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#6生徒の自己選択・自己決定を尊重した 「子どもが主語」の学校づくり【前編】|校長の挑戦

 新連載、「校長の挑戦」。いろいろなしがらみのなか、積極果敢にさまざまな挑戦をしている全国の校長先生への取材を一人ずつ掲載していきます。6人目は、大阪府枚方市立山田中学校長の山本俊夫先生です。

山本俊夫先生写真

プロフィール
京都教育大学・産業技術科学科卒。所有免許は小学校二種、中学校一種「技術」、高等学校二種「工業」、職業指導一種。大阪府門真市で教諭を20年、指導主事を6年、教頭を2年務めた後、大阪府枚方市で教頭を3年務め、枚方市立招提北中学校の校長に昇任。4年務めた後、2021年度より枚方市立山田中学校長。日本キャリア教育学会、日本生活科・総合的学習学会、日本学校ソーシャルワーク学会に所属。(一社)日本産業カウンセラー協会会員。現在、友人とともに都道府県最高峰制覇に取り組んでいる。昨年「無人航空機操縦(ドローン操縦)技能」(JUIDA)を取得した。

【山本校長の挑戦】
① 「総合的な学習の時間」を軸としたカリキュラム・マネジメントの実現
② 研究授業と協議会への生徒参加を通じた授業改善の推進
③ 「非認知能力」の重要性のエビデンスを示す研究実践の推進

■大きな転機となった「総合的な学習の時間」の導入

 現在は枚方市で校長を務めている私ですが、教員・指導主事・教頭時代の28年間、門真市に勤めていました。その当時勤めていた学校は、学力面や生活面でさまざまな課題を抱える生徒も少なくありませんでした。なかには親に罵詈雑言を浴びせられながら育ち、「どうせ自分なんか何をやっても……」などと考えているような生徒もいました。こうした生徒たちの自尊感情や自己肯定感をどうすれば高められるのか、将来に夢や希望を持たせるにはどうすればよいのか……。若手・中堅の頃の私は、ずっとそんなことを考え、もがいていました。
 そんななか、大きな転機になったのは、2002年に「総合的な学習の時間」(以下「総合」)がスタートしたことです。「自分たちが待ち望んでいたのはこれだ!」と喜びました。早速、学年の先生方で集まって、連日何をするかの話し合いを続けました。誰も「総合」の授業をした経験なんてありませんから、ベテランも若手も関係なく、率直に意見を出し合いました。
 当時、「総合」の先進事例として示されていたのは、いわゆる「調べ学習」のようなものが多かったのですが、それでは私たちの目の前の生徒たちの自尊感情や自己肯定感が高まるとは思えませんでした。私たちは話し合いの末、さまざまな方法で「生徒たちに『自己表現』をさせたい」ということになりました。
 年度当初の学年会で、学年団の一人ひとりの教員に「『表現』というテーマで何ができますか」と尋ねました。すると、「演劇ならできる」「ダンスなら教えられる」「人形劇ならできるかも」などなど、それぞれ得意な「表現活動」が出てきました。私は技術科教員だったこともあって、パソコンを使った映像制作ができます。そこで、教員一人ひとりの個性・特技を生かしたコースを生徒たちに示して選ばせ、生徒とともに創りあげるような「総合」にしていこう、ということになりました。
「総合」の初回ガイダンスの時間に、各教員が自身の特技を生かしたコースをプレゼンし、その魅力を生徒たちにアピールしました。その後、アンケートをとり、できるだけ生徒たちが希望する活動に分けて活動を始めました。「総合発表会」が実施される10月まで、生徒たちは毎週1回、5・6時間目を使って活動に励みました。その姿は実に楽しそうで、自宅で練習をしたり、材料集めをしたりする生徒もいました。
 10月の「総合発表会」では、どのグループも実に生き生きと約半年間の成果を披露しました。忘れられない発表会もあります。ある年、若手の教員が指南役を務めた「バンド演奏コース」を開講したのですが、いわゆる「やんちゃ系」の生徒が集まったグループがありました。彼らなりにがんばって練習してきたのでしょうが、発表会の本番途中で演奏が止まってしまったのです。でも、ステージで真剣に演奏を奏でています。それを鑑賞している他の生徒たちの姿も本当に印象的でした。
 生徒たちが約半年間にもわたって一生懸命取り組めたのは、「自己選択・自己決定」した活動だったからだと思います。それまで(今でも?)、中学校には生徒が自分で選択・決定する機会は部活動くらいしかありません。そこで私たちは、3年計画で、生徒の「自己選択・自己決定」の機会をもっと増やしていくことにしました。
 たとえば、1年生最初の行事である春の校外学習では、笠置山自然公園・木津川河川敷に行くのですが、現地で「スポーツ」「笠置山登山」「ハイキング」「魚釣り」などから生徒が自分がやりたい活動を選べるようにしました。また、学校生活のなかでも、給食配膳や清掃活動などのさまざまな「係活動」を生徒たち個人に選ばせて、半年間行うようにしました。
 私が今、学校経営の信条としている「『子どもが主語』の学校づくり」の土台は、「自己選択・自己決定」で生徒を「信用・信頼・リスペクト」し、長期間にわたってゆっくりと実践してきたときの、子どもたちの「姿」によって築かれたものです。

■学校教育目標を「みんなが言えるもの」に

 その後、指導主事・教頭を経て枚方市へ異動となり、同市立第二中学校の教頭となりました。そこで3年間勤務した後、同市立招提北中学校の校長になりました。
 校長として最初に着手したのは、学校教育目標の見直しです。4月当初の職員会議で、校長としてのビジョンを示す場があるのですが、そこで、これまでの自らの思いを語り、「学校教育目標を変える」と伝えました。
 きっと多くの教職員は驚いたことでしょう。そうでなくても当時の私は、枚方市での3年間の教頭経験があるとはいえ、「他市から来た人」というイメージがあったようで、職員間には私に対する「アウェー感」があったと思います。
 そんな人間がいきなり「学校教育目標を変える」と言い出したのですから、違和感があっても無理はありません。当然「斜に構える人」もいたと思います。でも私には、「校長1年目に変えられなかったら、2年目からは絶対に変えられない」との信条があったので、断行しました。
 学校教育目標は、 生徒と教職員が同じ方向を向き、「学び」を創っていくための道標であるべきだと私は考えています。そのため、教職員も生徒もその目標を言えて、さらに具体的にイメージできるものでなければ意味がありません。
 そこで私は、「元気」「たくましい」などの曖昧な言葉ではなく、コンパクトでリズム感のあるものにまとめようと考え、初年度は「気づく、つながる、学び合う」としました。この言葉にしたのは、元静岡県公立中学校長の深沢幹彦先生の学習会での「学び」や、教職員支援機構の研修で横浜国立大学名誉教授の髙木展郎先生から新学習指導要領について学んだことなどが土台となっています。
 さらに、学校教育目標と関連づけた「総合」の目標設定にも着手しました。教職員と話し合っていくなかで、「総合」の全体テーマを「自己創生」とし、1年生「気づく」、2年生「つながる」という、できるだけ学校教育目標に準じるものにしました。
 一方、3年生については「学び合う」ではなく、全体のテーマとの関連で「創り出す」がよいのではという話になりました。この3年生のテーマ設定は、次年度からの学校教育目標を変えるきっかけとなりました。「総合」のテーマに合わせるように、学校教育目標を「気づく、つながる、創り出す」にしたのです。学校教育目標が、正真正銘、教職員とともに「創り出した」ものになりました。
 招提北中学校の校長を4年間務めた後、現任校の山田中学校へ異動となりましたが、ここでは最初から学校教育目標を「気づく、つながる、創り出す」にしました。始業式で生徒に示し、「誰か毛筆で書いてくれないかな」と呼びかけたところ、5名もの生徒が手をあげて、校長室前掲示用と教室掲示用に書いてくれました。
 このようにスタートしましたから、教職員はもちろん生徒たちも、「本校の学校教育目標は何?」と聞かれたら、みんなが答えられるくらい浸透していると信じています。

「学校教育目標」

■「総合」を「幹」としたカリキュラム・マネジメント

「総合」は、私が知る限り、20年以上たった今でも、その趣旨が十分理解され実施されているとは思えない状況が見られます。活動がマンネリ化しているどころか、学校によっては行事関連の活動時間に充てるなど、都合よく使われているケースも珍しくありません。「総合」によって子どもたちが大きく成長する可能性と大いなる意義を感じて、その充実に力を注いできた私にとって、由々しき状況と受け止めています。
 最初に校長として着任した学校でも、「総合」の状況はやはり同様でした。そこで私は、「総合」の主担者を決めて、ともに見直すことにしました。教員たちからこれまでの「総合」についての取り組みを聞きとり、内容を整理したうえで、新たな企画を取り入れながら、育みたい資質・能力を明らかにした3年間の指導計画を作成していきました。
 このように作成した年間指導計画を軸に、それぞれの学年の状況もふまえて、細かな活動内容は学年団に任せ、とにかく「動きながら考えていこう」と実践していきました。この年間指導計画で活動の「大枠」のイメージをつかんだ教員たちは、生徒たちを主体とした活動を各学年で展開していきました。
 現任校でもやはり、「総合」の学年テーマを1年生「気づく」、2年生「つながる」、3年生「創り出す」としました。具体的には、1年生は前期「福祉探究」、後期「まちづくり探究」、2年生は前期「食探究」、後期「生き方探究」、3年生は「みらい探究」として、「SDGs」の取り組みも含め、年間を通して「自分の将来を考える」ことに取り組んでいます。
 学習指導要領をじっくりと読み込むと、「総合」がキャリア教育の趣旨とリンクしていることがよく分かります。つまり、「総合」を充実させることで、キャリア教育における「基礎的・汎用的能力」である「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」の4つの資質・能力が育成されます。さらには、「総合」の各活動を教科の学びに関連づけていけば、自ずとカリキュラム・マネジメントができていくのではないかと思われます。
 ポイントは「総合」と各教科の「学び」とのつながりを、教員はもちろん生徒たちにも意識させることだと思います。そのため年度最初の「総合」のガイダンスでは、私自身がファシリテーターとなって、全学年の生徒たちとワークショップを行いました。
 このワークショップでは、最初にお茶のペットボトルを生徒のグループの前に置いて、「このお茶がここに届くまでに、どれだけの人がかかわってきたと思う?」と問い掛けます。そしてグループごとにA3サイズの紙に「イメージマップ」をつくらせていきます。
 お茶のペットボトルが書かれた中央の円から次々と枝葉が伸び、「農家の人」「工場の人」「運搬した人」「お店で売った人」「パッケージをデザインした人」などの言葉が広がっていきます。なかには、スペースいっぱいに書き上げるグループも出てきます。
 この「イメージマップ」がある程度完成したら、「それでは、書き込まれたことが、それぞれどの教科の学びと関係しているかを書き込んでみよう」と伝えます。国語や数学、理科、社会、美術などと書き込まれていくなかで、一つの商品が私たちの手元に来るまでには、あらゆる教科の「学び」がかかわっていることに生徒たちが気づきます。
 このワークショップはキャリア教育では定番とされるものですが、これを通じて生徒たちは二つのことに気づきます。一つは、今学んでいることに何一つ無駄な「学び」はなく、どの教科の「学び」も実社会で必要とされるということ。もう一つは、すべての教科の学びがうまくいかなくても、得意な教科を極めてスペシャリストとなれば、実社会で活躍できるということです。こうした気づきを得ることで、生徒たちの「学びに向かう力」は高まっていくと考えます。

■「SDGsサミット」を開催

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続きは来週に更新予定です!お楽しみに。


執筆:教職研修編集部
制作協力:株式会社コンテクスト

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