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中道ファシズムの野望

 保守はともかく右派ナショナリスト、民族主義は国際連帯は不可能でした。そもそも自国第一主義で、民族主義者が他の民族主義と団結するにはかなり骨がいる作業です。極右の勢力が著しい欧州でも、フランス極右のマリーヌ・ルペンとイタリア極右のジョルジャ・メローニではEUに関する温度差が違い、ドイツの極右「ドイツのための選択肢」はナチスの警戒感なのか欧州極右の枠組みからパージされているのも現状です。
 ただ緩やかな連帯は可能です。スペイン極右の組織「VOX」はマドリードにて、世界の極右指導者を集めたイベントを開催しました。アルゼンチン極右のハビエル・ミレイやイスラエル極右のリクードまで集まったこの「極右のインターナショナル」は一万人を集めたとされます。よく集まれたものです。ハビエル・ミレイはそもそもネオリベ的ポピュリズムで、保護主義政策の欧州極右とは経済政策に一線を画しているのですが、「リベラル」という言葉に反発する一点だけなら団結は可能なんでしょう。1から10まで一致する必要は無いですが、それこそ求める国家観が違うのに「極右のインターナショナル」と自称できてしまうのは、ある種の彼らの能天気さがそれを可能にしています。
 こうした保守票を旧来の穏健右派政党は地盤を侵食されているのが現状です。全体主義に反対してきたヨーロッパの保守政党は極右と連立、極右の加入戦術で党自体が乗っ取られる危機に瀕しています。資本主義の勝利に喜んでいた保守派は、皮肉にも反自由主義な政党の台頭に自滅しつつあります。イギリス保守党やドイツのキリスト民主同盟がその実例です。党内極右勢力が極右と連立したがっている。止めたいが止めれば執行部は乗っ取られる。経済成長こそ正義と押しつけ、それに取り残された人たちは極右に取り込まれ、保守政党はいつのまにか貴族の党に成り下がりました。後がない人たちの支持を受ける極右の方が貴族より余程生命力が強いものです。今後世界でもこう言った動きは出ると思います。「右や左ではなく前へ」と言ったスローガンはある種保守派の新自由主義政策の言い訳のように使われていきましたが、今や極右が保守を食いちぎるための論理になりました。彼らでは極右を止められません。親和性がいる人が多ければ多いほど乗っ取られるでしょう。
 さて本来なら、こうした極右の侵食を食い止め、明確に対決し打倒せねばならない左翼陣営は中道路線と急進左派路線の党内対立がある。とマスコミでは言われ続けました。日本では保守二大政党制を目指す人も多かったのですが、その野望は2017年に完全に否定されています。自民党がそもそも保守政党なのか?という事はひとまずおいて、維新の会が結局自民党の浪人をかき集めている事から第二自民党はいつまでも第二のまま。彼らは自民党を食いちぎるのは不可能でしょう。吸収される可能性は大いにありますが。なるべく穏健的な政策を目指す中道派とそもそも社会の仕組みを作り変える急進左派では対立点も多いです。ただこうした対立も議論が深まり、政策が煮詰まれば左翼の政党として一皮むけると思いますが、現実は非常なり。中道だと言い張り、ファシストのような振る舞いをする中道派。中道とは便利な言葉です。そもそも幅がどこまであり、どこを持って中道なのか理解するのは不可能です。ただ組織運営も穏健的なら、それでいいはずでした。ですが自称中道派は平気で人を排除します。

イギリス労働党の悲哀

 イギリス労働党はトニー・ブレアが党首になってから、福祉国家路線を事実上放棄し「第三の道」路線を推し進め、労働党の右傾化ならまだしも社会主義や社会民主主義すら捨ててしまいました。こうしたブレア路線の左翼政党はイギリスだけじゃなく世界中に広がっていましたが、こうした市場経済の成長路線に頼った政策は、そもそもビジネス側が政治に頼らずグローバルに展開する事で破綻した路線です。ただソ連を否定する日本共産党は、レーニン主義を引きずったまま組織運営をしているのと同様に90年代のブレアの栄光の残滓に夢を見ている左派も多いです。
 ジェレミー・コービンは嫌気がさした労働党の右傾化を反発して、サッチャーで傷つけられ、ブレアからもハシゴを外された労働組合の熱烈な支持があって誕生したブレア労働党よりも新しい労働党でした。当然ブレア残滓は多く反発しましたが、党内ではブレることがなく今でも敗退した学生運動の延長戦を国会でしぶとく生き残っている老左翼に託したわけです。党首になってからコービンの運営は稚拙な面も出ました。しかし労働党の公認を外されたのは「反ユダヤ主義に対応できなかった」というどうとでも理屈がつけられる便利な言葉です。挙句に無所属で出馬を決めたコービンに対して労働党は除名しました。労働党党首キア・スターマーはコービン路線を踏襲するかのように自分は社会主義者であると公言しながら党内の権力を握った途端、間違いなく批判勢力になるコービンらトラディショナリストを排除しました。彼は中道派だから、こうしたファシスト批判は当たらない、むしろ党内団結を乱そうとする左翼勢力は党から追放すべきだ。そして実際政権の座につけば保守政党も躊躇うようなネオリベで、強権的な行動でマスコミまで威圧し、経済界に気を使いながら世論を気にして移民攻撃に走る。経済界は今の移民がいなくなっても、労働力さえあればいいのです。前は移民と呼ばれたが、今ではドリーマーと呼ばれているとまで言わないでしょうがグローバル化された現在、屁理屈の語彙力だけは上がっています。スターマー労働党に異議あり、私が有権者なら労働党に票を投じる事はありません。私の1票は極右を打ち砕き、冷徹な中道主義者を打倒する1票にします。

アメリカ民主党とバーニー・チルドレン

 バイデンとトランプ次期大統領はどちらかという報道が加熱しています。共和党内はすでにトランプ派が主流となり、反主流派は面従腹背なのでしょうが力を失っており少なくともトランプ以降ではないとかの党の極右化は止まらないです。アメリカ議会はすでに日本の旧帝国議会のように政治信条を捻じ曲げて、政局型議会制になっています。立憲政友会と立憲民政党は自由で民主主義的な政党だったはずですが、市民から見放され軍部の台頭に抗えず最後は自壊しました。アメリカの民主主義はその点を危惧します。アメリカ民主党は今や党内主流派とバーニー・サンダース肝入りのプログレッシブグループと熾烈な権力闘争が始まっています。特に最近あまり名前が聞かれなかったアレクサンドリア・オカシオ・コルテスはニューヨーク州の州議会議員に続々と自身の系列を予備選に立候補させ、ベテラン民主党地方議員と激しい選挙戦です。これは全米各地の民主党でも似たような事例が行われています。この権力闘争で、どちらかが排除される場合はアメリカ民主党もすでに歴史のゴミ箱に行くべきでしょう。まともな権力闘争をしているだけイギリス労働党よりはるかにマシです。私はジョー・バイデンは確かにバーニーより大統領の素質は高いと思います。ですが主眼はそこではなく多様な意見がぶつかり合って、一方に偏らず熟慮しながら前進する。何でも完璧にこなせる人間はいませんし、人は失敗するものです。それに対して厳しい意見もありますが問題はそれらに対してどういう改善策を打てるのか。批判意見が無くなった時、組織は活性化する事なく個人のカリスマ性だけで運営されます。それに対して何も言えないのなら、スターリンと同じ大粛清下の世界です。

中道ファシストとの対決

 私は泉健太、玉木雄一郎共にいわゆる「真空政治家」だと思っています。政治改革を目指すという漠然とした大きな目標があるもののそれが市場経済に重きを置くのか、一定の国家資産を社会で共有するシステムにするのか、それともいっそ鎖国がしたいのかゴールが明確な国家観はないでしょう。民主党自体そもそもそういう人たちの集まりでした。自民党の国家観がもはや機能不全で、そのシステムも劣化しているのにズルズルと2009年まで政権交代できず、たった3年で潰してしまったのは、目指す国家観がなくそれを曖昧にし世論を見てコロコロ政策を変えてきたのが実情です。左派が強ければ、彼らは左派に近い立場を取り、右バネが働けば「中道」になろうとします。中道になるだけなら、まだしも中道や党内団結を理由に排除を始めたら、それは崩壊の道です。私は泉健太をそこまで信用できません。人柄はいいでしょう。少なくとも党内団結は今のところ達成し一定の組織内民主主義も確保されています。党内の右翼に染められた元小沢一郎系列の玉木雄一郎よりかは随分ブレてはいない方だと思います。
 フランス・マクロン政権を見ていれば分かるように、中道派は穏健派を装いながら格差を是正する気がない政策を中道であるという事を理由に強行します。イギリスのトニー・ブレアはサッチャーすらできなかったNHSという国民医療制度を一部民営化しました。今やスターマー次期首相の「指南役」です。暴力を否定しながら、反対運動には暴力で解決しようとする。綺麗事を言いながらビジネス界の顔色を伺い労働者には更なる苦を強いる。移民政策自体は慎重論が多いが移民の人権問題に対しては熱心に取り組むべきなのに関わらず、極右から対抗で強烈な反移民法律を通そうとする。だけど彼らは中道。中道だから強行策ですら中庸に見られるのです。
 こうした姿勢が労働者票を極右に奪われた要因です。権力闘争だけには長けている中道ファシスト達は政権を握った時、一体何をしでかすのやら。「道の真ん中を歩けば車に轢かれる」イギリス労働党左派の重鎮だったアナイリン・べヴァンはそう答えました。臭いものに蓋をする対応は右派だけではなく、左派にも当然います。政権を取るためには経済界との妥協は必要です。そこまでは否定できません。ただ少し思い上がりがすぎるのではないでしょうか?個人を応援する気持ちは理解できます。人間性が優れていれば信条の違いでも仲の良い友人になれるでしょう。だからこそ個人を過剰に持ち上げるネット世論は危うさもあります。枝野幸男再登板論が出てきています。典型的な中道派の枝野が中道ファシストになる未来は考えたくないですが、彼も「真空政治家」の性質はバッチリ持っています。中身がない人は一色に染められる可能性がある。全体主義に陥らないためには何が何でも党内野党の存在が必要です。バーニーやコービンはそうした左派のうるさい親父でもあり、左派の幅広さと自由闊達な組織運営を重んじる役割を果たしていました。立憲民主党の場合は小沢一郎というタカ派のネオリベで選挙のためなら訴えを変えることができるが、本性は日本をいわゆる「普通の国」にするネオコンです。左派政党がネオコンにどやしつけやれては、ウンザリだし、多分左派と皆思ってないでしょう。それなら市井の左翼が常に立憲民主党をうるさい親父やうるさいおばちゃんになって党内のファシスト化を防ぐのです。ファシストの創始者、ベニート・ムッソリーニは社会主義政党イタリア社会党から右翼に転向しました。その組織運営は左派政党を応用したものも多かったです。左派は極右に染められる危険性は常に持っていた方がいいです。自由は天から降ってこない。勝ち取るものです。


noteで私の拙い文章を公開して100本目です。次は1000本を目指して前進します。私の意見は私の意見であり、何ら団体に縛られているものではありません。


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