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連載1_プラトン『国家』 先生になる前に読んでおきたい「教育古典」名言で迫る教育の本質

教育とは、〔略〕視力を外から植えつける技術ではなくて、視力ははじめからもっているけれども、ただその向きが正しくなくて、見なければならぬ方向を見ていないから、その点を直すように工夫する技術なのだ。

 今から二千数百年も前の、古代ギリシアの哲学者、プラトン。これは、「洞窟の比喩」と呼ばれる有名なたとえ話を語る際に、プラトンが言った言葉です。

 それはこんな話です。

 洞窟の中に、その奥の壁面だけが見えるようにして縛られている人たちがいたとしましょう。彼らに見えるのは、後ろから差し込む光に照らされた、背後を行き来する人たちの壁に映った「影」だけです。そのため彼らは、その「影」こそが本当の世界だと思い込んでいる……。

 人間は、多かれ少なかれ、そうやって「影」ばかり見て、世界の真実に気づかずに生きている存在である。プラトンはそう言うのです。

 しかし彼は続けて言います。人間は、本当は真実を見る「視力」をもともと持っているのだと。そして教育とは、まさにその視線を向け変える営みにほかならないのだ、と。

 このたとえ話でプラトンが言いたいことはいくつかありますが、とくに教育にとって興味深いのは、彼の次のような洞察だと思います。

 わたしたちは皆、生まれ育った家族や地域、つまり「習俗の価値」(影)のなかで育ちます。でもそこにとどまっていては、異質な人たちとの間に、時に争いが起こってしまうものです。だから教育を通して、わたしたちは子どもたちの視線を、より「普遍的な価値」(イデア)へと向けていこう。プラトンはそう訴えたのです。

 プラトンの、深い洞察が光る一節だと思います。

プラトン(哲学者、紀元前427年~347年)©里内良

2プラトン

【note】「イデア」とは、絶対の「真理」のことと一般には言われている。しかしプラトンは、より本質的には、皆が納得できる普遍的な「よい」ことという意味をこの言葉に込めているとわたしは考えている。


※名言の出典『国家(下)』岩波文庫

【著者経歴】
苫野一徳(とまの・いっとく) 
熊本大学准教授、哲学者・教育学者。1980年兵庫県生まれ。早稲田大学大学院教育学研究科博士課程修了。幼・小・中の混在校である軽井沢風越学園の設立に共同発起人としてかかわる。著書に『どのような教育が「よい」教育か』『教育の力』(講談社)、『勉強するのは何のため?』(日本評論社)、『「学校」をつくり直す』(河出新書)など多数。月刊『教職研修』で「親子でてつがく対話」好評連載中!

#バックナンバー
第1回 プラトン『国家』(イマココ)
第2回 ルソー『エミール』

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