短編小説「夏休みの地球滅亡日記」
1
「地球を破壊するのを手伝ってほしい」と頼まれたのは初めてだった。
今日は終業式だった。徒歩三〇分の登校の時から、嫌な予感はしていたが、やっぱり三〇度を超える猛暑で、体育館に粗雑に並んだ男の子たちは文句を言って騒いでいる。そのせいで私の地域作文の表彰に時間がかかった。大勢の前で待機するのはひどく疲れる。
賞状を見せて階段を降りると、担任の佐藤先生が「さすがだね」としっとりした笑顔で言った。私はひと時だけ心が温まったのを顔に出して、すぐに冷めた気持ちを胸に閉じ込めた。先生はよく私のことを優等生だと褒めてくれる。小学校生活を思い返せば、よく表彰はされるし、宿題も忘れたことはない。教育相談でも、先生から心配してることはないと言われた。だから、悩み事を話せなかった。
休み時間は、終業式の今日も一人で過ごすことはあまりない。それでも、夏休みが始まる前でいつもより騒がしくなった教室で、一人だけ浮いている感がした。ちょっと笑えそうな話をしても、祢粉避(ねこよけ)ちゃんは真面目だから、とか言って曖昧な反応をされる。この笑い声と自分との間に、分厚い灰色の壁が見える。
帰りの会が終わって、山積みになった宿題をランドセルに無理やり積めていると、後ろから名前を呼ばれた。顔しか知らない他クラスの女の子で、掃除当番を代わってほしいと上目遣いで手を合わせてきて、私は手に持っていたプリントを落としそうになった。仲良くしてもらっている子たちと、三人で一緒に帰る約束をしているから。少し考えて、結局私は、掃除当番を引き受けることにした。すると三人は「そうなの、わかった」とゆがんだ顔の中に笑みをつくろって手を振った。
掃除が終わって、クーラーがつけっぱなしになっていた家について麦茶を飲んだ。消し忘れたのだろうか、と思ってダイニングテーブルを見ると、青い硝子の皿に、オムライスが一つ、居心地悪そうにラップで覆われて置かれていた。母が仕事に行く前に作って行ったのだ。私は手を洗って、着替えると、真っ先にそのオムライスにスプーンをつけた。食欲はあったはずなのに、ずっとお腹がいっぱいで、母には悪いが吐き出しそうだった。仕事が忙しいのに作ってくれた母の背中を思い浮かべると、学校で浮いている自分の背中を重ねてしまって、額がつんとした。
食器を洗い終えると、嫌な気持ちを紛らわせたいのもあったし、後で焦るのが嫌だから宿題に取りかかった。
算数のドリルをある程度終わらせて、ページをめくると作図の問題が登場した。頭に熱が回っていた私は、ようやく手を止めることになった。この問題には定規が必要だったのだが、生憎にも私の定規は前の席の子に貸していて、返されていなかったことに気づいた。近隣のコンビニまで、自転車で十五分もかかるから、なんとなく気が重くなったが、新学期に備えて今の内に買いに行こうと思えた。
コンビニの中はひんやりしていて、オレンジの陽を浴びた肌が、湿度を取り戻していった。文房具の売っているところから、変哲のない棒定規を選んですぐに店を出た。
日が暮れかかっていて、雲の隙間から漏れ出た夕日に目を細める。私は夕日に向かって自転車を押していた。なんとなく歩きたかった。時間をかけて、家に帰ったら何をしようかと考える。きっと面白いテレビはやっている。映画もみたい。CDも聞きたい。想起しているといつの間にか頭に浮かぶのは、一人でテレビをみる自分の背中だった。母は仕事が大変で帰ってこない日だってある。帰って来ても九時くらいでひどく疲れている。
だから今日は一緒にはいられない。夏休みが始まったばかりなのに、こんなに気持ちが暗くなっている。終わってほしくない。夏休みは続いてほしいと思う。長ければ長いほどいい。
中学校に上がるまでは、学校に行きたくない。蝉の声が遠く、静かになっていく。私はいつの間にか涙を流していた。学校に行きたくない。そんなことを思ったことは何度もある。しかし、ここまで強烈に胸の中が空っぽになったことはあっただろうか。一日の中で、突然心がどうしようもなく寂しくなる時間がある。それがきっと今だ。明るい夕日より暗い影に目が行くのもそのせいなのかもしれない。
ふと私は足をとめていた。そこは家の近所にある、ある程度広い公園だった。現在は中央に派手に立っている桜の木を植え代えるために、立入禁止になっている。一瞬頭が痛んで川に溺れた子どもを助けて死んだ父の顔を思いだした。ここは父が散歩道として好んでいた場所だった。喪服を着た母が両手で目を覆っている姿と、線香の匂いが頭から下ってきて、この世の全部を目にしたくなった。瞼で視界に蓋をしようとしたとき、そんな意識に反して、影にまみれた公園に目を見張っていた。公園には花壇があって、カーネーションやマリーゴールドがランタンのように咲いている。カラスの鳴き声が聞えなくなった。代わりにカラスよりガラガラとした低い声が聞えた。まるで人が熱中症か何かで倒れたかのような声だった。
「助けてくれ」
よく聞き取れなかったが、そう耳に響いた気がした。それも声は向日葵畑の中からしたようだった。
「助けてくれ」
私は自転車を放りだし、立入禁止の黄色いロープをまたいで声のする方に向かった。微かだった花の鮮やかな香りが濃くなっていく。畑の整備をしている人が倒れたのではないかと思った。自分の背丈と同じ高さの向日葵を手で払って避けた。草と土の香りが強くなる。すると、花一つ生えていない円形の土だけになった場所に辿りついた。
「……水が欲しいんだ」
そこに横になっていたのは干からびて嗄れたようになった、細長い「何か」だった。その細長い何かは胴体で、植物のようで、声が出ている頭は、向日葵の花のような形をしていた。背中に氷をいれられたようにひんやりと風が吹いたような気がして、足から肩にかけて鳥肌が立っていった。
「助けてくれないか」
その存在が顔のようなものを向けた時、お腹のあたりから喉にかけて熱い塊が登ってきたような気がして、私は悲鳴を上げていた。この暗い中で不気味な肢体が、この世で唯一動いているように見えた。
気づいた時には、私はものすごい勢いで足を踏み出して、もと来た道を手で切り開いていた。何も聞こえないまま、私は自転車に乗って、息も忘れて家に向かってペダルを踏み続けていた。向かい風がものすごい勢いで吹き抜けたが瞬きもできなかった。
ようやく呼吸をして、目が乾いていると知ったのは、玄関の前に着いてからだった。
真っ先に頭に思い浮かんだのは警察の格好をした人の姿だった。連絡した方がいい。もしあの化物のような見た目の存在がいればこの辺の住民は死んでしまう。
ふらふらしたまま自転車を留めて電話をとりに玄関へ向かったとき、思った。このまま関わらなければいい。見て見ぬふりをすればいい。瀕死のようだったから、きっとあの化物は勝手に死んでいる。そして翌日未確認生物か幽霊かで報道される。そうだ、電話する必要なんてない。
しかし、もう一度あの存在の顔が思い浮かんだ。その顔は枯れた向日葵のようだった。気持ち悪いと思ったが、思い返すほど、どこかかわいそうな気がしてきた。それに、助けを求めていた。
街灯の明るさを頼りに私は道を戻っていた。近くの自販機で天然水を買って、巨人にも見える向日葵畑を手で避けた。
果たしてさっきの化物は……いた。
ぐったりと寝そべっていてどう声をかければいいかわからなかった。私の手に握られている天然水に釘付けになると、手と思わしき細い弦のようなもので、自身の顔を指さした。私はキャップを開けてざぼざぼと水を流した。顔に水が染みると、暗くなっていた花弁の色が鮮やかに甦り、黄色の花弁が乾いた洗濯もののようにぱきっと伸びた。
まるで花が咲く瞬間をスローにしたような、肉眼では見ることができないような動きにぞっとした。化物はめきめきと立ち上がり、顔をこっちに向けた。背丈が思ったよりも大きかった。
「ありがとう。助かったよ」
干からびていた時の嗄れ声が、がっしりした低い声質に変わっていた。
「……あなたは、何者なの?」
怖いとは思っていたものの、足がいうことを聞きそうになかった。
「宇宙人だよ」
淡々と彼は答えた。
そう言われて、頭の中に円盤が思い浮かんだ。私はある言葉を思い出して、嘔吐感が静まってきた。
「人間の魂は死んだ後にうまく成仏できないと、宇宙人につかまってしまう」
そういえば一緒にこの辺を散歩していたとき、冗談のようなことを父は言っていた。信じているわけではないけど、随分小さいころに聞いたから、疑いもせず心の中に残っていた。
だから抵抗は残ったものの、化物と思っていたこの存在が、宇宙人であっても納得できた。……というか、触手やら人とは違った独特な雰囲気から、宇宙人以外は考えられない気がした。
「お礼に何か願いはないか?」
宇宙人は顔をこちらに向けて言った。目がないのに視線を感じる。
「何もないよ」
少し考えて、私は答える。自分から叶えたい願いは思いつかなかった。もっとも、夏休みが永遠に続けばいいが、魔法でもない限りそんなことはできない。この宇宙人もそういう話をしているのではないだろう。
「どうして地球に来たの?」
「ちょっと用事があってね」
と言って彼は立ち上がろうとした。
「この姿だったら、警察にみつかるよ?」
「心配ない」
そう言うと彼の全身はぐにゃぐにゃと歪み始め、謎の光に足元から全身を包まれていく。そして、向日葵のモンスターのようだった体が、五十代くらいの男性に変身した。ふくれっ面で眼つきが悪かった。私が寒くなった腕を抱くようにすると、彼は「この国の人間の、平均値を割り出した顔だ」と言った。人工知能かなんかで、年齢やら顔の整いやらを判断する機能があるらしいが、その五〇%のことを言っているのだろうか?
「そういえば、どうして助けてくれたんだ?」
そう聞いてくる彼は、やはり友好的だなと感じた。敵意を感じないから、不思議なことに、宇宙人とすらすら話せているのかもしれない。
「わかんない。でも、困っているなら助けたいと思っちゃうから……」
なるほど、と彼は空を見上げた。黒色に塗ったキャンバスに青色の絵の具が浮き出るみたいに、星がつかめそうだった。私は見惚れそうになったが、どうやら彼はもっと現実的なことを考えていたらしい。
「実は俺は困っているんだ。人がいてくれると助かるんだが」
声を半トーン上げて彼は言った。まるで弱みに付け込むかのようにくどい言い方だった。あまりにも下心が露骨だったから、私は断る言葉を考えた。関わらない方がいい。何を企んでいるかもわからない。でも、一応、気になったから、何をしたいのか聞いてみた。
「地球を破壊するのを手伝ってほしい」
瞬きをして開くと、そこにあったのは小さな空洞だった。察したときにはマグマにでも落とされたように死への恐怖を思った。ぎらりと銃口が睨んでいたのだった。
やられた、と思った時に、宇宙人の顔にずるいことをしているようなにやにやとした笑みがこぼれた。
「冗談だよ」
と言うと、彼は銃をしゅるりと自分の手の一部に溶け込ませた。虫の声を聞が響いていただけの静かな空間に、嘲る声が響きだして、私はかゆいような感覚が腹の底から湧いてきた。しかし、逆らえばどうなるのかわからなかったのもあるし、断れない性格が作動したのかもしれない。結局私はその宇宙人を家に泊めていた。
2
朝起きると勉強机の下で体育座りした彼がいた。見つけた時はどきっとした、と同時に私は昨日のことを思いだした。どうやら山奥の基地まで案内してほしいらしい。その場所を彼は忘れてしまっているが、そこにはどうやら探している人がいるとのことだった。
深夜に帰って来た母に、万が一見つかってしまわないように布をかぶせて机の下に隠れてもらっていたのだった。
今日は金曜日で母は会社だった。「午後は遊びに行ってくる」と告げると、母は隈のできた目元を細めて出て行った。
その間、彼は目的地の場所を絵に描いていた。絵には塔風車と、チューリップのような花々、それを囲むような木々が描かれていた。そんな都合の良いことないと思っていたが、ピンときた。絵の特徴を考慮する限り、私の知っている場所だった。
「ここに行きたいんだ」
人間の姿に擬態した彼は絵に指をさして言った。その手は本体のものより太くて、焼けていて、固そうだった。
「……警察にお願いするのはだめなの?」
バス停までついて急に思いいたった。
「怪しまれるリスクは避けたい」
「女の子と一緒にいる方がよっぽど不審がられるよ」
椅子に座って目的地の遠くの山を見上げながら私は言った。すると彼は、確かにそうかもな、と呟いた。
「そういえばお前の歳はいくつなんだ」
「十二歳だよ」
「ということは小学六年生だな。中学に上がるのか」
学校に行きたくないとは言えなかった。
「そうだよ。……宇宙人なのに詳しいね。」
「まあそうだな。最低限の知識は」
「そうなのかな、学校の情報なんて必要ない気がするけど」
すると彼は下を向いてだまりこんだ。その姿を見て私は、昨日の人間に擬態していない彼の姿を思い出した。公園で干からびたように地面に倒れて、大きな頭をこちらに向ける姿。
「あなたのこと、『ひまわり』って呼んでもいい?」
衝動的にあだ名をつけたいと思った。彼の落ち着きのある喋り方のせいなのか、どこか愛着がわいてきた。
「好きに呼んでくれ」
彼がそう言うとバスが来た。
先にひまわりが乗車口を上った。私は一足遅れて「待って」と手を伸ばした。彼は運転手に運賃を要求されて手を差し出されているのを見て困惑している。慌てて私は前に出て、頭を下げて千円を渡した。運転手は金額を示してお釣りを渡したが、ぼそぼそしていてよく聞こえなかった。座っているのは優先席のおばあさん一人だったから、私とひまわりは一番後ろの長椅子に座った。エンジンがかかり、炭酸水を開けたときのような音を出しながらバスは前進した。
「ひまわりは何歳なの?」
フロントガラスから見える景色に目を向けながら、体が揺れる。ひまわりも同じ方向を向いてじっとしていた。
「悪いが覚えてないな。ほとんどの記憶がなくなってしまったんだ」
そういえば、昨日も同じことを言っていた。
「宇宙船の着地が失敗したんでしょ。いつ地球に来たの?」
「それも覚えていない。ただ、そんなに長くはない気がするんだ。気がつけば水不足で倒れていた」
無表情で彼は言った。私を騙そうとしたり、脅そうとしたときは、いきいきと表情を変えていたくせに、今は家の番を任されたブルドックのような顔をしている。加えて両眼をフロントガラスに向けて動かさないから、はたから見れば怖いおじさんだった。
「誰かに命令されて来たの?」
「だった気がするけどな……いや」
ひまわりは眉を斜めに曲げて、異物でも見つけたかのように険しい顔をして、「両方だったはずだ」と独り言のように呟いた。
いずれにしても、私にとってその発言は気を緩めさせてくれるものだった。演技かどうか自分でもわからなかったが、私はくすくすと微笑んだ。
「なんだ。似てるね、私とひまわり」
「どうして、そう思うんだ?」
ひまわりは初めて、フロントガラスから目を私に向けた。
「だって、命令ってことは誰かに頼まれて、地球まで来たんでしょ。私もそういうのが多いから」
「違うな」
間髪入れずにひまわりは言った。温度の感じられない声に私の顔はかたまった。
「お前は嫌でも頼みごとを引き受けるのか?」
きっと彼にその気持ちはないのだろうが、説教されているような気分になった。学校の先生に怒られることは稀だから、急な鋭い声に涙腺が緩んだ。
「断れないんだよ。だって、困っているから頼むわけで……」
「なら、違うな。俺は嫌だったら断る。人が困っているかどうかなんて考えたことはない」
まだ話し終えてもないのに、ひまわりはそう遮った。宇宙人に説教されるなんて馬鹿みたいだが、目元が熱くなった。
「お前、お人よし過ぎるんじゃないのか。昨日の話によると掃除当番を断れなかったって。それで、友達と帰れなかったわけだ」
ひまわりは急にくすくすと、その皺のできた目を輝かせて、「年寄りみたいな思考だな」と嘲るように笑った。
途端私は宇宙人なんかを宇宙人なんかの願いを聞き入れている自分が馬鹿馬鹿しく思った。バスの中で恥ずかしい思いをするのも、断れない自分の性格からきているのだ。だとしてもこの扱いはあまりにも哀れだと思った。
私は歯を食いしばって、つぼに入ったようにゲラゲラ笑っているひまわりの顔を強く睨んだ。
気づけば目的地に辿りついていた。何か仕返しをしてやりたい。そう思いながら私は降り口に向かった。外に出たときに、カーブミラーに映った顔が、自分のものとは思えないくらい不機嫌そうだった。
3
ひまわりの絵には大きな風車と小屋、恐らく芝生のようなものが描かれていた。これだけ情報があれば簡単に思いだすことができた。きっとあの場所だと。山道は入りくんでいるし、随分足を運んでいなかったが、道は覚えていた。
「少し、歩くスピードが速くないか」
昔、父と母とピクニックに行った場所に、行くことに私は楽しみになっていた。
「早く着いた方がいいでしょ」
もう十二時は過ぎていた。これから晴れる予定ではあるが、曇りでいてほしい。標高が高いからまだましな方だが、さすがに暑さにやられる。
獣道に入ると、さらに蝉の声が湧き出た気がした。
「少し、水を飲みたい」
私は鞄に入れておいた氷を入れた水筒を手で渡した。すると、ひまわりはそれを手に取って飲んだ。
まだ曇りであってほしい、と願いながら黙々と汗を流しての負っていると、写真の場所についた。
空は山道を進む間に晴れていた。風が吹いて、木と蝉の声に囲まれて窮屈だった気分がすっきりした。
同時に、喉につっかえていた言葉が吐き出た。
「ほら、人なんかいないよ」
四月にはチューリップ畑が広がるこの草原には、人影一つないのだった。
「……そうだな。だがここに来たのはもう一つ目的がある」
すると、ひまわりは塔風車に向かって歩きだした。
「この下に基地があるんだ」
扉を開けると、石階段が地下に続いていた。
「ちょっと、やらなくてはならないことがあってね」
ひまわりに続いて、足元のよく見えない道を下って行った。何をするのか気になった。階段を降り終えると、木の扉が目の前に現れた。躊躇せずひまわりが扉を押すと、中は淡い光を放つ、見慣れない機械が並んでいた。それらは静かな電気の音と共に作動しているようだった。
SF映画でしかみれないような光景に呆気に取られていると、ひまわりは一番奥にある椅子に座り、カラフルに光るボタンをかたかたと打ち始めた。
「これで終わりだ」
と、彼が最後のボタンを押すと、コンピュータ―たちの光が一瞬強くなって、また元と同じ強さの光になった。
そして、ごごごごと数秒間建物内が揺れて、すぐにおさまった。
「ありがとう。これで、ひと段落はついたよ」
ひまわりはにこやかになっていた。
「一体、何をしたの?」
階段を上りながら、ひまわりの背中に向かって話しかけた。
「宇宙船のスイッチを入れたんだ」
さっきの地響きは宇宙船が起動したからなのかもしれない。
「もしかして、人を探してるのって、その人と一緒にどこかの星に帰るため」
階段を上り終えて、外の世界に出て、息を吸う。空気がおいしかった。
「……一つはそうだな。だがもう一つあった気がするんだ」
彼は空をみて少し黙った後に続けた。
「会えれば思い出せると信じているんだが」
ひまわりはぶっきらぼうにそう言った。変なの、と私は笑った。気がつけば、私たちはたわいない会話を交わしていた。好きな食べ物はなんだとか、宿題はどれくらいあるんだとか。バスの中で抱えていた怒りを忘れて、親しみをもってひまわりと話していた。
草原に寝ころがって空をみていた。傍らにまだ生き残っていた白い綿毛のたんぽぽが一つ咲いていた。
「ありがとう」
風の音しか聞こえないのどかな空気になったとき、ひまわりは私の目を見ないで言った。
「明日はどうするの?」
「私の探している人がいそうな場所に行きたい。また道案内をしてほしいんだが」
ひまわりは一際真面目そうな声でそう言った。私は「うーん、どうしようかな」と、自分でも意地悪をするように言ってみた。するとひまわりは硬かった表情を崩して、鼻で笑った。
「脅迫してでも、案内させるけどな」
「ひまわりって、我儘だよね」
私は自然とひまわりのテンポに合わせられるようになっていた。不思議なことに、昨日会ったばかりで、人間でもないはずなのに、なぜか私はひまわりと一緒にいるのに抵抗を感じなかった。
その日から、母に出かけると言っては、いろんな場所を回ることになった。近所のプールとか、何駅か離れた場所にある遊園地とか、遠いけど海にも行くことになった。私は久しぶりの外出に日々心を躍らせていた。
外出することを母に告げることになったが、最初は疲れているのに力なく笑い返すだけだったのが、日が増すにつれて、しらじらしさがなくなっていった。きっと母は友達と遊んでいると思って喜んでいるのだろうが、実際は向日葵に似た宇宙人と一緒に人探しをしている。なんてことは間違っても言えなかった。
しかし、どれだけ日が経っても、どれだけいろんな場所を探しても、ひまわりが探している人はみつからなかった。仲良くなりたくて言葉が多くなる私に対して、ひまわりの口数は少なくなっていった。
そして夏休み半ば、八月の初週のことだ。
ひまわりと私が絶交したのは、夏祭りの一週間前だった。
4
その日は暑かった、私たちは映画館に来ていた。ひまわりも見たいものがあるわけではなかったが、その人がホラーを好きだったという理由で、外国のホラー映画を見ることになった。席は後ろの方を選んだ。映画を見ているとき、観客が悲鳴を上げたり、マナーの範囲で目を伏せる動作をする中、ひまわりは一切表情を動かさなかった。
終わった後、近くのショッピングモールでアイスを買って、バスを待っている間に食べた。暑かったから、ひんやりしたストロベリーの味が舌を潤して、裏切るように頭をつねった。横にいるひまわりは、急に静かになった犬のような顔つきでアスファルトを歩く蟻の行列をみていた。
私は気づいていた。出会ったときに比べて、ひまわりの口数が減っていることに。彼が心当たりのある場所はどこでも行ったが、そこは混んでいて人を見つけることが困難だった。
私は父がいた時のように、久しぶりに出かけられたのが楽しかった。しかし、ひまわりは人が見つからないことに、やるせなさを感じていったのだろう。
バスが来るまであと十分だった。埃のような色をした雲が太陽に差しかかって、蟻は段差を上がろうとしてはずり落ちていた。
「一つ言い忘れていたことがあるんだ」
ひまわりの声が新鮮に感じた。これだけ一緒にいたはずなのに久しぶりに声を聞いた気がした。
「何?」
「地球を破壊するのは冗談だってこと」
「……それは、聞いたよ」
「でも、破壊される、ことは言ってなかったよな」
夏なのに、しめった空気が漂って汗を流すほど暑いはずなのに、私は上着を着忘れているような気分になった。アイスを食べたせいでもあるだろうが、肌に張りついた寒気をはがせる気がしなかった。
「……どういうこと?」
まるで、世界で動いているものなどないように思えた。全ての時が止まって、思考すら止まっている。近くで鳴っている蝉の声すら幻聴に聞こえた。
「思いだしたんだ。宇宙船を起動させたのは、その人と逃げるためだった。なぜなら地球に隕石が落ちるからだ。ちょうど来週にな」
たんたんと述べられて、情報の処理が追いつかなかった。
……隕石? なんて?
「信じたくない」
「だろうな。だから宇宙船の場所を探したい。これもこの辺の山にあるはずだ」
前に感じた宇宙人の人探しに加担したことへの馬鹿らしさが、今度は怒りに変わっていた。全部断る強さのない自分に湧いた感情だ。
「案内してくれれば、宇宙船に乗せてやる」
「な、なんで。なんとかできないの。隕石をとめられないの?」
「忘れた。それに、俺は隕石が落ちて地球が終わろうが別にいいんだ」
この始末だった。私はひまわりに同意を求める目を向けた。カップアイスが溶けていた。
「なんで、全部なくなっちゃうんでしょ。人も死んじゃうんでしょ」
「前に言ったはずだ。俺は人が困っていようと気にすることはない」
「そんな……」
「お願いだ。お前の命は保証してやる」
頭も下げずにひまわりは言った。困っているには違いなかった。宇宙船の場所がわからないなら、彼も隕石の巻き添えになる。だけど、私はどうしても受け入れる気になれなかった。
「断るよ。私は断るよ」
「……そうか、これだけ渡しておく」
ひまわりはそう言って絵を渡してきた。前に自分で言ったことを忘れているのか、彼は脅迫しようとはしなかった。
5
バスに乗ってからは時があっという間だった。けっして短くない距離なのに、すぐに停留所が見えて、いつの間にか降りていた。一度も言葉が出なかった。私の頭を行き交っていたのは、三日後に地球が終わるのに、何もできない無力感だった。
窓から見えるひまわりはフロントガラスを見つめていて、降りようとしなかった。
振り返って、バスの扉が閉じる瞬間、手を伸ばしていた。慌てて、見上げると、運転手が眉をまげて見おろしていた。
会釈もせずに、私は家に向かって走り出した。背中越しにバスの発車する音がした。これから彼は一人で宇宙船の場所を探すのだ。
無心に足を動かして、早歩きに、そしていつの間にか普通に歩いていた。
全部嘘である気がした。
歩いていると、向うから知っている声が聞えた。
「あ」と驚いた声をあげて、自転車を押して駆け寄って来る足が目に入った。
「ねこよけちゃんだ」
そこにあったのは二つの女の子の姿だった。この二人は、終業式の日に一緒に帰れなくなって、それから、会っていなかった。私には二人の影が新鮮にみえた。
「久しぶり」
髪の毛をいじってもどかしい素振りをしながらも、機嫌よく二人は声を出した。その声が聞こえたとき、私の頭から一つ何かが抜け落ちた気がした。
「あれ……」
まるで違う世界から現実に帰ってきたような感覚がして唖然とする私に、不思議そうな瞳を二人は向ける。唐突に終業式の日に一緒に帰れなかったことを思い出して、謝った。
二人は苦いようで甘い笑みを向けると、来週の花火大会に一緒に行こうと誘ってくれた。恥ずかしいような思いをしたものの、私はその誘いを受けることにした。
家に帰ると、珍しく母が帰っていて夕食の準備をしていた。それから、何かポケットに足りない気がして、確認してみると、そこには折りたたまれた絵の描かれた紙が入っていた。上手だと思ったものの、それをどこで拾ったのか、誰が書いたのか分からなかった。
異様だとは思ったもののなんとなく捨てる気にはなれなくて、仏壇に置いた。そこには父が使用していた日記帳があった。
その日はそのまま母と一緒に夕飯を食べて、たまたまテレビでやっていたホラー映画を見て眠った。
次の日から、私は友達二人とプールに行ったり大型のショッピングモールに行ったり遊びにでた。
長いのか短いのか、いろんなことがあって時間感覚がよくわからなかったが、きっとこれが充実しているということだと思った。
そうしているうちに、花火大会の日はやってきた。
6
暗く陽が沈みかかった午後六時に、同伴してくれる二人のうち一人の両親の車の迎えが来た。母は誘ったものの、家で見ていると言った。母は思い出したように仏壇に飾られていた麦わら帽子を渡してきた。父の形見だ。母は持って行きなさいと言って、抱きつけば壊れそうな笑みをつくった。父は中学に上がる前に、もう一度一緒に花火をみようと言っていた。きっとどこかで見ている気がする。最近調子がよいから、そんな奇跡を信じたくなった。
屋台で焼きそばやりんご飴を買ったあと、河川付近にブルーシートを敷いて、三人で並んで喋った。やがて笛に似た高音が上がってゆき、破裂音が胸の中に響いた。雲のない空に蛍光色と橙の火が散っていく。まるで紺色に染まったキャンバスに絵の具が弾いたようだった。両側から感嘆の声が聞えて、地面にいる私たちは一丸となって空を見上げていた。傘が開くように空の一帯に花が灯っていた。
私はその空をみていてふと疑問に思ったことがあって、麦わら帽子を脱いだ。つばが影になっててわからなかったが、空に金色に光る丸い星が見えた気がした。目を細めてみると、それはすでに沈みかけている月の欠片とは違い確かに丸く、燃焼しているように明るかった。これが理科で学んだ金星なのだろうか、とは思ったものの、私の頭は何かを思いださなければならないと呼びかけているように聞こえた。あの時歩いていて、抜け落ちたような感覚と相反する違和感が頭の中にあった。
何か思い出せるような気がした。
ドン! と重い音が頭から全身の肌を靡かせる。そのたびに何かが頭の中から出てくるようでもどかしかった。私は麦わら帽子に既視感を覚えた。円形のつばが花弁のようで。とんがっている部分は、太陽に向かっている。私はその花の名前を知っている。
脳裏に情景が浮かんだ。赤い屋根の小屋。そこから見える花火。そこに咲いた向日葵畑。その風景に私は見覚えがあった。
「あの紙だ」
トイレに行くと伝えて私は走り出した。その場所は花火大会の会場から近かった。駐車場の自動販売機で天然水を買って神社の方向の山道を駆け上がった。人ごみの喧騒に耳を澄ますと、空に浮かんだ燃えるような球体に気づき始めた人がいるようだった。
そして道の途中に木々から漏れ出た花火の灯りに照らされたひまわりを見つけた。宇宙人に戻った顔がやはり枯れた向日葵のようだと思って、胸が少し和らいだ。ペットボトルを開けてひまわりの顔にかけた。蒸発するように湯気が立ちこもり、ひまわりは顔を上げた。
「どうしてここにいるんだ?」
ひまわりは驚く素振りもせずに言った。表情は見えなかったが感動しているようではなかった。
「あのね、ひまわり。あの絵の場所がわかったの」
呼吸を乱していた私はひまわりの質問を無視して言った。「そうか。俺もその場所を思いだしたんだ」とひまわりは落ち着いて答えた。
「それともう一つ、どうすれば隕石を止められるかもわかった。宇宙船の場所までいけば……」
はっとして私は空を見上げた。空に浮かんだ丸い球体は、ブラッドムーンのように強い輝きを放って、星たちを覆いこんでいた。間違いなく光は大きくなっている。
「視力がいいからわかる。あれは隕石だ」
言葉を遮るように私はぼうっとするひまわりの手を引っ張った。すでに乳酸菌で重たくなった足のせいで大した速度は出せなかったが、そのまま記憶の場所に続く階段を上った。麦わら帽子が落ちそうになったから手に持つことにした。
「ひまわり、お願い。どうかあの隕石をとめてほしいの」
切らした息に交えて私は言った。
「ひまわりも、探しているその人が死んじゃったら、嫌でしょ」
花火の光が私たちの影をつくった。今頃、花火大会の会場にいる人たちも隕石に気づき始めて、その異質な光景にざわめきはじめているはずだ。家の窓から見ている母もきっと同じだ。
「そうだな。……俺も死んでほしくないんだ」
「じゃあ、助けてくれるの」
ひまわりは無言でうなずいた。私は弦のような、ひまわりの手を引きながら最後の階段を上り終えた。ここから見える花火の情景、大きさは、ちょうど紙に書かれた絵と同じだった。音の大きさも、一帯に広がる向日葵畑も、父と母といつか一緒に来た日を思い出させた。胸ではじけて、鼓膜をぱちぱちと揺らす音が降っている。
赤い屋根の納屋に目を凝らすと、確かに、円盤のそれらしき宇宙船が、がらくたのように横たわっていた。
ひまわりは宇宙船に乗ると、触手のようなものでボタンをパチパチと押し始めた。彼が人類を裏切って逃げ出すことはなさそうだった。カラフルに船内が照らされると、エンジンが起動して、がたがたと不安定に円盤が宙に浮いた。
「それ、大丈夫、ちゃんと動くの?」
「問題ない。多少、がたつくが、あそこまで届けばいい」
ひまわりは徐々に大きくなる丸い光を指さした。とにかく足を動かすのに夢中だったから、今さら私はまだどうやって隕石をとめるのか、聞いていないことに気づいた。しかし、その言葉でなんとなく察しがついてしまった。
「どうするの……」
「自爆するんだよ。隕石を焼ききれば、地球に被害はでない」
強く揺さぶっても動きそうにない固い口調に私は今までのことを思いだして言葉を失った。
「人間の魂は死んだ後にうまく成仏できないと、宇宙人につかまってしまうそんな言葉を信じていた気がしたんだ」
ひまわりはぼうっと空を見上げたまま呟いた。その声が私にはうまく聞き取れなかったが、何を言っているのかはよく理解できた。
「俺がわがままで人が死のうとどうでもいいと言ったのは、昔、それで損をした気がしたからだ。もう一生会えない、そんな気がしたんだ。さよならだな」
「行かないでほしい」
私は声をふりしぼった。滲んで見えたひまわりの顔がどうしても麦わら帽子を被っているように見えて、あの写真を思いだした。私の胸から声が溢れ出して、それは言葉にならないまま嗚咽としてこぼれ出た。ひまわりはその姿をみて哀れむような、それでいて微笑むような顔をした気がした。やがて隕石はだいぶ大きくなっていて、燃えるようなごごごという音が花火の音に混ざっていた。ひまわりは意地わるそうな声で、「どうする? やめてもいいんだぞ」と言った。少しだけ視界が鮮明になるのを待って、私は首を振った。ひまわりはそれを見てにやりと笑った気がした。
「こういう聞き方が正解か。地球を破壊するのを手伝ってほしいんだ」
私は涙を拭って顔の筋肉を笑うように動かした。
「嫌です」
ひまわりは私の顔をしばらくじっと見つめた。ドン、という破裂音が再び胸を揺らす。もう花火は終わりに向かっていた。いつか見たその光景の美しさに気を取られていると、宇宙船は舞い上がった。身体が勝手に動いて「行かないで」と手を伸ばしたが、突き放すように宇宙船は高く上昇した。その風で麦わら帽子も一緒に宙に舞った。まるでこれから打ち上げられる花火のように。燃えるように光る隕石に向かっていく宇宙船は、巨大な丸い火の花が咲く瞬間に全てを覆い隠す音ともに爆発した。私が見ていた景色は白い光に包まれた。
7
蝉の声がまだやまない八月の後半だった。始業式の終わり、帰りの会を待つまでの休み時間、水道の水を飲みたかったが、二人の仲の良い友達と話していた。夏休みに遊んだことを思いだして、笑っていた。八月終わりの暑さの中、夢中で喋っていた。一緒に帰る約束をしていたから、帰りの会の間ずっと席でうずうずしていた。
準備をして、机の中のクリアファイルを取り出すと、一枚の紙が蝶のように落ちた。幼いころの落書きかと思ったが、それにしても緻密な絵だった。そのとき後ろの扉が開いて、名前のわからない違うクラスの生徒が入って来て「掃除当番を代わって」と頼んできた。私はその子のきらきらした両眼を見て首を振った。
「ごめん。一緒に帰る約束してるから」
その子は残念そうに「そう……いつもごめん」と言って、扉を出て行った。これでいいんだ、と私は胸の中で呟いて、三人で並んで外に出た。
このあと一緒に公園に集合する約束をして二人と別れた。
夏休み前は、誰かと一緒にいたいなんて思っていなかった。それどころか学校さえ行きたくないような気持がしていたのに。なんでこうなったんだろう。友達と一緒に遊んだから、こんな気持ちになったのだろうか。
それとも……。
家に近づいていくと、父の好きだった散歩道だった公園に入る。いつも通る道だけど、なぜかとても懐かしく見えた。
蝉の声に立ち止まって、私は何かに誘われるように公園に入る。向日葵畑まで辿りついて、一輪だけ枯れていることに気づく。その姿がどこかで見たことがあるような気がした。
既視感が私の頭の中を過ぎった。水道水でいいならあげようと思った。ランドセルに入れていた水筒を開けて、公用の蛇口をひねった。そして、その水をかけた。まだ暑いから、溢れたその水は地面を湿らせたあと、すぐに乾いた。
誰かが置いて行ったのか一つの麦わら帽子が向日葵の頭にかぶさっていた。それを見つけた途端、家の仏壇に飾られた写真を思いだした。幸薄そうでいてそれでも微笑んでいる母と麦わら帽子を被っていても日に焼けている父の写真が頭の中に張りついて、時を忘れたように私は頭の中でずっと見ていた。
「人間の魂は死んだ後にうまく成仏できないと、宇宙人につかまってしまう」
その言葉を思い出す。
風が吹いて、枯れていても真っ直ぐに太陽に向き合う向日葵の首を一度曲げさせた。まるで相槌を打つような仕草だった。
向日葵の花言葉に生まれ変わってもその人を愛すというのがある。
「そうか……そうだったんだ」
声が零れる。中学に上がる前に祝おうとしていた父親の顔と一瞬で消えた黄色い火の大輪が思い出の中に咲いた。失くしていた記憶が戻るような気がした。でもこの記憶はすぐに儚く消えてしまって、もう二度と思い出すことはできないような気がした。それでも、
「会えてよかった」
相変わらず向日葵は太陽に向けて堂々と立っている。その焼けた姿をもってしても勇敢な姿を見せていた。陽の暑さで溶けてしまいそうな夏休みの記憶が朦朧と頭の中に残っている。
仏壇の父の手帳は何枚か千切った形跡があり、白紙には絵を描いたような跡が残っていた。
忘れてもいつか思いだせるように、私はそれを日記に書いた。
↓ エンディングテーマ「日輪花」