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連載2_ルソー『エミール』 先生になる前に読んでおきたい「教育古典」名言で迫る教育の本質

わたしたちの欲望と能力とのあいだの不均衡のうちにこそ、わたしたちの不幸がある。

 言わずと知れた、教育古典における名著中の名著です。子どもには自然な成長というものがある。だから教育は、余計なことをしすぎず、その自然な成長に寄り添う「消極教育」であるべきだ。そんな主張をした教育書として知られています。

 いま読んでも新しい、どこを切っても名言だらけの本書。引用した箇所以外にも、たとえば、「あれをするな、これをするな、あれをしろ、これをしろ、とばかり言われて育った子どもたちは、そのうち、息をしろ、と言わないと呼吸すらできなくなるぞ」といった痛快なまでの名言がたくさんあります。

 ルソーの教育論に通底しているのは、どうすれば子どもが自由で幸せな人間へと成長していけるかという問いです。上の名言は、まさにそのための深い洞察を言い表したものと言えるでしょう。

 ルソーは言います。「不幸」とは、欲望と能力のギャップである、と。これをしたい。こう生きたい。でも、できない。わたしたちの「不幸」の本質は、必ずこの欲望と能力のギャップにあるのだと。

 だからこそ、教育は子どもたちがこうした「不幸」に陥らず、「自由」に生きていけるよう支え育む必要がある。そうルソーは訴えます。

それはいったい、どうやって?

 欲望と能力とを、一致させることによって。ルソーはそう言います。教育は、子どもたちに「やりたいこと」を成し遂げる力を育み、また、どうしてもそれを成し遂げられない場合でも、なお「自由」に生きられるにはどうすればよいか、考える力を育む必要があるのだと。

 すべての教育関係者にお読みいただきたい、やはり名著中の名著と呼ぶにふさわしい本だと思います。

ジャン=ジャック・ルソー(思想家、1712年~1778年)©里内良

1ルソー

【note】わたしたちの欲望と能力とのあいだの不均衡のうちにこそ、わたしたちの不幸がある。

※名言の出典『エミール(上)』岩波文庫

【著者経歴】
苫野一徳(とまの・いっとく)
 熊本大学准教授、哲学者・教育学者。1980年兵庫県生まれ。早稲田大学大学院教育学研究科博士課程修了。幼・小・中の混在校である軽井沢風越学園の設立に共同発起人としてかかわる。著書に『どのような教育が「よい」教育か』『教育の力』(講談社)、『勉強するのは何のため?』(日本評論社)、『「学校」をつくり直す』(河出新書)など多数。月刊『教職研修』で「親子でてつがく対話」好評連載中!


#バックナンバー
第1回 プラトン『国家』
第2回 ルソー『エミール』(イマココ)

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