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解決か共感か。あなたのためにできることはなんだろう。

今日は朝から仕事だった。ある会社のブランディングだ。
響子は、アシスタントとして議事録を取ったり、リサーチをしたり資料を作ったり、ブランドメッセージの案などの提案をしたりしている。

相手は60代の社長と、40代の女性と、20代の女性。
半年ほど打ち合わせを重ねてきた。
みな物腰やわらかで、とても素直で賢明な方々だ。

打ち合わせが始まる2分前、20代の女性(響子の頭の中では24歳くらいだろうと推測している)が、社長のいない間に声をかけてきた。

「あの、あれって。そう。今、ここのところの進み具合って。。」

言葉がおぼつかない。

その後社長が合流したので話は中断されたが、その1時間後、社長が中座したタイミングでもう一度彼女は口を開いた。

咳をきったように話し出した。

あれも、これもと、4つほどの事例を出しながら訴えてきたのは、社長の社内で発言する言葉と社外で発言する言葉が違っているため戸惑っている(本音を言うとおそらく迷惑している)ということだった。

社内用と社外用の言葉の両方を聞いている彼女は、一体どっちなの?と社長に対する苛立ちを抱えているのだろうと思った。

素直に言葉を受け取るほど、どっちの言葉を信じたら良いかわからなくなる。
真剣に仕事がしたいからこそ、社長の矛盾が許せない。
社内で発する言葉を聞きながら、社外で違うこと言う社長のそばにいると、自分も嘘つきの共犯のようで嫌になる。
そういう感じの悩みや葛藤を抱えているのかなと響子は思った。

響子にも心当たりがある。

22,3の時だった。
中小企業、社員3名ほどの会社に務めた響子は、毎日のように変わる社長の意見と、副社長がこぼす社長への愚痴に悩まされた。

あのときの自分を思い出しながら目の前の彼女を見つめた。
彼女にかけてあげられる言葉はなかった。
隣にいた響子の上司は、彼女の悩みに少しだけ共感しつつも、目の前の悩みから目を逸らせられるように、彼女に宿題を出した。

響子の上司が彼女へ宿題を言い渡している間、おそらく24歳の彼女は、上司の言葉をさえぎるように(適切なタイミングより1秒ほど早く)相槌を打った。
愚痴っぽくなってしまった自分を恥ずかしいと思うと同時に、同情してくれたかったことに悲しさを覚えてしまったのではないかと響子は思う。

自分だったら「辛いよね、わかるわかる。」と言葉をかけてあげることしかできなかっただろうと響子は思う。
共感すること以外にもこの状況を抜け出す術があるのだと、響子は自分の上司に教わった。
自分の上司はとても視野が広く、できる人だと思った。

それでも、響子は少し、切なく思った。
彼女の悲しみや苦しみはどこにいくのだろう。
解決するとともに消えていくのだろうか。
彼女はどんどんうまく生きていけるようになるのだろうか。
それも人間の強さや成長のひとつだ。
だけど、苦しみや悲しみも大切な自分の感情として取っておいてもいいのではないか。
芯の強さとは一体なんだろうか。
それをわかるのはもっと先のことなんだろう。
ただ、何かをうまくこなせなくても、不器用で遠回りでもいいから、きちんともがきたいと響子は思った。


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