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「けい」演劇の場の学び”人間賛歌「歌」を終えて”レポート2022.10

初めまして。
関東で役者をしています、
地域密着型一人演劇ユニット『赤キノコ山と蒸したお酢』代表、
創作集団「けい」作家部・俳優部所属のオガワジョージです。


今回はcreate model けい が2022年10月に行った活動”人間賛歌”のレポートになります。



このnoteマガジンはブランディングの一つとして、地域に向けての活動記録を公開し、経験を共有することを目的に行っています。地域への表現活動に関心のあるクリエイターさんに見ていただけたら嬉しいです。
今回は第3場「賛」から得た制作面での学びを活かしながら、
・過去に載せた企画書や準備段階で作成した企画整理書の振り返り
・展示に向けた制作面の準備
・実際に企画を運営してみての学び
・全体的なまとめ
から、良かったところや改善が必要なところを見つけていきます。

こちらが10月の”人間賛歌「歌」”のイベントレポートになります。
合わせてお読みいただけたら!
最後の方にリンク集がありますので、そちらからでも大丈夫です。



また、今回の8-10月活動レポートは20,000字ほどありますので、興味のあるところだけご覧いただけたら。演劇の場の学びはまとめに書かれています。



*****



8月8日~ イベント前、制作準備


「歌」の制作準備を始めるにあたって、今までと同様に1月段階にあった構想と第3場「賛」で感じたことを合体させていきました。


1月段階の企画書と「賛」の学びから

1月の段階では第4場「歌」はこのようなイメージでした。


第4場 「伝える」 《変更前》
テーマ :歌
日程  :9月26日~9月30日、10月1日、2日 13時~21時
場所  :経堂アトリエ 屋上
内容  :
人に想いを伝えることをテーマにした空間展示。
人間を賛歌する行為を「歌う」とし、1場~3場の展示をもとに作詞し、朗読をする。その過程を見つめる。

展示目的:人間を賛歌するとはどういう行為かを考え、表現する。
コピー :歌う。
ビジョン:大切な人に想いを伝えたいと思う空間になる。
演目  :朗読(群読)
 
タイムスケジュール(9月26日~9月30日)
時間 内容 備考
13時 開場。清掃を済ませる。
14時 観覧。
 15時 稽古開始。
(雨天時はカフェスペース)
16時
17時
18時 試演会。3時間の稽古ののち、試演会を行う。見学可。
   稽古は1階カフェスペース、試演会は屋上で行う。
   (雨天時はカフェスペース)
19時 終了。
20時 解散。消毒など
 21時 閉場。お見送り、清掃などを行う。
 
タイムスケジュール(10月1日、2日)
時間 内容 備考
13時30分 開場、客入れ。受付は2階リビングで行う。
14時 開演。昼の部。
15時 閉演。客出しは全員で行う。
16時 休憩、消毒。
17時
18時30分 開場、客入れ。受付は2階リビングで行う。
19時 開演。夜の部。
20時 閉演。客出しは全員で行う。
21時 バラシ。イスなどを片付ける。
 
当日運営
稽古期間は1階のみ使用し、レポート展示も1階に納める。発表期間は2階で受付を行い、屋上に案内する。屋上では客席誘導などを行う。
 
料金
入場 投げ銭制
パフォーマンス鑑賞 1,000円 (10人予約制、当日券あり、当日精算)
物販 ・読み物(短編集) 300円
 
パフォーマンスについて『人間賛歌』
人と出会い、その人との距離を考え、想いを馳せる過程を見つめた。見つめた中で見つけた言葉や感覚、記憶を言葉にし、朗読する。非日常の中ではない、暮らしの中でつながったドラマを伝える。上演時間1時間。
 
予算案
 未記入。

「けい」企画書の学び より


当初は朗読のパフォーマンスに参加者を募集し、5日間かけて稽古・試演会をしたあとに、上演しようと考えていました。

「賛」で感じたことがこちら。


今回は街よりも人について焦点を当て、大切な人やものに想いを馳せるとはどういうことなのかを考えました。準備期間から開催終了まで、語り切れない瞬間がたくさんありました。人間賛歌を起承転結で分けるとしたら、「賛」は転であり、一番楽しみにしつつも不安を感じた場でした。

前回の「間」で会期中にお休みした反省から、8月5日~7日の3日間、夕方から夜にかけて開催することにしました。「想いを馳せる」のテーマのもと、
以前から大切にしていた「向き合う」ことや「対話」に内容を寄せていきました。僕は演劇をしていて、そのような場面の丁寧さや繊細さがとても好きだったために楽しみだと感じていました。

しかし、誰かと向き合ったり、対話をしたりという行為は日常的にあまりしない分、参加者の方々にとても負荷のかかる内容であり、対話中に思わぬことを話したり聞いたりして、傷つけてしまうかもしれないという不安も同時にありました。

実際に声かけやサポートを欠かさずに場をつくれたかというと、まだまだ配慮できた部分があったと思いますが、そのような不安を自他ともにできる限り取り除いて、安心していられるような場をつくりたいということでアトリエ憩という名前にしました。

対話で話したり聞いたりしている姿や、手紙を書いているときのみなさんの姿を見ていて、大切な人やものへの想いを感じられる瞬間がいくつもあって、その人の人生を垣間見るような、素敵な経験ができました。
朗読をしているときも、みなさんが集中して耳を傾けていることを強く感じられました。どのような形で届いたかは分かりませんが、2編のお手紙を朗読できたことを本当に嬉しく思います。
共同制作で参加してくれたお二人にも感謝が尽きません。

人や街への「自己紹介」を行って「心の距離」を測り、そこへ「想いを馳せる」ことは、まだ自分の内側に重点があるんじゃないかと考えます。
今までの時間をまとめた想いを伝えることで、やっと外の世界とつながるような感じがするのではないかなとも思います。
10月「歌」のテーマは「想いを伝える」です。
長く続いた企画もお開きになります。
よろしければ覗きに来てください。

「あなたのこと、考えたの。」

「賛」イベントレポート より


感じたのは、
・場をつくるとき、まだまだ声かけやサポートなど配慮できる面があった。
・対話で話したり聞いたりしてるとき、その人やものへの想いを感じた。

でした。


さらに、「賛」の改善点もクリアしようと考えました。


もっと工夫が必要なところ
・イベント前のスケジュールを余裕のあるものにすること。
 できない場合は、バランス配分を考えること。
・哲学対話やオープンダイアローグのような対話の実践は、
 スモールステップで練習を重ねてから本番を迎えること。
・安全な場の作り方や声かけなどについて、
 さまざまな視点から学んでいくこと。
・アンケートをQRコードなど、
 その場回収でないものにすることも考える。

「賛」バランス感覚の学び より


制作期間中のスケジュールに余裕を持つこと、対話についてより練習を重ねること、場づくりについて学んでいくこと、アンケートについて再考することがありました。
スケジュールに余裕を持つようにしたため、結果的に演劇やダンスなどさまざまな場に参加でき、その場のつくり方を参考にしていくことができました。


企画整理書

これらを踏まえ、このような形で進めようとしました。


第4場 《変更後》
テーマ :歌
日程  :10月1日、2日 
場所  :経堂アトリエ 屋上
内容  :・想いを伝えることをテーマにした空間展示。
     ・1場~3場の展示をもとに作詞した「歌」を朗読する。
     (・1年間の活動を通しての振り返りトークセッション)
展示目的:
第1場「人」、第2場「間」、第3場「賛」で経堂の街と人と出会い、つながり、関係性を深めようとした。第4場「歌」では、今までの展示で集めた言葉から“人と街”についての歌をつくり、目の前で歌うことで、出会いから想いを伝えるまでの過程を見つめる。

コピー :歌でお開き。
ビジョン:経堂での時間に関心を持ち、交流が生まれる。
演目  :朗読
 
 
タイムスケジュール(10月1日、2日)秋フェス内容次第
時間 内容 備考
10時 アトリエ到着、準備、受付。
雨天の場合、受付時に雨ガッパを用意して配る。もしくは2階で上演。

10時30分 開場。屋上に客入れ。席を案内する。
11時 上演開始。ゆるやかに始める。
12時 上演終了。ゆるやかに終わる。興味のある方は2階へ案内。
12時~ 案内、他のイベントに参加
 
当日運営
レポート展示は1階に納める。屋上に案内する。屋上では客席誘導などを行う。
 
料金
入場 無料
パフォーマンス鑑賞 1,000円 (10人予約制、当日券あり、当日精算)
物販 「間」短編集 500円
 
パフォーマンスについて『はじまりの歌』
経堂という街で、人と出会い、その人たちとの距離を考え、想いを馳せる過程を見つめた。過程の中で集まった言葉、見つめた先で見つけた言葉を綴り、朗読する。非日常の中ではない、暮らしの中でつながった日常でのドラマを伝える。上演時間30分~40分予定。途中休憩なし。
  
予算案
撮影費+交通費 1h 1,500円×3+交通費
雑費       10,000円
交通費      10,000円
広告印刷費    5,000円
支出予想    計25,500円
元手金      19,700円

 
クレジット
主催:経堂アトリエ
協力:ご近所大学経堂キャンパス
企画・制作:赤キノコ山と蒸したお酢
宣伝写真:スゲノリュウゴ
撮影:SAKI


スケジュール感。
8月の間にフライヤーと予約フォームを作成。
以降はその他のことに専念する形にしました。


第1場~3場であったことをもとに「歌」をつくるという部分は変わらず、ビジョンが「大切な人へ想いを伝えたいと思うような空間になる」から「経堂での時間に関心を持ち、交流が生まれる(空間)」へと変化しました。
また、会期を1週間ではなく、経堂アトリエさんの秋のフェスタに合わせて2日間にしました。

「賛」の改善点は制作の部分で後ほどふれていきます。


フライヤー作成、宣伝

今回の屋上の写真は、第2場「間」で撮影を担当していただいたスゲノ君が撮った写真を用いました。


夕方に撮影してもらったもの。
ちょっと暗めの写真。


この写真を「歌」のイメージに合わせるように明るめにしました。


「歌」のイメージカラーが黄色、未来への希望を感じさせつつ、
人間賛歌が終わったあとこそが”関係性のはじまり”でもあると考えていたため、
朝の日の出前のような雰囲気にしたかったです。


正規フライヤー。
屋上と街の景色の両方に意識が向くような配置にしたいと考えました。


全体的に黄色ベースの配色に。
今までの場の写真も載せることでつながりを感じてもらおうとしました。


以降はデザイン、キャッチコピーの没案です。
(日にちを間違えています…)


街に向けて、架ける・掛けるなどの意味合いを込めようとしました。


街の景色の方に意識が向き、屋上はごちゃっとした印象でした。


街をふらっと歩いている人が、どこかから歌がきこえ、
屋上にやってきたときに言いそうな言葉として考えていました。


企画者として人間賛歌はまだ始まったばかりだと考えていました。
このコピーから「はじまりの歌」のタイトルをつけました。


これも架かる・掛かると同様ですが、
「音楽がかかる/をかける」みたいなイメージもありました。
パッと見て分かりにくかったので没でした。


経堂アトリエさんやcreate model けいに協力してもらっている方々に相談し、「歌でお開き」になりました。
今回も地域の掲示板用のデザインは行わず、正規フライヤーのみの掲示となりました。

SNSの宣伝は8月26日から行い、9月1日から予約を開始できました。
紙版の正規フライヤーは2週間前の17日に受け取り、それ以降から今までご協力してくださったお店に置かせていただきました。

また、今回はラインなどで直接お声がけする余裕があり、多くの方にお誘いができました。


予約フォーム・確認メール

今回は自分で作業する時間があり、内容も多くなかったため、そこまで時間はかかりませんでした。


「歌」に至るまでのつながりを分かりやすく説明するように心がけました。


フォームからのご予約は過去最多の8名でした。
確認メールの発信は制作に時間がかかり、送るのが遅くなってしまいましたが、1週間以内には送れたように思います。



制作開始

8月~9月は「歌」の制作にあてようと考えてスケジュールを組んでいたため、さまざまな場に出向くことができました。
以下、「歌」の参考になると感じられたイベントなども書きます。

8月20日 リフレクティング体験会参加
8月24日 ダンス練習会、ハラスメント防止講習会参加
8月27日 ダンス練習会参加
8月28日 プライマフェイシイ観劇
9月3日 Lumeto「誰がために」観劇
9月6日 稽古会参加
9月7日 画家 Roy Taroさんと今後の打ち合わせ
9月8日 「賛」に協力してくれた西條くんとお話
9月10日 キルハトッテ「どこどこのどく」観劇
9月11日
岬企画「ガラチョ」観劇
エディット・ピアフプロジェクト「あなたはエディット・ピアフを知っていますか?」観劇

9月12、13日 TEAM空想笑年さん制作手伝い
9月17日 経堂にて友杉さんの個展のお手伝い
9月24日 経堂にてフライヤー配布
9月25日 
経堂にてフライヤー配布、Hiphop Kindergarten WIP「Play!」参加

9月30日 経堂アトリエにて仕込み

太字のところは特に参考になったイベントです。
8月よりも前に組んでいたものもありますが、基本的に「歌」の制作と関連づけて、イベントスケジュールを組んでいました。

また、第2場「間」と第3場「賛」のイベントレポートと制作レポートを書けておらず、「歌」で第1場~3場のつながりを整理して示すためにも、並行して仕上げる必要がありました。

順を追って、制作過程を書こうと思います。


朗読「はじまりの歌」の制作課題

はじめに、完成したものを載せておきます。
こちらを参照しながら読んでいただくと、より面白いのではないかと思います。

PDF版はこちら。


変更後の企画整理書にこのように書いていました。


場所 :経堂アトリエ 屋上
内容 :1場~3場の展示をもとに作詞した「歌」を朗読する。
演目 :朗読

パフォーマンスについて『はじまりの歌』
経堂という街で、人と出会い、その人たちとの距離を考え、想いを馳せる過程を見つめた。過程の中で集まった言葉、見つめた先で見つけた言葉を綴り、朗読する。非日常の中ではない、暮らしの中でつながった日常でのドラマを伝える。


第1場~3場までの過程で感じたことや受け取った言葉をもとに言葉を綴って、日常の中でつながり、生まれたドラマを伝える作品を目指しました。


変更前の企画書でもこの部分は変わらず、経堂の街を眺められる屋上で、参加者の方々と一緒に朗読(群読)をするような光景は、僕が人間賛歌の企画を通して見たいと考えていた光景でした。しかし制作を開始した当初は、第1場~3場を通して受け取った言葉はあるものの、どんな形で上演しようか悩んでいました。

第4場「歌」は「想いを伝える」というテーマでした。
その想いの伝え方で悩んでいて、今までの朗読パフォーマンスの通りに僕一人で読んだ方が「想いを伝え」やすいのではないかと感じながらも、”お客様と一緒に読む”というアイディアを捨てきれずにいました。
個人的には”一緒に読む”ことで起きる瞬間を見てみたい気持ちが強くあり、どうにかして第1場~3場の流れを日常の中のドラマとして「歌」にしつつ、自然な流れでその場にいらしたお客様に参加してもらいながら、”お話を一緒に読む”という方法を考えようとしていました。
その方法を見つけるためには次の課題をする必要があると考えました。


課題
・書けていなかった第2場、3場レポートを書き、今までの流れを整理する。
・その流れをお客様に伝えるとき、朗読/群読のどちらが良いかを決める。
・群読の場合、体験としてお話の自然な流れで読める歌の構成を考える。
・参加してもらう側として心理的安全性のある場づくりの仕組みを考える。


そこで、レポート作成やさまざまな場への参加をしつつ、身近な人に相談したりしながらパズルのピースを集めてはめるように課題を進めました。



1.場づくりの仕組みを考える

場づくりについてのまとめです。
「賛」の改善点で挙げた、

・哲学対話やオープンダイアローグのような対話の実践は、
 スモールステップで練習を重ねてから本番を迎えること。
・安全な場の作り方や声かけなどについて、
 さまざまな視点から学んでいくこと。

の2つを改善したら、結果的に場づくりの仕組みを考えられるのではないかと思いました。

ハラスメント講習会は、演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会さんの講習会でした。
最近の演劇界のハラスメントについてを入り口に、ハラスメントとは何かを法律上の定義などから学び、どう対応したらよいのかの措置、実態調査で得られたこと、実際の事例を知りました。
どんなことがハラスメントにあたるのかを知れたことで、あいまいだった部分に明確な線が引けたように思いました。知っただけで終わらせずに、ここで得たことをきちんと実践していかなければならないと感じました。
特に、ハラスメントのリスクをなくすには「一方的な言動から、双方向のコミュニケーションの形にする」のが基本であり、これしかないという言葉が胸に残りました。

プライマ・フェイシイという舞台を観劇したとき、性被害の怖さや社会の歪みを目の当たりにしたようで、息が浅くなって胸が詰まる感じがしたのを覚えています。講習会のときに感じた想いがより一層強まりました。

その後、観劇するときの団体の空気感や、ダンス練習会・稽古会の場の空気感を直に体験できたこともとても参考になりました。

やはり、雰囲気が上向きで居心地が良い場は、気持ちが良いほど相手のことを思いやっていると感じました。気配りや真心のようなものを端々から感じ、信頼できる感覚です。
舞台公演の制作のお手伝いをしたとき、お客様(相手)に対する真心を特に感じました。それだけで胸がいっぱいになる時間でした。


当日運営は僕一人のためできることは限られていたため、お客様を無視せず、受付のやり取り、展示空間での会話、屋上までの案内、屋上での声かけなど、関わるところはすべて誠実にするよう心がけたいと考えました。それがきっと心理的な安全性につながるとも思いました。


2.今までの流れを整理する

第2場「間」、第3場「賛」のレポートを作成するのに1ヶ月、8月末からスタートし、「歌」開催まであと少しの9月末に終わりました。

「間」のテーマは「心の距離」、「賛」のテーマは「想いを馳せる」でした。その時々で感じていたことをレポートに仕上げていきましたが、この7か月間で一番考えていたことは経堂の人と街と向き合うことで、そこに経堂以外の人を呼ぶことで、結果的に僕と住んでいる人と訪れた人が交わることとなりました。

「歌」は第1場~3場で”あったこと”をもとに制作するつもりでしたが、レポートにまとめてみても、自己紹介での出会いや、街に少しずつ出て行ってつながれたことや、大切な人に想いを馳せたりしたことなどが、いまひとつピンと来ていませんでした。
向き合ったことで、どうなっていたのか。

そこで、人間賛歌のステートメントに立ち戻ってみました。


この創作企画は、1人の俳優が経堂の人と街とかかわり、長期の滞在制作を行うことで関係性を深める1年間の過程を見せる企画です。2021年の夏から今年2月まで「東京で(国)境をこえる」kyodo20_30というアートプロジェクトに関わりました。経堂を起点に様々な境をこえるための活動を行ううちに、ここに住む人の気質や街自体の居心地の良さから“開け放たれている何か”を感じました。東京の(小劇場)演劇界に“閉じた”印象を持っていた僕は、経堂の人と街との関係性を深め、開け放たれている何かを感じることができれば、演劇界を変える力になるのではと考え、この企画を始めました。

 名前の由来は「人間賛歌」ってどんな歌なんだろうと思ったことから来ています。人間を讃える歌。イメージはあるけど、具体的な詞が分かりません。そもそも人間を讃えるってどんな行動?  人間賛歌の核になるのは「向き合う」です。誰かと向き合うと「心を開く/閉じる」という言葉も出てくると思います。自分の心をほんの少し開くと、受け入れてもらえる喜びを感じたり、逆に裏切られて悲しくなって自分を守るために閉ざしたり。人と丁寧に向き合うことでやっと立ち止まれるような、本当にささいなきっかけで起きる一瞬のできごと。その瞬間を見逃さず分かち合えたら「人間を讃える」ことになるのではないか。

 開け放たれている何かがある経堂で、人や街と向き合い、心を開いたり閉じたりする瞬間にたくさん出会う。その先で「人間賛歌」は歌うことができるのかもしれないと感じています。


この企画は、僕と、経堂の人や街との関係性の変化の過程を見せていく企画でした。「向き合う」は関係性を変化させるための方法であり、「向き合った」ときに心を開いたり閉じたりする。
その瞬間を分かち合うことが「人間を讃える」ことだとしたら、想いを伝える歌に必要な要素が少しずつ見えてきたようでした。


3.歌の構成を考える

実際の時系列とは異なりますが、これまで2つの課題に取り組みました。何となく形が見えてきたものの、まだピースはバラバラで、具体的に一つの歌として構成していくのは難しいと感じていました。
ピースとしてあったことは、

・歌を制作する。
・朗読として上演する。
・その場の人たちに参加してもらう。
・屋上で行う。
・1時間以内に収める。
・第2場、第3場で受け取った言葉を用いる。
・人とのやり取りを大切にし、心理的安全性をつくる。
・関係性の変化の過程を伝える。
・人と向き合い、分かち合う場をつくる。

だったと振り返ります。
このピースをぴったりと収めるための枠がないような、一本の筋がまだ通っていないような感じがしていました。

特に太字の部分のイメージが湧きませんでした。
個人的に、関係性が変化するには時間が必要だと考えています。
時間がかかる変化の物語を伝えるなら、演劇が一番伝わりやすい方法だと思います。演劇ならば観客参加型のものを参考にしながら、構成を組み立てられた気もしました。

しかし今回は朗読の形で、1時間以内(予定時間は30分~40分)で、その時間に7か月分の関係性の変化を収めて伝えるアイディアが浮かびませんでした。

そこで、朗読のテキストにあたる歌をもう一度考えてみることにしました。今までの朗読でやってきたような、想像で紡いでいくお話ではなく、別の紡ぎ方を見つける必要がありました。


そもそも歌とは何なのか

第3場「賛」に協力してもらった西條くんに相談し、一緒に歌について掘り下げていきました。

・誰のために歌うのか
・何を歌うのか
・歌ってどうなりたいのか

それぞれ、以下にまとまりました。

・今まで来てくれた人、関わってくれた人のため
・感謝→知る/知られるの負荷のかかる時間を共有してくれたこと。人生を分かち合う関係になってくれたこと。
・関係を続けていきたい。つなげていきたい。「これからもよろしくね」

僕がそもそもどうして歌いたいのかを固めることができました。
また、歌について考えを深めるとき、この映画を思い出しました。


映画『二重のまち/交代地のうたを編む』予告


こちらの映画は、僕が2021年3月に観て感動した作品です。
興奮したまま映画館ですぐ書籍『二重のまち/交代地のうた』を購入しました。


9月18日撮影。
経堂アトリエ屋上にて『二重のまち』を音読してみました。


この映画は東日本大震災で津波の被害にあった陸前高田市が舞台になっています。映画の終盤、街を一望できる高台で、陸前高田市についてのお話『二重のまち』を地域の方々の前で朗読するシーンがありました。

企画立案の1月段階で、最終場に経堂アトリエさんの屋上を使って街に向けて朗読をしている光景を想像したのは、この映画からきています。
この書籍を見返しながら、歌について考えていたところ、こんな記載がありました。文章中の太字は僕が引っかかったキーワードです。


二〇三一年 秋
おばあちゃんはいつも歌ってくれる
おらいの地面は
青いお山が泣いだあと
あんだの地面は
茶色い土で埋めだあと
土のしたには笑い声
波のうえにひょいと顔出す
あの人にまた会う日まで
なぜ歌うの、と問うと
忘れないようにね、と答える
(『二重のまち』p.64-65)

二〇一八年六月一六日
「他社の話を聞いたときに未知の物語が立ち上がるとしたら、物語は窓ではなくて扉であってほしい。物語を聞く、知るという経験が別の世界を覗き見ることではなくて、ある世界へ入ってゆく身体的な感覚を伴うものとなる。物語は完結した世界を伝えるのではなく、聞き手を”わからない世界”へと連れ出していく」
(『歩行録』p.134)

二〇一八年七月二十二日
(前略)
「最近では、まちの人たちからも日常会話レベルでは津波の話題が出にくくなった気がしている。仮説を出た人が増え、店も本設になっていくと、かつてのまちの痕跡を見ることや被災の経験を色濃く感じる瞬間が減る。時間が経ち記憶が薄れるということもあるけど、出来事を想起させる事物が物理的に減るということもある。

まちづくり』も思い描く段階が終わり、目の前に出来つつあるものをどう使いこなすかが問題になってくると、かつてのまちのことを考える時間は減るのだと思われる。まちへの想いが強い人たちが大切にしていた歴史、伝統(あるいは鎮魂)という物語を、目の前のまちに実装していくのはなかなか難しい。

日常は強くて尊い。目に見えるものは思考に大きく影響する。目に見えなくなったものを想起する回路をつくっておきたいと思う。いつか、誰もがわすれてしまってもいいように。

これは一見防災のことを横に置いているようですが、防災のことこそ、繰り返し話を聞いたり訓練したりして身体化するか、目に見えるところに情報を起き続けるように徹底しないといけないのだともと思う」
(『歩行録』p.137)

二〇一九年二月九日

「ある大切な言葉を、誰かの記憶を、忘れられない風景を、誰しもが使えるような開かれた場所に置くために、それがになってほしい、歌にしなければという気持ちがあって、私は物語を書いている。いくつもの身体をくぐることで、それらは遠い場所や時間まで届けられていくのだと思うから」
(『歩行録』p.155)

二重のまち/交代地のうた より


『歩行録』をすべて読み終えることはできなかったものの、他にも身体に関する記載がいくつもありました。

『二重のまち』では、歌は忘れないために歌うこと。
『歩行録』では、人が大切にしていた歴史(伝統・鎮魂、大切な言葉・誰かの記憶・忘れられない風景も含んでみようと思います)を物語として伝えるとき、聞き手には身体的な感覚が伴い、身体化されることで、遠い場所や時間まで届くということが記載されていました。


続いて、第2場「間」の参考書籍としてご紹介した『テアトロン』にも歌と身体化についての記載がありました。


高山さんはワーグナー・プロジェクト:ニュルンベルクのマイスタージンガーという実践で、神奈川芸術劇場(KAAT)をストリート化し、普段は縁が遠いヒップホップの文化を劇場空間に入れました。

その実践に至るまでに、ギリシャ悲劇→ドイツのオペラ作家リヒャルト・ワーグナー→ドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトと、演劇史をさらっていきました。そのブレヒトについての記載の中で「ルターの宗教改革」としてまとめられたところに、歌と身体化について書かれていました。


ルターが宗教改革で行ったことのなかに、「民衆の口の中をのぞき込む」ように聖書をラテン語からドイツ語に翻訳した事業がある。そのドイツ語訳聖書を、グーテンベルクによって発明された印刷技術を使ってにした。
(中略)
その本を地区ごとのプロテスタント教会に置いていったのである。カトリックの教会は巨大で壮麗な建物が多く街や村の中心に位置するが、プロテスタントの教会はずっと小さく質素で、どちらかというと街に寄生するような趣だった。そこにドイツ語訳聖書が置かれたものの、当時の民衆は非識字者が多く、誰かが朗読する必要があった。そこで牧師が、集まった人たちに聖書を読んで聞かせ、説教をする。しかしそれだけではなかなか身体化されない。そこで、ルターはにすることを思いついた。賛美歌である。ルターはたくさんの賛美歌をつくり、自ら歌った。礼拝に賛美歌を導入したのもルターである。教会を飾り立てることを嫌ったルターであるが、代わりに歌で空間を満たそうとした。歌にとどまらず、説教劇を書いて教会に集まった人に演じさせた。地区の人たちが集まり、聖書を元にした説教劇を牧師と一緒につくる。それは演劇ワークショップのようなもので、合唱も入った説教劇は、教会のイベントとしてお披露目され、新しい宗教的共同体のベースになっていっただろう。

テアトロン 社会と演劇をつなぐもの p.197-198 より


ルターは本を朗読するだけでなく、歌にして地域の人たちに歌わせたり、劇にして一緒につくりあげることで、聖書の内容を(心や身体に沁み込ませるように)身体化し、信仰を促したようです。


これらから、人間賛歌「歌」で朗読する歌の紡ぎ方が定まりました。

僕を含めた、7ヶ月間で参加した人たちがそのとき感じたこと・あったことを第1場~3場の順を追って書いていくことで、関係性の変化の過程を「忘れない」ために朗読のテキスト”はじまりの歌”にする。
”はじまりの歌”を第4場で集まった人たちが声に出して読んだりワークをして、過去にあったこと・感じたこと、関係性の変化の過程を身体で体験してもらえるようにする。


9月末くらいに制作の方向性が定まり、急いで執筆を行いました。


4.朗読/群読かを決める

最終的な上演の形は、僕一人だけの朗読だけでなく、全員で一斉に読む群読でもなく、お客様に体験していただく朗読となっていました。
テキストも普通の朗読のお話のようなテキストではなく、演劇の台本のようなものとなりました。

過去の時間のことや他の人の言葉・記憶・感覚を体験するには、演劇の台本の形式が一番参加しやすく、伝わりやすいと考えたためです。

また、先に出てきたベルトルト・ブレヒトが目指していた「教育劇」の形式にもチャレンジしてみたかったというのもありました。

「教育劇」について、『テアトロン』の中ではこう書かれていました。

「教育劇と呼ばれる作品は、演ずる者にとって学ぶところのある芝居を云うのだ。したがって観客は必要としない」(岩淵達治「ブレヒトの教育劇について」)と定式化されている。
(中略)
教育劇では、演じる側と観る側は交換され、役は入れ替わり、劇場ではなく学校や工場でワークショップのように劇が作られていく。その場を共有する人すべてが関与者であり、劇のつくり手になる。と同時に、見る立場に立ったときもそれは「観客」を演じているのであって、ただ受け身の鑑賞者や消費者になるわけではない。その「観客」は状況の観察者であり、自ら態度を決める主体である。

テアトロン 社会と演劇をつなぐもの p.185 より


そこで”はじまりの歌”では、第1場~3場の流れを順を追って書いていくなかで、関係性の変化を促すワークを取り入れながら、過去にいらしたお客様の言葉を「想い」として台詞にしてみました。
台詞にすることで、いらしたお客様(観客)が、身体を通して声に出し、自分自身やその場にいる相手に「想い」を伝えていく仕組みです。


「はじまりの歌」完成

最後に僕自身の「想い」を伝える部分を書き終えて、「はじまりの歌」は完成しました。

歌の章立てとしては、
0場 前説
1場 出会いの春
2場 広がる初夏
3場 深まる夏
4場 伝える秋

という構成です。

1場はその場にいる全員で自己紹介をし、名前を覚えるワークを入れました。関係性が始まる場です。

2場はそれぞれ距離を取りながら、全員で「あー」と声を出してみるワークを入れました。円の形で内側に声が響き合ったり、街の方へ向いて外側に声をかけていく時間を目指しました。

3場は3分間見つめ合うワークを入れてみました。第3場「賛」で行った内容は「対話」だったのですが、上演時間の尺を考えるとあまり長い時間は取れないため、対話の代わりに見つめ合うようにしました。

4場は僕自身の「想い」を伝える場でした。関係性の変化を経たあとで感じることを書きました。


「はじまりの歌」は7ヶ月間の総まとめであったため、制作を始めたときはうまくまとまるか不安でしたが、こういった形に着地できたことがとても嬉しかったです。


10月1日、2日 人間賛歌第4場「歌」開始、演劇の場の学び

「歌」の制作を9月末に終えて、30日に仕込み、本番が始まりました。


スケジュール

企画書段階では当日の予定スケジュールはこんな感じでした。

タイムスケジュール(10月1日、2日)秋フェス内容次第
時間 内容 備考
10時 アトリエ到着、準備、受付。
雨天の場合、受付時に雨ガッパを用意して配る。もしくは2階で上演。

10時30分 開場。屋上に客入れ。席を案内する。
11時 上演開始。ゆるやかに始める。
12時 上演終了。ゆるやかに終わる。興味のある方は2階へ案内。
12時~ 案内、他のイベントに参加

嬉しいことに両日とも天候に恵まれ、屋上で朗読を行うことができました。
経堂アトリエさんの立地の都合上、迷われる方が多かったようで、11時の開始時間をオーバーしてからの上演となりました。

朗読「はじまりの歌」は上演時間を約30分ほどを予定していましたが、思った以上に時間がかかり、50分~1時間ほどの尺となってしまいました。
また、正午近くになると日差しが強まったことが想定外でした。
日傘をさしたりお水を飲んだりという声かけを行っていきました。

12時以降は残ってくださったお客様に展示をご案内したり、会話をしたり、「秋のフェスタ」の他ブースを紹介したりしました。
僕も空き時間で他のイベントに参加しながらご案内できたので、想定通りでした。


予算・支出と収入

企画書段階で考えていた予算案です。

予算案
撮影費+交通費 1h 1,500円×3+交通費
雑費       10,000円
交通費      10,000円
広告印刷費    5,000円
支出予想    計25,500円
元手金      19,700円

撮影費+交通費は、6月頃に出会ったSAKIさんとご縁があり、撮影を依頼しました。ご相談したところ両日ともいらしてくださるとのことで、1日分の撮影費と2日間分の交通費9,600円ほどとなりました。

雑費10,000円は、展示に用いる額縁を購入したり、ご協力いただいたお店での飲食代となりました。ざっくりとですが、3,000円ほどだったように思います。

交通費10,000円は、経堂に会期中も含め6回通っていたため、9,000円ほどだったと思います。

広告印刷費5,000円は、フライヤー印刷に1,351円、テキスト印刷に3,220円ほどかかり、計4,571円と予算案に収まりました。

ざっくりと、予想支出の25,500円を上回ることとなりました。
今回も会場費として、経堂アトリエさんに総売り上げ12,000円の半分の6,000円をお支払いし、残りの6,000円が収入となりました。

※総売り上げの内訳
・朗読「はじまりの歌」 12,000円


アンケート分析

今後の企画の進め方・パフォーマンス向上のために、お客様の情報をデータにしてまとめてみようと思います。
アンケートをQRコードにするかどうかで悩んでいましたが、人間賛歌では紙で統一することにしました。

動員
10月1日 9名
10月2日 7名
※アンケート回答者 13名
※秋のフェスタで展示にお越しいただいた方は含まれていません。

年齢層
20代 4名
30代 4名
40代 1名
50代 1名
60代 1名
70代 1名
未回答 1名

地域
東京都 10名(うち世田谷区 3名)
埼玉県 2名
神奈川県 1名

イベントを何で知ったか
関係者から 7名
Twitter   3名(+1名 複数回答)
地域の掲示板 1名(複数回答)
その他   3名(本人から、経堂アトリエから)

次回のイベントに
参加したい 13名

動員数は16名で、アンケート回答者は13名でした。
朗読「はじまりの歌」の参加者は12名で、展示のみの方は4名という内訳でした。
直接お声がけした方がほとんどで、秋のフェスタをきっかけに朗読にいらした方は2名ほどでしたが、ちらっと展示を観にいらした方々もいて嬉しかったです。

年齢層については、20~30代が多いものの幅広い方々がいらした印象です。create model けいで目指す、多世代間交流の場になったのではないかと感じます。

地域については、東京都が多く、次に埼玉、神奈川という順番でした。他県からの出入りが少し増え、経堂に来たのは初めての方、数回目の方、久しぶりに来た方など、さまざまな方がいらした印象です。世田谷区在住の3名の方とそれ以外の地域の方々との交流が生まれたことが嬉しかったです。

イベントを何で知ったかは、「関係者から」「Twitterから」が今まで同様多くなりました。直接お声がけする余裕があったり、今までいらしてくださった方々が再度いらっしゃったことが理由かと思います。

第3場「賛」のメインターゲットはオガワのお知り合い、関係者の方々でしたが、今回のメインターゲットはこの企画に興味を持ってくださっている方々でした。
地域で行う長期制作企画のメリットは、

・今まで関わってくださった地域の方々に声をかけやすい。
・直接お話したときやTwitterの反応で、興味のありそうな方に次回情報を案内できる。
・お客様目線で、もし機会を逃してもすぐ次があるから気持ち的な気軽さがある。

ではないかなと思いました。
メリットを活かしながらビジョンに掲げた経堂での時間に関心を持ち、交流が生まれる(場になる)ことを達成できたのではないかなと感じます。


展示「人」「間」「賛」「歌」

人間賛歌のステートメントと、それぞれの場で制作したものを展示しました。2階リビングを想定していましたが、秋のフェスタの関係で隣の和室が展示会場になりました。



しかし、それだけでは場のつながりを示しながら、あったこと・感じたこと・関係性の変化を伝える「はじまりの歌」の内容に沿わせられないと感じ、キャプションを作成しました。「間」での学びが活きたと感じます。


それぞれのテーマ、何をしたか、どう関係性が変化したか
をつなげていきました。


このキャプションを見ながら、人間賛歌でやってきたことを説明していきました。イベントレポートの方でも書きましたが、展示間のつながりや、「人間賛歌」という言葉との紐付け方が面白かったという感想をいただけて嬉しかったです。


朗読「はじまりの歌」

必要だったピースを再褐します。
”はじまりの歌”のテキストに関する部分は記号をつけています。

・歌を制作する。 〇
・朗読として上演する。 〇
・その場の人たちに参加してもらう。
・屋上で行う。 〇
・1時間以内に収める。 △
・第2場、第3場で受け取った言葉を用いる。 〇
・人とのやり取りを大切にし、心理的安全性をつくる。 
・関係性の変化の過程を伝える。 〇
・人と向き合い、分かち合う場をつくる。 △

その場の人たちに、いかに心理的安全性を感じてもらいながら、自然に参加してもらえるかを考える必要がありました。

以前に観た観客参加型演劇の演出は、テキストの都合上参考にできませんでした。どのタイミングでテキストを手渡し、読んでもらうかがカギでした。

タイミングについてはHiphop Kindergartenというユニットが行っていたワークインプログレスの中間発表会「Play!」に参加したときに感じたことを取り入れました。

こちらのユニットはサイファー読書会・サイファー演劇など、ヒップホップのラップと演劇の要素をつなげようとしている団体で、「Play!」はその実験的な場でした。会場に入るとマイクを手渡され、声を出してみるように促されました。「あー」と声を出すと、DJの方が手元で変声加工をしていて、別の音が出ました。そこで僕はぐっと興味を惹かれました。
「Play!」は、音楽的な部分も参考になりましたが、いかに観客を巻き込むかの部分が一番参考になりました。


最終的に、テキストは受付のタイミングで「後ほどの朗読に用いるテキストです。読んでも、読まなくてもかまいません」ということをお伝えして手渡しました。屋上に上がるときは「お靴をお持ちください」と促し、屋上にはイスを円形にセットしておき「お好きな場所におかけください」と声かけをしました。屋上からの景色を見てもらうことも、惹きこむための大切な要素でした。

そのような流れで、お客様を誘導して進んでいきました。
屋上はこのような雰囲気で、暑かったことと上演時間が延びてしまったこと以外はある程度想定通りに進んでいきました。
僕は”開催者”という立場で読み進めましたが、気持ちとしては一参加者としてその場を楽しんでいました。


1日撮影。
自己紹介。


2日撮影。
名前を覚えるゲーム。


2日撮影。
声を出すワーク。


朗読には演出をつけず、即興的にその場の雰囲気で読み進めていきました。
お客様に読んでいただくときは僕が先行して例を示し、素読み(棒読みよりは言葉自体にある抑揚に沿う)のような読み方をしていただきました。

1日の上演を終えた時点で、空気感もとても穏やかで温かく、テキストや場のつくり方に手ごたえを感じて嬉しい気持ちでしたが、終了後にご参加くださった方から「強制感」があったという言葉をいただきました。
2日の上演では、見つめ合うワークの途中に「このワークは強制ですか? 強制でなかったら様子見しても良いですか?」と言ってくださった方がいました。もちろん承諾し、様子見をしていただきました。こちらの方にものちに連絡を取り、理由をお聞きすることができました。

「強制感」の理由をまとめると、
・最初から円形に座席がセットされているため、観客が自分で好きな距離感の場所にいれず、落ち着けない。
・参加する/しないの自由がなく、在り方が委ねられていなかった。
・心を開く/閉ざすのタイミングを自分で決められない感じがした。
・「朗読」と聞いていたのにワークがあった。

ということでした。
僕は同意しかなく、ただ反省するばかりでした。

おそらく、「はじまりの歌」は1月の企画段階からやりたかったことであり、見てみたかった光景を優先させてしまい、その場に集まる人一人ひとりのことを考えきれなかったことが原因だと考えます。
僕自身が俳優であり、心を開いてさらけ出す感覚に慣れていて、ワークにも抵抗感がなく、フィクションで演じるときとリアルで生活するときの切り替えをある程度使いこなせ、巻き込まれる場に惹かれるというだけで、他のお客様(特に演劇界隈ではない方々)には抵抗感があるかもしれないという視点が抜けていました。7ヶ月間のまとめとしてその場の人たちと着地した、というよりもその場の人たちを誘導して着地させたという印象になりました。


今まで、人と丁寧に向き合うことを大切にしたいと考えていたこともあり、
最後の最後で丁寧さを欠いてしまったなとも感じました。

朗読「はじまりの歌」は良かったところと悪かったところが出た内容だと振り返りました。



イベント後、レポート制作など

create model けい では、企画したもののレポートをできるだけ書くようにしています。創作ワークショップのレポートだったり、今回の「歌」のレポートが主にそれにあたります。
さらに、月ごとの活動をまとめたレポートがあります。
今回のレポートのように、企画を一歩引いた目線で書くようにしています。
最終的に年間レポートとしてまとめを書きます。

企画レポートは、企画に来ていないお客様に雰囲気が伝わり、興味を持ってもらえるように試行錯誤をしています。追体験のような感じを意識しています。
今回は10月1日、2日両日の撮影でした。SAKIさんのお写真は淡い光の質感を感じながら色彩が豊かな写真で、よりテーマに近いと感じたものを選びました。

「歌」イベントレポートは現在80回ほど閲覧されております。
「賛」イベントレポートは30回、制作レポートも30回。
「間」イベントレポートは55回、制作レポートは50回。
「人」イベントレポートは180回、制作レポートは80回。
企画段階のレポートは65回でした。
(2022年10月15日)

たくさんの方々に読まれているようで感無量です。
今回の「歌」制作レポートですべてのレポートが出そろいますが、今後も少しずつ興味を持っていただけるようがんばります。


まとめ、今後やりたいこと

良かったところ
・イベント前のスケジュールを余裕のあるものにできたこと。
・さまざまな場を参考にでき、人間賛歌で実践できたこと。
・キーワードから書籍や音楽を関連づけて参考にできたこと。
・ハラスメントについての知識を得られたこと。
・今まで制作してこなかったタイプのテキストの制作方法を試せたこと。
・見たかった瞬間を見られたこと。
・この企画をやり切ったこと。
・create model けいで目指した、多世代間交流の場になったこと、クリエイター⇔住んでいる人⇔訪れる人の交流のきっかけになれたこと。
・経堂での活動に関心を持ってくれる方が増えたこと。
・今後も経堂での活動を続けていけそうなこと。


もっと工夫が必要なところ
・見たかった瞬間を意識しすぎて、場づくりや巻き込み方に丁寧さを欠いたこと。


演劇の場の学びについてです。


僕は演劇を身近なものにするために活動しています。
人間賛歌で行ってきたことは、内容的には展示やワークや朗読でした。
それは「演劇」でいうところの劇場空間で、観客とのコミュニケーション・体験を生み出す仕組みで、物語の上演でした。
でもそれは「演劇の場」を目に見える形にしただけで、本当に演劇的な要素はそれよりも前にある目に見えないもにょもにょしているものな気がします。

僕の地域密着型一人演劇ユニット『赤キノコ山と蒸したお酢』は”暮らしの中でつながるドラマ”という言葉を使っています。”暮らしの中でつながるドラマ”は日常生活のシーンで起きるドラマチックな瞬間のことです。

僕の好きな劇場の舞台の上で起きるドラマチックな瞬間は、登場人物たちの関係がグッと深まったり、対話の先にある言葉にグッときたり、複雑に問題が絡み合ってどうしようもなくなったり、その葛藤を乗り越えたり、心を開いたり閉じたりする瞬間です。

僕はそんな瞬間が、劇場という閉ざされた空間ではなく、日常生活の開かれた世界で見たいと考えます。そもそも、よくあることだとも思います。
僕の「演劇の場」は、その瞬間を見たとき、「あ、これは演劇っぽいなぁ」と感じるきっかけをつくるためにあります。
そのきっかけをつくるために、日常から人や街と向き合い、丁寧さを大切に、その瞬間を見逃さずに分かち合いたいと考えています。

「瞬間を分かち合う演劇の場」はきっと、関係性や、対話や、葛藤や、心について、一人ひとりが安心して主体的に向き合える場なのではないかなと思います。そこには色々な年齢・性別・職業・生まれの違いや、立場の違う人がいて、一人ひとりが、その場のみんなと一緒に向き合っていく。

僕は人間賛歌の企画を通して、こんな「演劇の場」をつくっていきたいと言葉にすることができました。
改善点であげたことは僕が目指す「演劇の場」に必ず必要なものなので、きちんと改善していきます。有言実行。


今後やりたいことは人間賛歌全体のレポートを書くことです。
この企画が「演劇を地域に開いたものにすることで、身近なものになっていくのかどうか」を検証するレポートです。

その他にも、create model けいの総まとめレポート(今までの記事はあまりうまく言語化できていなかったので…)で来年度の活動について書こうと思います。


そしてこの長い長い制作レポートを読んでくださったあなた様、本当にお付き合いいただきありがとうございました。まさか過去のレポートも全部読まれたのですか? 大丈夫です。そうでなくても、最高です!

ここまで興味を持ってくださり、感謝が尽きません。
ぜひともどこかでお会いしたときに、感想をお聞かせください。


「これからもよろしくお願いいたします」


リンク集


create model けい マガジン


演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会


はじまりの歌


はじまりの歌 PDF版



映画『二重のまち/交代地のうたを編む』予告


書籍『二重のまち/交代地のうた』


『テアトロン 社会と演劇をつなぐもの』


ワーグナー・プロジェクト


いただいたものはすべて創作活動にあて、全国各地を回って作品をつくったり、地域に向けた演劇活動の資金にします。「たった一人でもいいから、人生を動かす」活動をより大きく、豊かに頑張ります。恩返しはいつになるか分かりませんが、必ず、させてください。よろしくお願いします。