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京都大学学術出版会 月間ニュース No.5 (2024年2月)

いつもご愛読ありがとうございます。
2024年1月〜2月の新刊、イベント情報をまとめてお届けします。どうぞよろしくお願いいたします。


・概要


新刊4冊、近刊9冊をご案内いたします。動画は2本更新しました。

・新刊案内


『戦場に忘れられた人々:人種とジェンダーの大戦史』

第一次世界大戦、言葉も肌の色も異なる人々が世界中からヨーロッパに集まった。るつぼの中、語られることなく歴史から抜け落ちていった女性たち、黒人兵たち、「原住民」労働者たち、そして戦場に遺体がさらされたままの無名の人々。人種そしてジェンダー認識の起源としての第一次世界大戦を描き、砲撃がかき消した人々の声に耳を澄ます、戦場の社会史。

『「大学の森」が見た森と里の再生学』

100年続く大学の森である芦生研究林が、地元美山町の住民と、森と里の共再生を目指し本気の超学際研究に取り組んだ。多様な価値観と立場が交錯する中での協働のコツや苦労、研究者の変化、継続のヒントまで。

『基礎政権:中国農村制度の諸問題』

よく使われている「集権体制」あるいは「中華帝国」——こうした言葉に我々は、上から下まで完全に統制された社会像をイメージする。しかし中国社会の状況は必ずしもそうではない。基層すなわち末端のコミュニティに暮らす人々にとって、多くの場合、国家は象徴的な存在に過ぎず、彼らの実際の生活は、郷、鎮や村といった基層社会の独自の民間規範/制度のもとで暮らしているのだ。その特徴は、数千年の古代以来変わらない。徴「税」の実態、団体紛争、幹部の人事変更及び村民の上訴事件等々……実際の事例に基づいた政治社会学的分析で、中国基層社会の政治経済構造に迫った名著が日本語に!

『森の来歴:二次林と原生林が織りなす激動の物語』

すべての森林は変わり続ける宿命を持っている。そしてその記憶は、森をかたちづくる樹木の中に隠されている。大攪乱の痕跡を持つ原生林、美しさと危うさを備えたシラカンバの林、炭焼き跡地に起源を発する混成林、都市の歴史を秘めたツブラジイの林……。根気強いフィールド調査で忘れられた物語を呼び起こす、森林科学ドキュメンタリー。

・近刊予告


『アエタ 灰の中の未来:大噴火と創造的復興の写真民族誌』

清水 展

1991年、フィリピン・ルソン島のピナトゥボ山が20世紀最大の大噴火を起こし、その山麓奥深くに暮らしてきた先住民アエタ族は甚大な被害を受けた。70年代からアエタの調査を続けた著者はその大噴火に遭遇し、否応なく彼らの苦難に巻き込まれていく。人類学者としてNGOのワーカーとしてアエタと伴走する中で、著者は先住民の強靱な復興力を目の当たりにする。移動焼畑と狩猟採集で培われた柔軟な生業多様性を活かしたアエタは、国や世界をも動かしながら「新しい人間、新しい社会になった」と呼ぶべき創造的復興を遂げたのである。「コミットする人類学」の実践で学士院賞に輝いた著者が、40年にわたって参与したダイナミックな民族誌を多数の貴重な写真で報告する。

(2月発売予定)

『アンチ・ドムス 熱帯雨林のマルチスピーシーズ歴史生態学』

安岡 宏和

私たちは飼い慣らし、飼い慣らされて生きている——そのドムスから逃れよ!と、彼らは誘いかける。人間と動植物が集住する空間・ドムス(domus)から逃れつづける狩猟採集民。一つの食物に依存せず、一つの生業の固執せず、多種多様な生物たちとかかわりあいながら、森と〈共生成〉しつづける。その〈生き方〉が文化と自然の境界を融かしていく。コンゴ盆地・カメルーンの森でバカ・ピグミーとともにくらしながら、彼らの〈生き方〉と森の〈歴史〉を記述した。シリーズ『生態人類学は挑む』最終巻。

(2月発売予定)

『変動帯の文化地質学』

鈴木 寿志

すべては,地質の上に成る——。地震や火山などの災害と隣り合わせで生きる日本人にとって,地質は自然環境の基盤としてのみならず精神文化の基盤としても相即不離な存在である。環状列石や城郭石垣の材料として,仏教や自然崇拝の信仰の対象として,文学の題材として,観光・教育のテーマとして,様々な形で日本人の精神文化を築いてきた石の文化を,地質学の視点で描き出す。

(3月発売予定)

自己否定する主体 一九三〇年代「日本」と「朝鮮」の思想的媒介

郭 旻錫 (2月末〜3月初旬発売予定)

哲學研究 第六百十一號

京都哲學會 編 (2月下旬発売予定)

作田啓一 生成の社会学

岡崎 宏樹 (3月上旬発売予定)

昆虫の休眠

デビッド・L・デンリンガー/沼田 英治・後藤 慎介 訳 (3月中旬発売予定)

統治されない技法:太湖に浮かぶ〈梁山泊〉

太田 出 (3月中旬発売予定)

「私と汝」の教育人間学:西田哲学への往還

高谷 掌子 (3月中旬発売予定)

・今月の一冊


東アジアは「儒教社会」か?

小浜 正子・落合 恵美子 編

 いまだに私たちの社会の中にある「男中心」の構造や倫理観・価値観は,「東アジアに共通する儒教的伝統」だとしばしば説明されます。しかしそれは本当なのか――そもそも儒教の教義とは何か? それが各時代の文脈でどのように解釈され実践され,変容して行ったのか? 本書は,丁寧な歴史学的資料考察と文化人類学/社会学的フィールドワークで,私たちが「儒教的伝統」と考えてきた事柄,特に家族のあり方に,鋭く再考を迫ります。驚きのカバーデザインは著者たちの挑戦の強い志を示しています。

 言うまでもなく「儒教」は中国に始まりますが,その教義は乱世を力で収めた荒々しい人々に,支配者としての倫理を教えるものでした。それが中国では明代(14~17世紀)に,社会的上昇を目指す人々の実践の中で,ある種の歪みをもって社会全般へ普及しました。また朝鮮/韓国,日本,琉球,ベトナムといった周辺社会が「近世」を形作る中では,それぞれの社会の政治経済文化的文脈に応じて,様々なかたちの「儒教化」が起きました。たとえば日本では,もともとの儒教では強く重視されなかった「忠・孝」(特に「忠」)が強調される「武士道儒教」が支配層に普及する一方,庶民レベルでは「家業」の継続という文脈の中で独特のジェンダー構造が定着します。またベトナムのように,「儒教的」観念の中では救わない死者の魂を宥めるための,独特な祖霊崇拝が生まれるという実践もありました。

 近代になると,そうした儒教を巡る構築/脱構築は,さらに複雑になっていきます。最近の韓国のように,ジェンダー平等が制度として認められる例がある一方,中国のように,西洋中心主義への対抗,個人主義(自由主義)に対する家族主義の見直しとして,「儒教」が再評価されている現実もあります。「儒教資本主義」などの概念はその現れでしょう。こうした中で,私たちの社会は今後どのようになっていくのか。

 東アジアが大きく変動した近世から近代の,制度,法,家族,実践に鋭く焦点を当て,中国,日本,朝鮮/韓国,台湾,琉球そしてベトナムの多様な「家族主義」とジェンダー構造に迫ることで,再構築と脱構築を繰り返してきた「儒教」と私たちの「家族」の未来を展望します。

・SNS/イベント情報


◉YouTube動画更新
 下記、それぞれのリンクよりご視聴ください。
[天]第4回①大地のへそ(おこしやす! 西洋古典叢書)
[人]第1回 耳で楽しむラテン詩の世界(おこしやす! 西洋古典叢書)

◉書店フェア 開催中
『西洋古典名言名句集』刊行記念フェアを各地で開催中です。詳細な開催情報はこちら


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ご紹介しました書籍は、小会webサイトのほか、全国の書店・大学生協・ネット書店を通じておもとめいただけます。

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京都大学学術出版会 月間ニュース No.5
2024年2月14日 配信
(毎月 第3水曜日 配信予定)
発行:一般社団法人京都大学学術出版会
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