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『雲を紡ぐ』 伊吹有喜

おばあちゃんに会いたいよう、と思う。新潟の祖父母から圧倒的な愛情を受けていたことにようやく最近しみじみ気づいて、もっとしっかり受け取ればよかった、素直に甘えればよかった、もっと喜べばよかった、優しくすればよかった、と思っている。

この本の主人公は高校生の美緒ちゃん。繊細な子で、学校に行けなくなってしまうが、ともに仕事で行き詰まっていることもあり両親はうまく彼女をケアできない。美緒ちゃんは家を出て、父方の祖父が住む岩手県へ向かう。祖父は羊毛を紡ぎ布にする「ホームスパン」の工房を営んでいて…という展開。

私は編み物や手芸が好きで、こんなおじいちゃんがいたら、とうらやましい。しかもこのおじいちゃんはアーツ・アンド・クラフツ運動や民藝に詳しく、文化人と親しく交流していたともいう。家には宮沢賢治の影響を受け、きれいな鉱石のコレクションもある。このおじいちゃんの家を見てみたい。話を聞いてみたい。

さておき、人から何かを問われても言葉にできず黙ってしまうような、自分は何が好きなのかわからなくなってしまったような娘が、このおじいちゃんと過ごし、羊毛を洗い、染め、紡ぎ、織っているうちに、自分を取り戻していく。編み物や手芸は、非効率だけど、独特の効能があることを私も知っている。

この本の中で美緒ちゃんの両親はこんがらがっているし、父とおじいちゃんもこんがらがっている。家族って何て疎ましいものだろう。でも美緒ちゃんとおじいちゃんの関係は家族だったからできた繋がりでもある。老い先短い老人が一人の人間として若い少女に何かを伝えようとする姿、自分の思いをうまく言葉にできないもどかしい気持ち、そして私はできなかった、精いっぱい受け取ろうとする孫の姿に、胸がいっぱいになってしまう。10年前の私だったら、祖父母が与えてくれた環境がいかに大事だったか今ほどはわからなかったから、こんなに感じ入ることもなかっただろう。無念ではあるけれど、こういう風に本を読めるようになれてよかった。これもおじいちゃんおばあちゃんからの贈り物だ。

171.『雲を紡ぐ』 伊吹有喜

●孫が両親と離れて祖父母宅で過ごすお話

2020年読んだ本(更新中)
2020年読んだマンガ(更新中)
2019年読んだ本:77冊
2019年読んだマンガ:86冊
2018年読んだ本:77冊
2018年読んだマンガ:158冊

#雲を紡ぐ #伊吹有喜   #小説 #岩手 #ホームスパン #読書感想文

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