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『ピカソは本当に偉いのか?』 西岡文彦

「ピカソは人たらしで、そのおかげで作品が評価された」というようなくだりでこの本が紹介されていたので手にとった。最近、本選びがうまく行っていなかったけれど、この本は面白かった。(マンガは豊作。)

ピカソの絵の価格をキャンバスサイズで割り、平米あたりの金額を出すと、50億円だという。日本の土地公示価格で最高の都心一等地は2500万円/平米程度なので、金額的に200倍の価値になるという。なぜそんなに高いのか。そしてそもそも「アヴィニョンの娘たち」のような一見ぐちゃぐちゃな絵はうまいのか。ピカソはどんな人間なのか、どのように自分の作品の価値を上げていったのかという手法、投資対象としてのアートなどについて詳しく書かれている。ちょうど『デトロイト美術館の奇跡』でアート売却について読んでいたので、資産としてのアートの概念がなんとなく掴めた。

ピカソの生い立ち、カリスマ性、画商とのやりとりに行われる周到なプレゼンや想定問答の練習など、様々な例が紹介されているが、私が一番ドン引きしたのは女性についてのピカソの対応。華やかな女性関係でも知られるピカソの愛人の一人は、彼についてこう語る。

ピカソはまず女を犯し、それから絵に描くのです。相手が私であれ、誰であれ、同じことでした。

この本の中で、おもちゃの仕組みを知りたいがために、壊してしまう子供のようだと表現される。また、ピカソは妻や愛人たちをわざと嫉妬させ、女は「苦しむ機械」と言ったという。

ピカソをここまで「偉く」したのは「欲の強さ」と「リミッターの無さ」だと思う。大概の人は、興味を惹かれた人たちにそこまでひどいことはできないのではないか。道徳だったり人の目を気にして自制をかけると思う。彼は、自らの欲を徹底的に追求する。それは演出されたものを含め、圧倒的な輝きを放つことだろう。

芸術ではない方向にその力を使ったら完全にサイコパスだ。怖いよう。関わらなくてよかったなあ、と思いつつ、その作品にひれ伏しそうになる。

158.『ピカソは本当に偉いのか?』 西岡文彦

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