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京子先生の教室8「MVP受賞の理由」

 クラスのドッジボール大会で、大会会長の西山君は、なぜか平田君を大会のMVPに選びました。特にドッジボールが得意でもなく、1回戦で負けてしまった平田君がMVPを取った訳。それは何だったのでしょう。

「再来週の金曜日にみんながやりたがっていたドッジボール大会をします。話し合って準備をしなさい。はい、今から学級会。」
「やったー!!」
「よっしゃー!!」

 4年3組待望のイベントであるドッジボール大会の準備が始まりました。運営は学級会で話し合あって、子ども達の自主活動で進んでいきます。ここがまさに、特別活動のねらうところです。

「ねえ、大会会長って一番偉い人を決めませんか?」
「えっ?!」
「いいね~、かっこいい。」
「賛成!」
パチパチ、パチパチ。
「俺、やってみたい!」
「お前は無理だろ。」
ハハハ、ハ。
突然のユニークな提案に、みんなは笑いながら賛同しました。

『へ~、おもしろい。クラスのだけの小さいイベントだけどね。ふふ。』先生は、そのユニークな発想に思わず笑ってしました。きっとテレビなどで見聞きした経験がこんな係を生み出したのでしょう。

 みんなの推薦で大会会長が西山君に決まりました。
 その後、西山君を中心に、まず、チーム分けの話し合いが始まりました。まず、4人のキャプテンが決まりました。そして、キャプテンが話し合いでクラスを平等な4つのチームに分け、キャプテンとチームの組み合わせを決めるという、だれもが納得するやり方が選ばれ、実行されました。

 開会式や閉会式の司会進行、コートを作るライン係、審判、時計係、トーナメント表係・賞状・トロフィー係(手作りです)等々、大会を進めていく上で必要な係がどんどん決められていきます。

「はじめの言葉は私がします。」
「ライン係がしたいです!」
「審判はサッカー部がしませんか?」
みんなの顔がキラキラしています。

 4チームのメンバーとチーム名が決まりました。
園田キャプテン率いる「ドラゴンキング」チーム。
下田キャプテン率いる「AKB15」チーム
山田キャプテン率いる「ウルトラパンチ」チーム
北田キャプテン率いる「北田ファミリー」チーム
子ども達は大笑いしながら名前決めをやっていました。
何でもいいんです。子ども達の想いと発想が広がっていきます。自由です。

 大会まで2週間。
「ドラゴンキングチームは昼休みに鉄棒前集合!」
「ウルトラパンチチームはジャングルジムだよ~。」
休み時間にキャプテンがチームの練習を呼びかけます。
また係に決まった子達はその準備もあり、休み時間や放課後は大忙しです。
クラスのボルテージはどんどん上がって行きました。

 いよいよ、大会が始まりました。
ライン係が巻き尺を頼りにコートの線を引きました。線がちょっとゆがんでいます。でも、そんなことより、コートを作り上げた達成感で係の子は満足顔です。
 開会式。先生の出番は「では、次に先生からのお話です。」と言われて1分ほど話すだけ。後は、子ども達だけの世界です。今回は手作り応援グッズまで作ってあって、さっそく応援が始まりました。
   
「フレーフレー、ドラゴン!」
「まけるなーー、ウルトラパンチ!!」

 さあ、審判の笛の合図とともに試合が始まりました。クラスの中だけの行事ですが、これがなかなかの緊張感があるんです。コートの中の一人一人の顔は真剣です。ここに来るまでに、チームとしての団結力や自分のこのチームで優勝したいという思いが強くなるからでしょうか。みんな必死の形相です。
 勝ち負けがはっきりするので、試合が終わるとチームの様子も明暗を分けます。負けて泣きながらでも、チームの絆はさらに強まります。キャプテンがみんなに声をかけます。

「泣くな。みんなよくがんばったよ。」
「そうだよ、ドンマイ・ドンマイ」
「理恵ちゃんもナイスプレーだったよ!。」

『いい仲間だな~。ちょっとうらやましい。』
先生は時々、担任じゃなくてこのクラスの子どもになりたかったなあと思うことがあります。今日も先生にそんなことを思わせる子ども達の姿です。


決勝戦の末、今回は北田君率いる「北田ファミリー」チームが優勝を勝ち取りました。


 閉会式。
 優勝チームの北田ファミリーにトロフィーが渡されました。
その後、大会会長の西山君が
「今日のMVPを発表します。」
と言いました。MVPは試合の一部始終を大会会長として見ていた西山君が決めるのです。
一瞬、静まり返りました。

「MVPは・・・平田君です!」

「えっ?!おれ?。・・・何で??」

 平田君はドッジボールがそんなに得意ではありません。チームも負けてしまいました。どうして自分がMVP何だろうと目を大きくして驚きました。クラスの子ども達も「えっ?!」と言う反応でしたが、すぐに西山君が話を続けました。

「平田君はゲームをしていない時、いつも一番大きな声で試合をしているチームを応援していました。そして、ボールが遠くへ転がっていくと何回も一番に走って取りに行っていました。ゲームで活躍した人もたくさんいますが、平田君も同じくらい活躍したと思うので、平田君をMVPにしました。」

西山君の説明に、みんなも

「おーーーーー!!」
「すばらしい」
「はくしゅ~。」
パチパチ・パチパチ
「平田君すげえ」
「おめでとう!」

 盛り上がったドッジボール大会の最後に、西山君の粋なはからいもあって、クラス全体が清々しい空気に包まれました。

 子どもは大人の想像を超えることを自由に発想し、行動します。
MVPは試合で一番活躍した人に贈られるものと決めつけていた私の認識をはるかに超える西山君の発想でした。
 今回のドッジボール大会は、いろんな場面で自分たちの思いを形にし、大成功に終わりました。
 子ども達はこんな体験を互いに共有し合って、みんなで楽しく、伸び伸びと大きくなっていきます。

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