相談委員長の考えごと　最終回～死ぬことをとめない～

私たちは、NPO法人京都自死・自殺相談センター Sottoです。
京都で「死にたいくらいつらい気持ちを持つ方の心の居場所づくり」をミッションとして掲げ活動しています。
HP: http://www.kyoto-jsc.jp/

Sottoが行っている活動は幅広く、根幹となる電話・メールによる相談受付に加え、対面の場での居場所づくり活動、広報・発信活動などがあります。
各活動は委員会ごとに別れ、日々の活動を行っています。
今回から、電話相談を担当する「相談委員会」の委員長である「ねこ」さん（もちろんあだ名です）の、Sottoの活動を通して考えることを連載としてお届けします。

Sottoの立ち上げ当初から活動に関わり、Sottoの文化を形づくることに貢献し、現在は電話相談ボランティアの養成を担当しているねこさん。
そんな立場から、Sottoの活動や、死にたいという気持ち、人の話を聞くということなど、様々なことについて考えることを語ってもらいます。
この連載が、読んでくださる皆さんにとって新しい気づきを得たり、死にたいくらいつらい気持ちについて理解を深めたりするような、そんなきっかけになれば幸いです。

第1回はコチラ→第1回～死にたい気持ちについて～
前回はコチラ→第13回～プロとしてのSottoの流儀～

相談委員長の考えごと　最終回～死ぬことをとめない～ 

　今回で「相談委員長の考えごと」は最終回を迎えます。
この連載では一年に渡っていろいろと綴ってきましたが、Sottoのことを紹介するときに特徴として考えられるのはやはり、相手が死ぬことをとめない、ということかと思います。
自死・自殺の相談機関として矛盾しているように思われるかもしれませんが、死なせないことを第一義としていないからこそ、死ぬか死なないかということにとらわれず、相手の伝えようとしている真意に向き合い受け取ることができるのだと思っています。

ずっとうんうんそうだねと親身になって話を聞いてくれていたのに、最後の最後で、でも死ぬのはだめでしょ、と言われようものなら、今まで優しく気持ちを受け取ってくれていたのは何だったのかと面食らうことでしょうし、そのあと何を言われても素直に頷けなくなりそうです。
なぜなら、わかってほしいことをわかってもらえないことほど、もどかしく孤独感を募らせることはないからです。

死ぬほど辛い毎日を死なずに生きていくというのは、本人にとっては文字通り、耐え難きを耐え忍び難きを忍び、ということになるかと思います。
直接の痛みや苦しみと無関係の人間には、相手の今後の面倒をみたり責任をとることもできないでしょうし、本来、頑張ることを頼むことも強いることもできないはずです。

　仮に、死なないでいてほしいという願いに応えてもらえたとして、その想いに報いることができるでしょうか。
「はい、生きててよかったね」と一言で終わる話ではありません。
相手にそれだけのことをさせられる間柄なのかどうか、少し考えただけでも到底釣り合いのとれるものではありません。
心肺蘇生の過程で肋骨が折れてしまったとしたら、それは致し方のないことだった、で済ませられる話ではないのです。

また、とめるとめないの話で思い浮かんだシチュエーションですが、私のことなんて死ねばいいと思ってるでしょ、と言われるときのそれとも少しわけが違います。
そんなこと思ってないよと弁解に困って言うような、そんな心のすれ違いの本質は、ちゃんと取り合ってもらえなかったり、自分に関心が向けられてないというところにあり、そのフラストレーションの表出であることを思うと、考え見直すべきポイントは死ぬか死なないかの話ではなく、それまでに重ねてきたそもそもの対応・態度の問題です。

　この連載を通して、Sottoの大切にしている価値観、死ぬほど思いつめるようなときでもその孤独感がやわらぐような心の触れあい、そのあたたかさの実感こそが、結果的にその人の支えになりうるのだということを伝えてきたつもりですが、分野的にも途上というか、なかなか言葉で表現するのが難しいニュアンスでもあります。

しかし、相談のなかで言葉や想いを交わし、本当に通じ合うような実感のあった関係性のなかでは、文字面だけではまるで見捨てるかのような「死んでもいいよ」ですら、致命傷を負った戦友の最期を看取るような、本気の覚悟とあたたかさが伝わるものだと思っています。
結果をどうするかというよりも、わたしたちのできること、その過程にどう付き合うかを一番大切に考えているのです。

相談委員長　ねこ

～おしらせ～
「相談委員長の考えごと」は、Sottoの相談委員長というポジションを務めるねこさんの視点から、Sottoが活動するにあたっての姿勢や理念を綴ってもらおうと始まった連載です。
開始から一年を過ぎ、Sottoとしての姿勢や理念は記事としてめとめてお伝えことができたのではと考え、「相談委員長の考えごと」の連載は今回を最終回とすることとしました。
これまで「相談委員長の考えごと」を読んでいただきありがとうございました。
ねこさんの記事をお届けすることが全くなくなるわけではなく、今後のnoteにも引き続き注目していただければと思います。