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女性誌生存戦略から学ぶ、変化の時代の軸となるブランディングのつくりかた #文藝春秋digital #イベントレポート

「雑誌」が好きです。

初めて買った雑誌は、集英社の『SEVENTEEN』。母から「あなたまだ12歳じゃない、17歳ってだいぶお姉ちゃんよ」と言われたことを、すごく覚えています。

大学で服飾を学んでいた頃の女性ファッション誌を思い返すと、広告がめちゃめちゃ入った分厚い仕様でした。ただでさえ重たい荷物を持ち歩くのに、さらに重たい雑誌を入れて通学したことも、良い思い出。(持ち歩きたいくらい可愛かった)

アパレルブランドで販売員をしていた頃も、雑誌に掲載されれば電話が鳴りまくり、取置きで即完売してしまうような時代でした。

いつからでしょうか。

大好きだった雑誌の休刊が決まったり、形が変わったり。それと同時に「雑誌業界は厳しい」という言葉を聞くようになりました。

そして、昨今のコロナ禍による影響。多くの業界が変わらざるをえない状況に直面したなかで、雑誌業界にもたくさんの変化があったはずです。

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今、ラブソルでは小学館『Domani』のオンラインサロンの運営に携わっています。

働く40代を応援するファッション誌『Domani』も、この春から媒体の形を変え、紙の雑誌からデジタルへと移行したばかり。

オンラインサロンの運営という形で憧れのファッション誌に携り、編集部の方々を少し身近に感じられるようになったことで、それこそ「こんな素敵な方達が想いを持つ雑誌業界とは本当に厳しいのか?」と興味を持つようになりました。

そんな時に、目に入ったのが文藝春秋digitalで行われたこちらのイベント。

“女性誌生存戦略”

めちゃめちゃ面白そう! と、視聴させていただきました。ラブソルメンバーがそれぞれ興味のあるイベントに参加し、レポートをするテーマウィーク。 #イベントレポート の最終日はコンテンツ事業部のさよがお届けします。

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このイベントに登壇されていたのは、『家庭画報』の編集長 千葉由希子さんと、「Precious」・「MEN’S Precious」の編集長 守屋美穂さんのお2人です。

『家庭画報』
1958年創刊 / 毎月1日発売

「夢と美を楽しむ」がコンセプトのライフスタイル雑誌

料理・ファッション・美容・医療・インテリア・建築・伝統文化etc…人生に関わる話題全般を取り扱っている

戦後、当時の社長がアメリカでビジュアルの多い雑誌を見たことがきっかけで、日本を明るくするために「写真で見て伝わる綺麗な雑誌を作りたい」と創刊。紙質や印刷の綺麗さにもこだわっている。数年前から、プレミアムライト版という2/3サイズ&重さ半分の形でも出版。病院や銀行など、人々が集まる場所に置かれることが多いため、コロナ禍においてはプレミアムライト版にいち早く抗菌加工をかけるなど、安心して手に取ってもらえるよう、変化させている。
『Precious』

2004年創刊 / 毎月7日発売
小学館が出版する女性ファッション誌。『Domani』のお姉さん的立ち位置で創刊された。『Precious』のコンセプトは「ラグジュアリーな生活をしながら働く女性のためのファッション誌」。ハイブランドのお洋服やジュエリー・バッグ、また体験を、リアルな視点でどう楽しむか?という切り口で情報発信をしている。

コロナ禍による雑誌制作の変化、紙媒体からデジタル媒体への移行、雑誌のブランディングの守り方、時代に合わせた新たなチャレンジなどなど、正しく生存戦略を、学ばせていただきました。

その中から、特に心に留めておきたいなと思った部分をシェアさせていただきます。

変化を強いられる時代に、「らしさ」をどう残すか

イベント冒頭、まず話題となったのが「コロナ禍での雑誌制作について」。

女性誌の収益は主に、雑誌自体の売上+広告出稿費によって成り立っているそうで、普段外資系ブランドの広告出稿が多い2誌にとっては、その本国であるヨーロッパのロックダウンなどは影響が大きかったそうです。

制作においても、海外出張や遠方での撮影はなくなり、都内で密にならない体制での撮影に変更。取材もオンラインがメインになったそうです。

「大変だった」確かにそうなのですが、お2人から出た言葉は、「でも、おかげで新しい変化を迎えられた」ということでした。

『家庭画報』千葉さん
広告の延期やキャンセルは確かにあったものの、おかげで新しいクライアントとの出会いや取り組みが増えたことも事実。インタビューがオンライン化したことで最初は戸惑ったけど、世間で話題になった海外の方への取材のハードルが下がるなど、取材対象者が大きく広がった。紙面に使う写真も、双方で撮影してもらい、紙面で合成するなどディレクションを加え、新たな表現を模索していけた。
『Precious』守屋さん
2020年夏以降にデジタル化が一気に進み、紙媒体への広告出稿が延期・キャンセルになった場合でもデジタル広告に興味を持つクライアントが増えた。『Precious』は雑誌掲載されたアイテムへの問い合わせ率がすごく高い媒体であることが特徴だけど、デジタル化が進んでもその傾向は変わらなかった。デジタル化といってもPV数だけを狙わず、本当のファンを増やす、質の高いコンテンツ作りに取り組めている。

どちらの雑誌も変化に流される印象はなく、変化の時代でも「どう、らしくあるか」を軸に置いていた印象を得ました。

この「らしさ」。最近では「ブランディング」と表現されることが多い気もしますが、雑誌だけに止まらず、あらゆる場面で大切だと言われていますよね。

私もライターとしてさまざまなお仕事をさせていただく中で、「対象物をどう、らしく表現して見せていくか?」ということは、個人的にもすごく勉強していきたいところです。

歴史ある雑誌を率いる2人の編集長は、それぞれどのように「らしさ」を表現し続けているのでしょうか。

「らしさ」をどう見せていくか?

以前、『家庭画報』に羽生結弦さんの特大ポスターが付録としてついたことがありました。

由緒正しい日本の文化を伝えていく雑誌という印象を持っていた守屋さんは、これにとっても驚いたそうです。「『家庭画報らしくない』と言われてしまう怖さはなかったのか? どのように「らしさ」と新しいものを掛け合わせていっていますか?」という問いかけに、千葉さんはこのように答えられていました。

「こうあらねば」とは、考えすぎない。人が不快になる・傷つける以外のタブーはなく、扱ってはいけないテーマなどそもそもないから、いかにその話題を「らしく載せるか」の方を、よく考えています。

『家庭画報』で編集者としての修行を積んだという千葉さん。入社当時から先輩が教え続けてきてくれたことは、「家庭画報らしいか? らしくないか?」という視点だったのだそう。

編集の仕事は、時代の空気に名前をつけること。今の時代はどんな流れで、読者は何を求めていて。それらを敏感にキャッチしながら、ピックアップした話題を『家庭画報らしくしていく』とのことでした。

なるほど。「らしいものを選ぶ」のではなく、「らしさをまとわせていくのか」と、腑に落ちた部分でした。

『Precious』の守屋さんも、「“Preciousらしさ”とは、どのようなトピックであっても解釈の問題では?」とお話ししていました。

例えば、今、世の流れはSDGsやサステナブルな取り組みへと進んでいますが、「ファッションとSDGs」「雑誌とサステナブル」は、なかなか表現が難しいのだそうです。(確かに、常に新しいものに出会わせてくれる媒体ですもんね…)

ただ、世の流れがそうなってきている以上、難しいからといって、無きものにはできない。

だからこそ、「『Precious』らしい見せ方」を模索したのだそうです。

そして出来上がったのが、『Precious』読者が知るラグジュアリーブランドが取り組むSDGsやサステナビリティを紹介した企画。読んでもらえるように綺麗に構成し、ファッション誌としては異例の巻頭ページに入れたところ、読者アンケートでは特に若い読者層からの支持を集め、面白かった記事No,1に選ばれたのだそうです。

らしさを守るのではなく、時代に合わせて変化させながら、残るもの「新たならしさ」として付け加えていく。

なるほど、「らしさ」とはしなやかでいいのだな、となぜか少し親しみやすさを感じました。

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あっという間に1時間半。お二人がお話ししている姿を拝見しながら、語り口の柔らかさや思考のしなやかさが素敵だなと、惚れ惚れと聞いておりました。

憧れの「雑誌という媒体」を作る女性たちとは、やはり憧れてしまう女性像なのだな、なんて思ったりして。

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このイベントを見る前に感じていた一つの疑問。

「こんな素敵な方達が想いを持つ雑誌業界とは本当に厳しいのか?」

イベント参加後に私が感じたことは、「発行部数の増減という意味では厳しいという言い方もあるかもしれないけれども、作り手たちの情熱は変わらない」ということでした。

より「らしさ」を濃くし、それを求める人たちが確固たるファンとなる。その「深さ」が、雑誌には求められているのだなと感じました。

そういった意味では、『Domani』という女性ファッション誌の濃いファンたちが集まるオンラインサロンという場は、これからの雑誌の形として新しい存在感を示せるのではないか。そんなことを、感じました。

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やっぱり、いいなぁ。これからもたくさんの新しい出会いや気付きを求めて、雑誌を読み続けようと心に決めました。

アーカイブも見られます。ご興味ある方は、こちらからどうぞ。

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