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折々の絵はがき(33)

〈花の賑わい〉上村松園 明治40年頃 京都国立近代博物館蔵


◆絵はがき〈花の賑わい〉上村松園 筆◆

 口元に浮かぶ微笑みが一つの景色を形作っています。わずらわしかったのでしょうか、手にしていた日傘を置いてやわらかな日差しに包まれる女性たち。身軽になって春を味わう様子は控えめながらとても楽しそうで、わたしも外へと出かけたくなりました。こんな一行はさぞかし人の目を引くでしょう。今が盛りの桜もかすんでしまいそうな華やいだ雰囲気は隠しようもありません。穏やかな風に誘われて花びらが舞い散る中、その行方を目で追うさま、足もとを気にかけるそぶり、扇子を持つ指先など、たおやかな仕草が見る者の記憶に残ります。真ん中の女性は頭に「揚帽子」を被っています。今では花嫁の角隠しに使われていますが、江戸時代の後期頃から女性の外出に取り入れられていたとか。おしゃれの意味合いとともに、鬢付け油のついた日本髪を埃から守る役割もあったそうです。

 上村松園は美人画で知られる女性画家です。京都に生まれ、京都府画学校(現:京都市立芸術大学)で鈴木松年に師事しました。よく見ると奥の女性には眉がありません。京都には明治期頃まで、嫁入りして母となった女性が眉を剃り落とす「青眉」という習慣があったそうです。生まれる前に父を亡くした松園を、女手ひとつで育てた彼女の母もまた「青眉」であったと松園は語っています。

 そうと知ってあらためて絵はがきに目を落とすと、女性が注ぐまなざしには確かに母の愛情があふれていて、娘が美しく成長した誇らしさや、女同士の心安い会話ができる喜びなど胸の内も伺えます。自身も母である松園は、我が子を思う気持ちと母に愛された記憶の両方を彼女に重ね合わせたのかもしれません。美しいだけではない、血の通った温もりを感じる一枚です。

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