースを見ても、有罪のハードルに関しては決して高いとは言えません。

2012年のパソコン遠隔操作事件では、IPアドレスが一致しただけの男性が起訴されています。もし無実が判明しなければ有罪になっていたでしょう。

三鷹バス事件煙石博さん事件のように、現場の防犯カメラに犯行の様子が映ってないにも関わらず、「犯行は不可能ではない」「被害者の証言は信用できる」などの理由で下級裁で有罪判決が下されたケースもあります。

2001年の御殿場強姦事件では、被告人が犯行日のアリバイを証明したのですが、その後に被害者が犯行日の変更を請求し、裁判官はそれを認めて有罪にしてしまいました。

2008年の大阪の強姦冤罪事件のように、自称被害者と目撃者の証言のみで有罪が確定したケースもあります。(のちにでっち上げだと判明しました)

2005年の神戸質店事件のように、現場の指紋や、「目が似ている」という目撃証言など、確実とは言えない薄い証拠の積み重ねで無期懲役が確定したケースもあります。

今市事件のように、まともな証拠がないにもかかわらず、過酷な取り調べで引き出した自白を根拠に起訴され、2020年に無期懲役が確定したケースもあります。


なぜ冤罪がなくならないのか

多くの人が勘違いしているのですが、裁判で有罪にするのに「確実な証明」は必要ありません。

人間に確実な真実など分かるはずがないので、そこまでハードルを上げるとまともに治安維持ができなくなるからです。特に否認事件の場合、100%犯人だと断定できるような事件なんてほとんどありません

そのため刑事裁判では、確実な証明ではなく「常識的に考えて犯人に違いない」という、社会的合意が得られる程度の証拠やストーリーがあれば有罪にできることになっています。この基準は「合理的な疑いを超える立証」と呼ばれています。

いわば有罪であることをどこまで疑うかの話であって、

・自白は本心なのか?
・状況証拠に改ざん等の恐れは?
・偶然が重なっただけでは?
・誰かにハメられたのでは?
・まだ見つかってない無実の証拠があるのでは?

などなど、あまり細かい無実の可能性まで疑ってかかるとキリがないので、最終的には裁判所が考える「常識的なところ」でケリが付けられるわけです。

例えば、サイバー犯罪で起訴された被告人が、「証拠のアクセスログが改ざんされている」と無実を主張しても、それをうかがわせる事情を示せなければ退けられるでしょう。

アクセスログなどのデジタルデータは、指紋やDNAと違ってサーバ管理者などが容易に操作可能なため、被告人の主張はあり得ないことではありませんが、こういった例外的な事情になると裁判所は基本的にスルーします。

現に、こちらの論文では、アクセスログやメールヘッダーなど、デジタルデータの改ざんが争点になった裁判が紹介されていますが、裁判所は「改ざんする必要性がないため改ざんはない」という理屈で、被告人側の主張を退けています。


また、イギリスの郵便局スキャンダルでは、ITシステムのエラーが原因で多くの人が無実の罪で起訴されたのですが、郵便局が「エラーは見つからなかった」という調査結果を報告したことで、有罪になってしまっています。

「確実にエラーなどない」と証明することは人間には不可能なので、裁判所としては、有罪にするためにそこまで高度な立証を求めるわけにはいかないのです。

また供述証拠においても、自称被害者や目撃者などが一貫性・迫真性のある証言をした場合、いくら被告人が「嘘だ」と訴えようが、何らかの反証ができなければ事実だと認定されることがあります。

証言に一貫性・迫真性があり、嘘を付く必要性も見当たらなければ、それは常識的に考えて事実だと考えられるからです。

もちろん世の中はそんな単純な事情だけで回っていませんし、常識外のことはしばしば起きます。そんなことはもちろん裁判官もよく分かってるはずで、彼らも必ずしも確信を持って有罪にしているわけではないでしょう。

裁判は真実を明らかにする場というよりは、あくまで常識に照らし合わせて「社会的な落とし所」を判断する場に過ぎないのです(それを便宜上「真実発見」と呼んでいます)。

なので治安維持する以上、原理的に冤罪は必ず発生します。

さらに裁判官は、「犯罪に強い姿勢で臨まなければならない」という世間からの強い圧力を感じています。実際、無罪判決を出した裁判官が、「犯罪者の味方だ!」などと、ネットや週刊誌でバッシングされることもよくあります。

そういった世論に迎合してか、最初から有罪に偏った審理をする裁判官も多く、有罪立証のハードルは一般市民が常識で考えるよりも低くなりがちです。

三大刑事弁護人として知られている高野隆氏によると、あくまで推定ですが年間1500人以上の無実の国民が有罪判決を受けているといいます。

裁判所の事実認定は大体そのぐらいのザックリしたものだと考えておくべきでしょう。


ちなみにアメリカではDNA鑑定技術の進歩で、過去の多くの冤罪が明らかになっています。1973年以降、約8700人が死刑を言い渡されましたが、その内182人もの冤罪が発覚しているのです。

アメリカでは重罪の否認事件の場合、基本的には12人の陪審員が全員一致で犯人だと確信したケースのみ有罪判決が言い渡されます。それほどの厳しい審理を経ているにもかかわらず、後に冤罪が発覚した死刑囚だけでも2%以上もいたのです。

「これだけ証拠があるなら犯人だ」という人間の常識的な感覚は、そこまで精度の高いものではないのです。


財産の差押えリスクも

冤罪に遭った際、ときに刑罰よりも恐ろしいのが、被害者から民事で損害賠償請求をされることです。

2012年のパソコン遠隔操作事件では、大阪府の男性が、爆破予告で飛行機を止めた件で疑われていたので、もし無実が証明されなければ、莫大な賠償請求をされていた可能性もあるでしょう。

損害賠償は、罰金とは違って金額が青天井になりがちなので、刑罰としては軽い事件でも、その損失は恐ろしいほど大きなものになることがあります。

せっせと貯めた老後資金を根こそぎ奪われたり、家や土地を没収されたり、ときには払いきれない債務を抱えることにもなりかねません。

無実を主張して支払いを拒否しても、強制執行で差し押さえられますし、財産を隠せば強制執行妨害罪として刑事罰を科されることもあります。

「悪意の不法行為」だと判断されれば自己破産しても免除されませんから、本当に冤罪で人生が終わりかねません。

基本的には家族の財産まで取られることはないので、普段から財産を分散しておくという手も考えられますが、もしそれが「差押え対策」だとみなされると家族の分も持って行かれます。(場合によっては強制執行妨害罪になります)

有効なリスクヘッジとしては、差押禁止財産に投資するという手があります。例えば年金の受給権は、民事では差押えが禁止されています。

なので損害賠償に関しては、iDeCo(確定拠出年金)をひたすら積み立てることが一定の備えになるでしょう。

ただし年金は、税金の滞納の場合は差押え可能になります。犯罪で得た収益も課税対象になるので、詐欺などで有罪になると税金を請求されることがあり、この場合は年金も差押えられるリスクがあるのです。

サイバー関係だと、今後は暗号資産が関わる事件も大幅に増えるでしょうし、冤罪による納税破産者が発生することは割と現実的なリスクに思えます。

すでに海外だと、100万ドル相当のBTC盗難事件で逮捕された人が無実だったことが発覚しています。他にも、暗号資産関係で無実を争っている事件は多々あります。

何にしろ、年金受給権という最後のセーフティネットまで奪われるリスクがあるので、損害賠償よりも税金の方が遥かに恐ろしいのです。

これに関しては備えられることが少ないのですが、現実的にできることとしては、差押えられない無形資産(人間関係、仕事に困らないスキル、商売のネットワーク、影響力など)を築いておくのが有効な対策だと思います。

特に人間関係は大切な資産です。家族関係や地縁などの相互扶助ネットワークを築いておくことが、非常時のとても重要な備えになります。

国に財産を奪われて、仕事も失い、頼れる人間関係もないとなると、本当に野垂れ死にすることになりかねないので、余裕のあるうちに、リスクに備えた堅牢な人生設計をしていきましょう。


捏造が発覚したケース

過去には捜査機関による捏造が発覚した事件もあります。

2013年には、毒入りカレー事件などを担当した科捜研の主任研究員が、長年にわたって証拠捏造を繰り返していたことが発覚して有罪になっています。


また古い事件ですが1988年には、主婦が落し物の15万円を警察に届けたところ、担当の巡査がネコババし、さらに警察署が身内の不祥事を隠すために、組織ぐるみで主婦を犯人に仕立て上げようとしたことが発覚しています。

主婦は妊娠中にも関わらず、厳しい取調べで自白を迫られ、自殺を考えるほど追い詰められたそうです。

幸いにも不正がバレて冤罪未遂で終わりましたが、ネコババした巡査は不起訴になり、署長含め、でっち上げに関わった他の警官も刑事罰が科されることはなく、減給や注意など、不思議なほど軽い処分で済まされました。


2011年には、警官2名がひき逃げ事件の目撃証言を、被疑者に都合が悪いように改ざんしていたことが発覚しました。


2020年には、警察がパトカーで信号無視して事故を起こし、証拠となるドラレコの音声データを消去していたことが発覚しました。さらに事故の被害者を訴えて損害賠償まで取ろうとしていたようです。

裁判官がバイナリデータを見て不審な点を指摘したところ、警察は「誤った報告をした」と認め、訴えを取り下げました。(故意に証拠を改ざんしたとは認めませんでしたが)


2010年には、郵便不正事件で検察が組織ぐるみで証拠改ざんを行い、無実の人を有罪に追い込もうとしたことが発覚し、多数の検察官が検挙されました。

検察が特殊なソフトを使い、重要な証拠データとなるファイルのタイムスタンプを書き換えたのですが、専門機関が解析した結果、改ざんの痕跡が見つかったのです。


証拠捏造は、無実の人を陥れて人生を壊しかねないほどの凶悪犯罪ですが、バレることは稀でしょうし、また軽い捏造であればバレても「手違いがあった」で済まされることも多く、さらに万が一有罪になっても罪が非常に軽いため(3年以下の懲役または30万円以下の罰金)、あまり抑止が働いていないのが現状です。

捏造された場合、基本的には弁護側が捏造であることを立証しなくてはなりません。

もちろんそれほど高度な立証は求められず、「捏造の疑いがある」と裁判官に納得させる程度で十分ですが、それすらも困難であることに変わりはありません。

例えば高知白バイ事件のような、捏造による冤罪が強く疑われていたケースですら、裁判官は「捏造はない」と断定して被告人に有罪判決を下しました。

捏造を立証することは容易ではないことが分かります。電子データであればまだ改竄を見破れる余地はありますが、アナログの証拠だと厳しいでしょう。

巧妙な捏造をされた場合は運が悪かったと諦めるほかありません。

刑事訴訟の手続きは異常なほど負担が大きい

たとえ無罪を勝ち取れたとしても、刑事訴訟の手続きに乗せられただけで、人生がメチャクチャになることも珍しくありません。

特に起訴後に否認している場合、ほとんど保釈が通らず、長いときは年単位で拘束されます。激しいストレスで寿命が大幅に縮んでしまう人もいるでしょう。

2012年に強盗事件で疑われた男性は、「コンビニの自動ドアに指紋が付いてた」などの薄い理由で逮捕起訴され、10か月も勾留されました。

この事件は有罪づくりの教科書のようなケースと言えます。

・状況証拠(現場の指紋)で被疑者を選定
・有罪方向の補強証拠だけを集める
・長期勾留して自白強要
・目撃者を誘導して法廷で検察に都合のいい証言をさせる

指紋があり、防犯カメラ映像の鑑定結果があり、目撃証言まであるわけで、このぐらい証拠があれば、世間はその人が犯人だと確信します。これはこの事件に限ったことではなく、日常的に行われている犯罪捜査のあり方です。

この事件は、たまたま強力なアリバイが見つかったために無罪になりましたが、そうでなければ確実に有罪確定していたでしょう。


2018年に、特殊詐欺グループのメンバーだと疑われた大学生は、警察が別の被疑者から強引に引き出した供述を理由に起訴され、これまた10カ月も勾留され、大学は休学することになり、せっかくの大手企業への内定も失ってしまったそうです。

こちらも通信履歴などの検察側の主張の矛盾や、犯行日のアリバイなどにより無罪が確定しました。


2013年には、キャッシュカードを盗んだとして無実の男性が逮捕起訴されました。

店のタイムスタンプの記録にエラーがあったことが誤認逮捕の原因だったのですが、警察は有罪立証に不都合な情報は無視して男性を犯人と決めつけ、検察はまともにチェックせずに男性を起訴しました。

これも弁護士の活躍により無実が証明できた極めて稀な事例の1つです。幸運が味方しなければほぼ有罪になっていたでしょう。

男性は長い勾留や取調べのストレスで抑うつを発症して、釈放された後も苦しむことになりました。


2003年の志布志事件では、一切根拠がないにも関わらず15人が逮捕され、6人が嘘の自白に追い込まれ、3人が過酷な取調べに耐えられず自殺未遂しました。

自白以外にまともな証拠がなかったことと、主犯とされた人物のアリバイが成立したことなどが決め手となり、起訴された全員に無罪判決が言い渡されました。(事件そのものが警察の捏造だったのではないかと言われています)


また、つい最近だと、2020年に大川原化工機事件という、恐ろしい事件が起きました。

・生物兵器製造に使える機械を輸出したとして3人を起訴
・11カ月も長期拘束して自白強要
・1人に癌が見つかったが保釈を認めず末期になるまで拘留して死なせる
・従業員にも長時間尋問して1人を自殺未遂に追い込む(うつ病と診断)

この事件は警察白書に手柄のように記載されており、国民にアピールするための実績作りであったことが想像できます。

引用:令和3年 警察白書 p200 ※2023年7月に削除されたようです

実際はでっち上げと言っていい冤罪事件だったのですが、逮捕報道がされたときネット上では「死刑にしろ」「会社を潰せ」などと誹謗中傷が飛び交いました。

もはや国家権力の濫用以外の何物でもありませんが、今のところ警察や検察からは謝罪すらありません。(そしてほとんどの国民は無関心です)

国の暴力に備えることは難しい

最近は不安定な時代に対応して、国民の「非常時に備える」という意識が向上してきているように思います。自然災害や経済危機、老後問題、犯罪など、様々なリスクに念入りに備えてる人は多いでしょう。

しかし刑事司法リスクは、あらゆるリスクの中で最も備えるのが困難なものです。警察、検察、裁判所という巨大な権力を前に、私たちにはほとんど対抗手段がありません。

一撃で自分や家族の人生が破綻するほどのリスクにも関わらず、保険すらないのです。

せいぜい備えられることと言えば

・長期拘束されても破綻しにくい人生設計をする
・信頼できる弁護士と繋っておく
・十分な裁判費用を蓄えておく
・差押えられにくい資産を築いておく

ぐらいでしょうか。

いずれにせよ根本的な対策にはならず、精神的・経済的に大きなダメージを受けることは避けられないのが現状です。

誤認捜査や冤罪は、決して「異例」と言えるほど珍しいことでもなく、治安維持する以上は当然のように発生していることです。たとえ真面目に生きていても、ちょっとした行き違いで、ある日いきなり取調室に取れこまれたり、法廷に立たされることは誰にでも起こり得ます。

全ての国民が、人生の大きなリスクの1つとして心構えしておくべきでしょう。

サイバー事案はより慎重に

どんな事件でもそうですが、特にネット分野に関してはもはや誰も無関係ではいられませんし、国民が当事者意識を持ちやすい分、より一層慎重な捜査が求められます。(遠隔操作事件のときに震え上がった人も多いでしょう)

最近のサイバー事件の捜査を見ていると、犯罪を取り締まる効果よりも、一般市民を怖がらせる弊害の方がはるかに大きいと感じます。

たとえ検挙されなかったとしても、些細なきっかけで警察に目を付けられないか不安になって、メンタルを病む人も増えていくでしょう。

ちなみに警察は検挙件数を評価指標にしており、コインハイブ事件で騒ぎになった平成30年のサイバー事案の検挙数を、誇らしげに国民にアピールしたりしています。(アラートループ事件なども含まれてます)

ただの検挙件数なので、この中には無実の人や、強引に検挙された一般市民も多く含まれているでしょう。

警察は、問答無用に国民の人生を潰すことのできる絶大な権力を持った組織です。他のどんな組織よりも慎重さや自制心が求められます。

国民は必死に働き、高い税金を納めながら、将来に備えようとしています。どうかこれ以上、余計な恐怖を増やさないようにしていただきたいです。


「国家警察」の復活

あまり話題になっていませんが、2022年の警察法の改正により、(皇宮警察を除けば)戦後初の国家警察である「サイバー警察局」が創設されました。

日本では長い間、「国家警察」の運用が許されておらず、都道府県がそれぞれ犯罪捜査を担ってきました。戦中に強権を振るい、思想弾圧や非道行為を行っていた特高警察などへの反省があるからです。

しかし2022年の法改正により、一部のサイバー事案に関して、国家機関である警察庁が、家宅捜索や押収や逮捕などの捜査を行うことが可能になりました。

今のところ捜査範囲は大きく制限されているとはいえ、日本の警察制度が大きく変わる歴史的な出来事といえます。

ノウハウや人材の集中による捜査能力の向上は期待できそうですが、犯罪を取り締まること以上に、手柄のための強引な捜査や法の恣意的運用をなくすことにも力を入れて欲しいと願います。

今後どのように運用されていくのか、国民全員で注目していく必要があるでしょう。

まとめ

というわけで、

・刑事司法はみんなが思うほど厳密じゃない
・特にネットでは犯罪者と紐付きやすい
・些細なことでいきなり警察に踏み込まれることも多い

という話でした。

日常生活で犯罪者に出会うことは滅多にないですが、ネットを使用するときは、すぐ隣にいると考えるべきです。軽い犯罪被害に遭うだけならまだしも、ときには身に覚えのない罪を擦り付けられ、警察に疑われてしまうこともあります。

正直、ネットの世界では直接的な暴力がない分、犯罪者よりも警察リスクの方が恐ろしいので、警察対策も含めた広義でのサイバーセキュリティが求められます。

気を付けていても完全に防ぎきれるわけではないですし、今後日本の治安が悪化したり、ネットを使った犯罪が増えていくほど、一般市民がとばっちりを受ける機会も増えていくでしょう。

国民の中には「疑われる方にも原因がある」「被疑者や犯罪者に人権などいらない」と考えてる人もとても多いと思います。実際、留置場での虐待や、被疑者への過激な捜査などに対して、「自業自得」というコメントが寄せられることが多くあります。

しかし刑事司法における「人権保障」は、国家という最大の暴力装置から市民を守る盾でもあり、全ての人に関わる重要な理念です。決して犯罪者へのお情けや、先進国ぶるためのポーズではありません。

犯罪者の人権が守られる社会だからこそ、市民の人権も守られるということは、よく理解したほうが良いと思います。

みんな自分だけは安全に高みの見物できると信じてるかもしれませんが、冤罪や誤認逮捕などは想像以上に日常と隣り合わせのリスクです。対岸の火事と思わず、国民一人一人がこの国の刑事司法に向き合ってほしいと思います。

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