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#8学校を核とした地域づくりと地域・社会を担う子どもの育成|校長の挑戦

 新連載、「校長の挑戦」。いろいろなしがらみのなか、積極果敢にさまざまな挑戦をしている全国の校長先生への取材を一人ずつ掲載していきます。8人目は、山形県天童市立干布小学校長の多勢弘子先生です。

多勢先生写真

プロフィール
山形県天童市で中学校数学科教員としてスタート。夫のシドニー日本人学校赴任をきっかけに3年間休職しシドニーで生活。出産、育児を通じ教育や文化の違いを体験。帰国後、2000年に赴任した山辺町の僻地校(現在は廃校)で海外との遠隔交流学習を目の当たりにし、自分もICT教育を志すことに。また、地域ぐるみの運動会など地域密着型の学校運営にも傾倒。その後は山形市、東根市の中学校にてICT活用と地域交流学習を推進してきた。2014年より天童市教育研究所員としてICT活用を市内中学校に広め、2017年より寺津小教頭として赴任し2019年に天童市ICT教育公開研究会を開催(現在は山形県ICT教育推進拠点校)。2020年より現職。趣味はスポーツ写真撮影とビデオ編集。

【多勢校長の挑戦】
①  「実践」の場としての子ども主体の委員会活動の創造
② コロナ禍のさまざまな制限を乗り越える画期的なICTの活用
③ 姉妹校との交流を柱とした地域の活性化

■「基礎」を築いたうえで、「実践」の場をつくる

 私は子どもの頃、アニメの「アタックNo.1」に憧れ、中学・高校・大学時代はバレーボールに明け暮れていました。その頃から「将来はバレー部の監督になりたい」と考えていて、その流れで中学校の数学科教員となり、長く部活動の顧問を務めてきました。私が今、校長として教職員に伝えていることの多くは、部活動の顧問・監督として選手たちに伝えてきたことと、基本的には変わりありません。
 私が学校教育において重視しているのは、「実践」の機会をつくることです。バレーボールでは、レシーブやサーブなどの基礎練習が大事で、どのチームもこれを何度も繰り返しています。とはいえ、基礎練習ばかりを重ねていても、試合で勝つことはできません。試合で勝つためには、試合形式の練習など「実践」を通じて総合力を高める必要があるからです。
 学校もこれと全く同じで、ドリル等で知識・技能ばかりを叩き込んでも、それだけでは実社会で「生きて働く知」とはなりません。大切なのは、「実践」の場を設け、子どもたちが知識・技能を活用する力を高めていくことです。
 では、学校における「実践」の場とは、具体的に何を指すのでしょうか。学校生活を通じた体験の数々もそうですが、私は大きな場の一つに委員会活動があると考えています。現在の委員会活動は、教師が決めた仕事を生徒たちがただひたすらこなすだけの場になってしまっています。委員会活動そのものが「教師の下請け」に成り下がり、ルーチンワーク化しているのです。これでは、「実践」の場とはいえません。もっと子どもたち自身が課題を考え、主体的に解決していくような活動に変えていく必要があると考えています。
 そのため本校では、いったんすべての委員会活動を解散しました。そして「快適で楽しい学校生活のためにどんな委員会が必要か」について、子どもたち自身に一から考えさせました。するとおもしろいことに、放送委員会がなくなりました。昼休みの校内放送は、曜日ごとに各委員会が受け持てばよいという理由からです。子どもらしい柔軟な発想で感心しました。
「実践」の場は、教育活動のあらゆるところにあります。大切なのは、教師がそれをめざとく見つけ、子どもたちに経験させていくことです。たとえば、数年前に行われた全国学力・学習状況調査において、算数では「図書委員会が実施した読書活動の取り組みを貸出冊数の統計から効果検証する」という話をもとにした文章題が出されました。この問題からは、「同様の委員会活動を全国の学校で実施してほしい」という出題側の意図を読み取ることができますが、多くの教員はそこに気づいていません。「問題はあくまで問題」というレベルにとどまっているのです。
 机上の学習はしょせん絵空事の世界の学習でしかなく、子どもは現実味を感じていません。現に中学生からは、「数学は受験のための勉強」とよく言われました。だからこそ、子どもたちが算数を必要だと思いながら学ぶためには、実際の現場で試して算数の学びの成果を実感させることが重要なのです。そのため、私は本校の教職員に「実践」の場をつくることを常日頃から意識するよう伝えています。

■ICTは「まず、やってみる」が大事

 私は教員時代からICTを積極的に活用してきました。たとえば、数学の授業ではコンピュータ室のデスクトップPCを活用して、生徒たちにドリルアプリを解かせていました。また、総合的な学習の時間でも、生徒たちに調べ学習の発表資料を作成させるなどしていました。
 さらに、TT授業を活用して、他教科の教員にICT活用を紹介し授業提案をしたり、体育の授業でICT支援を行い、その効果をともに研究したりしていました。その後、天童市教育研究所員として、中学数学の関数アプリを使った授業を市内全中学校に普及しました。
 それらの実績が買われたのか、教頭として着任した天童市立寺津小学校は、ICTの研究推進校でした。
 推進校とはいえ、教員の多くはICTの活用が未経験で、またICTのトラブルも続き、研究が停滞している状況でした。でも、3年後には研究発表会を開かねばなりません。どうしたものかと頭を抱えましたが、ICTは「とにかくやってみる」ことが大事だと考え、教職員に半ば強制的に「ロボホン」(編集部注:シャープ株式会社製のロボット)の研修会に参加してもらいました。
 すると、私のもくろみどおり「なんだ簡単じゃないか~」「おもしろい!」「ロボットに花笠音頭を躍らせよう!」などと盛り上がり、ICT活用への機運が高まりました。このタイミングを逃してはならないと、続けざまに「NAOロボット」(編集部注:JTP株式会社製のロボット)の出前授業に申し込み、教員に体験してもらいました。
 その後、ICT支援員の力も借りながら、少しずつパソコンを活用した授業が行われるようになっていきました。驚いたのは、ベテランの先生ほど、ひとたびICTの使い方を覚えると、授業での有効な活用法を次々と編み出し、成果を上げていくことです。それから寺津小学校では、次第にベテランがICTの活用を牽引するようになっていきました。
 それでもICTに消極的な教員には、個別に話し合いの場を持ち、授業で課題に感じていることを尋ねました。すると、論理的思考力を高めるために「思考ツール」を使っているが、なかなかうまくいかないとのこと。
 私はこれをICTで解決できないかと考え、ネットで調べたところ、「ロイロノート」(編集部注:株式会社 LoiLo製)という授業支援アプリがあることを知りました。すぐに仙台で開催された研修会に参加し、提供元の企業にお願いをして、1年間無料で貸与いただくことになりました。そのようにして着任2年目に「ロイロノート」が入った端末が配備されると、その使いやすさもあって、授業での活用があっと言う間に広がっていきました。
 ICTの活用に対しては当初、保護者のなかにも反対の人が数多くいました。「そんなものを使わせたら、ゲーム漬けになってしまう」というのが主な理由です。どうすれば理解を得られるかと考えた末に、私は地元メディアを利用することにしました。IT業界の著名人や大学の教授を招いて子ども向けのプログラミング教室などをしていただき、その様子を新聞やテレビに取材してもらったのです。
 結果、メディアが「寺津小学校で、プログラミング授業」などと報じると、地域の人たちは大いに喜び、ICTの活用に対する風向きも変わっていきました。同時に、県内外から視察に訪れる人も増え、教職員の間に「自分たちは推進校の教員なのだ」という意識が芽生えるようになっていきました。
 そして教頭3年目の2019年秋、目標としていた研究発表会を無事に開催することができました。いろいろな壁を乗り越えて広がったICT活用は、私にとっても教職員にとっても大きな自信となりました。

■コロナ禍真っただ中の校長着任

 研究発表会の約半年後、私は校長として現任校の干布小学校に着任しました。ときは2020年4月、コロナ禍真っただ中です。学校は休校中でしたが、全国的にはすでにICTを活用して遠隔授業を実施している地域・学校もありました。私は最初の職員会議でそのような全国の動向などを紹介し、コロナの影響が当面は続きそうなこと、このままでは地域間格差が広がるということなどを伝えました。
 私は教員の頃から、テレビ会議システムを使って、国内外の学校とよく交流をしていました。そのため、遠隔授業のやり方は分かるのですが、あいにく本校にはそれを実施するための設備・機器がありません。そうこうするうちに感染拡大が進み、4月中旬には緊急事態宣言が発令され、教職員が在宅勤務となりました。私はどうにかこの状況を打開せねばと考え、情報通信総合研究所の平井聡一郎先生に相談をし、40台のiPadを数ヵ月間、貸与いただくことになりました。
 早速、これらの端末を教職員に1台ずつ渡し、Zoomを使って「遠隔職員打ち合わせ」を毎日実施しました。当時、教職員全員がZoom未経験でしたが、無事に入室して全員が画面にずらりと並ぶと、皆で手を振り合って盛り上がりました。結果として、このときに「楽しい」と思えたことが、その後の活用促進につながったように思います。
 4月下旬、本校では感染に留意しながら入学式を実施しましたが、保護者のなかに医療従事者がいました。その方は、人が密集する体育館に入れないため、本校職員がZoomを活用して別室で参加できるよう配慮しました。また、4月のPTA役員会も、三密を避けるために役員が端末を持って複数の教室に分かれ、オンラインで実施しました。さらに、保護者総会では、保護者の方々にQRコードでGoogleフォームにアクセスいただいて、決議をとりました。
 5月中旬に分散登校が始まった後は、6年生の子どもたちに1人1台ずつ端末を渡し、Zoomで健康観察をしました。こうした取り組みは、市内でまだどの学校もしていなかったので、教職員にとっては大きな自信になりました。
 授業参観については、Zoomで生配信をすることも考えましたが、本校は小規模校のために担任外の教員がおらず、何かトラブルがあったときに対応ができません。そこで、私が各教室を回って授業の様子を撮影し、それを10分程度の動画に編集して、オンデマンドで配信しました。通常の授業参観は子どもたちの後ろ姿しか見られませんが、動画は前からアップの表情も見られるため、保護者の方々は喜んでいました。三世代家族は、おじいちゃんやおばあちゃんも含め、家族全員で動画を楽しんでくれたそうです。
 また、撮影した授業動画は、教員のOJTとしても役立ちました。本校は専科の教員がいないため、担任には空き時間がなく、他のクラスの授業を見に行くことができません。この点は以前からの課題でしたが、若手がベテランの授業動画を見て、参考にすべき点、使えそうな技などをチェックしていました。

■コロナ禍真っただ中の校長着任

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この続きは、2022年3月刊行予定『校長の挑戦』に掲載します。お楽しみに!

執筆:教職研修編集部
制作協力:株式会社コンテクスト

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「校長の挑戦」は下記の『校長の覚悟』の続編です。
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