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『長い長い殺人』 宮部みゆき

「お財布がね、人格を持っているの。それぞれの持ち主との関係性も違うの。そのお財布たちによって殺人事件が語られていくんだ。」と吉祥寺で一番おいしいというタイ料理屋で彼女は私に本を渡した。

「何それ~おもしろそう~。」と読み始めたら、やっぱり面白かった。殺人事件の関係者が所有する10個の財布が、それぞれの立場から殺人事件を明らかにしていく。「私の持ち主は刑事。お財布の中身はこんな状況で、彼の家族は…」といった具合に。持ち主を好ましく思っている財布もあれば、そうでない財布もある。異なるお財布によって繋がるストーリーと、殺人事件の謎解き。鮮やかで見事。爽快な気分になる。読書の喜びってこういうことだ。宮部先生ありがとう。

お財布は、基本的には万人が持っていて、その人の収入や、金遣いを把握し、いつも一緒にいる存在である。第一話が雑誌に発表されたのは1989年。当時はお財布こそが、その人を最もよく知る存在だったろう。2020年の今は、スマートフォンがお金の出入りに加え、人間関係、嗜好まで把握しているから、位置づけは変わってきている。あと10年もしたら、お財布を全く使わない人が増えて、ネイティブ感覚でこの本を読めなくなる人も出てくるかもしれない。

私のお財布は私をどう思っているんだろう。「最近、私を使うのを面倒くさがって、電子決済ばかりしているわよね。」はい、そうです。でもあなたも、あなたの中身も大好きです。

170.『長い長い殺人』 宮部みゆき

●この友人が進めてくれた本

2020年読んだ本(更新中)
2020年読んだマンガ(更新中)
2019年読んだ本:77冊
2019年読んだマンガ:86冊
2018年読んだ本:77冊
2018年読んだマンガ:158冊

#長い長い殺人 #宮部みゆき #推理小説 #読書感想文

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