コラージュ_デザイン思考

イノベーションの新たな方程式「ワーケーション × デザイン思考 = ∞」

ライター・エディターの以可多屋(いかだや)と申します。ランサーズ歴は浅いですが、主に企業経営者や現場の取材・記事執筆を手掛けています。

このたび、ランサーズが企画した「【1泊2日@伊豆下田】地域課題解決ワーケーション」に参加してきました。同イベントで開催されたワークショップのテーマは「デザイン思考」

そう、“シリコンバレー流”とか“デザイナーのように考える”といったキーワードとともに、課題解決やイノベーション創出のための新たな手法として注目を浴びているコンセプトです。

本記事では、新しい事業アイデアを求めている中堅・ベテラン経営者、そして幹部クラスの方々向けに、いま企業が「ワーケーション×デザイン思考」に取り組むべき理由について、下田での経験や感想を交えながらつづってみたいと思います。

いまさらながらのデザイン思考?

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「デザイン思考」……そう聞いて、「またか」とか「いまさら?」なんて思われる方もいらっしゃるかもしれません。

このコンセプトの提唱者として知られる米国IDEO社の創設者デビット・ケリーさんや弟のトム・ケリーさん、現CEOのティム・ブラウンさんの著作が翻訳されていることもあり、「デザイン思考」の考え方はすでに日本でも広く知られています。

また、パナソニックをはじめとして、大手メーカーが商品・サービス開発力の強化に向けて「デザイン思考」を導入したというニュースを耳にすることも増えてきました。研修などで「デザイン思考」のワークショップに参加したことのあるビジネスパーソンも少なくないでしょう。

そんなこんなで「企業視点から顧客ファーストへ」といったキーワードや、付箋を多用するブレーンストーミングなどの手法について、一定の知識を持っている人は少なくないはず。かく言う私もその一人でした。あるメーカーに関する記事を執筆したときに、「デザイン思考」について聞きかじったことがあったからです。

でも、今回のワークショップに参加して確信しました。「またか」とか「いまさら」なんてうそぶく必要は全くない--。なぜなら「デザイン思考」の真骨頂は”考え方”よりも、その場その場の“実践”にあるからです。

また、企業が社員を地域に派遣して、さまざまな専門分野を持つ人たちと「デザイン思考」の実践に取り組んでもらうこと。すなわち「ワーケーション×デザイン思考」は、企業に多くのメリットをもたらしてくれます。これこそまさしく本記事で主張したいポイントです。

デザイン思考の5つのプロセス

さて、今回のワークショップでは、「デザイン思考」の5つのステップ、すなわち「共感」「問題定義」「創造」「プロトタイプ」「検証」の流れに沿って、参加者みんなで地域的課題の解決策を練りあげていきました。

以下では、これら5つのステップを追いながら、「ワーケーション×デザイン思考」が企業にもたらすメリットについて考えてみたいと思います。

【共感(エンパシー)】「現場」を見る。人々の「声」を聞く

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「デザイン思考」は「共感」から始まります。「共感」とは、地元の人々が抱えている問題を“自分ごと”として捉え、理解するステップです。

具体的には、インタビューやフィールドワークなどにより、当事者自身が気づいていない本音や価値観を探り当てていきます。

今回のワークショップでは、下田市役所の職員や、地元の食品加工業、土産物店の経営者、空き家対策を行なっている方のお話をうかがった後、実際に街に出て、伊豆急下田駅周辺でフィールドワークを行いました。

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ワーケーションに参加している僕らはいわば観光客、地域の人々にとっては“よそ者”です。“よそ者”の視点に立ちながらも「共感」を試みようとすると、街の風景を構成するさまざまな要素が、なんらかの課題をはらんでいるかのように見えてきます。

僕なんかは、駅前の足湯を利用しているのが高齢者の男性だけだったということや、30分ほど歩いたらちょっと飽きてきたということさえも、下田市が抱える課題のように思えてきました。

「ワーケーション×デザイン思考」で得られる“よそ者”の視点は、ビジネスの現場でも役立つはずです。製造業を中心に「現地現物」あるいは「三現主義」(「現地・現物・現人(現実)」)をスローガンとして掲げる企業が少なくありませんが、「共感」は現場を見る目に変化をもたらし、新規ビジネスの創出に不可欠な「観察眼」を鍛えるきっかけになるからです。

【問題定義】~すべてのカギは「課題設定力」にあり~

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次の「問題定義」のステップでは、インタビューやフィールドワークで気づいた課題をできるだけたくさん付箋に書き出したうえで、ブレーンストーミングを行い、グループで取り組む問題を「どうすれば~できるだろう」という形式で定義していきます。

ちなみに、僕が参加したグループでは議論の末、「どうすれば飽きずに、楽しく、安心して歩ける街をつくれるだろう」という課題を設定しました。

「デザイン思考」では、この「問題定義」のステップがたいへん重要視されています。アウトプットの質は、課題設定のあり方に大きく左右されると考えられているからです。

例えば、ヘンリー・フォードはなぜ自動車を発明できたのか? それは「どうしたら速い馬車をつくれるか」ではなく、「どうしたら速く移動できるか」という問題を設定したからでした。つまり、良い問題を定義できるか否かが、イノベーション創出のカギを握っているのです。

初対面の人々と「問題定義」を行う作業は非常に刺激的でした。ブレーンストーミングの過程で「えーっ、それを課題として捉えるの?」というような気づきが得られることが少なくなかったからです。つまり、「ワーケーション×デザイン思考」はビジネスパーソンの常識の殻を破るきっかけになる。その意味で、企業の人材育成に少なからず貢献すると思われます。

【創造】&【プロトタイプ】早くつくれ! とにかくつくれ!

次の「創造」は、「問題定義」のステップで設定した課題に対して、グループの各自が思いついた解決案を次から次へと付箋に書き、ブレーンストーミングをして考えをまとめる段階です。

ブレーンストーミングでは「他人の意見を否定せず、むしろ乗っかってみる」「受け手の気持ちになる」を基本として、ポジティブな意見をガンガン出しまくります。

それに続く「プロトタイプ」のステップでは、一定時間内にアイデアをカタチにしていきます。

僕らのグループは、南海トラフ地震や東海地震による下田市内の津波浸水想定が最大33mということからインスピレーションを得て、「TSUNAMI33」という企画を考案しました。

マンホールに浸水想定高を書き、周辺の店舗や施設と連携しながらビンゴのようなスタンプラリーを行う仕組みで、防災意識の向上と地域経済の活性化が狙いです。

プロトタイプの製作は文字通り“スピード勝負”。細部にこだわらず「手を動かす」ことが求められます。このステップを体験してわかったのは、モノをつくりカタチにすることで、新たな課題が“芋づる式”に見え、ワークショップを経験するまでは考えもしなかった課題をつかめる点です。

「つべこべ言わず、まずはプロトタイプをつくってみる」――。この風土が根づいていけば、「石橋を叩いて渡る」どころか「石橋を叩いて渡らない」リスク回避志向を打破できますし、口を挟むだけで何もしない“口だけ人間”を減らすことができるのではないでしょうか。

その意味で、「ワーケーション×デザイン思考」は、チャレンジ精神にあふれた風土をつくり、組織を活性化する糸口になると思います。

【検証】~意外な好反応から、デザイン思考のぐるぐる回しへ

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最後の「検証」のステップでは、グループごとにプロトタイプを発表し、下田市役所の職員や地元で空き家対策に取り組んでいる方にコメントをいただきました。僕らのグループの「TSUNAMI33」は「今度、関係機関に提案してみようかな」なんて、意外な好反応をいただくことができました。

また、「検証」の後は、地元の方々を交えた懇親会が続きました。地産の美味に舌鼓を打ちながら、地元の方々やワーケーション参加者とざっくばらんに話をするなかで、

・下田市の林業の課題
・地方が自ら変化することの難しさ

など、フィールドワークや講義を受けるだけではつかめなかった課題が見えてきます。

飲み会といえば飲み会ですが、ワークショップに参加した後は問題意識が敏感になっていて、みなさんの言葉の端々にヒントが眠っているような気がしてくるんですよね。まぁ、飲み会といえば飲み会なんですけど。

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「検証」のステップや「懇親会」を通して学ぶことができたのは、1つひとつのコメントや雑談が、次なる「共感」や「問題定義」を生み出し、5つのステップを新たに踏むきっかけになるということです。

製造業を中心に、業務の効率化や、商品やサービスの品質を継続的に改善するには、

・計画(Plan)
・実行(Do)
・評価(Check)
・改善(Action)

から成る「PDCAサイクル」を回し続ける必要があるといわれますが、デザイン思考にも同じことが当てはまると思います。

企業がイノベーションを継続的に創出するためには、「プロトタイプ」をつくったことに満足せず、「デザイン思考」の5つのステップを楽しみながらぐるぐると回す習慣を身につけることが大切だと思うのです。

「ワーケーション×デザイン思考」で、地域に軸足を据えた”CSV先進企業”へ

本記事の締めくくりとして、企業が地方を舞台に「ワーケーション×デザイン思考」を行う意義についてあらためて考えてみたいと思います。

「ワーケーション」は、社員の心身のリフレッシュやモチベーション向上につながりますが、「デザイン思考」と組み合わせることで、「オープンイノベーション」の幅を広げるきっかけになるはずです。

フリーランスを含めたさまざまなプレイヤーとの連携によって、予定調和には収まり切らない活動が生まれ、新たな事業の創出につながることも十分に考えられます。それと同時に、「ワーケーション×デザイン思考」は近年、話題に上ることの多い「CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)」につながるのではないでしょうか。

「CSV」は、競争戦略論の大家として知られるハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱したコンセプトで、企業が社会的課題の解決を図ることを通して、経済的価値と社会的価値の双方を同時に追求することを意味します。一言でいえば、本業を通じた社会貢献

「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」や「SRI(社会的責任)投資」に対する注目の高まりとともに、「CSV」の視点はますます重要になりつつあると言われています。

「CSV」の追求の仕方は、企業によってさまざまな形があって然るべきだと思いますが、「ワーケーション×デザイン思考」への参加がその起爆剤になるとしても不思議ではありません。

例えば、今回のワーケーション企画で利用させていただいた株式会社LIFULLの共同運営型コミュニティ「LivingAnywhere Commons(LAC)」。同コミュニティはLIFULLが蓄積してきたノウハウを生かして交流人口の増加に寄与しているという意味で「CSV」の実践そのものだと思いますが、それを活用する企業の「CSV」実現を後押しします。

「LAC」を舞台に「ワーケーション×デザイン思考」を実践し、自社の強みを生かしながら、地元の人々と一体となって社会的課題の解決を図ることで、企業価値を高めていけるはずです。

こうした意味において、「ワーケーション×デザイン思考」はイノベーションの新たな方程式であると同時に、無限大(∞)の可能性を秘めていると言っていいでしょう。

<ライター・以可多屋(いかだや)>


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