第一章:6話 オーラハッジ王国のお話し2

「何で…君が泣いているの?俺が…悪い事したならごめん…なさい…」
 っとそんな事を目の前の少女に震えながら言う。
俺はもう、何もかも怖くなっていた…これが…拉致監禁された人の気持ちなのかと思った。もう。本当に殺してほしいとも思った。

 俺は、転生を望んでいたこれは確かだ…でも…こんなの辛すぎるよ…俺は必死で歯を食いしばろうとするが、もう歯も奥歯しか残っていない…
自分でも『よくここまで喋れる物だと感心』する程だ

 『痛みや憎しみや寂しさや怖さ』などの負の感情が一緒に来れば、人間誰しも『死にたいと思う』事が分かった。人間は一人じゃ生きられないんだ…
そんな事を必死で考え気がつくと俺は、薄暗い洞窟で
フードを被った少女に手を引かれ必死に走っていた。
「あれ…こ…ここわ…」

――俺は前を見る。

 そこには眩い光が差し込んでいた。
その時俺は、光が俺の行く道を照し、風が俺の事を呼んで、空気が俺の事を押してくれているような気がした。

そして、眩しい光が俺の目を焼き付けて自然に目を閉じて光を遮断する。
しばらくすると段々と目が慣れてくる。俺は目を、ゆっくり開けると、そこには見慣れない森に俺は立って居た。

「こ、ここわ…外…なのか…俺は出られたのか…名も知らぬ人…あり…がとう…」
 俺は掠れた声で言う。俺の心は不安だったのが安心に変わり、緊張が弛緩に変わる。

 そして、俺の目は歪んで見えて倒れそうになりながら、フードを被った少女が何か言う。

「お……ちゃん…い…て居て…くれ…だね…」
 少女が何を言っているのか、ほぼ聞き取れなかった俺は、そのまま少女に身を寄せそのまま目を閉じる

――暗い暗い中に一人赤髪の少女が立っている。

「ア…アリステラ……?」
俺は、そう言うと。振り向いたアリステラが何も言わずに抱きついてきた。

「もう。やめてくれ!…怖いんだもう…痛いのも…こんな事なら転生なんてしなきゃ良かった…こんな力を貰っても何の役にも立たない!もう。この呪縛を解いてくれ…早く死にたい…」

 っと、俺は震えながらアリステラを振り解き

「そうさ!俺は確かに騎士を望んでいたさ…でもこんなに辛いなんて……元は普通の人間なんだよ俺は強くもない……今だってただこの力で溺れている
だけの人間なんだ……」
 俺は、膝を落とし四つん這いになりながら、強い口調でそう言う。アリステラは、涙をポツリッポツリッと見せて無言で立ちながら、俺の頭を撫でてくる。

「なんで、無言なんだよ!何でお前が泣くんだよ!それじゃあ……俺が……俺が…泣かしているみたいじゃないか…どーしろって言うんだよ!答えてくれよ…アリステラ…」
 俺は立ち上がり、アリステラに掴みかかり怒鳴ると、アリステラは涙を流しながら消える。

 耳元で『アーロン?アーロンは自分のしたい事をしなさい?』そう囁かれた様な気がした時、シーロとコーラムの姿が遠ざかって行くのが見えた。

「お母さん!お父さん!置いていかないで」
 っと、言いながら飛び起きると。
そこには、見知らぬ壁画や花が置かれている部屋で高級そうなベッドの上に俺は居た。
そして、自分の身体を見ると、爪も生えて歯も全部あり、傷も治っていた。

――ガチャっと扉の音が聞こえて、俺は拷問の事を思い出し震える。

 そこには、俺と同じぐらいの身長の少女が花を持って立ち、起きた俺の事を見ると、涙と花が地面に落ちた。

 金髪の畝った髪の毛…もしかして!?
俺は、目を大きくして俺の前に居るのが誰なのか察する。
「ヒ、ヒール…?ヒールなのか…?」

――その時、ヒールが俺の胸に無言で飛び込んできた。

「おにい…ちゃん!生きて居てくれてありがとう…ごめんね…助けるのが遅くなって…でもね…必死で探したんだから…」
 俺は、唖然としていて状況が上手く掴めなかった
でも…この匂いの懐かしさであらゆる感情が一杯になり、俺は無言で強く抱き返した。
しばらくすると、全ての状況が読めてきた。

「ここに連れてきてくれたのも、俺を助けにきてくれたのも全部ヒールなんだな…」

「ううん。違うよ?カーロンお兄ちゃんと村の人達の皆んなが、お兄ちゃんの事を助けたんだよ。」

 ヒールがそう言うと、俺は微笑みながら。
「そうだったんだね…ありがとう…」
 そう言い俺は、立ち上がろうとするが視界が歪んで倒れそうになり、ヒールが支える。

「お兄ちゃん!まだ動いたらだめだよ!いくら魔法で回復したって、体力までは回復してないんだから寝てなきゃ!ダメ!絶対だからね?」
 ヒールは俺に強く言い。ベッドまで支えながら引き返す。

「ああ…そうか…ごめん…」
っと、そんな話しをしていると

――バンッと勢い良く扉が開く
「兄ちゃん!よかった!生きて居てくれて…あれから半年間探し回ったんだぜ?……心配かけやがって…」
 そこには、ちょっと身長の高くなったカーロンが
2本の剣を持ち言葉を発していた。

 そうか…俺は半年間も拷問されていたんだな…では、もう俺は…8歳かぁすっかりカーロンもヒールも変わっちゃったな…そんな事を考えていると。

「ちょっと!カーロンお兄ちゃん!いきなり開けないでよ…びっくりするでしょ!」

「あぁ〜はいはい、ごめんって!んで、何話してたんだよ!もしかして!?久々に会ったからってえっちな事してたんじゃないだろうな!」
 カーロンは呆れた顔をして謝った後、指を差しながら言うと

「な!?何言ってんのよ!そんな訳ないじゃない!第一私たち兄弟なんだよ!本当!カーロン兄ちゃんのバカ!」
 顔を赤くして膨れっ面で言うヒール。俺はこの光景が懐かしくて、つい微笑んでいた。

「な!?はぁ…そんな話しよりも、兄ちゃんに渡したい物があるんだ!じゃじゃーん俺が作った至高の剣!兄ちゃんの為に作ったんだ!」
 カーロンは一息つくと、目をキラキラさせながら剣を俺に見せてきた。

 俺は、その剣を見ると牢屋にいた事を思い出し震えた。

「やめてくれよ!もう!俺にそんな物をみせるなよ…もう…戦いたくも無いんだ……ごめん。強く言い過ぎた…今は一人にしてくれ。」
 カーロンの手を叩き剣を落とし、俺は強く怒鳴り、意気沮喪した声で謝ると二人は唖然とする。

「兄ちゃん…ごめん…」
 カーロンが意気消沈した様に言うと、二人が部屋を出ていった。

 なんだよ、もう…嫌なんだ…痛いのも大切な人が失っていくのも…
それを思うと段々虚しさだけが襲いかかってきた
俺は震えて、寝転びながらそんな事を考えていた。

ーーーそして、それから1週間が経つ
 俺は何もしないまま、寝てばかり居ると

「お兄ちゃん…本当にこれでいいの?お兄ちゃんの心にはもう、あの時みたいな気持ちはないの?」
 そんな事を妹に言われ、俺は昔の事を思い出す。

「そんな物ないね。第一皆んなよくやるよ…命を張って皆んなを守るなんて。どーかしてる。俺は、皆んなを置いてでも逃げるね。ははは」
 そんな事を俺は笑いながら言うと、ヒールの手がいきなり俺の頬を叩き

「ふざけないで!お兄ちゃん…そんなのお兄ちゃんらしくない…それから、お父さんとお母さんはそんなお兄ちゃんの為に命を賭けてまで死んだんじゃない!目を覚まして。」
 ヒールの涙を流しながら真剣な眼差しに何も言えず、俺は俯いて、涙を流しながら出て行くヒールの姿を目で追う事しかできなかった。

 俺はいつからこうなったんだろうか…歩む事を忘れて、立ち上がろうとする事もしない。前の俺ならどうだ?立ち上がってたのかな…そんな事を考えながら寝転んだ。

 何もない普通の会社員が『騎士になろう』なんて無理な話だったんだ…
どうしてだ…あの頃に戻りたい…カーロンとシーロが口喧嘩をしてて、それを俺が遠くから見守り
お母様の温かな料理と、お父様の何気ない愛情があった日常に戻りたい。
そんな事を思い出し、俺は寝転びながら再び泣いていた。

――そして、日差しが登り朝を迎えた頃

「いけ!中に突撃しろ!」
 っと、大きな声と共に扉が勢い良く開き、俺は急いで居間の方に駆け出した。
「タウラス家は、国家反逆罪及び脱獄の罪によりここで処刑させて頂く」
 扉を開けると、レンフォンと騎士たちが妹と弟を掴み剣を向けていた。
俺は、あの牢獄の事を思い出し震えて腰を抜かした。

「はっはっは、怖いか?そーだよな?怖いよな?だってあんだけ拷問されたんだもんな!もっと地獄を見せてやるよ」

「お前らがお兄ちゃんを痛ぶっていたんだな?ゆるさねぇ!」
 カーロンは踠きながら言う。そして、レンフォンは高笑いをしながら、言ってくると妹の足を剣で刺した。

「う、うわぁ」
「ヒール!?離せ!お前らヒールをこんな目に合わせて置いてタダで済むと思うなよ!」
 カーロンが喧嘩腰に言う。そして俺は痛がる妹を見てられず、震えながら目を閉じる。

「クソガキがうるさいんだよ」
 レイフォンが弟の顔面を持ち壁に向かって打ちつけ、カーロンは気絶する。

「カーロンお兄ちゃん!」
「へっへへ!うるせぇガキが…少しは黙ってろ。お前ら!そいつの目を開けさせろ」
 と俺は騎士たちに拘束され、無理やり目を開けさせられまた一本とヒールの足を剣が貫き、またヒールが大きな声で叫んでいた。

「おに…いちゃん…私の事は良いから…カーロン兄ちゃんを…連れ…て逃げ…て」
 その時、お母さんの最後を思い出した。俺は、歯を食い縛りまた守れないのか…と拳を強く握り締めて思うと、段々怒りが込み上げてくる。

 俺の頭の中で、人間は殺せ殺せ全員殺せと悪魔の様な声が響いて

俺は、いつの間にか暗闇に居た。そして赤い炎が燃え上がり俺はそれに触れようと手を伸ばすと
「それを触っちゃダメェェェ」
 っと大きな声と共に俺はその炎に触れた『恐怖』『憎しみ』『恨み』『憎悪』『自棄』といった負の感情が一気に身体を巡ってくる。すると、今までの嬉しかった事や楽しかった事は全部消えて、俺は頭の中が割れそうになり

「う、うわぁぁぁぁ」
俺は頭を押さえながら叫ぶと

「な、なんだ…あの力は!?あの、禍々しいオーラは…早くいけ!全員で殺せ!」
 レイフォンは、妹を放り込み俺に向かってきた。

 俺は目の前にあった剣を一振りすると、家が全壊して山をも切り裂いた。レイフォン達は、立ち止まり足がすくみ俺の前でたじろぐ

「な、なんだこの力は…ひ、怯むな!たかが子供一人に何怯んでいる!それでも、騎士か!」
 レイフォンがそう言うと、騎士達は叫びながら飛びついてきた。

 無意識に体が動き剣を振るたびに楽しくなっていった。そして、俺の剣があらゆる物を切った。喉を切り裂き、騎士の剣を切り裂き、心臓をも貫いた。

 俺は笑いながら、虐殺していき30人ほど居た騎士達もおよそ10秒も掛からなかった。

「な、なんだ…この力は…化け物がぁぁぁ」
 レイフォンは剣を構えてこっちに向かって来る。俺も剣を構えると
「だめええええ」
っと妹の声が部屋中に響き渡ってくると同時に、俺はレイフォンを切り裂きレイフォンが倒れる。

「アーロン…とか言ったな…お前なら陛下を…たすけ…れる…今までの無礼をゆる…して…」
 レイフォンは、その言葉を残し息を引き取った。
そして、家が無くなり静寂が支配する中ヒールの口が動く。

「お…にいちゃん…?」
「これは…俺がやったのか…うわぁぁぁぁ…」
「にいちゃん!」
 俺は、持っていた剣を落とし、床に震えながら床に腰を落としていた。
自分の手を見ながら震えているのがわかった。

 そして、3人に抱きつかれた。
「お兄ちゃんは悪くない。この運命が悪いんだ!だから…この運命を変えに行こ?お兄ちゃん…」

「そうだよ!だから、兄ちゃんは兄ちゃんらしく居てくれっ!」

ヒールとカーロンは、息が合った様に涙を流しながら言っていた。そこで俺は、ヒールとカーロンに気付かされる
「そうだな…俺は俺らしく行かないとな……よし!」
 俺は自分の顔を叩き、意を決した様な声で言う。

「お兄ちゃん……」

「兄ちゃん…!俺の作った剣…受け取ってくれるか?」

「ああ…受けとるよ…二人共ありがとう!それから…色々心配かけて…ごめんな…」
 
「そんなちっちゃい事は生きてれば何回でもあるさ!大事なのは兄ちゃんのここ〈心〉なんだ!って鍛冶屋の大将が言ってたぜ!」
 カーロンが自分の胸を叩きながら発した。

 全く…この二人には、つくづく俺は負けてるな…ヒールとカーロンの為にも!俺は前を歩く!そして…もう負けない…自分にも敵にも!

 そして、アーロンは決心する。

――もう。人は殺さない!そして俺は…このカーロンとヒールを守る騎士になる!守って守って守り抜いてやる!
その為に…今しなきゃいけない事…それは、オーラハッジ王国の王を何とかしないと…

 レイフォンが最後に言っていた『お前なら王を助けられるかもしれない』っていうのはどういう事だ?助けるって何を?どーすればいいんだ?

日本にいた時のアニメだと。魔族に乗っ取られてるとかそんななのか?いや…わからない…もうアニメに頼るのは辞めるんだ!
この世界の俺は、自分が見た物だけが全て真実で、前の事はウソなのだから……

「あぁ!もう!考えても仕方がない!俺一人しか居ないんだ!とりあえず乗り込むしかない!」
 自分の頭を掻きむしりながら、独り言の様に呟いた。

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