ラーメンとは何か

京大前総長の山極壽一さんは「人間を知るには人間以外(ゴリラ)を知らなければならない」という意味の言葉をおっしゃっていた。ということは、ラーメンを知るにはうどんを知らなければならない。

ラーメンとうどんは同じ麺類で、そして日本発祥である(諸説あるが)。もし食べ物に系統樹があれば、かなり近い系統になるはずだ。日本で古くから培われた醤油ベースうどんが、明治時代に中国から新たに伝来したラーメンに多大な影響を与え、日本独自のラーメンが生まれたのは言うまでもない。ラーメンが日本発祥と物議を醸しそうな言い方をしたのは、前者(中国発)と後者(日本発)がほとんど別物と言って良いからだ。ラーメンとうどんは多くの面で共通しているが、同じジャンルかと言われればそうではない。

では、この2つに違いをもたらしているものは何なのか。すでに多くのサイトでこれら2つの食べ物の作り方や特徴の違いについてまとめられているので、ここでは生活空間における認識の違いについて考えていきたい。まずラーメンについてだが、おそらく一言で言えば「娯楽」であろう。次々と新しい種類のラーメンが開発される一方で、昔ながらのラーメンも根強い。また各々の地域によく適合して様々なラーメン文化が各地に存在している。行列ができているラーメン屋を見かけるのも日常茶飯事だ。うどんに関しては、「日常」という印象がある。もちろんうどんにも外食産業はあるし、地域毎の特色もある。しかし、ラーメンのように次々と新しいスタイルが出てくることや、超人気店として話題になることは少ない。丸亀製麺などは全国にチェーン店を構える大手外食チェーンだが、これはうどん本体の魅力以上に天ぷらなどトッピングの豊富さ、つまり付加価値によるものが大きいだろう。こうしてみると、うどん自体はむしろご飯など炭水化物的な立ち位置で、ラーメンは定食のような、より広い概念として認識されていると言えるかもしれない。

ここまでの話を踏まえてさらに考察してみよう。ラーメンは「娯楽」、うどんは「日常」に分類した。「日常」は生活に必要不可欠な行為、そして「日常」に刺激という要素を足したものが「娯楽」としたとき、ラーメンにあってうどんにない刺激的な要素がこの2つを分けていると言える。先程の認識の話を思い出せば、その答えは簡単である。それは脂質とタンパク質である。その中でも、特にラーメンをラーメンたるものにしているのは脂質だ(ラーメンから脂質を抜けばそれはもうラーメンではないだろう)。そしてこの脂質という刺激を武器に、娯楽としての揺るぎない地位を手にしたラーメンは、食べ物という枠組みに止まらず、アニメ、映画、ポップスやロックなどの音楽といった大衆娯楽に肩を並べるほどの存在になっているのである。一方でうどんも、日常に自然に溶け込む主要炭水化物の一つとして、独自の地位を獲得している。

他にも世の中には様々な食べ物がある。それらについて何が娯楽に近いのか、そうであればどのような刺激をもっているのかを考えれば、日常の中の娯楽の幅がぐっと広がるかもしれない。

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