見出し画像

「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」第21話〜U様宅〜

本日のお客様はU様。

U様は、とても物静かなお客様でした。

メールでエアコンクリーニングのご依頼をいただきましたが、設置場所の状況など確認したいことがあり。
メールでの返信がなかったのでお電話で確認すると、こちらからのご質問にも小さな声で「はい」と言うだけで、ほぼ無言。

当日、お伺いした時も「はい、いいえ」以外はほとんど話さず。

(人とのコミュニケーションが苦手な方なのかも)
そう思いつつ、クリーニングのセッティングをしました。

いつもは2名1組でエアコンクリーニングを行うのですが、真夏のエアコンクリーニング繁忙期でご依頼が重なったため、その日は私一人でU様宅のエアコンクリーニングに伺っていました。

ご家庭のエアコンクリーニングを行う際、エアコンの下に家具が置かれていることが多いので、たいてい片付けから始めます。

移動できるものは移動し、難しいものはビニールなどでカバー。
床や周りを濡らさないように養生して、ようやくクリーニングに入ることができます。

U様はロフトベッドとデスクが一体型になったアイアン家具をお使いで、お部屋のスペースの関係上、移動ができない状況。
秘密の道具をベッドの足にセットしてスライドさせ、脚立を置くスペースをなんとか確保しました。

エアコンのカバーを外し電装部の養生をしたところで、なにやら視線を感じ……
振り向くと、ロフトベットで寝転ぶU様が30cmの距離でこちらをジーッと見ていました。

(うわっ!ビックリ!)
内心驚いた私でしたが、平静を装って……

「これからクリーニングに入ります。高圧洗浄機の水しぶきが飛ぶかもしれませんので、少し離れるようお願いします」

そうお伝えして、作業に集中。
アルミフィンの目に沿って、ゆっくり丁寧に高圧洗浄機の洗剤をかけていきます。
シロッコファンや水受け部分など一通り洗い終わった後、汚水を確認していただくのですが、たいていカビやホコリでバケツの中は真っ黒になります。

U様にもバケツの汚水を確認していただこうと脚立をおりると、すぐ後ろにU様がいてまたまた驚き!
(U様、こんな近くでご覧になっていたのね)

「エアコン内部を洗浄した汚水をご確認ください。今は真っ黒ですが、すすぎを行った後の水は透明になっていき、キレイになったのが確認できます」

「このバケツの写真を撮っていいですか?」
(初めてお話しされた!)

「もちろん、大丈夫ですよ」
「作業中の写真も撮っていいですか?」
「ええ、どこかに販売などしなければ大丈夫ですよ」

ジョークを含めてお答えしたつもりでしたが、U様は笑わず目がキラリと鋭く光った気がしました。

汚水のバケツをどけて新しい水受けバケツをセットし、エアコン本体のすすぎを行う私。
その後ろでカシャカシャ、シャッター音がします。

(U様に写真OKって言っちゃったけれど、おしりとか写されていたら嫌だなぁ)

そう思いつつ、お掃除を進めます。
1回目のすすぎが終わり、バケツを新しいものに交換しようと脚立をおりた時、しゃがんでこちらを見ているU様と目が合いました。

どうやら下からのアングルで写真を撮っていた様子。
パンツを履いてエプロンを巻いているとは言え、股下は写真を撮られたくない位置です。

(U様、ヤバい人かもしれない……刺激しないように写真を断ろう)

「申し訳ありません。作業中の写真はOKだとお伝えしましたが、洗浄中の水しぶきでカメラが壊れるといけませんので、1mほど離れた場所で撮影をお願いできますか?」

「…はい」

「ありがとうございます」

U様は素直に離れてくれましたが、浴室をお借りしてエアコンカバーを洗っている最中も、ドアのところからこちらをジーッと見ていて落ち着きません。

(U様、ちょっと変わっている方かも。やっぱりパートさんも連れてくればよかった)

万一に備えて、他のスタッフにショートメールで連絡。
エプロンのポケットに入れた携帯電話を通話状態にしつつ……なんとか作業は終了。

エアコンの動作確認をしてお会計を済ませて無事に帰ることができました。

(ちょっとこわかったなぁ。次からは男性スタッフに行ってもらおう)

事務所に戻り、お客様ごとに管理しているデータに『※U様は男性スタッフが対応』と一言メモを残しました。

その翌日から……
私の仕事用携帯に、無言電話がかかってくるようになりました。
それも『非通知』で。

最初はお客様かも?と思って出ていましたが、何度出ても何を聞いてもずっと無言なので、スタッフが『非通知拒否』の設定をしてくれました。

それで落ち着いたかと思いましたが……
今度は『公衆電話』からの着信で無言電話がかかってくるようになりました。

朝昼夜だけでなく夜中にも電話が鳴ることもあり、さすがに迷惑。

「警察に相談した方がいいですよ」

スタッフに促されて、警察署に行き、着信履歴を見せながら状況を説明。
「相手に心当たりは?」と聞かれ、すぐには浮かばなかったのですが……
U様の現場の直後から始まったと思い出し。

「○○区にお住まいのU様が、ちょっと変わった行動を取る方で……」と話した時に、ちょうど『公衆電話』からの着信がありました。

固定電話と違い、公衆電話は逆探知できないと思っていましたが、可能だそうです。ただ、よほど緊急性が高くないとそこまでしないそうで……

警察の方が電話に出て、やり取りをはじめると相手がU様だと判明。
U様、以前にもストーカー被害で捕まったことがあったそうです。

警察がU様宅を訪問した時、私のクリーニング中の写真がいくつも壁やベッドに貼られていたと聞いて、ゾワーっと怖くなりました。

今回はお客様ということもあり、写真データはぜんぶ消去の上、警察官による厳重注意で対応しました。
それからはイタズラ電話はピタッと無くなりました。

そして、一人暮らしの男性のお客様の場合、どんなに繁忙期でも2名1組で伺うことにしました。

誤解がないように言いますが、ハウスクリーニングをご依頼されるほとんどのお客様は良い方です。
U様は特殊な例ということで、お納めください。

最後までお読みいただき、ありがとうございます🍀
「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」は、note創作大賞2023にエントリー中です。
スキやコメントをいただけると創作の励みになりますので、白いハート🤍をポチッと押して赤くしてくださいませ❤️
どうぞよろしくお願いします😊

↓お掃除ミステリーの続きはマガジンへ↓


*感謝* お読みいただいた上に、サポートまでありがとうございます😊 子ども達が笑顔になることに使います💕