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『伊藤若冲展』 福島美術館

感無量。私は伊藤若冲が好きだ。彼の描くものと、そこから漏れ出る彼という人が。

上野の『奇想の系譜』展(展8)の感想に書いたように、私は15年前に墓参りに行くほど伊藤若冲が好きだ。誕生日だし有給をとって東京から見に行くことにした。

まずは一人で鑑賞。若冲の時代ごとの作品をたどる。鳥の羽根の毛が一本一本描かれ、執着を感じるほどの細かさ。そして大根をお釈迦様に見立てた野菜の涅槃図、シンプルな線でかかれたひよこといった思わず笑みがこぼれるような題材。彼はユニークだが、決して自分から見せつけるような描き方はしない。

途中で、福島在住の友人と落ち合う。一緒に最初から眺めると、私が見逃したところ、解釈違いがあって面白い。空を見るお猿さんの絵があったのだが、彼女は「日向ぼっこしてるみたい」、私は「月を眺めているのかな」という感じ。そして「ここがいいよねえ~!!!」と共感できる喜び。会場には3時間半くらい居た。

友人が来るのを、「象と鯨図屏風」の前のベンチで待っていた。これは『奇想の系譜』展の一番最初にドバーンと展示してあって、泣きそうになった作品だ。今回は他の掛け軸などと一緒に陳列されていて馴染んでいた。展示の仕方でインパクトってこんなに変わるんだなと思った。数十分座ってぼんやり眺めていると、ふと人の波が途切れることがある。右手に陸地で一番大きな生き物である象、左手に海で一番大きな鯨が描かれている。真ん中には陸と海の合間が広がっている。象と、鯨と、私という三つの生き物が、陸でも海でもない場所に居る。

何だろう、この気持ち。静かで、穏やかで、この世のものではない場所。まさか、一人の人間によってこんなところに連れていかれるなんて。

あなたの描くものは、素晴らしいよ。絵を見てこんな気持ちになったのは初めてだよ。どうやってあなたに伝えよう。何百年も前に死んでいる彼に。きっとそんなこと言われても若冲は困って笑うしかないと思うけれど。行き場のない、豊穣な気持ちでパンパンになりながら、私はじっと座っていた。



展10 『伊藤若冲展』 福島美術館

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