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労働金庫物語

 日本全国にある労働金庫は発祥は戦争復興の際、個人の労働者にはほとんど貸付を行わなかった都市銀行や地方銀行に代わって岡山に労働者自主運営の「労働金庫」が設立。これは意外に海外では類似の事例がなく世界的にもかなり特殊なものです。私は共済と一応労金の推進委員も兼任というか他にやる人もいなかったので、やっていたわけですが労金のメリットを言えば団体加入だとちょっとお得、それ以外なら正直他の金融機関で話を聞いた方がいいと思っています。
 本来労働金庫が他の金融機関を圧倒しているなら労働組合の組織化のための大きな原動力になるのですが、そうではないので推進委員と言われても困ってしまいます。労働金庫も今は普通の金融機関と同じお客様と銀行の関係になってしまったとも思います。最近売り手市場ですが、労働金庫の総合職を目指している就活生も多いと聞きます。間違いなく「安定感」だけはピカイチですから。労働運動において「安定感」より「セーフティネット」としての役割を期待したいのですが。労働金庫は始まりは間違いなく労働者の自主福祉運動でしたが、今は産別の天下り先になっている現状があります。実際労金の理事長のポジションは地方の連合会長が任期を終えて退任した時に、就任するポジションなので自主福祉と言いながらその範囲を若干狭めている印象もあります。ただ預金残高は名だたる地銀を抑えています。労働組合の資金がそのまま労金に預けるため、首都圏の労働金庫である中央労働金庫の残高は7兆円近く。東海や近畿の労働金庫も2兆円程の残高があるため、全てを合わせると日本最大の地方銀行である横浜銀行とそう遜色ありません。労働者の金融機関がもはや都市銀行レベルの営業活動を展開し、すでに大口顧客を複数掴んでいる。あえていうなら「普通」の金融マンに比べると随分営業もハードルが低いです。

オルグから営業へ

 かつて労働金庫の職員は営業マンというより、オルガナイザーでした。新しく新規の労組に団体で会員になってもらう活動を「オルグ」といっていました。労働金庫の組織化=労働組合の組織率と資金力の象徴でした。現在オルグが行われた結果、労働組合に労働金庫の推進委員を置かない団体も増え、組合も「労金なんだから、低金利で貸してくれるのは当たり前だろ?」という普通の金融機関を相手にするような人もいますが、これは自主福祉運動であり、労働金庫も元々は支え合い、共助が基本でした。労働金庫がいつの間にやら金融資本の一角で、日々ネット銀行や都市銀行と大型地方銀行の競争に晒される金融資本主義を是認する労働運動もなんだか茶番を見ているようです。
 これはどんな組織でも言える事ですが、ダブついた資金をただ寝かせるだけでは1円も増えていかない。そのため組合費の運用を考えバブルの時代は不動産を買い漁り、現代では投資信託に熱心な労組役員も多いです。一部連合から離脱した労組がありましたが、そうした組織の運用失敗の責任を取らされる前に「連合を脱退してこれからは節約しますね」というポーズを取る事で、自らの責任をうやむやにした某地方の労組がありました。語るに落ちる労働運動家。残念な事ですが、こうした不祥事の遠因は企業別労働組合の宿命にあります。
 労働金庫側も労金に融資を断られたけど、他の金融機関に行ったらローンが取れたとの報告を何十件も受けています。労働金庫も経営判断はありますが、労働金庫の歴史は銀行に見捨てられた労働者のための金融機関で別の金融機関の方が労働者にとって頼りがいがあるなら現在の体制は果たして正しいのか?しかも断った人は労働組合員です。労金も労働組合を信用しなくなったと言われれば、やはり気持ちは複雑です。

後退する労働金庫改革

 生協を母体にする社会福祉法人の特養建設のための融資を労働金庫が断った事例がありました。融資したのは、市中銀行でした。NPO団体の融資も提出書類が多くて分かりにくい、審査が長すぎるなど拝聴すべき意見が多々あるそうです。もはや金融資本主義体制にガッチリと型に嵌められ、優良保証を営業文句にするようなら正直いくら推薦委員がいても一般組合員が口座を作るまでには至らないです。労働金庫の貸付も生活資金は半減し、住宅ローンは4倍になっていると公表しています。住宅ローンビジネスは長く安定している割には債務不履行になっても不動産は差押えができるので「一般の」金融機関にとっては利益が回収しやすいでしょう。
 一方本来なら本格的に争議に使われる闘争資金が途中解約され、労金の口座から引き落とされるという自体を招いた労働組合もあります。相次ぐ春闘の敗北は流石に組合員から突き上げを食らい、闘争資金を切り崩した団体が非常に多いです。会社がゼロ回答だったので、会社の代わりに闘争資金から一時金を支払ってあげる。労働金庫もこういったダメ労組役員には頭が痛いでしょう。本末転倒とはまさにこの事です。闘争資金は闘争なき組織においても、重要な財産で資本が雇用を脅かした時、会社の代わりに一時金支払ったので、ストを打つのにお金がありませんとでも言うつもりでしょうか?実際そうなってしまうのでしょうね。

賃金も権利も

 現在労使交渉の際、ESOPの導入を要求に入れる事が議論されています。ESOPとは、「従業員税制優遇自社株配分制度」と言われ、基本的に退職まで売却はできないですが、その代わり労使交渉だけではなく株主としても交渉できるものです。これは企業側も旨みがあり、企業が報酬制度としての拠出になるので損金扱いで計上できます。賃上げも重要ですが、取れる権利は全て取っておく、自社株を持つ労働組合は最近急増しています。ゼンセンもその点はかなり熱心です。そごう•西武労組も株主として権利を大いに活用しようとしましたが、結果としてストライキになりました。ですが、戦術には幅ができるのはいい事です。
 労働金庫誕生がもうすぐ80年です。最近ではただの出入り業者の一つ扱いの全労済と労金ですが、元々は労働者が自主的にお金を出し合って運営する「自主福祉」でした。その理念は労働金庫も労働組合もすでに忘れていまっているようです。労働組合は資本主義に対抗する組織で、その中で社会主義を選択しました。こうした社会主義という政策が悪い事であると言われ続け、資本主義に阿った結果、多くの産業が滅び去りました。その代わり新しい産業も生まれましたが、一から立ち上げのためにまさに人を雇う体制が整わないまま運営されています。この前にあったグループホーム「恵」の不祥事はまさにその事例です。生産手段の共同所有によってのみ、完璧な個人の発達が望めると信じるから。と言ったのはウェッブ夫妻の妻、ベアトリスの言葉です。考えてみれば深い言葉です。自由を追い求めた結果、人に迷惑をかける事も表現の自由と言われる現代においてベアトリスの言葉は重く響きます。


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