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生きた街でワークライフスタイルの探求を。 | LAC石巻「OGAWA」渡邊享子さん、渕上理佐さんインタビュー

着々と拠点が増えているLivingAnywhere Commons(以下LAC)。オープン目前のLAC石巻「OGAWA」に行ってきました。

拠点の運営管理を行う合同会社巻組代表の渡邊享子(わたなべきょうこ)さん、コミュニティマネージャーを務める渕上理佐(ふちがみりさ)さんに、現在の「OGAWA」の様子や石巻でのワークライフスタイルについてお話を伺いました。

「絶望的条件の空き家」からみんなでつくる、LAC石巻「OGAWA」

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最初に、LAC石巻の運営管理を行う合同会社巻組代表の渡邊享子さんに「OGAWA」についてお話を伺いました。

――まず、どのような経緯で「OGAWA」を開くことになったんでしょうか?

「OGAWA」はもともと、うち(合同会社巻組)が所有している物件で、活用しようという着想はあったんですが、普通にシェアハウスやゲストハウスをやっても限界なところがあると思っていて…。

「どういうコンセプトにしていこうか」というときに、これからの時代、多拠点居住や関係人口づくり、それからワークライフスタイルを変えていくことが大事だという考えに至りました。

それでLACを運営するLIFULLさんにお声がけして、ご一緒できないかと相談させてもらいました。LACの他の拠点は大きめの施設を利用しているところが多いですが、巻組が持っている物件はどれも小さくて「絶望的条件の空き家」です。「絶望的条件の空き家」とは、古くて立地条件が悪く、設備もされていない物件のこと。それでも、「ここはここなりの可能性を一緒に考えていければ」とおっしゃっていただいて、LAC石巻として開くことになりました。

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▲「OGAWA」の外観。左の建物が宿泊スペース、右の建物1階がお惣菜屋さん「SONO」、2階がコワーキングスペースです。

――なるほど。「絶望的条件の空き家」が拠点になるということは、リノベーションも大変そうですね。

そうですね。ただ、使う側もつくるプロセスに参加できるようにしたいなと思っていて。解体のプロセスやつくるプロセスを一緒にできるようなプロジェクトをいろいろと仕込んでいます。8月には空き家の廃材を活かした家具作りワークショップをしたのですが、そのとき参加してくださった方々はまたつくりに来たいとおっしゃってくれました。

▼ワークショップのレポートはこちら:

10月にオープン予定ですが、まだまだ完成していなくて、みんなでつくりながら進めていきたいと思っています。

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▲現在もリノベーション中の「OGAWA」

――みんなでつくっていくのは楽しそうですね!愛着が湧いて自分の家みたいな感覚がでてきそうな気がします。ちなみに「OGAWA」という拠点名はどこからきたんですか?

もともとの持ち主がオガワさんっていうのと、併設しているお惣菜屋さんの女性もたまたまオガワさんで。あと、拠点があるところは泉町なんです。そういうご縁で、流れる小さな川のようにぐるぐる巡る場所であってほしい、という意味を込めて。ちょっと無理やりですけど(笑)。

――素敵な名前ですね。いろんなヒトやコトがぐるぐる巡る場所になりそうです!

東京から移住してきたLAC石巻コミュニティマネージャー渕上さんが感じた石巻の魅力

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「フチコヤ」の屋号でフリーランスとして複数の仕事を持ち、LAC石巻のコミュニティマネージャーも務める渕上理佐さんには、石巻の魅力や今取り組んでいることをお伺いしました。

――渕上さんは県外から石巻に来たそうですね。どうして石巻に来ることになったんですか?

ちょっと話がさかのぼってしまうのですが、出身は静岡県で高校までは静岡で暮らしていました。小さいときからつくることに憧れがあって、建築を学ぶために京都の美大に入りました。でも、図面を引いて建物を建てることにあまり興味がなかったんです(笑)。建てることよりも、建築は最初になぜその建物を建てるのかっていうコンセプトワークがあって、そこの部分が一番好きで。

就職を考えたときに、コンセプトワークと近い作業は何か考えました。そしたら「編集」が近いかもしれないと思って。編集といえば出版だから、メディアの勉強をしようと東京の大学院に進学したのですが、出版関係のバイトをしたり、その業界の人たちと時間を共にしたりする中で、私がしたいのは出版の編集じゃないと気づきました。それから、もしかしたら紙面上じゃなくていろんな要素を繋ぎ合わせる編集、人と人とを繋げる仕事がいいかもしれないと考えるようになったんです。

それまでは東京だけで絞っていましたが、地方にも検索をかけはじめて、コミュニティマネージャーを募集していた「一般社団法人 ISHINOMAKI 2.0」という石巻の団体を見つけました。石巻は歩いていける距離に自然があるし、ちょうどいい田舎感が安心できて、やっていけそうな気がしたのと、震災後、ボランティアにも参加していなかったので、このタイミングで行かないともう行かないだろうなという思いもあり…。ちょっと行ってみようって感じで来ました(笑)。それがだいたい2年前くらいのことです。

――人と人を繋げる仕事を求めて石巻にたどり着いたんですね。最初来たときの石巻はどうでしたか?

石巻といえばテレビで見ていた震災時のイメージしかなかったので、正直マイナスのイメージが強かったんです。それが実際来てみると予想以上に復興が進んでいて驚きました。石巻は「萬画の国」(”萬画”家・石ノ森章太郎先生と深い関わりがあり、「石ノ森萬画館」もあります)でもあって、電車を降りたらキャラクターがたくさんいて、テーマパークかと思ったぐらい(笑)。

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▲JR石巻駅に着いてすぐキャラクターが登場します。

一方で、復興は進んでいたけど、土木の力はまだまだで、街自体がつくられている途中という感じがしました。東京は完成された都市が何度もつくりかえされているけど、石巻は一度ゼロになってしまったところから、またつくっていく。それも震災前に戻そうとするのではなく、新しい未来をつくろうとする動きがあって、街が生きていることを実感できる。そこに魅力を感じました。

試しながらつくる、石巻でのひとつのワークスタイル

――石巻に来てから、どんなお仕事をされていますか?

石巻に来てすぐは、一般社団法人 ISHINOMAKI 2.0に入社し、石巻市指定文化財である旧観慶丸商店の運営に携わったり、カフェやコワーキングスペースとして利用できる複合施設「IRORI」でコミュニティマネージャーとして働いていました。

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▲石巻で最初に建てられた百貨店であり、石巻指定文化財の「旧観慶丸商店」。現在は展示施設や貸スペースを併設した文化発信拠点として活用されています。

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▲被災したガレージを改装してつくられた「街のロビー IRORI」。複合的な文化施設として、街の交流の場になっています。

当時IRORIは、「オシャレすぎる、敷居が高くて入りづらい」と地域の人たちになかなか利用してもらえませんでした。様々なイベントを企画しましたが、地元の方に来ていただくのは本当に難しくて悩んでいたんです。

そんなときに「野菜を販売してもらえませんか?」とイシノマキファームさんからお話がありました。週に1回、地元で採れた新鮮な野菜を置くと、マルシェのような雰囲気になって面白いかもしれないと思いました。さっそくチラシを作って配ったら、野菜販売の日に普段はあまり来てくれない地域の人が来てくれたんです。地域の人と仲良くなれるツールは野菜だったのか!と感動しました。

それまでコミュニティは、まず箱をつくって、イベントを仕掛けて、人を呼び寄せるものだと思っていたのですが、野菜販売を通じて、箱がなくてもコミュニティができるんだと実感しました。それで、物を通してのコミュニティづくりを追求してみたくなり、会社を辞めて今はフリーランスとしていろいろ試しながらやっています。

最近はイシノマキファームや石巻の北上という地域で採れた野菜を「COMMON-SHIP橋通り」で週に1回販売しています。地域の人たちが買いに来てくれて、そこに小さなコミュニティが連鎖的に生まれるのがとても面白いんです。

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▲新しい事業を誰でも気軽に取り組める場として開かれている「COMMON-SHIP橋通り」。飲食店が入っていたり、イベントが開催されたりしています。(※2020年11月8日で閉場予定)

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▲野菜販売の様子。色とりどりの新鮮な野菜が並んでいました。

他にも、震災後にできた石巻工房のショールームが今年の10月にオープンします。そこでは、工房のスタッフとしてショールームの対応をする予定です。さらに、1階に入るイシノマキファームのカフェではカフェスタッフとして働き、2階の宿泊施設では宿泊業務にも関わらせていただく予定です。ほんとになんでも屋さんですね(笑)。

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▲石巻工房ショールームの外観。

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▲ショールームでは、石巻工房でつくられた家具の使い心地を体験することができます。

――そのうえに「OGAWA」のコミュニティマネージャーもされるわけですよね?!

はい、そうなんです(笑)。会社を辞めた直後はやっていけるか心配で「仕事ありませんか?」と、いろんな人に聞いていました。言い続けたおかげで、「OGAWA」のコミュニティマネージャーの話も巻組さんからお声がけいただきました。

石巻は街全体がハローワークみたいで、誰かに「仕事を探している」というと一気に広まります。ちょっと居酒屋で話したことが、広がって繋がるのが不思議なんですよね。発信する力があれば、「うちで働かない?」とかが自然に起こる街なので、何でも興味がある人にはいいと思います。変なことをしていても浮かないですし(笑)。

「OGAWA」のコミュニティマネージャーとしては、定期的にオンラインイベントを開催することになりました。記念すべき初回は「フチコの部屋 Vol.1~石巻で暮らすフリーランス女子ってどんな感じ?~」と題し、石巻で活躍されている先輩をゲストに招いて開催しました。多種多様なフリーランス女子が集まって、石巻のワークライフスタイルを探求する楽しい会になりました。今後も月1くらいで開催できたらと思っているので、ぜひ興味のある方はご参加ください!

そして、オフラインでも面白いイベントを仕込んでいくつもりです。石巻には暮らしをつくることを楽しんでいる人が多いと思っていて。つくられたものを楽しむんじゃなくて、自分でつくること自体を楽しむ、そんなイベントをしたいですね。「OGAWA」の拠点を一緒につくっていきたいのも、そういう想いがあるからです。

誰でも挑戦できる土壌がここにはある

――暮らしをつくる。それは仕事をつくることでもありますよね。一人ではなかなか難しいと思うのですが、渕上さんのように新しいワークスタイルに挑戦し続けている方は、周りにもいらっしゃいますか?

たくさんいますよ。私だけじゃなくて、石巻は専門特化するより複数の職種を伸ばして生活している人が多い印象があります。アーティストやクリエイターも多いですし。震災直後にボランティアで来た人たちが面白い動きをしていて、アパレルを立ち上げたり、ジビエをしたり、質の高い店舗を開いたり。

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▲街の中にいくつかギャラリーもあります。「石巻のキワマリ荘」はアーティストが住んでいる場所をギャラリーとして開いている面白い場所でした。

密度的な問題かもしれませんが、普通だったら埋もれていた才能の芽生えやすさがあると思います。自分の持っているスキルを試してみたい方にはピッタリの場所ではないでしょうか。

――最後に、LAC石巻「OGAWA」に興味がある方へ、メッセージをお願いします。

できれば1週間は滞在して、石巻を相対的に体験してほしいです。数日だけだと、萬画の街、震災の街というイメージで終わってしまうかもしれないので。街が生きているとか、クリエイティブな力が動いているみたいな部分を感覚として感じてもらえたら嬉しいです。あと、個人的には農業や漁業などの一次産業にも触れてもらえたらいいなと。地域のいろんな人を紹介できるので、来るときにはぜひ希望をお聞かせください!

LAC石巻「OGAWA」で新しいワークライフスタイルの探求を

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石巻滞在最終日、石巻全体を見渡せる日和山(ひよりやま)に行きました。ここからは、街と海が見え、渕上さんがおっしゃっていた、「新しい未来を築くために動いている人々、生きている石巻」を改めて感じることができました。

自分自身もスキルを試しながら、常に新しいワークスタイルに挑戦し続けているコミュニティマネージャーの渕上さん。お話しからもわかる通り、わずか2年という時間の中で様々な企業や団体と関わり、一緒にお仕事をされてきました。ですので、あらゆる方面で人脈が広く、数日の滞在でもいろいろな職種の方を紹介していただきました。

同世代くらいの若い人たちが思い思いの働き方に挑戦しているのを見ると、何か自分にもできるんじゃないか、ここでならやってみたかったことに挑戦できるんじゃないか、そんなふうに思えました。

巻組の渡邊さんが仕掛ける、絶望的条件の空き家「OGAWA」の可能性を一緒に考えてみたい人、渕上さんのように自分のスキルを試してみたい人、自分で暮らしや仕事をつくることに挑戦したい人は、ぜひLAC石巻「OGAWA」を訪ねてみてください。

《ライター・知恵里(ちぇりー)


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