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『カフェノナマエ』川口葉子

もしも世界からカフェがなくなったら。多分私は病む。私は昼休みにお弁当を食べて、その後カフェに行くことを日課にしている。ずっと会社の中にいるのがいやだから。ちょっとでもいい、外に出たい。毎日数百円の出費だが、メンタルの健康のための必要経費である。お昼休みでなくても、がんばった後に、やっとやってきた金曜の朝に甘いラテで自分をねぎらうこともあるし、待ち合わせまで時間をつぶしたり、家では集中できない考え事があるときにカフェに行くこともある。身近で入りやすいチェーン店のカフェが便利なこともあるけれど、あのコーヒーが、ケーキが、雰囲気が、オーナーとのちょっとしたおしゃべりが恋しくて、とよりパーソナライズされて大切な時間をくれるのはやっぱり個人経営のカフェだと思う。

この本は、全国の個性豊かなカフェたちを、名前を切り口に紹介している。音楽に関するもの、国の名前、などなど。大阪の『アラビク』はある本から取っていて、本棚でその本を見つけたお客さんから「アレですね?」と話しかけられ「そう、アレです」と会話を交わしたりするんだそう。筆者の川口さんが編み出した法則?は「鳥の名前がついたコーヒー店は当たり」。こんど鳥のカフェを見つけたら入ってみよう。スピッツに『名前をつけてやる』という歌があるけれど、名前って、オーナーの思想や、お客さんに向けたメッセージだとかが込められた象徴だ。

この本は、昨年12月に閉店した吉祥寺の老舗「クワランカ・カフェ」のオーナーさんに借りたもので、クワランカという名前の由来もこの本に収められている。(現在、場所を変えて時々開店)私はこのお店を通じて、ワークショップを開催するきっかけ、そして勇気と自信をもらったし、たくさんの素敵な人に会った。だからカフェという場所は、そしてオーナーという人は得体のしれない何かを醸し出す存在だと思っている。この本に紹介されたカフェたちそれぞれに、独特の味わいと、オーナーとスタッフがいて、そこを心の支えにしているお客さんたちがいるんだろう。時に密に時にあっさりと関わりながら、ものの授受、経済活動、そして収まり切らない何かを生み出しているんだろう。そんな微生物の生態系のようなカフェが、日本各地に、世界各地に在るんだろう。

110 カフェノナマエ


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