小説「仇討ちのブラッドフラワーズ④」~ジョジョの奇妙な冒険より

おはようございます。私です。
ようやく、この派生小説を終わらせられるめどが立ちました。
あと、2回。たぶん2回でなんとか。

それに伴って、時間をかけすぎたせいでおかしなことになってる描写やなんかを、精査してみたいと思います。たくさん出てきそう……。
それではどうぞ。 

               Ⅳ

「なんだよジョジョ?炭酸は飲めないのか?」
「そうじゃない。そいつ、ちょっと気をつけたほうがいいかもしれねーぜ」「電車の物売りだぞ?承太郎、なにかおかしなことが?」
 アブドゥルが会話に入ってきた。ディマイヤに一瞥を投げかけてくる。

「飛行機でも船でも、スタンド使いに襲われた……。電車の中で襲ってきても不思議はない。」
「なるほど、それもそうだな」
「それに、そいつはさっき、車両の継ぎ目から俺たちの様子をうかがっていた……おい、はっきり聞くぜ?てめー、なんで俺達にガンつけてたんだ?」
「承太郎……まるでチンピラですね……」
「用心に越したことはねえ、花京院」

 カキョーインの問いかけは日本語のようで、承太郎もそれに合わせていた。一瞬、呆れたような目をした後、承太郎と共にカキョーインも不審の目を向けてきた。二人の短い日本語のやり取りはわからなかったが、疑われてることは充分に感じた。様子見だ!、まずは少しだけ、しかけてみる!ディマイヤは自分に強く言い聞かせ、紙片を突き出した。
「アナタたち、ジャパンから来たデショ?だったらこの文字の意味、教えて、ですヨー。だから、私、アナタたちのこと、見てたネー」
 紙片を手に取った承太郎の眉毛が、激しくゆがんだ。1、2、3、4、5、6秒だッ!

 しかし、承太郎はグッと目を閉じて、恐ろしいくらいの歯ぎしりの音を立てた。6秒以上、見たはずだった。倦怠感より強い感情を感じたのか?
「じじい、花京院、アブドゥル、これを見ろよ。……」
 紙片をアブドゥルが受け取り、三人の目が順にそそがれた。
「これは……いい言葉じゃない。そうですね、ジョースターさん?」
「ああ……そういうことか。むごいことをする奴がおるわい」
「書いたのは、日本人でしょうか。情けないですね」

 やりとりの意味は分からなかったが、三人が文字を見た時間は、六秒に届くかどうかだった。そして、アブドゥルはすぐ紙片を破ってしまった!
「胸糞悪いぜ……オレは寝る。ポルナレフ、コーラの他にもなんかあるか聞いてやれ……」
 承太郎はそう言い残し、帽子を目深にかぶると寝てしまった。ディマイヤの焦りをよそに4人は会話を続ける。コーラの代金もまだなので、ディマイヤはその場にいるしかなかった。
「どういうことなんだよ。俺にも説明しろよ」
「つまりですね」
 カキョーインがディマイヤをちらりと見ながら、ポルナレフに耳打ちをする。
「あの紙には、『馬』と『鹿』という日本の漢字が書いてあったんです」「馬と鹿?それのどこがおかしいんだよ」
「日本語ではバカ、と読みます。手っ取り早くいうと、マヌケで愚図なヤツ、という意味の罵り言葉です。この物売りの青年はおそらく、あの紙を見せることで、日本人の旅行者とのコミュニケーションを図っていたのでしょう。しかし、あんな言葉が書いてあったら、うまくいくわけがない」
「なんだよそれ!ひでー話じゃねーか!」
「……ねえ君、さっきの文字の紙は、日本人の旅行者に書いてもらったのですか?」
 カキョーインは一呼吸おいて、ディマイヤに穏やかに問いかけた。
「そ、そうネ。優しい日本人でしタ。でも意味は教えてくれなかったネー」 
 自分で書いたとはもちろん言えない。ディマイヤは精一杯愛想よく笑いかけた。
「笑ってるぜ……読めねーとバカにしてたんだな。ひどいことをするやつがいるよなあ」
「承太郎だけじゃなく、僕も腹が立ってますよ」
「うむ。彼が気持ちよく仕事できるように、何か書いてやる、というのはどかなあ」
「ジョースターさん、『平和』とか『愛』とか、そういうのはどうだい?」
「やるじゃないか、ポルナレフ。そうだ、他にも何か買うんだぞ」
「言われるまでもねーよ」

 会話はもう英語に変わっていたが、ディマイヤは予想しえなかった展開にとまどっていた。
 この連中は何かが違うのだ。これまで相手にしてきた旅行者は、ディマイヤのことを最初から見下してくるような連中ばかりだった。いや、そういう連中だけを狙って商売してきたのだ。まれにアテが外れて、親切な奴に当たった時は、金品を奪わないで済ませたことも何度かあった。アニキにも内緒にしていたことだが、ディマイヤは、そうすることがなにか格好のいいことだと思っていたのだ。彼らのリアクションにディマイヤは大いに戸惑った。身体に汗を感じる。さっきからだ。古い列車だから、空調が壊れているのか?

 カキョーインが紙になにか書いている。日本語混じりで、他の3人に説明されるそれは、当然、よくわからなかった。
「少し長いかもしれませんが、ひねってていいと思いますが?」
「うむ……目にしたことはあるが、意味を詳しく知ったことはないな。どういう意味だ?」
「ワシはなんとなくわかるぞ」
「2人にも説明します。つまりですね」
 3人は頭をよせて、カキョーインから説明を聞いた。相変わらず、ディマイヤは蚊帳の外だ。
「うーん、悪くはないけどなー。長くてキザじゃねえか?自由、平等、博愛!とかさ」
「それはお前の国の国旗の話だろ。私も長いとは思う。だが、長いから日本人の関心が向くところがいいんじゃないか?」
「ええ、短いと少しつまらないかな、と思ったんですよ」
「決まりじゃな。お前さん、こいつを持ってゆくがいい。日本人の旅行者にはこれを見せるんじゃ。……どれ、こいつもひっこめるか」

 差し出した紙と同時に、ジョースターの手から、うねる紫色の何かが、浮かんで消えた。
「さすがですね、ジョースターさん。彼には見えてない、か」
 カキョーインが言う。ディマイヤの足首に、冷たい感触が走る。視界の隅に、緑色のロープのようなものが、カキョーインの方に手繰られてゆくのを見て、ディマイヤは声をあげそうになった。すこしだけ透明の、ビジョン。ディマイヤのペンと同じものだった。やはり!こいつらは!
僕やアニキと同じ能力を持っているッ!

「だ、そうだ、アブドゥル。暑くてかなわんぜ」
「フム、悪うございましたな。ムッシュ・ポルナレフ」

 ポルナレフの頭上で、何かを持った腕みたいなものが、さっと横切ったように見えた。座席の窓際にしつらえてあったカーテンがはらりと揺れる。アブドゥルの頭の上に、炎が一瞬灯り、その向こうに気味の悪い鳥のような顔が一瞬見え、肌に感じていた暑さが消えた。一分にも満たない流れだったが、ディマイヤは、叫び声を我慢するのに、精魂を使い果たした気がした。

「わるい言葉じゃないから安心してください。そうだ、他にもなにか、チェリーとか、軽くつまめるものはあるかい?あれば買うから、持ってきてくれないかな」
「お前まだチェリー食うのかよ」

 アニキを病院送りにしたヤツは誰だかわからない。しかし、五人だ!ディマイヤは愛想笑いを浮かべながら、商品を探してくる旨をつげ、後方の車両に移動した。食堂車がそちらにあったか?などとは思いもしなかった。ただただ動揺していた。

(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?