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アドバンスド・マイクロ・デバイス(AMD)決算概要

 2022/11/1に半導体銘柄のアドバンスド・マイクロ・デバイス(以降AMD)の決算が発表されました。カテゴリは無配で成長を優先するグロース株です。

AMDとは?

 AMDは、世界的な半導体企業である。コンピューティングとグラフィックスセグメントには、主にデスクトップ及びノートブック用マイクロプロセッサ、マイクロプロセッサとグラフィックスを統合した高速処理ユニット、チップセット、ディスクリートグラフィックス処理ユニット(GPU)、データセンター及び業務用GPU、開発サービスなどが含まれる。

図 マイクロプロセッサ(RYZENシリーズ)
図 グラフィックユニット(RADEONシリーズ)

 エンタープライズ、エンベデッド及びセミカスタムセグメントでは、主にサーバー及び組み込み用プロセッサ、セミカスタム・システムオンチップ(SoC)製品、開発サービス、ゲーム機向け技術などがあります。

図 組み込み向けマイクロプロセッサ(RYZEN EMBEDDEDシリーズ)
図 システムオンチップ(SoC)

 システムオンチップは、昨年-今年に買収が完了したXilinxのチップをさし、ユーザがプログラマブルに回路をプラグラミングすることで、消費電力効率がよく、高速、安価な回路をカスタマイズすることができるFPGA(Field Programable Gate Array)という技術である。

売上・EPS・ガイダンス

 まず初めに、AMD社は昨今のPC需要の減退により、決算前に利益警告を行なっています。そのため、売上、EPSのコンセンサスは事前にかなり引き下げが行われていたことを前提とします。

図 AMD決算結果
  • ❌売上:$5.6B( YoY 29%  )v.s. 予想 $5.62B

  • ❌EPS:$0.67  ( YoY -8%  )v.s. 予想 $0.68

  • ❌Q4売上ガイダンス:$5.2B-$5.8B v.s. 予想 6.94B

*CC : 為替の影響を除いた場合

 売上、EPSはクリアしましたが、Q4の売上ガイダンスはミス。成長力も昨年は売上成長率が67%でしたが、今年は29% (CC 36%)と大幅鈍化。EPSの成長は素晴らしいものとなりました。その他の決算結果も確認しましょう。

決算結果概要

図 AMD決算結果詳細(Non-GAAP)
  • 売上:$5.5B (YoY 29%)

  • 粗利:$2.7B (YoY 33%)

  • 粗利率:50% (YoY +1.5%)

  • 営業経費:$1.5B (YoY 47%)

  • 営業経費率:27% (YoY +3%)

  • 営業利益:$1.2B (YoY 20%)

  • 営業利益率:23% (YoY -1%)

  • 純利益:$1.0B (YoY 23%)

  • EPS:$0.67 (YoY -8%)

 昨年からの比較で見ると、売上は20%増、純利益は23%増と悪くないように見えます。しかし、Q2までの決算が非常によかったためであり、Q3ではQ2を下回る決算を出してしまいました。

図 AMD四半期売上推移
図 AMD四半期粗利率推移
図 AMD四半期EPS推移

 どの数字を見ても決算結果は失速しており、ここまでの成長ストーリーが見る影もありません。では、なぜここまで決算が悪くなってしまったのか、セグメント別に見ていきましょう。

セグメント別決算概要

 AMDは主に、データセンター、顧客向け(PC、パーツなど)、ゲーミング、組み込み向けの4つのセグメントからバランスよく構成されています。

図 AMD Q3セグメント別売上

データセンター

 データセンターは、昨年から売上が45%、営業利益が64%成長している、AMDの中の成長頭です。売上も$1.6Bとゲーミングに続いて2番目に売上が上がっています。

図 データセンターセグメントの売上・営業利益率(Q3)

戦略的ハイライト

・EPYCプロセッサーが牽引する10四半期連続の記録的なサーバー・プロセッサー売上高

・Azure、Amazon、Tencent、Baidu などによる 70 を超える新しい AMD インスタンスを強化するために EPYC プロセッサの展開を拡大

・次世代CPU「Genoa」の初出荷需要が旺盛

・ザイリンクスのFPGAおよびネットワーキング製品とPensando DPUの出荷が大幅に増加

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 こちらを確認すると、データセンターは非常に好調であることがわかります。サーバ向けのCPUであるEPYCプロセッサーの売上が好調であろ、次世代CPU「Genoa」の売り出しは需要旺盛なようです。また、買収した際リンクスのFPGAとPensando DPU(データセンター向けの超高速プログラマブルユニット)の出荷が大幅に増加しているようで、今後も需要は旺盛であることがわかります。Q2と比較してみましょう。

図 データセンターセグメントの売上・営業利益率(Q2)

 Q2では、YoYで83%伸びていたデータセンターですが、Q3では大きく失速したことがわかります。Q2とQ3を比較しても、売上は$0.1Bしか増えていないので、比較的好調なデータエンター向けセグメントも不況の煽を受けていることがわかります。

顧客向け

 顧客向けは、昨年から売上が-40%、営業利益率はマイナスに転落するなど悲惨な状況になっています。

図 顧客向けセグメントの売上・営業利益率(Q3)

戦略的ハイライト

▪ PC の需要が軟化し、PC OEM とチャネル パートナーは在庫の削減に注力

▪ 「Zen 4」アーキテクチャを搭載した 5nm RyzenTM 7000 シリーズ プロセッサを発売し、高い評価を得ました。

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 つまり、PCが売れないため、AMDのプロセッサはどんどん在庫が積み上がっている状態となり売上、利益もそれに伴って減少したようです。昨年から売上は0.7Bが消滅、利益は516Mが消滅してしまっていますから、決算がひどいことになっているのも頷けます。決算書の財務を確認しましたが、在庫が去年の12月から大幅に増えていることが確認できました。

図 AMD決算書(在庫)

ゲーミング

 ゲーミングは、AMDのセグメントの中でも最も売上が大きいセグメントとなっています。昨年から売上が14%、営業利益率は-7%とこちらも悲惨な状況になっています。

図 ゲーミングセグメントの売上・営業利益率(Q3)

戦略的ハイライト

▪ ソニーとマイクロソフトがホリデー シーズンに向けて準備する中、ゲーム コンソール SOC に対する強い需要

▪ 5nm チップレット設計の次世代 RDNATM 3 GPU を発売し、現在の製品と比較して大幅なパフォーマンス向上を実現

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 売上は上昇していますが、利益は昨年から$100M近く減少してしまっています。顧客向けセグメントに続いて、ゲーミングセグメントでも、需要の減速は顕著であり、AMDはその煽りを大きく被ってしまったことになります。

組み込み

 組み込みは、ザイリンクスを買収して新たに習得したセグメントです。ザイリンクスが得意としているFPGAの分野で今後、どのようなシナジーを「生み出していくかが非常に注目されています。

図 組み込みセグメントの売上・営業利益率(Q3

戦略的ハイライト

▪ 航空宇宙と防衛、自動車と通信の売上を記録

▪ 拡張された製品ポートフォリオによって推進される、新しいデザインの獲得機会とより深い顧客エンゲージメント

▪ Energy Sciences Network は、米国エネルギー省の次世代ネットワークに AlveoTM U280 ベースのネットワーク アクセラレータ カードを選択しました。

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 組み込みセグメントは、昨年はまだ買収前ということで、ほとんど売上はありませんでした。今回の買収により売上は一気の他のセグメントと同等の規模となり、大きな成長エンジンとなっていることがわかります。

 また、営業利益は49%と非常に高くなっており、なんと、全てのセグメントで最も利益をあげたセグメントとなっています。これからの成長が楽しみな分野です。QoQでは売上が3.6%程度なので、今後の成長加速に注目です。最後に株価チャートと、バリュエーションを見てみましょう。

図 AMD年初来株価チャート

 株価は年初から61%減の大暴落中であり、バリュエーションも一時はPER60程度まで上昇したが、今は25まで落ちてきている。過去平均見てもずいぶん安い水準にあるが、業績が悪化している間はPERは下落し続ける可能性が高い。

私の投資判断

 本決算で重要なポイントは以下です。

  • 売上成長率は29%と堅調に見えるが、Q2の70%と比較して、成長は著しくてかしました。

  • Non -GAAPベースの純利益は昨年から23%増加しているが、EPSは8%ダウンしてしまった。

  • Q2からの成長の失速が大きく、比較的好調なセクターでも年間30%程度の成長に減速した。

  • データセンターセグメントは売上45%増加、営業利益64%増加と強いがQ2の80%、132%の成長と比較すると大きく減速している。

  • 顧客セグメントは売上-40%、営業利益はマイナスと売上$0.7B、営業利益$515Mを吹き飛ばす大損失。

  • ゲーミングセグメントは売上14%増、営業利益率は16→9%に低下し、Q2よりもさらに売上、利益は落ちている。

  • 組み込みセグメントは、ザイリンクス買収による新しいセグメントであるが、売上規模はその他のセグメントと同等で、売上は、最も挙げているセグメントとなった。成長の速度は不景気の煽りを受けまだQoQ3.6%だが、営業利益率は49%と非常に高いため、今後の成長に期待。

  • 株価チャートは年初から60%下落しているが、業績悪化中であるため割安とはいえない。

  • 以上より、私の投資判断は以下としました。

 以上の結果から、成長頭のデータセンターが成長鈍化しており、マクロ経済状況からも、クラウドへの投資は控えられてくる傾向にあると考えます。また、顧客向けPC分野は壊滅的で、ゲーミング部門も利益が減少しています。組み込みセグメントは、今後の成長期待と利益率の高さが魅力的ですが、QoQで3.6%とまだ成長軌道に乗ったとはいえないと思います。

 株価は年初から61%も下落していますが、業績が悪化しEPSが下落している最中なので、同じ株価でもPERが拡張してしまう可能性が高いです。業績悪化しているうちは割安とはいえない水準でしょう。

 私であれば、持っているAMD株は売り払い、新規買い付けは行わないと思います。低金利時代となり、設備投資が活発に行われるようになってから、再びデータセンターと組み込み機器の売上が成長軌道に乗った時がいい海馬になると思います。投資は自己責任でお願いします。

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