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『エンド・オブ・ライフ』佐々涼子

認定NPO法人京都自死・自殺相談センターSottoは、京都に拠点を置き、「死にたいくらいつらい気持ちをもつ方の心の居場所づくり」をミッションとして活動しています。
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Sotto相談員によるブックレビューをお楽しみください。

今回のおすすめの一冊はノンフィクション作家、佐々涼子が京都の「渡辺西加茂診療所」を舞台に、終末期の在宅医療を7年間にわたって取材した「エンド・オブ・ライフ」である。今、コロナ旋風が日本の高齢化社会に大きな打撃を与えている。コロナ禍の影響で介護事業所が次々に閉鎖に追い込まれて危機的状況にある中、京都の多くの書店の新刊図書コーナーに置かれているのがこの本である。

さまざまな登場人物の中でも、この本の主軸となっているのは200名以上の患者を看取ってきた48歳の男性看護師、森山文則氏である。佐々が取材を始めて5年目、森山氏は癌に侵され医師からステージⅣを宣告される。佐々は森山氏が自らの死をどのように受け入れ、そして閉じていくのかを森山氏の家族の姿も含めレポートする。

実は当時、佐々自身も死を扱う執筆活動に消耗し、自律神経のバランスを崩していたと雑誌のインタビューで佐々は話している。藁にもすがる思いでタイやインドの寺院を訪れてはみたけれど、仏教は佐々の助けにならなかったと正直に告白している。そんな時に佐々は突然、森山氏から癌を患ったことを告げられたという。

癌の宣告を受けた当初、森山氏は「自分はまだ生きるつもりだ」と言いながら死への不安との間で非常に揺れていた。迫る死を受け容れることなく治癒を信じ、ある意味スピリチュアルとも思える世界に傾倒していく。看取りのプロである訪問看護師として見せてきた彼のこれまでの姿との違いに佐々は困惑する。

この本は密な取材に基づいた終末医療がテーマであるが、個人的な読後の感想は啓蒙的でもないし、社会的な問題提起がその目的だというのとも違うと感じた。ただ一つ言えることは「人が最後まで過ごしたい家とは」という佐々の想いが理屈抜きで胸に迫る。
(理事 廣谷ゆみ子)
そっと Vol.110 より

佐々 涼子(著/文)  集英社インターナショナル

内容紹介
◎ベストセラー『エンジェルフライト』『紙つなげ!』に続く、著者のライフワーク三部作の最終章。

◎著者がこだわり続けてきた「理想の死の迎え方」に、真っ正面から向き合ったノンフィクション。

◎2013年に京都の診療所を訪れてから7年間、寄り添うように見てきた終末医療の現場を感動的に綴る。

200名の患者を看取ってきた友人の看護師が癌に罹患。「看取りのプロフェッショナル」である友人の、死への向き合い方は意外なものだった。
最期の日々を共に過ごすことで見えてきた「理想の死の迎え方」とは。
著者が在宅医療の取材に取り組むきっかけとなった自身の母の病気と、それを献身的に看病する父の話を交え、7年間にわたる在宅での終末医療の現場を活写する。
読むものに、自身や家族の終末期のあり方を考えさせてくれるノンフィクション。

佐々涼子(ささ りょうこ)
ノンフィクション作家。1968年生まれ。神奈川県出身。早稲田大学法学部卒。
2012年、『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回開高健ノンフィクション賞を受賞。文庫と合わせ10万部を売り上げた。
2014年に上梓した『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房)は、紀伊國屋書店キノベス第1位、
ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR第1位、新風賞特別賞など数々の栄誉に輝いた。

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