見出し画像

2022年のビバ・テクノロジーのまとめ

2022年6月15日から18日にかけて、ビバ・テクノロジーがフランスのパリで開催をされました。省力をして「ビバテック」と呼ばれるこのイベント。最新のテクノロジーやイノベーションを共有するヨーロッパで最大のカンファレンスとして知られています。

ヨーロッパ最大のカンファレンス — その規模感は凄まじいものです。今年は91,000ものビジター (現地)、2000もの投資家、そして28,000ものスタートアップがカンファレンスに参加をし、30億もの閲覧数 (オンライン) を獲得をしました。

正にマンモス級のカンファレンス。具体的に何をテーマに開催をされたのでしょうか。La French Tech Tokyoから現地参加をしたメンバーの声も含め、4つのテーマを基にイベントを振り返ります。

1. テクノロジーの進化

2022年はテクノロジーの目まぐるしい進化が市場を賑わせてきました。そのテクノロジーのトレンドの中でも特に注目を浴びているのがWeb 3.0とメタバースです。

両テクノロジーを初めて聞く方へ:Web 3.0 とはブロックチェーンテクノロジーを利用し、ウェブ全体を再構築するプロジェクトを指します。

仮想通貨やNFT、分散型自律組織 (DAO) など最近巷で耳にするバズワードは全てWeb 3.0上で展開をされるものになります。Web 3.0の台頭により、情報の保存、共有、そして所有方法が大きく変わります。

メタバースとは、「インターネットとコンピューター演算を3D化したもの」です。(出典:エンジェル投資家のマシュー・ボール氏)

両テクノロジーはどちらも今後の市場成長が大きく期待されます。カンファレンスでは各フィールドを牽引するリーダーが集い、各々の視点を共有しました。

Web 3.0

クレジット: @VivaTech、LinkedInから

Web 3.0に属するテクノロジーの中でも、市場価値の急な低下が囁かれる仮想通貨が特に来場者の注目を集めました。今後の展望を見据えて「仮想通貨の冬」と揶揄をする声も少なくありません。これを裏付ける様に、6月18日を目処にビットコインの市場価値は初めて20,000ドル以下まで下がりました。

この不吉なトレンドを他所に、世界でも有数の仮想通貨のトレーディングプラットフォームとして認知されているBianceのCEO、チャンポン・ジャオ氏と、EthereumのCEO、ヴィタリック・ブテリン氏が登壇をし、仮想通貨の未来について楽観的な視点を共有しました。

冒頭で、ジャオ氏は仮想通貨の明るくない将来を認めました。しかし、現在は挑戦的な状況にあるものの、仮想通貨の業界そのものは消える事がない事を強調。実際、Bianceは2000もの求人を追加する予定です。

「仮想通貨の冬」は一時的なもので、業界そのものが消滅するわけではない — ジャオ氏の力強い、印象的なメッセージに励まされた起業家や投資家の数は多いのではないでしょうか。

メタバース

クレジット: @LVMH、Twitterから

仮想通貨に比べ、メタバース市場は2014年までに8000億円もの市場規模まで成長をすると予測をされています。また、リサーチ企業のガートナーによると、2026年までには世界の4人に1人がメタバースを1日1時間以上、仕事や教育などで使用をすると推定をしています。

ビバテックでは、メタやLVMHなど、大企業によるVRのデモンストレーションが行われました。

例として、メタは職場の環境を大きく変えることが期待されている「Horizon Workrooms」のデモンストレーションを行いました。LVMHは顧客により良いショッピング経験を提供する為、メタバースの導入を進めています。

大企業に加え、スタートアップや中小企業も各々のメタバース関連のプロジェクトを展示しました。例を挙げると、ダヴィンチ・イノベーションセンターのローマン・マノイロブ氏はメタバースに匂いを加え、嗅覚をも巻き込むプロジェクトを発表し話題となりました。

メタバースと聞くと、サイクロプスのようなゴーグルを装着をしてゲームに勤しむ姿を想像する人もいる事でしょう。ビバテックはメタバースの可能性と伸びしろを示してくれました。

2. テクノロジーの社会貢献応用

メタバースやWeb 3.0が来場者の注目を集めた様に、その他に来場者の注目を集めたのは最新テクノロジーの使用による社会貢献です。

La French Tech Tokyoのメンバーであり、カンファレンスに現地参加をした Nousha StMartin 氏は、カンファレンスのコアテーマの一つとして「責任あるイノベーション」を挙げました。実際、SDGsに貢献をする様な「グリーンデザイン」を展示した企業の数の増加が目立ちました。

ネットゼロ

気候変動は既に世界中の33~36億人に影響を与え、10億人もの人々の移住を強制する可能性のある恐ろしい問題です。気候変動にブレーキをかける事、すなわちネットゼロを実現する事は安くありません。年間約3.1兆 ~ 5.8兆ドルもの投資が必要になると言われています。

ビバテックでは、この人類共通のゴールに向け、大企業やスタートアップが数々のイノベーションを展示しました。

具体的に、大手化学メーカー、そして欧州有数の電力会社であるAir Liquide、 Siemens Energy、 ENGIE、そしてEDFなどがネットゼロ達成に向けたリサーチやテクノロジーを発表しました。再生可能エネルギーである水素の大量生成や、 二酸化炭素回収 (CCUS) テクノロジーなどネットゼロを達成する為に不可欠なイノベーションやリサーチが展示をされました。

例として、ENGIEはバイオガスや水素など代替エネルギーを展示しました。また、ビバテックの主要パートナーであるEDFはネットゼロを達成する為に期待をされているイノベーションを展示した「低炭素パーク」を設置。

低炭素パークに出展したスタートアップは、Urbanomy, Enerbrain, Acteon Farm などがあります。

大企業に加え、ビバテックは「責任あるイノベーション」を体現しているスタートアップもカンファレンスに招きました。特に、La French Techは主要プログラムの一つでもある「テックグリーン20」に招待し、サポートを提供する新たな20ものスタートアップを発表しました。 (スタートアップである、AlgamaDual Sunが新たに選定されました)

Web 3.0やメタバースなど、会場の注目を浴びた新たなテクノロジーと並行して、社会貢献に応用できるイノベーション、「責任あるイノベーション」がカンファレンスの主要なテーマの一つでした。

3. フランスの目標

クレジット: @VivaTech、Twitteから

以前の記事の通り、フランスは自国のスタートアップを育てる事を目標としています。ビバテックではフランスの新たなゴールが発表されました。

まず一つ目に、ユニコーンの更なる育成。2022年現在、フランスでは27ものユニコーンが存在します。しかし、マクロン大統領は27という数字よりも遥かに大きい数字を見据えています。ビバテックにて、2030年まで100ものユニコーンを有するゴールを発表しました。

「現実的な目標ではない」と考える方も多いでしょう。しかし、昨今のフランスのスタートアップの成長率を鑑みると、決して実現不可なゴールではありません。実際、フランスでは73もの企業各々が数億ドル以上もの企業価値を誇っています。一社の企業価値が10億ドルを超えるとユニコーン企業として認められる為、実に73もの企業がユニコーン企業へと変貌する高い可能性を秘めているという事になります。

ユニコーン企業の数を増やす他、マクロン大統領はフランスのデジタル化推進と更なるイノベーションを目指しています。イノベーションを推進する目的の基に作成をされた300億ユーロのファンドである、France 2030を最大限に活用する事を公約しました。

イノベーションを刺激・推進する為に用意をされた資本に並行して、マクロン大統領は人材育成の必要性を強調しました。具体的に、500,000名 ~ 800,000名までの人材が、今後5年以内に研修・トレーニングを受ける必要がある算段です。人材育成と資金提供共々どんどん拡大をする意欲を表しました。

簡潔に纏めると、ビバテックはフランスがこれまで培ったイノベーションと、今後5年間のプラン・目標をアピールするプラットフォームとしても機能しました。

4. アジアの関連性

ビバテックはヨーロッパで開催をされた為、参加をした大半のステークホルダー・スタートアップはヨーロッパに拠点を置いています。しかし、海外のスタートアップや投資家もカンファレンスに参加をしました。

実は、17%もの参加者はアジアから参加をしました(ヨーロッパの次に最も参加者が多かった地域になります)。そのため、ヨーロッパのスタートアップに関心の非常に高いアジア圏にリーチをする為、ビバテックはカンファレンスを東南アジアでライブ中継しました。

日本との繋がりはどうでしょうか。日本からはJETROなど13ものスタートアップ・組織が出展しました。ロボティックスやIoT、AIやヘスステック等のスタートアップが多く見られました。

出展をされたスタートアップの例を挙げます:株式会社天地人は宇宙からのビッグデータを活用して土地の査定を行うスタートアップです。

株式会社ファーメンステーションはテクノロジーの力により、食べ残しをコスメや肥料に使用するスタートアップです。

フランスと同様、日本は「スタートアップの国」を目指し、国をあげてスタートアップの育成に意欲的です。しかし、日本から出展をされたブースはあまり目立たなかった印象があったと特定の現地参加者から声が上がりました。

日本は将来有望なスタートアップが存在する事は事実だが、国外のステークホルダーへのアピールの改良の余地があるのでは、と世論が強い現状にあります。フランスは自国のブランディングやスタートアップ戦略に、La French Techなどを組み込んで網羅的かつ効率的に行っています。その一方、日本はアジアのスタートアップ大国の称号を得るため、ブランディングやスタートアップ戦略の試練に対面しているのかもしれません。

まとめ

コロナウイルスによってニューノマルに直面している昨今、現地のイベントや展示会が増えてきました。ビバテックも例外ではなく、今回は現地で数多くのグローバルオーディエンス、スタートアップ、その他ステークホルダーを一つのプラットフォームに集約しました。数多くのパネルや展示会の中、カンファレンスの主要テーマを4つにまとめます。

一つ目に、Web 3.0とメタバースの驚異的な進化と関連スタートアップの出現。仮想通貨は市場価値が下がり、懸念されていましたが、一時的なものであるというメッセージが目立ちました。

二つ目に、多くのスタートアップが気候変動などの社会問題をテクノロジーを使用をして解決する「責任あるイノベーション。」今後の展望に注目が集まります。

三つ目に、フランスの「スタートアップ大国」への新しいプラン。現地にてマクロン大統領が登壇し、フランスの野心的なビジョンやプランを共有しました。

最後に、アジア出身の参加者が多かった点です。ヨーロッパのイノベーションに対する関心の高さが顕著でした。

日本のスタートアップも現地で出展をしました。しかし、カンファレンスにての出展企業の少なさ、そもそも国内ユニコーンの数の少なさを考慮すると、日本のスタートアップ戦略の伸び代が垣間見えました。フランスの成功例を手本に、日本はアジアの「スタートアップ大国」へと進化する事は可能でしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?