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『類』を読んで

最後まで読み通せるだろうか・・・この本を手にしたときの第一印象だ。本の厚さは3センチ以上!ずっしりくる重さ。

でもそれは、杞憂に過ぎなかった。ページを繰る手が止まらなかったのだ。面白くて。登場人物たちが生き生きして、ときに私に話しかけてくる、この感覚!

『類』の正式な名前は、森類(もり るい)。かの文豪・森鴎外の息子だ。4人兄姉の末っ子でもある。簡単に言えば、この本は彼を中心にして森家を取り巻く人間関係や、喜怒哀楽と、日常生活の小さなことから社会的できごとをうまく織り込みながら、書かれている。

そして森類という人を一言で言うなら、まずは気の毒というか、損な役回りの人だなあということ。勉強があまり得意でなかった彼は、いつも母から叱られてばかり。どんなときでも、何をしていても、世間からは「鴎外の息子」と言われ、優れた才能がきらめく兄や姉たちと、いつも比べられる。「鴎外の息子」なのに、なぜ、できないのか。勉強でも芸術でもできて当たり前。そんな感覚で家族も世間も、彼を見る。枕詞のような「鴎外の息子」。このワードが、彼の人生にたちはだかるのだ。もし、類が鴎外の息子でなければ、また違った人生を歩んでいただろう。

それでも、壁にぶつかり、そのたびにもがき、時代の波に翻弄されながらも、生きた類。社会に出て働いたことがない類が、就職できたと思ったのもつかの間、「あなたのような人が生きること自体が、現代では無理なんです」と同僚にも言われ、会社を首になる。そして、4人の子どもを抱えながらも、紆余曲折を経て、やっと自分の著作が世に出る。

一方でちょっと世間ずれしたところのある類を、深く支え続けた妻の美穂。生活が厳しい中でも、工夫してプロ並みの食卓を整え、洋裁の腕を発揮して子どもたちの服を縫う。苦しくても、無償の愛を類と子どもたちに捧げ続けた。そんな美穂が家族を残して亡くなってしまうところは、涙涙だった。

それでも、類は幸せだったに違いない。美穂や4人の子どもたちに囲まれ、姉の茉莉や杏奴(アンヌとは、仲たがいをしてしまうのだが・・)との交流や、絵画や文筆の世界に生きることができたから。

この本を読んでいて、先日訪れた森鴎外記念館のことが書かれていて、より一層の親近感がわいてきた。

明治から平成の時代を生き抜いた、森類。この人と出会えて、私はとっても嬉しい。そしてどうしようもなく、この兄姉たちが書いた作品も読んでみたいなあ・・・と、早くも沼に落ちそうになっている。






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