見出し画像

流れ溶ける日々

中期とは、安定期と聞いていたので穏やかな日々を送るのかと思っていたが初期よりもメンタルが若干荒れやすかった。甘いものを食べるようになったので血糖値がどうのこうの、というのもあるのかもしれない。台風が直撃した日に同居人にブチ切れたりしていた。まあこれは理由があることで、会社帰りに台風に直撃され、好意とリクエストで夕飯にお弁当を買って帰ろうとしたが軒並み売り切れていた私と、そこまで悪天候ではない自宅で休日に友人と酒を飲んで寝てた同居人という既に不穏な設定のエピソードがあるのだが割愛する。「今日のことは一生言う」というところで折り合いをつけた。

それでもこのころは日々、本気で忙しすぎて殺されるのではというくらい忙しかった。というかこれを打っている今もそれは持続している。そんなうちにメンタルが荒れる暇すらなくなった。腹の出方は見ただけで妊婦とわかるくらいにはなった。お臍が出ると聞いたことがあったが確かに出っ張る。そしてなんとなく触れてみると柔らかくてついつい押して遊んでしまう自分がいる。

仕事仲間には妊娠を公言しているが、仕事のお客さん相手には内緒にしている。制服に着替えるのだが幸いなことに、女性の制服は体型がわかりにくいのである。7か月となった今もお客さんにバレたのは一人だけだ。疑われたこともあったがとっさに「違います」と言ってしまった後、さすがに無理があったかと思ったりもした。内緒にする理由も特にないのだが、色々言われるのも嫌だし、なんとなく黙っていたかったし、それを黙っていても業務や接客には支障がないので極力黙っている。

色々言われるのも嫌だが、ただじろじろ見られるのも嫌だったりする。おはようと言いながら腹を見ていたり、歩いている姿を明らかにみられていたりと、日ごろ煙のようにのらりくらりとやっている自分が妙に目立ってしまう。会話してる時に姿をみて世間話をする、ということなら自然なのでよいのだが、自分も妊婦を見たときは気を付けようと思う。当事者にならないと、してもらって嬉しいこともされたくないこともわからないことが多い。(ちなみに苦手な人や嫌いな人の前ではなるべくじろじろ見られないように猫背で動く。そういう人に限ってめざとく何か言ってきたりする。)

あとは食事や体重を気にするようになった。本当によく体重が増える。何キロまで太っていいというラインが各BMIであるのだが、気づけば結構ハイペースで増えていた。今まで太ろうが痩せようが気にしなかったのでダイエットするのは初めてだった。中の人が成長することを考えると実質私自身は痩せることになるのだろうか。結構便秘でも左右されやすいし、ラフなほうなので体重をはかるタイミングも適当なものなので、なんとなくダイエットしている。

ちょっと後悔というほどではないが、妊娠していること以外に色々忙しくなってしまったため、同居人と旅行に行ったり二人でちょっといい食事をするとか、そういう「やっておいた方がいい」と言われていることを一切できていない。ご時世的にできないというのもあるが、妊婦姿の日々の写真なんかもない。そもそも写真嫌いなので「撮って」というのも違う気がして同居人にもなかなか言えていない。

ご時世といえば、例にもれず会社でも例の感染症が発生してしまった。もはや気を付けていてもどうしようもないところまで来ていると思う。とはいえ、通常ではない私に対して様々な人がまた心配してくれるが言葉で心配するばかりで結局何かしてもらえるわけではない、というのをまた痛感していた。結局、人目をふりきって「おさまるまで休ませてくれ」と上司にお願いした。というかお願いしていたのを懇願に変えたともいう。妊娠も後期にさしかかってから罹患することのリスクが大きいが、それを理解している人は当事者ぐらいだ。会社の中でも感染症に対して慣れみたいなものがあるのかはたまた私が気にしすぎなのか、「そんな対策じゃだめだろ」と思うことばかりで罹患どうこうよりも発生したその日だけで既に精神的なストレスが大きかった。迷惑をかけるとは百も承知だが、わかってほしい。そしてそういうのは自分が妊婦じゃなかった時に少しばかり「思ってはいけない」と思いつつ思っていた、という自覚もあった。どちらのことも少しわかるようになった。どちらの立場にせよ、自分は行動で示せる人間でありたいと思う。

正直、御蔭様でこうして自分の時間をとることが今できている。

忙殺される日々に救われたり焦ったりしつつ、ベビー用品をやっと見る時間ができた。妊婦であることを実感する余裕がない中で、自覚せざるを得ないこともある。恥ずかしいことにもう少し特別な時間を、特別な人として過ごせると思っていた。けれど所詮はたくさんの同時進行の中の通過点に過ぎないのだ。それくらいでちょうどいいだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?