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『晴れたら空に骨まいて』 川内有緒

私は、死んだら何にもなりたくない。何も残したくない。地図に痕跡を残したり、誰かの記憶に留まったりしたいとも思わない。無でいい、無がいい。食わせなきゃならない子供もいないし、愛するパートナーもいない。人生でやり遂げたいこともないし、明日の朝、目が覚めなくてもそんなもんか、と思うんじゃないか。今に始まったことではなく、十代の頃からそんな思いでいる。じゃ、お前の臓器を生きたがっている重病の患者に寄付しろよ、という話もあるかもしれないけど、ごめん、それは痛いからいやだ。両親や弟とも不仲ではないけど、うちはあっさりした付き合いの家族である。ちょっと悲しませて面倒をかけるかもしれない。そこは死んだことに免じて許して、引き受けてほしい。この本に登場する人はよくも悪くも、密接に人と繋がってきた人たちだ。ほんのちょっとだけ羨ましい。

これは川内さんが自分で体験したり、インタビューしてきた「散骨」についての本である。「切れた凧」のようにあっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら旅と仕事をしてきた夫婦、サイパンに移住し亡くなった妻の名前がついた海亀が今も海を漂っている話、山を愛した男と色々な人と家族になった話、絵が好きで旅行中のチェコで客死したお父さん、たまたまインドで知り合った男を家族ぐるみで看取った話、そして破天荒な父に翻弄されながら暮らした川内さんの家族。全てが実話で、亡くなった人も、散骨する方もとても魅力的な人たちばかり。読んでいると「それでそれで?」と身を乗り出してしまうようなエピソードばかり。医療設備が充実していない内モンゴルに倒れた夫を妻はどうやって救うのか。バブル期に出会った11歳違いの夫婦はどのようにサイパンに移住するのか。山に魅入られた男を妻にしてしまったら、父に持ってしまったら?家族でインドに移住、現地で出会った日本人男性とともに暮らし、看病し、看取る家族ってどんな人たちなのか。

墓石の下で、骨壺なんかに収まらないような人たちの話は、読んでいるだけでワクワクする。亡くなった後に、わざわざ骨を砕いて、それぞれの縁の場所に骨をまく残された人々。辛くて、苦しくて仕方なかったと思う。でも一定の時間をすぎて、故人への思いを熟成させ、重ねた人々は、私にはとても魅力的にうつる。

165.『晴れたら空に骨まいて』 川内有緒

●川内有緒さんの本


2020年読んだ本(更新中)
2020年読んだマンガ(更新中)
2019年読んだ本:77冊
2019年読んだマンガ:86冊
2018年読んだ本:77冊
2018年読んだマンガ:158冊

#晴れたら空に骨まいて #川内有緒 #読書感想文 #本

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