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IASPの疼痛定義から考える、多角的な痛みの捉え方 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜

こんにちは、理学療法士の赤羽です。

みなさんは臨床において、患者さんの訴える痛みが問題となる場面に遭遇することがあると思います。その際、皆さんは「痛み」をどのように捉えているでしょうか?

以前の私は、「痛み=悪」「痛みは組織損傷が原因であるはず」と考えていました。

今回は、IASP(国際疼痛学会)の疼痛の定義から、痛みの捉え方について考えてみましょう。

IASP(国際疼痛学会)の定義

「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」

6つの注釈

  1. 痛みは常に個人的な体験であり、生物・心理・社会的要因によってさまざま程度で影響を受けます。

  2. 痛みと侵害受容は異なる現象である。感覚ニューロンの活動だけから、痛みを推測することはできません。

  3. 個人は人生での経験を通じて、痛みの概念を学びます

  4. 痛みを経験しているという人の訴えは重んじられるべきです

  5. 痛みは通常、適応的な役割を果たしますが、その一方で、身体機能や社会的および心理的な健康に悪影響を及ぼすこともあります。

  6. 言葉による表出は、痛みを表すいくつかの行動の1つにすぎません。コミュニケーションが不可能であることは、ヒトあるいはヒト以外の動物が痛みを経験している可能性を否定するものではありません。

IASPの定義は2020年に改訂されました。上記が最新の定義です。

これを踏まえ、痛みの捉え方について考えてみましょう。

  • 実際の、もしくは起こりうる組織損傷に関連する、あるいは類似した、不快な感覚および情動体験」→組織損傷の有無に関わらず、痛みは出現し、それ自体が不快な体験である。

  • 痛みは常に個人的な体験であり、生物学的・心理的・社会的要因に様々な程度で影響されます」→身体機能だけでなく、心理的・社会的要因も痛みに関与しており、多角的な視点が必要です。

  • 痛みと侵害受容は異なる現象です。神経活動のみから痛みを推測することはできません」→侵害受容器が反応した瞬間に痛みを感じるのではなく、脳に信号が伝わり、脳がそれを出力することで痛みは生じます。ここには心理的・社会的要因も関与します。

  • 個人は、人生経験を通じて痛みの概念を学びます」→人生経験から、人それぞれ痛みの概念は異なります。つまり、痛みの感じ方は人によって異なる可能性があります。

  • 痛みを抱えているという訴えは尊重されるべきです」→様々な要因が絡むため、医療者が「痛い/痛くない」を判断することはできません。訴えを受け入れることが重要です。

  • 痛みは通常、適応的な役割を果たしますが、身体機能や社会的・心理的健康に悪影響を及ぼすこともあります」→痛み=悪ではありません。本来、痛みは身体を守るための警告です。しかし、痛みが原因で身体機能低下や心理的ストレス、社会的問題につながる可能性もあります。

  • 言葉による表現は、痛みを表す多くの行動の一つに過ぎません。コミュニケーションが不可能なことは、ヒトまたは動物が痛みを経験していないと断定する根拠にはなりません」→言葉だけでなく、表情や動作、力み具合など、相手をよく観察することが大切です。

まとめ

上記の視点から考えると、痛みが必ずしも身体機能の問題だけで生じるとは限らないことがわかります。心理的・社会的要因も影響するため、対応によっては痛みに悪影響を与えてしまう可能性もあります。

それでは、復習を兼ねて、疼痛に関する問題を解いてみましょう。

問:IASPの疼痛の定義から正しいのは以下のどれか

  1. a) 痛みと侵害受容は同じ現象である

  2. b) 人間関係のストレスは疼痛に関与する

  3. c) 身体機能面の問題によってのみ疼痛が出現する

  4. d) 患者の訴える疼痛は無視してかまわない

  5. e) 身体機能は痛みに全く関係がない

解:

  1. a) 痛みと侵害受容は同じ現象である → 異なる現象のため×

  2. b) 人間関係のストレスは疼痛に関与する → 心理社会的要因になるため〇

  3. c) 身体機能面の問題によってのみ疼痛が出現する → 心理社会的要因も関与するため×

  4. d) 患者の訴える疼痛は無視してかまわない → 訴えは尊重されるべきため×

  5. e) 身体機能は痛みに全く関係がない → 生物学的因子も関与するため×

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