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#4「好きなこと」を「人のため」に 「すすんでする」学校の創造 【後編】|校長の挑戦

新連載、「校長の挑戦」。いろいろなしがらみのなか、積極果敢にさまざまな挑戦をしている全国の校長先生への取材を一人ずつ掲載していきます。五人目は、先週に続き京都府立岩倉北小学校長の三浦清孝先生です。

三浦先生写真

プロフィール
1989年京都府立舞鶴養護学校(病弱)で採用。病棟と学校を有線で結ぶリモート授業を経験。その後、京都府長岡京市立長岡第六小、長岡第七小に赴任し、初期のインターネットを活用した遠隔授業や校内ネットワーク構築に携わる。2005年から京都市に転籍し、楽只小、紫竹小で勤務し、2007年に京都学びの街生き方探究館(キャリア教育施設)の開設に携わった。2013年に岩倉北小に教頭として赴任し、2017年より同校で現職。2018年に第1回全国小学校キャリア教育研究協議会研究大会の会場校となり、「好きなことをする・人のためにする・すすんでする」を校是とし、いかなるときも児童が主役のキャリア教育・特別活動を学校総体ですすめている。現全国小学校キャリア教育研究協議会会長。

■子どもたち自身がつくりあげる運動会

 特別活動のなかでも、運動会が果たす役割は大きいものがあります。子どもたち一人ひとりが大きな達成感を得て、自身の成長を実感できる学校行事だからです。今年度は、このような「個々の成長」だけでなく、「学校全体の高まり」をつくり出せないかと考え、やはり子どもたちに問いかけました。そして、SESの子どもたちによって「みんなが主役!全力でつなげるつながる笑顔の輪」というテーマが設定され、委員会活動と同様、5・6年生が主体となってプログラムづくりがスタートしました。
 ですが、学校全体の高まりをつくり出すためには、5・6年生だけが主役であってはいけません。どうにか1・2年生も運動会づくりにかかわれないものか――5・6年生が話し合うなかで、「1・2年生には、全校ダンスを3~6年生に教える役目を担ってもらおう」という提案がなされました。そして、1・2年生が教員の力も借りながら振り付けを覚え、それをいち早くマスターして3~6年生にレクチャーしていきました。
 今回の運動会で大きな壁として立ちはだかったのは、やはりコロナ禍です。市教委から、全学年が一斉に運動場に出ることは避けるようにとの通達が届いていました。それを受けて、子どもたちはどのようなプログラムを組んで「学校全体の高まり」をつくり出していけばよいのか、知恵を絞りました。結果として、最初に3・4年生、次に1・2年生、最後に5・6年生という順番で、90分ずつの運動会を開催することにしました。
 問題は、他学年が運動会をしている間の待機時間をどうするかです。普通に授業をするという選択肢もありますが、それでは「学校全体の高まり」がつくり出せません。すると、子どもたちから「お祭りのようなブースをつくる」というアイデアが出てきました。校内の敷地に、友だちと一緒に写真が撮れる「記念撮影ブース」、大型モニターの前で全校ダンスを踊れる「演技体験ブース」、射的やピンボールを楽しめる「お祭り系ブース」、ストラックアウトにチャレンジする「運動体験ブース」、運動会への熱い思いを伝え合う「メッセージブース」の五つのブースをつくり、他学年が運動会をしている間は、そこで楽しめるようにするのです。
 また、各教室の大型モニターに運動会の様子を映し出し、観戦できるようにもします。もちろん、感染対策にも細心の注意を払い、他学年・他学級との接触が起こらないよう工夫します。私たち教員には思いもよらなかったアイデアで、大いに感心しました。コロナ禍のなか、「みんなが主役!全力でつなげるつながる笑顔の輪」というテーマに少しでも近づけようとする子どもたちの姿は、本当に頼もしかったです。
 本番当日、運動会は盛況に包まれ、子どもたちは大きな達成感を得ていました。何より、この一大イベントを自分たち自身でつくりあげたことで、大いに自信をつけたことと思います。
 ところで、本校では子どもたちに「運動会ノート」をつけさせています。準備段階では自分自身が運動会に向けてどう取り組んでいきたいかを書き、終了後には振り返りを書きます。また、担任は一人ひとりのノートに目を通し、コメントを書いて返します。こうすることで、子どもの教員に対する信頼が高まり、教員の児童理解も深まっていきます。
 このノートを毎年度蓄積してポートフォリオにすれば、子どもたちの成長が可視化されます。この取り組みを始めて3年目ですが、どの子も3年前とは比べものにならないほど書けている自分に気づき、成長を実感していました。
 今年度のノートに、ある2年生が「1年生が上手になってうれしかった」と書いていました。他学年のことを書けているのは、縦割り活動を通じて、他者意識が根づいてきた証しです。また、ある1年生は記入欄からはみ出すくらい、ビッシリと振り返りを書いていました。きっと、あふれるくらいの楽しさや感動があったのでしょう。
 一般的に、運動会の振り返りには、「来年は徒競走で1位をとる」などと、個人のことを書く子が多いと思います。もちろんそれが悪いわけではありませんが、私は「来年は5年生とともに盛り上げたい」「1年生を楽しませたい」などと書く子が増えてほしいと思っています。

運動会記念写真ブース

■学級活動も子どもたちが「やりたいこと」をする

 本校では、学級活動も子どもたちが「やりたいこと」をしています。たとえ活動が失敗に終わっても、それ自体が子どもたちの糧になるので、多少、むずかしいことでもチャレンジをさせています。
 今年の運動会の後、3年生が「(巨大)迷路をつくりたい」と言い出しました。運動会で5・6年生がつくったブースの出し物に触発され、気持ちが抑えられなくなったようです。はたして3年生が迷路をつくれるのかと半信半疑でしたが、私たちの心配をよそに、子どもたちは役割分担をしながら順調に作業を進めていきました。場所は図書室を2日間だけ借り、皆で協力しながら立派な迷路をつくりあげました。
 すると3年生は、「せっかくつくったんだから、誰かにやってもらおうよ」と言い出しました。そして2年生に声をかけて迷路で遊んでもらいました。本校ではこうした縦割りでの学級活動も、頻繁に行われています。
 学級活動は目的を持って取り組み、振り返りをすることが大事です。そのため、子どもたちは「運動会ノート」と同様、活動前に「やりたいこと」にどう取り組んでいくかを記述し、活動後には目的どおりに取り組めたかどうかを記述します。そして、教員はそこにコメントを書きます。それをポートフォリオにすることで、子どもたちは自身の歩みと成長を知り、これから歩んでいく道のりにも思いを馳せます。つまり、学級活動がキャリア教育となっていくのです。
 2021年度は新型コロナウイルスの感染拡大により、教育活動が多くの制限を受けました。しかし、教員も子どももそうした制限を乗り越えながら、行事や学級活動をやり切りました。
 たとえば、「1年生を迎える会」は、全学年が体育館に集まれないなかでどうすればよいかを5・6年生が考えました。そして、「いわうぇる(※)」と名称を変えて実にユニークな会を開いてくれました。

※1年生を迎える会で、「いわ」には1年生の入学を祝うの「いわ」、岩倉北の「いわ」という意味が、「うぇる」は、ウェルカムの意味がある。

 当日、1年生は会が開かれることを知りません(時間割上はテストになっています)。先生が「プリントを配ります」と言って渡された紙には、「しょうたいじょう」と書かれています。「なに?」「しょうたいじょう?」と1年生の声が教室に響くなか、教室に2人の6年生が入ってきます。そして、「これから1年生の皆さんを迎える会を始めます」と伝えて映像を流し始めます。全学年の子どもたちが、1年生の入学を祝う様子を撮影・編集した動画です。最後に「1年生にプレゼントがあります」というコメントが流れて映像は終了。すると今度は5年生が教室に入ってきて、実際にプレゼントを渡すというものです。思わぬサプライズに、1年生は大喜びでした。
 なお、1年生の教室の様子は、他学年の教室でも大型モニターに配信され、子どもたちが見ていました。このように、コロナ禍のなかでも学校全体で1年生の入学をお祝いすることができたのです。こんな経験は今後、実社会で困難な状況を打破していくうえでも、貴重なものであったと思います。
「1年生を迎える会(いわうぇる)」の多元中継は、ICTの力を活用することで実現しましたが、このような取り組みを重ねるなかで、本校では日頃の授業においても活発にICTが活用されるようになりました。
 たとえば、本校には人と話をすることに困難さがあり、学校に登校することがむずかしい子がいます。でも、本人は学校が嫌いなわけではありませんし、学びたいという意欲も持っています。
 そこで、多くの準備と工夫をし、自宅と教室をビデオ会議システムでつなげて、授業を受けることにしました。教員は普段どおりに授業を行いつつ、ときおり画面越しにその子に呼びかけます。その子は「わかりました」などとチャット機能を使って返事をします。グループ活動にも教室の子どもたちと全く同じように参加し、友だちの呼びかけにチャットで返しています。ビデオをオンにすることもあればオフにすることもありますが、それでまったくかまいません。
 授業への参加の仕方は、人それぞれでよいと私は考えています。1~3時間だけ学校へ来て、昼からは自宅に帰って学習するというのでもよいでしょう。これからの学校は、柔軟に対応して子どもの学習権を保障していくことが必要だと思います。

■管理職の二つの役割

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この続きは、2022年3月刊行予定『校長の挑戦』に掲載予定です。お楽しみに!

執筆:教職研修編集部
制作協力:株式会社コンテクスト

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ぜひ、こちらも併せてお読みください。


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