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自分を原点に戻すために訪れていた場所

私は30代前半に1年間イギリスに滞在したことがあります。「海外に住む」、その中でも一番憧れだった「イギリスに住んでみる」というのが中学生からの夢で、医師として働き、皮膚科専門医を取得したのを一区切りに、一旦仕事から離れました。これをきっかけに、その後5年間イギリスなどヨーロッパの国に毎年旅に出かけました。なぜ私が毎年のようにヨーロッパを訪れていたのかと振り返って考えていたら、あることに気づきました。

私は海外にいるとき、素の私でいられると感じていました。私は私の原点に戻れる気がしました。私はただ一人のとして存在できる。女性であるとか、医師であるとか、長女であるとか、はたまた日本人であるということすら忘れて、ただの「私」としてこの世界に存在する。この感覚の心地よさに惹かれ、これを求めて、私は毎年海外に出ていたんだと思います。

いろいろな国の人が行き交うヨーロッパでは、それぞれがさまざまな文化的背景を抱えていて、誰がどこの出身だとか、どこの会社で働いているとか、肩書きなんて誰も気にしていないかのようでした。持っている看板は「自分」という個性のみ。それがとても気楽に感じられ、私は肩の力を抜くことができました。日本にいると、どうしても家族の中での役割や社会の中での役割といった枠組みがあり、それを特別意識はしていなかったもののどこかで窮屈に感じていて、いつも気張って生きていたのだと思います。だから心からリフレッシュするためには一旦その枠組みや役割から離れる必要があったのでしょう。

イギリスにいるときの私は、自分を真から解放することができました。肩肘張らずに自分らしくいられました。ということは、それまでの私は、自分を合わない枠に押し込め、いかに緊張して息苦しく暮らしていたのか、ということなんだと思います。みんな誰しも、日常の中では、社会的な役割、家族の中での役割などがあり、それぞれの立場に応じて、自分をうまく調節して生活しているのではないでしょうか。それが旅人となると、その土地や社会に属さない分、自由さや気楽さがあるのでしょう。数年という短期滞在も同じだと思います。少しその国の社会や日常に溶け込みますが、いずれにしても一時的なものです。
私は今現在アメリカに住んでいますが、こちらでどのように感じているかというと、旅ではなく、一時滞在でもないので、生活の中に、社会の中の一員として深く入り込んでいるので、実はヨーロッパを旅していたときのような解放感は感じでいません。ただアメリカという文化的な気楽さはあり、日本にいたときとは違った気分を味わっています。

自分を解放するために、何も海外まで出なくてもいいと思います。例えば、森などに出かけ、雄大な自然に触れることで、「自分もありのままでいいだな」とすーっと肩の力が抜くことができたりしますよね。

自分の中で、本来の自分に戻れる場所や戻れる方法を知っているというのは大きな力になると思っています。

私は、このことに気づいてから、何も海外に一人旅に出なくてもいいんだとわかり、他の方法で同じ感覚を味わえる方法を探究しています。今は小さな子供2人もいて、独身時代のように気軽に世界を飛び回ることができません。だからといって自分を原点に戻すことを諦める必要もないし、別の方法で自分をほんの僅かの間でもいいから日常から解放してあげることは、自分へのエネルギーチャージになるなと思っているところです。


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