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認知症の人と来場者が糸でつながる展覧会 写真集を手に取ることでケアの可能性が感じられる

マガジン「700万人時代 認知症とともに生きる」で紹介しているエピソードを再構成した写真展「心の糸」を、京都市中京区新町通錦小路上ルの「くろちく万蔵ビル」で開いています。国際的に活躍する審査委員会によって「KG+SELECT」に選出され、展示の機会を得ました。写真や文章、写真集を組み合わせ、認知症の人の心象を形にしようと展示空間を考えました。5月8日まで開催しています。
(松村和彦)


入り口のステートメント(声明文)では、次のように展示を紹介しています。

「認知症の人と認知症でない人は見える景色が違う」

ある男性当事者がそう言った。

認知症の人は、病気などで脳にダメージを受け、記憶や言語、知覚、思考などの機能が低下する。
それまでの日常生活が、少しずつではあるが変わっていく。
失う悲しみは心に影を落とす。

私はこの展示を構成する4つの取材で、それでも光を見つける人たちに出会った。

認知症の症状は、脳の機能低下だけが引き起こすわけではない。
その人の内面や周囲の環境が深く関わっている。
人とつながり、自分の人生を歩めれば、進行や症状は穏やかになる。

高齢化が進み、あなたの身近な人が認知症になる時代がすぐそこまで来ている。

たとえ見える景色が違っても、認知症の人とつながることが「薬」になる。
誰もが「薬」になれる。
そして、理解という「薬」が社会に広まれば、私たちの暮らしのあちこちに温かな光が差し込んでくる。


ステートメント


会場は4つの取材を4つのパートに分けて展示しています。それぞれのパートにテーマがあります。

若年性アルツハイマー型認知症の下坂厚さん(48)の展示では、認知症の世界を視覚化し、社会の価値観に疑問を投げかけています。大きな写真は下坂さんが道に迷った時の感覚を表しています。

下坂さんのパート

導入の文章は次のように書きました。


「認知症とは何か」

取材を始めて、しばらくしてもうまく捉えられなかった。

そんな頃に写真家で若年性アルツハイマー型認知症の下坂厚さん(48)と出会った。

下坂さんは仕事の手順が分からなくなったとき「周囲が白黒になる」と話してくれた。

私は下坂さんに症状や心情を写真に焼き付けることを提案した。

「認知症の世界」を視覚化する制作が始まった。

導入の文章

実は導入の文章は、白い写真集で一部が隠されており、最後まで読むには写真集を手にとってもらう必要があります。そして、導入部の続きが写真集で読めます。手を伸ばして認知症を知ることを体感してもらう仕掛けになっています。本を綴じている糸は展示の壁へと伸びていて、来場者と認知症の人がつながってほしいとの願いを込めました。

写真集を取ると導入の文章がすべて読める


このパートの内容はnoteにアップした以下の記事で読んでいただけます。



次のパートは、ケアの可能性がテーマです。導入部は以下のように書きました。

谷口政春さん(右)と妻の君子さん(左)


谷口政春さん(97)は1989年からの24年間、妻の君子さんを自宅で介護した。

残された75冊のノートを頼りに、私は認知症の旅をたどった。

「ピンチをチャンスに」

政春さんは「天使のよう」と言うヘルパーたちと一緒に、君子さんの喜びを探した。

ノートに書き残されたケアは、これから年を取る多くの人に関係している。

私たちは先を歩む人から学び、より良い未来に生かすことができる。

壁面に政春さんと君子さんの写真を展示し、写真集で24年間をたどります。こちらもnoteで内容をご覧いただけます。


写真集にはもう一つ仕掛けがあります。各ページをつなぐ糸とじを、認知症の人が忘れることの暗喩として、あえて所々飛ばしています。ページは少しめくりにくいのですが、読者が写真集を手で優しく包み込めば問題なく読むことができます。


残り2つのパートでは、介護の現場の課題や認知症の人が外を歩くことを「徘徊」と呼ぶ問題点を取り上げています。また別の記事でお知らせしたいと考えています。



写真展の情報は以下の通りです。

会場名:くろちく万蔵ビル
住所:604-8214 京都市中京区新町通錦小路上る百足屋町374, 2階
日程:2022年4月8日~5月8日 10:30-18:00 (Last entey 17:30) Closed: 4/12, 4/19, 4/26
入場無料

さらに詳細はこちらから


KG+SELECTとは
2019年に始まった公募型のコンペティション。世界中から集まったエントリーの中から、審査員の選考により選ばれた8名のアーティストが、条件を揃えた会場を与えられ、製作費の支援を受け、1カ月にわたり展覧会を開催する。国際的に活躍する審査員が実際の展覧会を審査し、グランプリを選出します。グランプリに選出されたアーティストは、奨励金を受け、翌年のKYOTOGRAPHIEにて展覧会を開催する。

https://www.kyotographie.jp/kgplus/



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