見出し画像

日野市議補選 立憲民主党が負けたワケ

 2021年4月18日。平成の大合併によって生まれた「ミニ統一地方選」で、ある自治体が政治好き達をざわつかせた。日野自動車の発祥の地であり、かつては丘陵部に多摩テックなる遊園地を有していた日野市である。新選組副長の土方歳三の出生地でもあり、多目的トイレで不倫パコパコしていたあの男もこの街の高校に通っていた。毎年初春には高幡不動尊が初詣の参拝客で賑わう。筆者もこの街には大変お世話になったということを付記しておきたい。

画像1

※高幡不動尊金剛寺不動堂と五重塔(高幡不動尊公式HPより)

 さて、そんな日野市で先日、市長選と市議補欠選挙が行われた。市長選で野党統一候補が立たなかったにも関わらず、元副市長の詐欺事件による現職への逆風から、左派の新人有賀精一氏が相乗りの現職に迫った事も特筆すべき点ではあるが、それ以上に人々を驚かせたのは市議補選の方であった。立憲民主党は多摩地域で強い地盤を擁することで知られるが、その公認候補が補欠選挙で落選したのである。それも定数3名で立候補者は4人の選挙であったので、紛うことなき最下位である。立憲の牙城「三多摩」で何故こんなことが起こるのか。訝しむ向きには大いに共感したいところだ。

画像2

※日野市議補選 選挙結果

 しかし、実は立憲の公認候補が落選したのは何もおかしい話ではなかった。本稿ではこのことについて詳細に掘り下げていく予定である。

① 日野市議補選の候補者紹介

 選挙分析に入る前に、まずは候補者を整理しておきたい。得票数順に紹介していく。

【自民】蛭田 智也 (ひるた ともや)
 中央大学文学部卒業。民間企業で勤務した後、厚労省職業能力開発部、国分寺市役所に勤めた。自民党都連の政治塾「Tokyo自民党政治塾」出身者でもある。前回市議選に自民党推薦無所属で出馬したが落選した。選挙戦では自民党の東京21区総支部長である小田原潔から支援を受けた。

【共産】渡部 三枝 (わたなべ みつえ)
 保育士資格がある他、たいわ士、カードコーチングコーチ、カードコーチングトレーナーを称してフリーランスとして活動している。共産党にしてはかなり異色の候補を立ててきたという印象を受ける。共産都議候補で、昨年の古賀都議死去に伴う補選で落選した清水登志子氏の支援を受けた。

【無所属】森久保 夏樹 (もりくぼ なつき)…都F系
 日野市高幡出身。多摩地域の名門小学校である国立学園を卒業。中高で桐蔭に通った後、北海道大学農学部卒業。英国に留学後帰国し、貿易商社を設立。外国人労働者の就労支援をする中で政治に関心を持ち、行政書士資格を取得。都民ファーストの会の菅原直志都議の事務所に入り、全面支援を受けた。他の自治体からも都民ファ所属議員が応援に入った。

【立憲】遠藤 茂 (えんどう しげる)
 日野市出身。前回市議選に無所属で出馬し、落選。大坂上二丁目自治会副会長。今回の市議補選では各地の立憲民主党地方議員が日野に入り、遠藤氏を支援した。市長選挙では社民党・共産党が支援する有賀精一候補を支持していた。

② データから見える敗因

ところで、都市部における地方議員補欠選挙の特徴とはなんであろうか。それは大規模な選挙に比べて明らかに投票率の低下が見られる点である。これについて文面を割くと本題から脱線してしまうので割愛するが、少なくとも大都市圏において、地方議員補選は国政選挙などより大幅に投票率が下がるものとお考えいただきたい。

この傾向は当然日野市議補選にも現れた。今回の日野市議補選の有効投票率は40.3%であったが、2019年参院選(比例)の有効投票率が54.2%、2017年衆院選(比例)が53.7%、2017年都議選が49.0%であったことを踏まえるとその低さが突出していることがよく分かる。ちなみに注目度の高い都知事選と同日選挙であった2020年の都議補選の投票率は例外的に高く、53.0%もあった。

さて、投票率の低下で得をするのは誰なのだろうか。それはもちろん組織票、揺るがない固定票をもつ政党・候補者である。この点において、野党、とりわけ民主系は極めて不利になると考えなければならない。自公や共産に比べて彼らは浮動票によって支えられる面が大きい。固定票を持つのは連合があげられるが、そもそも浮動票が多いのでそもそも大幅な減票を覚悟しなければならない。実際、野党の得票率と投票率には強い正の相関が存在している。

 さて、そうなってくると1番美味しいのは自民党だ。投票率が低下しても、彼らは組織力で持ちこたえる力がある。実際、日野市議補選で蛭田(自民)は20,954票の得票を得た。これは2019年参院選の比例票より5,721票少ないものの、当時より現在の自民党が逆風に晒されていることを踏まえれば、候補者として極端に悪い数字とも限らない。

 次に得をするのは共産党だろう。共産候補の渡部は、参院選の比例票より5,856票も多い16,098票を確保して2位当選した。しかし、これはおかしな話だ。2018年日野市議選でも共産候補の得票数の合計は10,489票に過ぎず、これは2019年参院選の共産の比例票10,242票とほぼ同数である。これの答えは同日に投開票された日野市長選にあると、私は踏んでいる。共産党総体として、市長選では市議出身の有賀精一候補を支援していた。この市長選=市議補選を連結した活動が、連動効果を生み出した可能性がある。同様の現象は、2019年札幌市長選と札幌市議選でも見られた。

 しかも、この共産の得票数拡大によって、遠藤候補が獲得可能なリベラル無党派のパイは削られることになる。このことは致命傷でこそないが、遠藤候補落選の一因になったように思われる。2019年参院選の立憲民主党得票数に比べて、遠藤候補の得票数が4,851票も少なかったことを考えると、尚更そう考えざるを得ない(もちろん、れいわや社民の支持層も共産の渡部候補に流れていると考えられるので、立憲支持層だけを奪ったと考えるのは短絡的である)。

 すると問題は、東京に根を張る立憲民主党の遠藤候補が何故、組織がないはずの都民ファ系無所属の森久保候補の後塵を拝する結果になったことに絞られてくる。昨年の都議補選では北区や大田区で都民ファ候補が最下位落選している。その都民ファに立憲民主党が敗れることなどあってはならない事のように感じる方は多いはずだ。

 この答えを見つけるには、票分析の世界から一旦は離脱し、構図理解と選挙戦略の観点から選挙分析を行う必要がある。

③ 構図・戦略から見える敗因

 森久保候補の勝因と遠藤候補の敗因について考える上で、キーとなるのが菅原直志都議(都民ファ)の存在である。この菅原都議のスタンスが曲者なのだ。この菅原都議、実は2017年都議選の前まで民進党の所属議員だった。菅原氏は長島昭久氏の系列に所属する市議で、彼の民進離党に合わせて、自らも党を離れたのだった。都議選は都民ファーストの公認と連合の組織外推薦を得てトップ当選を果たしている。

 そんな彼は、夏の都議選で電機連合準組織内候補として連合の推薦が内定している。故に、電機連合準組織内の菅原都議の直系候補である森久保さんをも、連合は支援した。電機連合は主に国民民主党を支持する労組だが、2019年参院選、日野市で同党は5,007票を獲得している。これと立憲寄りの無党派層の一部が森久保候補へと流れた可能性は否めない。また第3極系の維新の支持層もある程度獲得したことだろう。

 更に、森久保候補は市議補選告示の1ヶ月前には既に地元での政治活動を始めていた。本人のFacebookからは少なくとも3/9には活動を開始していることが確認できる。一方、立憲民主党の遠藤候補が活動を開始したのは3/29とギリギリで、党が公認を出したのも3/30であり、森久保候補とは実に20日もの差が開いていた。

 ここにもう1つ付け加えるならば、森久保候補はかゆい所に手の届く政策を訴える候補であった。中央道日野バス停への屋根の設置や京王ライナーの都営新宿線乗り入れ要求は、地元の人々には小さくとも確実に響いた政策であったように思われる。

 かくして日野市議補選では自民蛭田、共産渡部、都ファ系無所属森久保の3候補が当選し、立憲の遠藤候補が涙を飲むに至ったのだろうと、私は推測している。しかし遠藤候補の戦い方が悪かったわけでは決してない。活動は精力的であったし、選挙公報も出来のいいものだった。2022年には再び市議選がある。遠藤氏の新たな挑戦と今後のご活躍を願ってやまない。

 ところで日野市では夏になるとまた、選挙がある。任期満了を迎える都議選である。現在、日野市選挙区(定数2)には西野正人(自民)、清水登志子(共産)、菅原直志(都民)の3候補が立候補している。今回の市議補選は都議選にどのような影響を及ぼすのだろうか。4年ぶりに都議選の夏が来る。遠藤氏の今後の活躍にも期待しつつ、都議選の投開票日を心待ちにしたいと思っている。

よろしければ是非サポートをお願いします(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)