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『中国ジェンダー史研究入門』【新人読書日記/毎日20頁を】

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新人読書日記シリーズ、4冊目。
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2023年12月の記事一覧

難しき「独身主義」【新人読書日記/毎日20頁を】(58)

「中国ジェンダー史研究入門」、281〜300頁、読了です。 上記は、1922〜23年に行われていた「恋愛討論」で、とある女性の「独身主義」の主張です。正直、これは100年後の世界で生きているこの私にとっても衝撃的です。なぜかというと、自由に「独身」を選べる環境はいまだ整っていないからです。恋愛しないどころか、親からの「早く結婚しろ」との催促は並大抵ではありません。社会からの暗黙の偏見も無視できません。また、2000年前の思想家・孟子が残した名句「不孝有三、無後為大」(子孫を

「断髪」と「辮髪」【新人読書日記/毎日20頁を】(57)

「中国ジェンダー史研究入門」、261〜280頁、読了です。 本章「近代中国の男性性」では、中国の「男性性」はどのように定義・左右されてきたかを概観しています。19世紀末、清末民初の政治家・康有為が「断髪」を提起、女性的「辮髪(おさげ)」は中国人が西洋人に笑われる原因だと、辮髪を切ることを提唱し、男性性への復帰を求めていました。「辮髪」の歴史と対照してみると、このエピソードは興味深いと思います。 もともと「辮髪」は統治階級になった満洲族が自民族の風習を漢民族に押しつけたもの

「纏足」の恥【新人読書日記/毎日20頁を】(56)

「中国ジェンダー史研究入門」、241〜260頁、読了です。 子供の時、おばあちゃんの足の形が「変だ」と思っていました。今日「纏足」に触れる内容を読んで、初めて画像検索してみたら、「あっ、おばあちゃんの足だ」と、驚きも懐かしみも複雑な感情になりました。 あの時代に、「纏足」はああいうふうに取り上げられていたのかとわかりました。一千年ほど続いていた男性の審美眼に合わせる習慣が、ある日ナショナリズムの正反対に置かれ、国家の恥ともなり、国家の無能も女性の足の問題になったなんて、皮

近現代中国のジェンダー【新人読書日記/毎日20頁を】(55)

「中国ジェンダー史研究入門」、221〜240頁、読了です。 近現代中国は紆余曲折を経て、対外戦争から対内闘争までの長年の混乱を乗り越え、経済成長を遂げ、「中国夢」を見る段階に辿り着きました。この流れの中で、ジェンダー秩序はどのように変化してきたのか、第III期「近現代中国―変容するジェンダー秩序」で論じられている課題です。 冒頭の「はじめに」で時代をおって政治と政策に伴う女性の地位の変化や、男女格差などを概観しています。ジェンダー秩序に影響を及ぼす原点は、政策にあると思い

身分感覚と「紅楼夢」【新人読書日記/毎日20頁を】(54)

「中国ジェンダー史研究入門」、201〜220頁、読了です。 本章では「身分感覚」が論じられています。触れられている「女子教育」と「上流階層の女性」の節から、『中国四大名著』の一つである「紅楼夢」を思い出しました。清代中期に曹雪芹と高鶚より、書かれた小説で、上流階級の賈氏一族が繁栄の極みから没落するに至るまでの流れにそって、貴族と庶民の男女を描いたストーリーです。登場する貴族のお嬢さんたちの、詩文の才は感服のほかなく、その人格と学識が下層階級の侍女のそれと対比となり、いわゆる

朱子学と再婚【新人読書日記/毎日20頁を】(53)

「中国ジェンダー史研究入門」、181〜200頁、読了です。 「餓死事極小、失節事極大」(餓死するよりも、貞潔さを失う方が大きな問題だ)は、朱子学の代表的なキャッチコピーの一つとして広く知られています。前近代の女性の抑圧の原因となっています。寡婦の再婚は批判対象となり、「節」を保った女性は推奨されるなど、現代人には想像しにくい世界でした。 とはいえ、今の中国でも、バツイチの女性は、お見合いの場では不利になるなど、これは普通だと認識されているのも、長年続いた朱子学の思想に影響

小説と歴史【新人読書日記/毎日20頁を】(52)

「中国ジェンダー史研究入門」、161〜180頁、読了です。 本章の著者は北宋の類書『太平広記』と南宋の志怪小説『夷堅志』(いけんし)より女性が労働しているシーンをそれぞれ引用し、当時の女性の働く様を描写しています。前回も言及したように、重要史料でも、編纂者の偏見が含まれている場合が多く、現実との違いが少ない史料を見出すには、色々と工夫が要るというわけです。ここでは、小説類に着目して、唐宋時代の生活を垣間見ることができます。小説は、基本のストーリーは架空ですが、背景の社会環境

「千男一女」の「清明上川図」【新人読書日記/毎日20頁を】(51)

🐈:風邪で2日休みました。更新再開します。皆さんもご注意くださいね。 「中国ジェンダー史研究入門」、141〜160頁、読了です。 第5章「唐宋時代の生業とジェンダー」では、史料の限界と可能性が論じられています。唐宋の性別役割分業とジェンダー秩序を知るには「清明上川図」が一枚の重要な絵画史料となります。今まで教科書、美術展などで何度も鑑賞したことがありましたが、絵に登場する男女の割合のことは考えたことがありませんでした。今読んだところでは、なんと「千男一女」という割合のよう

9世紀の離婚届【新人読書日記/毎日20頁を】(50)

「中国ジェンダー史研究入門」、121〜140頁、読了です。 「COLUMN1史料紹介」では敦煌文書に残されている9、10世紀の離縁状(離婚届)について紹介されています。年代からすれば、恐らく唐、宋年間のものですね。一人の男性が書いた9世紀の離縁状「放妻書」に、離婚しようとする妻に対する祝福の気持ちや離婚後扶養料を払う旨書かれていることから、当時の男女間の平等な関係がわかります。面白い。

戦争時代における一人の文化人、李清照【新人読書日記/毎日20頁を】(49)

「中国ジェンダー史研究入門」、101〜120頁、読了です。 宋代の李清照が書いた詞は中国の国語の教科書に載るほど、文化面で認められています。戦争時代における転々とする身と淋しい心境を表す詞が代表的でよく知られています。内容からすれば、「閨怨」の枠に入っても良いようですが、実は本質的に違いがあります。良い教育を受けた、独立性を持つ女性が現実に対する「哀愁」にはジェンダーから逸脱するものがあり、感動的だと思います。

「閨怨」と「女誡」・・・【新人読書日記/毎日20頁を】(48)

「中国ジェンダー史研究入門」、81〜100頁、読了です。 文学オタクの私は、第3章の章題、「中国の文学と女性」を興味深く感じました。本章では漢、唐、宋といった時代の文学作品、とりわけ詩句に登場するイメージにあらわれる「女性」と、文学に関わる実在する女性たちのお話が語られています。 作品に登場する圧倒的多数の女性のイメージは「閨怨」のようです。「閨怨」とは「男性に棄ておかれても彼を愛する」という「待つ女」のことです。本章に言及されている漢の有名な才女・班昭が書いた「女誡」が

骨は父、肉は母・・・【新人読書日記/毎日20頁を】(47)

「中国ジェンダー史研究入門」、61〜80頁、読了です。 本章「父系化する社会」では「父=骨」「母=肉」という観念に触れています。「父系親族関係の永遠性と母方親族との暫定的な関係性」が強調されているということです。ここで私は「西遊記」にも登場する哪吒(なた)の伝説のとあるエピソードを思い出しました。竜王の水晶宮で大騒ぎした哪吒を殺そうとする父に激怒し、自ら肉を割き、母に返し、骨を父に返して死んでしまったというお話です。なぜ、「骨は父、肉は母」か、今まで一度も考えたことはありま

墓地と古代ジェンダー秩序・・・【新人読書日記/毎日20頁を】(46)

「中国ジェンダー史研究入門」、41〜60頁、読了です。 墓地の男女の副葬品を比較すると性差による分業は、先秦時代にはもう定着していることがわかりました。いわゆる「男耕女織」。七夕の「牽牛織女」伝説に登場する主人公が代表的です。しかし、古代に広い墓地や良い副葬品を持つのは大体貴族や王と王后であるため、そこから全体のジェンダー秩序を論じるのは、一般庶民にとって若干「不公平」な気がします。やはり、どんな時代であっても、まずは階級、次は男女だと思いました。

父系社会の成り立ちとDV・・・【新人読書日記/毎日20頁を】(45)

「中国ジェンダー史研究入門」、21〜40頁、読了です。 新石器時代の集団墓地に埋葬されている成人男女の比率の変化から、女性は他集団に嫁ぎ、男性は残って他集団の女性を娶る傾向が強まったと論じられています。「父系社会」が形成される過程の一証左でもあるでしょう。先月読んだ『人間性はどこから来たか』の「近親相姦の禁忌」という節にも、より良い遺伝子と子孫を多く残すため、近親相姦を避ける手段として、雄と雌のいずれかが成人になると集団から出るということが語られています。 また、本書では