ホラーに挑む2022 第4回:映画『リング0 バースデイ』感想

原作にあたる短編小説集『バースデイ』も読み直した上で、映画『リング0 バースデイ』を初めて観た感想です。

とはいえ映画『リング0 バースデイ』は『バースデイ』の映画化というよりは映画『リング』シリーズの前日譚という趣の方が強く、『バースデイ』の内容とはそこまで関係ありませんでした。

そもそも『リング0 バースデイ』以前の映画3作の時点で貞子の設定が原作からかなり変えられているため、それらに則った前日譚を作ろうと思えば必然的に小説の前日譚とは色々変わってくるわけですから。

また小説における前日譚である「レモンハート」は短編集『バースデイ』に収められた短編(文庫版では120ページ)であり、かつホラーなシーンもほとんど無い作品であるため、これをホラー映画に仕上げるためには色々と改変しなければならなかったという都合もあると思います。

そんな映画『リング0 バースデイ』ですが、特に前半に関して言えば恐怖演出が結構凝っており、『らせん』『リング2』と比べると結構怖かったです。
静寂な空気やカメラアングルの丁寧さにより、1作目に似た「何も現れないのに怖い雰囲気」が上手く作られています。

また『リング2』で唯一怖かった鏡のシーンを想起させる場面もあり、そういったあたりも映画版『リング』シリーズの系譜をきちんと踏もうとした作品なのだろうと思えます。

反面、話が急展開を迎え、ストーリー展開上怖くなっていきそうかと思われた後半からは失速気味。貞子が2人いる、貞子の父親は人間では無いらしいといった映画オリジナルの設定に加え、役者陣の大袈裟な演技と音などの演出も相まって、全然怖くありません。

特に貞子が迫ってくるという『リング』にも『リング2』にもあった、定番パターンなはずのシーンでの謎演出は失笑もの。やはり映画『リング』はあのギロッとした目を生み出した一点において偉大な映画だったのだと再認識させられました。

役者陣の演技については役者陣の問題というよりはキャスティングの問題かもしれません。

ただストーリーの流れ自体は上記の微妙なオリジナル設定を除けばまとまっており、一本の映画として十分楽しめるクオリティにはなっています。仮に『リング』を知らなかったとしても、ホラー映画として観ることはできるのではないでしょうか。

もう1つ少し引っかかる点としては『リング0』の貞子は割と性格が良い女性に見えるので、この貞子は色々あって殺されたからといって呪いのビデオを作ったり、復活して全人類をウイルスで侵そうとしたりしないのではないかという点ですかね。
確かに酷い目にはあっているのですが、酷い目にあったからといって悪の根源みたいな存在になる人物には見えないかな~。

ついでに原作を読んでいる人間として、『リング0』に限らず映画版『リング』シリーズに抱く疑問(というか残念ポイント?)は設定変更のせいでリングウイルスの発生に説得力が無くなっている点。

小説『らせん』では貞子の強い恨みがその場所にあった天然痘ウイルスと交わってリングウイルスが誕生するという設定になっており、その天然痘ウイルスがなぜ貞子の恨みと交わるのかに関しても納得のいく説明があります。しかし映画版では井戸のある場所や貞子の死因が変更されているせいで、この点に関してはイマイチ納得できないものになっているんですよね。

ではその矛盾を解決するために、映画『リング』シリーズにおける正史は『らせん』ではなく『リング2』という扱いになっているのか……と思いきや、どうやら『貞子3D』は『らせん』の続編という設定らしく。まあ、こればっかりは実際に観て確かめないと分かりませんね

あとまあ、これは大人の事情があるなどで仕方ないことだと思いつつ、単に僕が気になってしまっているというだけなのですが、『らせん』に出てくる貞子(高野舞の見た目になる前の方)を演じていた佐伯日菜子さんと仲間由紀恵さんではイメージが違いすぎませんか!?
映画の製作期間も空いていないのに役者が変わるのにはどうしても違和感を持ってしまいます。『バットマン』の1・2作目と3作目、4作目でそれぞれ役者が違うみたいな違和感。
最近のMCUとかで1人のキャラクターを1人の役者が演じるのを見慣れ過ぎているんですかね。

最後に原作短編集『バースデイ』の話を少し。『バースデイ』にはタイトル通りの「誕生」をモチーフにした作品が3作収められています。

1作は『リング0 バースデイ』の原作となる「レモンハート」。『らせん』で貞子が復活してすぐの時系列にあたる現代を生きる劇団員が、貞子との思い出を振り返るという形式で物語が進んでいきます。
こちらの作品では貞子は映画『らせん』及び小説『らせん』でもそうであったように、単に綺麗なだけでなく、同時にミステリアスで妖艶な魅力をも持った人物として描かれています。
また映画『リング0』と異なり、貞子の能力がなぜビデオテープ型になったのかといった具体的な点にも迫る前日譚となっていて、『リング』の前日譚としての出来ではやはりこちらに軍配が上がります

もう1作は「空に浮かぶ棺」。これは非常に短い作品で、『らせん』の劇中では描かれなかった高野舞が貞子を出産する経緯を描いた作品になります。本当にそれだけなのですが、高野舞という人物については掘り下げられているので『らせん』で高野舞ファンになった方にはオススメできそうですね。
といってもあくまでも小説版『らせん』の高野舞のお話なので、映画版の高野舞ファンの方が楽しめるかは分かりませんが。

そしてもう1作が「ハッピー・バースデイ」。名前が少々紛らわしいのですが、こちらは『らせん』『ループ』双方の後日談になります。
ハッピーエンド気味ながら主人公・二見馨と恋人である杉浦礼子のその後や物語の顛末は語られない若干消化不良な終わり方をしていた『ループ』に対して、この「ハッピー・バースデイ」がその後を補完する形になっています。小説版『リング』の世界観における一応の完結編といって良い作品ですね。
なかなかショッキングな展開を迎える話ではありますが、二見馨の物語の終着点としてはこれ以上ない素晴らしいものだと思います。

ともかく『リング2』で今後が不安になった映画版『リング』シリーズに一抹の希望をもたらしてくれた『リング0 バースデイ』ですが、まあ評判を聞く限り、ここから先の映画はダメなんだろうなぁという嫌な予感はしています。
『リング0 バースデイ』自体は悪くなかったです。

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