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マッサージで生きる希望が湧いてきた

夏休みは8月1日から残り時間のカウントダウンを脳内で始めるという、非常に残念なタイプの人間だった。
残り30日…残り29日…
お盆過ぎには憂鬱のピークを迎える。
小学生ながらに当時から、自分、もったいない生き方してんなと思っていた。

そんな私がアラフォーになり、器用に生きれるようになったのか。
もちろん答えは明確に「否!」
元気なお声で「否!」

年末年始休暇だって純粋に楽しめるのは大晦日まで。
1月1日のおめでたい日の私の心境はいつだって薄曇り。
毎年1月3日が憂鬱のピークとなる。
相も変わらず残念な生き方をしている。
人はそう易々と変われない。

ことにめいっぱい子供に還って甘えることが許される実家という環境ならなおさらだ。
台所で私のためにコーヒーを淹れてくれている母の足元にまとわりつき、湿度高めの愚痴をぶつぶつと唱える。
「もうさぁ、これから老いていく一方だしさ、しわくちゃになって体は不調が増えて楽しいことなんて多分もう一生ないんだよ…」

いやいやいや、書いてて自分でも引くほどの激ヤバ発言である。
湿度高いなんて甘いもんじゃない。

足元から毒キノコがすくすく生育し、胞子を撒き散らしながら数日で実家を腐海に飲み込む危険度である。
あれ、私ナウシカを志していたはずなのに、むしろ腐海を拡げている?

年明け早々そんな暗い話に付き合わされる母、不憫。
しかし私の余りの暗い物言いが一周回ってツボに入ったらしく母はプププと小さく噴き出して言った。
「まぁ~!なんてこと言うの。まだまだこれからじゃない!!」

そんなこんな言いながらも、母は鬱々としている私に、母の友人おススメの整体師を紹介してくれた。
「行ってきて体の疲れを癒して来てごらん!施術代はプレゼントしてあげるから!」
母は腐海に飲み込まれない。

そこで、行ってきたわけです。
先述の通り、子供の頃から酷い肩こり持ちである私はこれまで、ん十年間様々な施術を受けてきており、受ける側としては免許皆伝、もう達人の領域である。
そっと肩に手を置かれただけで「こやつ…!ヤブだ!」と分かる超絶高性能のレーダーを搭載している。

整体でヤブに当たった時の絶望はもう計り知れない。
触るところ全て面白いほどポイントがズレていて、その箇所をどんなに強く押そうとも何の効能も気持ちよさも得られんのよ。

ああ、そこじゃないのよ。
あと1センチ右。
力が弱いんだよぉ。

泣きそうになっていると、
「お力の具合どうですか?」
渡りに船とはこのことか。
食い気味に「もう少し強めで…」と懇願する。

ああ…ものすごい力入れてくれてるけど、体に上手く力が伝わってないよ。
そしてやっぱりツボというツボ全部外してる。

施術時間をフルに使って一人突っ込みに力を注ぐことになり、脳は余計なフル回転、体はストレスで力がガッチガチに入り、結果お金を払い余計に疲れて帰ることになる。

整体、骨盤矯正の類は当たり外れが大きい。
それを憂慮した私は、今回は「オイルリンパマッサージ」を選択した。
これまでの経験上、オイルマッサージは素人がやったってそれなりに気持ちいい。

オイルマッサージに使用されるオイルには、ラベンダーやローズ等の好きな香りをブレンドしてくれることもあり、施術だけでなく、香りでのリラックス作用も望める。
また、オイルマッサージは整体に比べ、お店側がより優雅な演出をしてくれるのも良い。

整体はどちらかと言えば、質実剛健。
BGM?知らんわ。有線流れてるだけラッキーだと思っとけ!
お客様サービス?何言ってんだ、お前らは患者だろ。

と、まあこんなイメージである。(え?違う?)
客側としても、身体の痛み、歪みが治りゃ細かいことは言いますまいという武士の覚悟のようなものが見える。

それに比べてオイルマッサージはエステに近い。
上品なメロディーと、チロチロチロという小川の音がたゆたうように流れる店内。
ここはバリ島?
そんな気分で心も寛がせてもらっている気がする。
だから多少施術に難があっても、心の安らぎ、優雅な時間を買っていると思えばオイルマッサージの満足度は必然的に高くなるのだ。

それで、受けに行ったんですよ。
オイルマッサージを。
ここ数年質実剛健な整骨院ばかりに行っていたため、こういう優雅な雰囲気は久しぶり。

施術をしてくれる方はおそらく40代くらいの女性。
外見だけで大体の期待度を計れる達人の私。
内心いいぞいいぞと顔がほころぶ。
ふっくらとしているが骨太そうで筋肉質っぽく、それでいて表情は親しみ深い。
別の世界線で出会っていたならお友達になってほしいと告白していたかもしれない。プリテンダー。

彼女はうつぶせになった私の脚やら腰やら背中やらを触り、まあまあ酷いことを優し気な口調で機関銃のように指摘し始めた。

「背中がストレスを感じている人の背中になってますね~。これじゃ辛くて呼吸も浅くなってるでしょう?」
(ストレス背中!?初めて聞いたわ)

「だいぶ骨盤が歪んでいますね~」「少しO脚気味ですね」
「踵と足の外側だけで歩いているみたいですね」
(そうなんですよ。歩くの下手なんですよ)

「お尻も冷たくなってて筋肉がないようですね」
(諦めてます)

「仰向けに寝ていても腰が浮いていますね。反り腰ですね」
「うわ、首と肩が驚くほどにゴリゴリですね」
(そうなんですよぉ。10代の頃から言われ続けてきてるんです)

「顔は右側が凝っていますね」
(顔面って凝るんだ)

うすうす気づいてはいたが、どうも私の身体は少々建付けが悪いらしい。

なかなかのことを言いながら彼女はグイグイ、時にゴリゴリ体中をくまなく押していく。
上手な人の手は温かくて、パワーを感じる。
彼女の手がまさにそうだった。
発熱しているのではないかと思うほど熱い肉厚の手にはパワーが漲っていて、グイグイ、時にゴリゴリ押されるたびにエネルギーを分けてもらっているような気さえした。

彼女はずいぶんサービス精神旺盛な方で、オイルマッサージだけの予定だったのに、ついでですからと骨盤矯正やヘッドマッサージもサービスしてくれ予定時間75分を大幅にオーバーして終了した。

実家に帰省するたびにこの方に整体をお願いしよう。
そう心に決め、ホクホクしながら帰り母に事の次第を報告した。

「最高だったよ。また今度行くのが楽しみ!」
そんな話をしていてふと私は連休明けの仕事が憂鬱でなくなっていることに気付いた。
生きる希望に満ち溢れている気さえする。
人生これから、という前向きでお気楽な気分が私を包んでいた。

そうか、体が楽になると心も元気になるんだった。
心と体は繋がっている。
そんな当たり前のことに気付けなくなるくらい私の身体は歪みに歪み、呼吸は浅くなり、手足は冷え、肩及び首は痛かったのだ。
それが常態化して、それを辛いと感じる心もマヒしていたのだろう。

年明けに大事なことを思い出すことが出来た。
身体をしっかりメンテナンスしよう。
それは心の健康に直結している。

そうだった。
私は元々痛い、寒い、キツイ、眠い、お腹が空いた等の身体的不快感にとても敏感な人間であった。
暖かく、居心地よく、満たされ、楽な空間にいれば、それがそのまま心の充足になる。

今年の目標がまた一つ加わった。
身体を「快」の状態に置き続ける努力をしよう。

やっと心の底から、新しい年の訪れを寿ぐ準備が出来た気がする。

サポートいただけたら、美味しいドリップコーヒー購入資金とさせていただきます!夫のカツラ資金はもう不要(笑)