ピユロ村の英雄のお話し2


暗い。海の中に沈んだかの様に身体が重い。ああー。俺はまた死んだのか…いや…日本に居た時とは違う!まだ、まだだ!俺は、まだ死んではならないんだ……
あの頃の俺とは全く違うんだ…だから動けッ!動いてくれッ!頼む!っと強く願い男性の声と女性の声が聞こえてきた。

「に…ちゃん……お……にい…ちゃん…お…て」
途切れ途切れに聞こえて来たその声は俺には分からない。だけど、誰かが俺の事を呼んでいる?様な気がする…
あぁ…そうか…ヒールとカーロンか…って事は生きてるのか…安心した本当によかった…『起きなきゃ』俺は、一息整えると力一杯に体の力を入れる。

「ここは…どうして俺…!?グレンゴールは…?そうか…俺がやったのか」
っと俺は起き上がり。まだ身体の節々が痛いながらも二人に抱きついた。

「生きててよかった!まぁ。話はいいから早くここから逃げよう?…兄ちゃん…この村に魔物の軍勢がこっちに向かってるらしいんだよ……」
………!?

「なんだって?それは本当?村の人は?」
 俺は、必死にカーロンとヒールに問いただす。

「村からは皆んな避難させたよ…でも…」
カーロンはヒールの方を見て、何かの決心がついた様な顔をした。

「お父さんとお母さんは、この村を救う為に戦うって…」
 お父さんとお母さんの実力なら、ちょっとやそこらじゃ負けないはず…

「でも…あのお父さんとお母さんはすごく強いんだぞ?負けるわけ…」

 今の王宮聖騎士隊でも敵わない程の剣士『タウラス=コーラム』と、(回復・攻撃・支援)の超優秀魔術師『タウラス=シーロ』
この二人には、誰も勝てないと噂されていたこの二人が負けるわけ…とそんな事を考えていると。

 いきなり、家の方からすごい物音(爆発音)の様な音がして地面が揺れる。

なんだ!?この力は…俺ら3人は、この力の強さに唖然としている。

「行かなきゃヒールたちも早く逃げて!」
俺がそう言い、立ち上がると。

「兄…お兄ちゃん!なんで!私のせいで、お兄ちゃんの身体はボロボロなんだよ?なんで…そんな無茶するの!?もう。何もしないで!お願いだから……もう…」
 カーロンが何か言おうとするが、ヒールがカーロンの声をかき消し、泣きながら言う。

 こんな状況なのに俺は、嬉し泣きしそうだ。女の子にこんな事言って貰った事がないからなのか、嬉しかった。
まだ5歳なのに、ヒールは本当に立派だ。

でも…でも…『俺は日本に居た時は何も無い…ただの人間だったんだ』……それからこっちに来てから
色々思い出させてくれたんだ。俺が騎士になりたかった理由や皆んなに出会って色々な温かみを貰った。だから!

「ヒール?俺は…守りたい…この家族の笑顔と、
安心感に満ち溢れたこの村を……俺は守りたい。それに、ヒールのせいで、俺が怪我をしたんじゃ無い。俺自身が『そうしたい』と願ったから怪我をしたんだ!」
俺は…そう伝えると

「兄ちゃん!!お兄ちゃん!!」
っと二人ともに抱きしめられ、ヒールに『必ず帰って来てねっ』と言われた。

「私たちも出来る事をするね!ね?カーロンお兄ちゃん!」
ヒールはカーロンの目を見てそう言う。

「ああ!こっちは任せとけ!俺たち二人は戦闘スキル持ってねぇからな…悔しいけど…行っても足手まといだしな…」
 悔しそうに笑っていた。

 全く!なんて言う兄弟だ!
本当に5歳と6歳でもこんなに自分で考えて行動できるんだ!こりゃあ…俺の方が年下だな…もっと頑張らなくちゃな…

 そして、ヒールとカーロンに言ってなかった事がある。一番気付かされた事は『ただの実力じゃない、必要なのは一歩踏みだすという勇気だと』分かった。
カーロンは、鍛冶屋を目指し。
ヒールは、回復魔法の特訓を頑張ってたじゃないか。
なのに、俺はどうだ?騎士になりたいってだけで何も行動してないじゃないか…転生する前も、何もして来なかったじゃないか…
なにをやってるんだ俺は……っとそんな事を考え
俺は、悔しさに拳を握りしめた。この戦いが終われば俺は、剣の特訓だ!っと決心して走り出す。

ーーーお父様!助けに来ました!……!?!?
行くと、目の前の光景は50人程の村の人と魔物(異様な姿)がバタバタと血を流し倒れていた。
母さんは倒れていて、父さんもとても戦える状況じゃないぐらいボロボロだった…

「何で来た!アーロン早く逃げろ!こいつは、お前が相手になるような相手じゃない。」
しかめっ面でそう言う。

「もー、手段が見つからず子供まで出してくるとは…愚かですね…しかし、貴方の娘はどこにいるのでしょうか?貴方が危険な状況になれば来ると思ったのですが…計算違いでしたね…」
 3本の大きなツノが生え、身長はお父さんと同じくらいで目が吊り上がり、マントをヒラヒラさせて立ち尽くしながら頭を押さえ込んで言う。

「お父様分かっています。ですが、これは僕の意思なんです!お父様らしく尊重して下さい。」
 俺は、お父さんにそう言う。

「アーロン…何があったんだ?立派になりやがって。」
 お父さんは、涙をポロリッと流れるのが見えると。

「おっと…これは感動なお話しですね…私はこの尊い光景を潰さなくてはならないのですね…何と悲しい結末なんでしょうか…この私が直々に慈悲を与え、苦しまずに殺してあげましょう…」
 っと楽しそうに笑いながら言う。

「うるさい!黙れ!お前は、誰だ、まず魔族が何の目的があって、この村を襲う!」
 俺は、しかめっ面で言うと、歯を食い締めた。

「これは大変失礼致しました。自己紹介が遅れて申し訳ございません。私の名前は『コーサス・ベルゼブブ』魔王様にお仕えする6代悪魔の一人でございます。以後お見知りおきを。目的?ご存知ありませんでしたか?てっきり…グレンゴールから聞いてると、思ったのですが…まぁいいです。目的は、この方の娘です。そして、あの尊きお方魔王様の完全復活…くくく…」
不気味な笑みを浮かべ、ベルゼブブが言う。

「知ってたのか!?グレンゴールがやられたと言う事を!?」
 俺が驚いた顔で言うと

「おっと、そろそろ時間です。もう、死んで頂きましょう。」
 っといい、俺の方に飛びかかって来る。

「アーロン来るぞ!剣を構えろ!」
 お父さんはそう強く言うと、お父さんもベルゼブブに向かって行く。

 俺は剣を構え、向かって来るベルゼブブが左の拳で殴ってくると俺は、剣で受け止めるが力に押し負けて吹き飛ばされる。

「つ、つよい…何なんだこいつ強すぎる…アニメでもこんなシーン知らないぞ…普通〈異世界転生物〉と言えば主人公は、敵を楽に倒せる物じゃないのかよ!くそ!こんな事なら『この世界の常識』じゃなくて『訓練』からしとくべきだった!」
 俺は、独り言かの様にブツブツと呟いていた。

 日本ではアニメしか見て来なかったから、勝手にチートスキルを発動するもんだと思っていたが。そうでも無いのか…くそ!小説や漫画も読んどけばよかった…さっきの力も出し方もわかんないし…いやいや、そんな事を考えてもどーにもならない。
今は『この状況』を何とかしないとな…どう戦うか?
そんな事を、一人でに考えながら周りを見渡した。

「何を一人でブツブツとまぁいいでしょう。貴方達はここで死ぬのですから」
そう言うと、ベルゼブブの右手がまがまがしく光り、避けようとしても避けられない。そして俺が、ガードしようとすると

「アーロン!その攻撃は危ない!」
いきなり、父が目の前に現れ。
目の前でグシャッと音が響き、目の前が血で散乱して、あっという間にお父さんの心臓を貫かれていた。
そしてお父さんの顔を見ると、微笑みながら『逃げろお前達だけは生きていてくれ』と囁き、目の前で父は倒れた。

「いや…そんなの……お父様…目を覚まして下さいお父様!」
ーーーそう叫んでも返事が来ない。
 そして微笑みながら寝ている父の顔を見て、怒りと情け無さが同時に来て、涙をポツリッポツリッと泣いていた。

「愚かですねぇ、人間というのは!『他人の為に使う犠牲』と言うのは、本当に見てて楽しい…ククク」
笑いを我慢した様に言う。その時、俺の中の怒りの感情が全部出てきて

「楽しい?何を笑っている?お前は俺を怒らした。俺は…守れなかった…父さんを……ここでお前を殺して皆んなを守るさ……もう、俺の前から誰も奪わせない」
 無表情の顔で殺気を放ちながら言うと、ドクンッと何かが全身をかけ巡り、力が湧き出し、黄金の様な光が辺り一面に広がる。

「空気が揺れる!?ほぅ…これは面白いですね…超神術って奴ですね。そんな物どこで覚えたのですか?」
 興味を持った様に喋り掛けてくる。

「つべこべ聞いてないで、そんな事自分で調べろよ」
 俺は何の言葉も質問にも動じなかった。殺せ殺せと頭の中で、ぐるぐると巡って来る。
俺は無言で剣を持ち、ベルゼブブの懐に飛び込んだ。

「な、き、消え…」
「見るのが遅いんだよ雑魚が。そのまま殺す」
 光の速さで飛び込んだ俺は『今の感情が自分の物なのか、俺は一体誰なのか』も分からなくなるほど無我夢中で剣を突き立てていた。

「俺より早いだと!?これほどなのか…超神術というのは…な、なんだと!?俺の腕にヒビ……ぐはっ」
 ベルゼブブは驚きながらも剣をも通さないその腕で、ガードしたものの腕は砕け散り吹き飛ばされた。

「なんなんだ…力も俺に優っているというのか…!?素晴らしい!これは…本気を出さないといけなくなりましたね。なるほど…この力で貴方は、グレンゴールを殺ったのですね」
 笑いながらそう言うと。真っ直ぐな表情して、真剣な眼差しになり、口から血を吐くと羽が生えて、蠅のような姿になった。

「進化?まぁ…どーでいい…虫になったからってこの状況が覆るわけじゃない」
 笑いながら俺は、そう言うと

「なん…だと?負けるのが怖くて、とうとう負け惜しみですか…貴方の攻撃は確かに強い。ですが…当たらなければ意味が無いのですよ!光速を超えたこの速さについて来られますかね?」
 っとベルゼブブは、笑いながら自身のありそうな表情で言う。

「そんな、ありきたりな策で俺に勝てるとでも?笑わせるなよ、そんなのこの辺り一帯を燃やし尽くせばいいだけの話し」
 俺は殺気を放ち、無表情で言うと。

「何だと!?ははは、そんな事人間にできるわけ…な、なんだ?地面からなにか…う…うわぁぁぁ……」
「もう遅い。お前が光の速さだろうが、もう。間に合わないよ」
 その瞬間、光の炎が何もかも巻き込んで全てを焼き尽くし、辺り一体の緑色の豊かな景色が、黄金に輝く砂漠の様になった。

「ぜえ…ぜえ。貴…様の力が…ここ…までとは…ははははは」
 人の姿に戻ったベルゼブブは、ボロボロになり、肩に手を当てながら、息も絶え絶え状態で言う。

「ほぉ…まだ生きているのか?何を笑っている。」
俺は、そう言うと、ベルゼブブは笑いながら
「くくく。仕方がない…この全魔力と生命力でこの村を滅ぼしてやる。」
ベルゼブブはそんな事をいいながら、大笑いして体が膨れ上がると

「そんな事させないわ」
後ろからお母さんらしき人の声が聞こえてきた。俺は正気に戻り後ろを振り向き

「お母様!?起きたのですね!よかった……」
 俺は、安心したかの様に言った。俺は、嬉しかった…時間は掛かるかもしれない。でも、あの幸せだった日常に…戻れるかもしれない。
……と思いお母さんの顔を見ると。

「アーロン?私とお父さんが好きな村を守ってくれてありがとう。もう。貴方は立派な騎士よ。だから、貴方達は王都に行きなさい?よく頑張ったわね。これから辛いことも悲しい事もあるでしょう。それでも自分の思った通りに生きなさい。そろそろ時間だわ。」

 お母さんが真っ直ぐな笑顔で言う。それは、まるで親が子供を見送るかの様に……

「お母…様…?それは…どういう……!?待って下さい、嫌です…カーロンもヒールも俺もお母様が失っては…行かないで、お母様ぁぁ」

 お母さんは、にこっと微笑むと俺の目の前から消える。

「まってよ…置いていくなよ…結局俺は誰も守れないのか…まだ、お父様から剣を教わっていない。
お母様からは魔法を教わってない。なのに、どうして…どうして…どうしてなんだよ!」
俺は涙をこぼしながら、拳を力一杯握りしめ、天高く叫んだ。

 この世界に来て、色々あったけど毎日が幸せだった。

 お父さんは厳しく強い存在でいつも家族の真ん中にいた。そして、転生した俺を快く迎え入れてくれた。優しい人。
お母さんの手料理は、今まで食べた中で一番だった。
 お父さんの抱き心地や、お母さんの笑顔が思い出してくる。
俺は、浮かれていた。
アニメでは、何となく戦闘して勝利して、国王様から褒美をもらって、騎士なるものだと俺は思っていた。
でも、違う。そんな甘い考えじゃダメなんだ。自分から決断して行動しないと!お母さんとお父さんの為にも…命を張って守ってくれたんだ!泣いている暇はない!

俺は、泣いていた涙を服で拭き取り、立ち上がった。

そして、足を引きずりながら歩き出し。自分の家に足を運べると、お兄ちゃんと呼ぶ声がした。目の前には、手を振ったカーロンとヒールが立っていた。

俺は戦場であった事を全て話した。

「それから…お父さんとお母さんは…ごめん…守れなかった…」
 俺がそう言うと、二人は涙目になっていた…

「お兄ちゃんが謝る事じゃないよ…でも…」
っと妹がそう言いかけると、隣にいるカーロンの拳がいきなり俺の頬を殴ってきた。

「兄ちゃんが、そんなめそめそしてどーするんだよ!ふざけんな!お父さんとお母さんは…もう戻って来ないんだろ?だったら……だったらさ?せめて俺らの心の中で寝かせて上げようぜ?兄ちゃん」

 っとカーロンが言うと、何も言わず3人で抱き締めながら泣きじゃくっていた。

 俺ら3人は、泣き終えて
俺は、立ち上がり魔王を倒しに行くと心の中で決心した後

ーー村の皆んなが駆けつけて来た。

 そこには、子供を抱き抱えた女の人や鍛冶屋のおっちゃんや八百屋の大将まで来ていた。玄関のドアを開けると皆んなが笑顔だった。

「この村を救ってくれて、ありがとう」

 その一言で俺は救われた様な気がした。お父さんとお母さんが守りたかった物を俺も守るよ…だから心配しないで下さい。だからどうか安らかにお眠りください。っと俺は空に向かって言っていた。

 
「兄ちゃんはすごいよ!こんなに笑顔に出来るんだぜ?もう、兄ちゃんはこの村の英雄だ」
 っと、笑い合っていると

 皆ども!ひれ伏せ!っと後ろから大きな声で言われ、皆んなが後ろを振り向くと

 そこには、厚い鎧を着た男の人達が5人程居た。
そして、皆んなが、腰を落とし手を胸に当ててひざまづく。
おお!俺はとうとう王様に褒美の授与…??

 俺は膝まずきながら、なんて思っていると。

 「我らは、王宮騎士団の使いの者!アーロン出てこい!出て来ないならこの村の皆んなを殺す」
 っと騎士団達は剣を構え、村の人達に剣を構える。

「僕ですが?どーしました?」
「!?子供…?まぁいい…皆の者こいつを引っ捕えよ」
っと俺は瞬く間に、縄に縛られ連行させられそうになると、カーロンが

「おい!兄ちゃんが何をしたって言うんだよ!この村を救ってくれたんだぜ?」
 拳を握りしめて喧嘩腰にそう言うと、ヒールが
「ちょっと、お兄ちゃん!」
 ヒールがカーロンの袖を引っ張り。呼び止めた。

そしてヒールが膝を屈しながら。
「王宮騎士様、兄様が大変失礼しました。私、タウラス=ヒールと申します。大変ご無礼を承知に申します。兄上様を如何様にするおつもりですか?」

 村の皆んなが静まり返る中、鎧を着た人達は
「子供に教える義理はない!早く連行しろ」
「は!」
 っと馬車の中にある、鉄格子の檻が扉を開き、立ち上がって歩き出すと
「にいちゃん!」
 まってて、カーロン!ヒール!すぐ戻ってくるからと俺は、微笑んで言った。
「早く歩け!」
 っと蹴られ、檻の中に入れられ、そのまま連れていかれた。

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